【黒ウィズ】アルティメットハロウィンガールズ Story2
story
そもそも、どうしてアリエッタは死んでしまったにゃ?
うーん……それがさ、よくわからないんだよね。
急にあの馬鹿みたいな魔力が消えて、それで気づいたらアリエッタが死んだことになっててさ。
魔力を抑えることもしないで、ダダ漏れになってたのなんて、アリエッタぐらいのものだし。
魔力を抑えてるだけかもしれないにゃ。
アリエッタに限ってそれはないでしょ。怪獣が人間と同じステージに立っと思えないし。
散々な言われようにゃ。
<アリエッタが死んだという事実が、君はどうにも受け入れられない。>
あるよー、宝あるよー。
<いかんともしがたい状況が、ここにあるからだろうか。>
<君は頭を振って、足を踏み出し――>
そっちには大きめの爆弾が埋まってる。
<――損ねて、思い切りコケてしまった。>
何してるの?
うちの弟子は、少し疲れ気昧だにゃ。
わはは。
<もしかしてアリエッタは、自分のことを殺そうとしているのだろうか?>
<君は疑心暗鬼に陥っていた。>
この先何が待ち受けているかわからないにゃ。
<そうだとしても、最強の魔道士がいれば安心だね、と君は言う。>
最強?私が?
イー二アが言ってたにゃ。
ははは!そうか、最強か!
いやいや、どうもどうも。
アリエッタとは戦ったことがあるのかにゃ?
1回だけね。あの島から戻ったあとに。
<爆炎娘と怪獣の戦い……君は想像するだけで怖気だった。>
ま、決着つかずだったけどさ。
結構、魔法直撃させたんだけどなあ。全然倒れなくて……。
挙句、終わったあとにご飯食べてくるー!って走っていくぐらいピンピンしててさ。
プライドもズタズタ。嫌になるよね。
それでも引き分けならすごいにゃ。
私があの子ぐらいの歳のときは、魔法なんか全然使えなくて。
魔力もからっきしで、才能もないなんて学校で言われてたし。
<そんな姿は想像もつかない。>
<君は率直にレナに伝えた。>
最強だし。
<そう言ってレナは笑う。>
でもまあ、繰り上がりかなあ。
死んじゃうなんて考えもしなかった。〈トリック・オア・トリート〉で決着つけるつもりだったんだけどなあ。
<レナは少し寂しそうにつぶやく。>
リルムも死んだことがあるって言ってたにゃ。
リルムはアホだから、地獄で追い返されたんじゃない?
いや死んだことにすら気づかないで起き上がったのかもしれないけど。アホだし。
アリエッタはどうかな……だれかに殺されたって話もあるし。
にゃ!?
<あれを退治できる魔道士が、この異界にはいるということか。>
大魔道士だし、命を狙われることもあるでしょ。
<君はふとアリエッタを見た。>
…………。
<物憂げな表情で、レナを見つめている。>
誰にやられたにゃ?そもそもそんなことができるのかにゃ?
さあ、わかんないけど。やってやれないことはないんじゃない?
魔法を封印するエリスとか、メリイとかも小手先の魔法が強いし。
<エリスやミツボシがそんなことをするとは、到底思えない。>
そういうことができる魔道士も、中にはいるってこと。
ま、とりあえず先に進もう。ゆっくりしてたんじゃ見つかるものも見つからないしさ。
***
<苛烈な爆発に見舞われ、君はすっかり疲弊していた。>
<火山岩のようなものが降り注いだり、とてつもない爆発が起きたり……。>
<というかレナの魔法が頻繁に君に直撃していた。>
<前に現れる敵と、後方から飛んでくるレナの爆炎に挟撃され、君は満身創痍だった。>
あー!!なんでもかんでも爆発しない!!
<なんでもかんでも爆発する子が憤っていた。>
美学がない。全くもって度し難い。
<つい先ほど君とウィズも吹き飛ばそうとした子が美学を語りだした。>
<わざとなのか、コントロールが悪いだけか、どちらにしても君はレナの前に立たないようにしようと固く誓った。>
――っていうかさ、これって何で動いてるわけ?
