【黒ウィズ】アルティメットハロウィンガールズ Story3
story
<妙な圧迫感のある場所にやってきた。>
<レナが看板に書かれた文字を読み、大きなため息をついた。>
<確かに……あばばはキツいと君は思った。>
だってあの魔法に例外はなくて、なんでもかんでも封印対象でしょ。エリスを倒す以外に打つ手がないんだよね。
<確かにアリエッタもあっさりあの匣に捕まっていた。>
<リルムやエターナル・ロアも食らっていた。>
あれがアリエッタが思い描く私たちだとすれば、エリスが一番やばい気がするんだよね。
<完全に自業自得だけど、度々お仕置きされていた。>
<守る?倒すの間違いではなく?と君はレナを警戒する。>
またふらっといなくならないでよ。みんな心配してたし。
<戻るタイミングというのが自分で決められたら……と君は思う。
だがそうもいかないのが、辛いところだ。>
〈トリック・オア・トリート〉でやろっか。
<戦おうということらしい。突拍子もない戦闘狂のそれである。>
<レナはそもそも、どうして戦いたいの?と訊いた。>
強いて言えば、自分の魔法がどれぐらいのものか確認するため?
自分の努力が間違いじゃないと知りたいから、たまーに旅をしてたまーに魔道士と戦うの。
さっき器用に魔法で相手を転ばせたりしてたでしょ?
あれ、どんな原理なの?ここじゃなかなか見ない魔法だけど。
魔法使いさん、実はかなりやるんじゃない?
<ウィズが適当なことを言い出した。>
<まあ、機会があれば……と曖昧な返答をする。
楽しいことは歓迎だが、レナは容赦してくれるタイプとは思えない。>
新興の魔道士連盟とか、お金いいみたいだし。協会から移籍した人も多いし。
<そういう雑な煽りはやめてほしいと思いつつも、君は否定するのをやめて前を見た。
不穏な空気を感じ取ったからだ。>
<奇妙な箱が、薄暗い道を塞いでいた。>
<君はふたりの言葉を首肯して、カードを取り出した。>
<今までのアトラクションとは違い、妙にお金がかかっていないというか、かなりうらぶれた印象の場所だが……。>
<それがかえって不気味さを際立たせている。>
<箱がパカっと開き、人のようなものが出てきた。>
<前方にいたレナが絶叫して君の背後に隠れた。>
<それを見たいのだが、視界をアリエッタが塞いでいる。>
<後ろにいるレナが君のローブを握っているせいで、身動きを取れずにいた。>
<最強の大魔道士にも苦手なものがあったようだ。
まあ、レナの魔法も大概オカルトだけど……と思ったが君は善人なので口にはしない。>
<君は前に炎の防壁を張り、振り返ってここを出ることにした。>
<不気味極まりない声が響き渡り……。>
<自分で作ったアトラクションに怯えていた。>
<魔法なんて無視して這いずってきた何かは、その速度をぐんぐんと上げてくる。>
<君は慌てて走り出した。>
***
<レナは相変わらず取り乱しているが、君は一呼吸置いて周囲に目を向ける。>
<出口に向かって進んでいたはずなのに、すっかり迷ってしまったようだ。>
<すごい速さで追ってくる相手を見ながら、君はさすがに観念して倒すことにした。>
<レナはすっかり参っているようなので、今回ぱかりは自分でやるしかないようだった。>
<良心が痛むからそういうことは言わないで、と君はアリエッタの霊に伝えておく。>
<意味のわからないことを言うアリエッタを無視して、君はカードに魔力を込める。
暴力で解決するのは心が痛むものの、しかしこの場を乗り切るには魔法しかない。>
<さっきからずっとローブの首元あたりを引っ張られているせいで、君は若干上向きになっていた。
<遊んでいるつもりはなかったが、おかげさまで相手を見にくいことこの上ない。>
<悪びれた風でもないアリエッタと、怯えまくるレナ……場が混沌としてきた。>
<そんな無茶な……と思うものの、背中からの圧力がすごくて引くに引けない。>
あのとき私、すごく悔しくて、1日泣いてた気がする。
それをアリエッタが10歳に満たないときに攻略したって聞いて、最初はまあそういうものかって思ってたけど……。
でもこのアトラクションを見て思い出した。諦めるなんて私らしくない。最後まで辿り着きたい。後悔はしたくない。
だから魔法使いさん!