<君は、さあ、と言って周囲を見回した。
確かにこれだけのアトラクションなら、何かしらの仕掛けで動いていそうだが……。>
…………。
<アリエッタは相変わらず憂いの帯びた目で、どこか遠くを見つめていた。>
<この子は、何を思ってこんな危険なアトラクション……あるいは家を作ったのだろうか。>
さて、と。アリエッタの財宝がないなら、ここらへんは燃やしておくか。
<朗らかに物騒なことを言うレナを、君は思わず2度見した。>
魔法使いさん、そここいたら危ないよ。
<ちょっとまって、と君はレナを遮る。>
なに?
<どうして燃やすの?と至極真っ当な疑問を投げかける。>
広いし。
<広いし!?広かったら爆破するということだろうか。とんだ狂人である。>
いや、冗談だって。そんな驚かれても。
冗談に聞こえなかったにゃ。
魔力がやけに滞留してるから、ちょっと危険な場所だしね。
アリエッタのものとはいえ、危ないものは撤去しなきゃでしょ。
<撤去というよりも、純粋な破壊だ。>
<怪獣やアホの子の影に隠れていたが、きっとレナは頭のネジが数本足りてない。>
<……よく考えてみれば、初めて会った時も、アリエッタの魔法は蹴飛ばすわ、ためらいもなく本気の攻撃をしてくるわ……。>
<無邪気とかアホでないぶん、レナのほうが危険なのでは……?と君は不安になった。>
ぬあああああ。
……また出たにゃ。
<そんな君の不安をよそに、次の敵……いや、レナ風の何かが現れた。>
え、あれ私!?
爆発だあああ。
これもアリエッタが作ってるわけ?
ふひ。ひひひ。
<隣で静かにしていたのは、これが待っていたからか……と君は思う。>
爆散して死ねえい。
<生々しいことを言うレナ風の子が、にじり寄ってくる。>
爆弾にゃ。
<レナ風の何かは、全身が爆弾でできていた。>
ええ……アリエッタから見た私って、こんな感じなの……?
はい。
うわ、返事した。
臓物をぶちまけて死ねえい。
なにこれ、とりあえず燃やしとく?
<やばいことを言うレナと、なんでもかんでも爆発するレナが今、一対一で対峙した。>
<君はすっかり蚊帳の外だった。>
キミも行くにゃ。
<いや、いいよ……と君は断る。>
<ダブルレナに挟まれて戦うなんて、前後左右気が抜けないからだ。>
死ねえい。
***
うわ、ちょっ……!?
<レナは意外なほど苦戦していた。>
<レナ風の何かは、正直強くない。それどころか、だいぶ弱い部類だろう。>
<だが的確にレナの魔法を相殺してくる。>
<レナにとっては、相性最悪の相手だ。>
もう何なのこれ……!キミ、手伝ってあげるにゃ。
<できることなら傍観していたかったが、このままではジリ貧だ。>
<君は魔道自販機なるものから出てきたジュースを飲むのをやめて、とりあえず立ち上がった。>
<三角座りをしていたせいで腰が痛むが、カードを取り出し、レナ風の何かに向けて魔法を撃ち込む。>
やめろおおお。
<レナ風の何かは、君に魔法をむける。>
<短い詠唱でひとつ、ふたつと捌いて足元をすくい転がした。>
さっすが魔法使いさん!あとは私が吹き飛ばす!
<詠唱を全く必要としないレナの魔法は、攻撃特化と言われるだけはあり、さすがの大威力だ。>
<跳ねるように転がりまわったレナ風の何かは、立つこともできず怨嵯の声を上げる。>
ぬあああああ、おのれええ……末代まで呪ってやるううう……。
茶番にゃ。
<そういうことは言っちゃダメだよ、と君はウィズを諌めた。>
ふう、他愛ない。
それにしてもド派手な爆発だったにゃ。周りが壊れてないのが不思議にゃ。
お得意の魔道障壁じゃない?
レナがやられたんだが?
<やられたんだが?と言われても……君は言葉に詰まった。>
レナを殺るためのレナが殺られたんだが?
<君の視界を塞ぎながら、アリエッタの亡霊が言う。>
<しかしそれを言われたところで、君にはどうしようもなかった。>
<……というか殺る気だったのか、と呆れてものも言えなかった。>
全く。アリエッタのためとはいえ、ここまでくると骨が折れるね。
どうしてアリエッタのためにそこまで頑張ろうとするにゃ?
アリエッタにかぎらずって感じかな。
友だちが亡くなったら、せめて安らかに逝けるように残った私たちができることをすべきでしょ。
それにあの子、まだすごく若かったし、きっとすごく悔しいと思うんだよね。
だから遺されたものを守ってあげるのも、死因を調べるのも私の役目ってこと。
後先考えない子だったけどさ、志半ばで死ぬなんて無念だったろうな……。
<爆散したレナ風の何かのかけらを拾い上げ、レナは小さく呟いた。>
……いいやつや。
<そのいいやつを殺ろうとしてなかった?とはさすがに言えなかった。>
私は魔道士として今も努力してる。魔法の奥深さを知ってからずっと。
でもあの子は、私が辿り着けなかったところにたった数年で上り詰めた。
あの子と同じ景色を見て、あの子が感じていたことを共有したかった。
<レナが何か言うたびに、アリエッタが目の前をひゅんひゅん動いてとてつもなく邪魔だった。>
<だからレナの言葉に対して、何も返せずにいた。>
しんみりしていられない!
<そういえば宝はどこに?と君は言う。>
あ、そういえば……。
ここに箱があるにゃ。
また箱か……。
<君は爆散したレナ風のそばにあった箱を持ち上げる。
開けてみると、その中には黒い塊のようなものがあった。
宝石?
<キラキラとしているこぶし大の塊に、何か違和感のようなものを覚えた。>
魔力を感じる……けど……エリスだったらわかるかな。
<君は頷いて、黒い宝石をしまいこんだ。>
ろくなものがないなぁ。
<まあまあ、とアリエッタをおさえこんで、君は次の道を尋ねた。>
次はびっくり箱的アトラクションのほうだよ。
死ぬなよ、黒猫のひと。
<死ぬようなところなのか……君はいまいち覚悟を決められずにいた。>
<もしかすると、アリエッタは君たちを地獄へ誘おうとしているのかもしれない。>
story
<一方その頃、リルムとソフィは、アトラクション内のレストランにいた。>
<何をしているかというと、普通にご飯を食べていた。>
あー……美味しい……。
美味しいねえ。
<寿司を食っていた。>
<東の国から取り寄せたという米なるものに生魚を乗せた神秘の食べ物である。>
お寿司。意外にやる。
<超巨大な本を尻に敷いて、数段高くなった椅子に座ったリルムが、ほっと一息ついた。>
でもソフィたち、ここでゆっくりしてていいのかな?
なんで?
アリエッタちゃんの遺したものを探さなきゃいけないんだよね?
あー……そのパターンか。
パターンも何も当初の目的を思い出せ。
……目先の金、だね。そっか、ありがとう、杖のひと。
ちょっと待て小娘。貴様は本当にもう!貴様はもう……!
イーニアに聞いただろう!あの怪獣娘の財宝を残らず集めるのだ!
お金、ほしいな……。
遠い目をして何を言ってるんだ。アホだアホだと思っていたが、その台詞はあんまりではないか。
まあまあ、ロアちゃん……リルムちゃんのおかげで本も見つけられたし。
<アリエッタの財宝のひとつ、超でかい本を見つけたふたり。
稀代の天才が作り出した魔法の数々や、まだ世に出ていない魔法が記された、紛れもないド級の宝である。>
<その才能を惜しみなく発揮し、世界を恐怖――ではなく、世界の憧憬を一手に集めたアリエッタの魔法書だ。>
<売れば何代先まで遊んで暮らせる。それどころか国のひとつやふたつ、買うことだってできるかもしれない。>
<だがリルムはアホだった。>
<財宝と言われ思いつくのが金ピカとかそういうものだった。>
小娘。いいか?弔いをしっかりとやらないと、怪獣娘に取り憑かれて妙に視界を塞いでくるかもしれんぞ。
そんなわけないじゃん。
いや、我も自分で言っててちょっとないなと思ったけど。
でもアリエッタちゃんなら、どこかでひょっこり出てきそうだよね。
ソフィ、まだアリエッタちゃんが亡くなったなんて信じられないもん……。
ソフィ……。
ついこの前も土地権利書を持ってきたのに……。
アリエッタちゃんが来たときに壊されたリムジンほうき……直さずにまだとってあるんだ。
何故壊されたのだ。揉めたのか?
アリエッタちゃんの進行方向に停めてあったから……かな。
恐ろしいな怪獣娘。直進しかしないのか。うちの小娘でさえ障害物は避けて通るぞ。
我を使って障害物をどかすということをしなくなったのだ。これを成長というのだろうな。
杖重いし、避けたほうが楽なんだよね。
そうかそうか。ようやく気づいたか。
ところで小娘。地べたに我を置くのはやめてくれるか?汚れが気になるのだ。
それと、我ちょっと縦になりたい。
んー。
我は綺麗好きなところがあるからな。横ではなく縦になりたい気持ちを――いや待て小娘。ここは傘立てだ!
<リルムは傘立てにぞんざいに杖を放り込んだ。>
<エターナル・ロアより、目の前のごちそうに夢中である。>
本もさ、大きいし重いし、枕にならないよね?
どうだろう……そもそも1冊にする必要あったのかな……。
<魔法の数々は冊数を分けられることな<、1冊にまとまっている。>
何か使える魔法とかあるのかな?ちょっともらっちゃう?
なに気軽に言ってるのだ、小娘。貴様には我という偉大な杖があるではないか。
杖のひとって二束三文だよね?
二度と我を売らないと約束しただろう。我、壁に吊るされて見世物にされるのは本当に嫌。
簡単にお金稼げる魔法ないかな……。
堕落もここに極まれりだな。人は皆、努力と労働を対価に金を得るのだ。
というかすごい魔力で封じられてるから、そもそも本を間けないんだよね……。
そっかー、憎い演出してくれるな、アリエッタ。
適当に答えるな。
この大きな本、持ち運ぶのは大変だけどエリスさんのところに持っていかなきゃ。
本で殴られるとめちゃめちゃ痛い。我も数百年生きながらえているが、初めて味わった痛みだった。
そろそろ次の場所に行ってみよう。確かジェットコースターの場所があるから、そこがいいかもしれないよ、リルムちゃん。
おっけー。
story
しかしこれはどのものを、あの子はどうやって造り上げたんだ。
土地はソフィから買ったらしいですが……やはり魔法でしょうか。
とんでもないな……どんな魔法かすら私には想像がつかない。
いや……あの子のことだから、自分で一からせっせと作ったかもしれません。
それはそれでとんでもないな。
しかし困りましたね、先生。どこに行っても魔物だらけです。
あの子に手なずけられた魔物か。
<エリスとイーニアは、リルム一行たちとは違うところを進んでいた。>
<ところがアトラクションの周囲に群がる魔物に、その進行を妨げられ、状況は芳しくない。>
そもそもアリエッタはどうしてこんなものを作ったんだ?私たちを殺すつもりでか?
大きな家がほしいと言っていましたが、家の体をなしていませんね……。
それにこのアトラクション、周りにいる人、至るところにあるもの全てがアリエッタの魔力で稼働しているようです。
ことごとく常識を覆してくるな……個人が持つ魔力には限度があるはずだが?
あの小さな体のどこにあれほどの魔力があったのでしょう……。
私は小さいのではない。
え?
む?
……さ、気を取り直していきましょう。
私たちが見つけたのは、アリエッタの杖だけです。
恐らくほかにもあると思うのですが……あの子がいったい何を持っているのか、それは私にも見当がつきません。
ふむ……杖だけでも十分な収穫だが……。
<エリスは神妙に頷く。>
<アリエッタの杖は、彼女が魔道士となるとき、母親からプレゼントされたものだ。>
<とはいえ、彼女の魔法に杖は必要としない。せいぜい背中を掻くために役立つぐらいだ。>
<だがアリエッタが持ち歩いていたことで、とてつもない魔力が宿り、振るうだけでとんでもない天変地異が起こりかねない。>
<かの魔杖ほどではないにしろ、トラブルの元は早めに保護しておきたい。>
アリエッタの杖か。
…………。
うっ……アリエッタ……どうして……。
<杖を見ていたエリスが、こみ上げる感情を抑えきれず涙を流す。>
私より先に死ぬなんて……うぐ……とんでもない不孝者よ……。
あの子の親みたいなことを言うな……そろそろ気持ちの整理をつけたらどうだ。
ですが……。
何も割り切れとは言ってない。だが私たちがすべきは、泣くことではない。
魔道士協会のトップともあろうものがそれでは下の者に示しがつかないではないか。
<イーニアとて、親しい者の死が辛くないわけではない。>
<だが彼女は長い時を生きて、数え切れないほどの別れを経験してきた。>
<自分の感情を押さえ込む術を、知らず身につけてしまっていた。>
泣けたほうが幾分楽になれるのだがな……。
<小さく呟いたイーニアは、かぶりを振って前を見た。>
このあたりは、かの大魔道士、ビジェックやアルガムナドと覇を競った魔道卿ヴォルフラムが眠る場所だ。
……あの、ヴォルフラムですか。
うむ。
<かつてビジェック、アルガムナドと共に世界を恐怖に陥れた古代の大魔道士。>
<今では魔道犯罪に指定されるありとあらゆる巨悪に手を染め、その思想から狂信者を集めたことでも知られる。>
死者を蘇生する禁術や、世界崩壊を招く魔道石を作ったことで一大勢力を築き上げた魔道士だ。
魔道石……先生は実物を見たことは?
ある。禍々しい魔力の塊のようなものだ。ちょうど人のこぶし大のものでな。黒くキラキラと輝いている。
古代の魔法とはいえ、その対策がとれず封じたものも多い。
よりによってあんなものが見つかれば、この広い世界を混乱させるには十分だろう。
恐ろしいですね……。
ヴォルフラムは、魔法書にあらゆる凶悪な魔法を記したと言われています。
<己の腕のみを信じ、力で世界と戦い抜いたビジェックやアルガムナドと違い、ヴォルフラムは魔法書の作成に熱心だった。>
<死後、後世に自身の魔法を伝えることで、ヴォルフラムという名を永遠のものにしようとした。>
私は連中とは幾度となく戦ったが、ヴォルフラムの魔法書はついぞ見つけられなかった。
いや……あるいは噂の類だったのかもしれない。
先生が見つけられないのであれば、そうなのかもしれません。
ビジェックやアルガムナドよりも蘇ってほしくない存在だ。
アリエッタがいなくても、頼れる魔道士は多いですから、仮にそうなっても大丈夫です。
そうだな……ああ、そうだ。
アリエッタ……ぐす……。
……情緒が安定しないな、今日のお前は。
まあ、いや、吐りたしかにあの子の代わりはいないが……人は誰しも代わりを持たないものだ。
魔道仕分け部の人材を確保しなければいけません。
<魔道仕分けとは、世界中の人々へ魔法の透明性をアピールしつつ、その魔法が必要か否かを検討する組織である。>
<魔道士協会内の一組織だが、アリエッタはそこに在籍していた。>
放っておけば何をするかわからないが、仕事を与えれば意外とちゃんとやる、か。
子どもですから、何か与えれば、それに夢中になることも多かったです。
しかし魔道仕分けか……あの子の間発した魔法も不必要なものが多かったな。
魚の骨をスッととる魔法は、一般家庭に浸透しました。
ふむ……。
<彼女は相手の靴紐を縦結びにする魔法だとか、本のページに嫌な折り目がつく魔法だとか、意味のない魔法を申請することが多かった。>
ああ……ダメですね、今日は……もう涙が……思い出すだけで涙が……とまりません……。
あのときアリエッタは、魚の尾びれだけをスッととる魔法を申請しようとしてたのに……わ、私が止めてしまったばっかりに……。
こ、心残りを……あの子の心残りを……尾びれを……尾びれを、うぅ……ぐす……。
いや……うん……うん。
<イーニアは、そこまでアリエッタが考えているとも思えなかったが、面倒なので流しておくことにした。>