<レナにはレナの理由があって、必死にこのアトラクションを乗り越えようとしているのなら……。>
<手伝わないわけにはいかない、と君は思った。>
<おもむろにカードを構えて、髪の長い何かに向き合い、走り出した。>
***
<ガチで怖いものを作らないで、と君は言う。>
<魔法を撃ち込んで動きを止めながら、じりじりと距離を詰めていく。>
<それは……街をグミにして怒らない人はいないだろう。
<倒さないと進めないし、この際仕方がない。>
<ごめんエリス……と言って、精一杯の魔法を放った。>
<エリスは跡形もなく消え去った。残されたのは、不格好な箱だけ。>
<君は笑みを浮かべて、全然いらないと言った。>
<とりあえずエリスっぽいものを吹き飛ばしてはみたが……。>
<そこまで手強い相手ではなかったものの、このアトラクションは気が抜けないから、やけに疲労がたまってしまう。>
<君は我が目を疑った。>
<箱が開き、エリス風の何かが再び現れたのだ。>
レストラン併設のショップでエリスボックス売ってるよ。
<帰り際に買っておくよ、とだけ言って、君は再度カードを手に取った。>
<倒さないと追いかけられるし、倒せば強くなる……かなり面倒な相手である。>
<役に立ってくれそうにないふたりが、何やら言い合いを始めてしまった。>
<弱った、そう思った瞬間。>
<撃ち込んだ魔法が消えた。>
<君は驚いて、アリエッタを見た。さっきは使っていない魔法だったはず……。
<高すぎるというか、もはや別物……。>
それにしても禍々しい箱ね。
さあ、全部食べちゃいなさい。
<あれは、エリスが厘に入れている贅――>
<それを見た瞬間、君はあばばとなって、なんだか急速にやる気も気力もなくなった。>
<奥から現れたのは、本物……の、エリスだった。>
<アリエッタが作った箱も同様に、丸呑みにされ、2度とエリス風の何かが出てくることはなかった。>
<そうは言われても、ヤバいのはエリスの匣が丸呑みにしたし――>
<そこで君はハッと気づく。>
<禍々しいかはわからないが、完全に……いや、もう引くぐらいヤバいのがすぐ目の前にあった。>
<君は一も二もなく頷く。>
<よからぬものに取り憑かれて視界は塞がれるしそこそこ邪魔されるし……必死にそれをエリスに伝えた。>
<ダメだ……取り付く島もない。>
でも匣が反応して――
<君はクーポン券と石を取り出した。>
<大したものじゃないけど、と言って、エリスに手渡す。>
<何やら黒い宝石を見て、エリスとイーニアが慌てだした。>
<君はわけもわからず、言われるがまま、魔道石と呼ばれた宝石を下へと――>
ザッパァァァーッ!!
<とてつもない衝撃を受けて、魔道石を下へと叩きつけてしまった。>
story
<一方その頃、リルムとソフィは、アトラクション内のレストランにいた。>
<何をしているかというと、普通にご飯を食べていた。>
<皿うどんを食っていた。>
<これも東の国から取り寄せたよくわからない麺だとか、そういう感じのあれをあれした食べ物である。>
<ソフィのリムジンほうきには、大きな赤いリボンが巻きつけられていた。>
<生前、アリエッタが好んで身につけていたものだった。>
<赤く大きなリボンが見えたら、地下に逃げ込むようにというのは、世界共通のアリエッタ対策であった。>
<デカいリボンの化物に襲われたから助けてくれ、と魔道士協会に魔物が逃げ込んできたこともあった。>
<ソフィは少し寂しそうにつぶやく。>
<おもむろにリルムが立ち上がる。>
だいたいあの世に行ってどうするのだ、小娘。あのとき我と小娘は追い返されたのだぞ。
<リルムにしてみれば、行ったことがあろうとなかろうと、だいたいの場所が勝手知ったるなんとやらである。>
<幸い1度死んだことがあるためか、リルムはワンチャンあるような気がしていた。>
杖の人、よろしくー。
<根拠はなかったが、エターナル・ロアは小娘なら帰ってくるだろうなあと思っていた。>
<ちょっとそこまでのテンションで行って帰ってくるだろうなぁと思っていた。>
<こうして、リルムは死んだ。>
<2度目の死だった。>
story
<エリスたちが、シャルムタウンヘと辿り着く少し前。>
<ふたりはロアコースターというアトラクションにいた。>
魔道士たちの統制も、今よりとれていない時代でな。
ヴォルフラムは、本人の能力もさることながら、人を扇動することに長けていた。
あの魔道士は魔法研究にも余念のない男だった。今は禁術とされる魔法を数多く編み出し、仲間たちへ広く普及させた。
<イーニアは目を伏せた。>
私たちはやつを追い詰めていったが、まんまと逃げられてしまった。
そこから何年と警戒していたが、その後、ヴォルフラムが姿を見せることはなかった。
<そしてヴォルフラムが編み出した魔法は、いつしか禁術とされ、人々の目に触れられることもなくなった。>
<だがヴォルフラムも、ヴォルフラムの魔法書も、当時の魔道士は見つけられなかった。>
だからこのあたり一帯は、人々が立ち入ることのない不毛の地と呼ばれていました。
<ソフィの有り余る金と商才と、名門ロロット家、そして魔道士協会のバックアップを得て建国に至った。>
<当初、一介の魔道士風情がとの声もあったが、不毛の地を立て直そうとするソフィに対し、世間の後押しが大きく作用した。>
<ここを押さえておけば、何かあったときにすぐ対応できる。>
<魔道士協会にはそういう思惑があった。>
しかし、魔力で稼働するアトラクションか。
<魔力はその人間が持つ、一種の生命力のようなものだ。>
<ひとりひとりその総量は決まっていて、死ねばもちろんその人とともに消えていく。>
これほどの規模のものを動かし続けることができるというのは……。
アリエッタがあるといえばあるし、正しいといえば正しい。そういうことだ。
惜しい才能だった。天才たちはいつも、私より先に進み、そして先に逝ってしまう。
<しまった、とイーニアは思った。
できればメンタルが安定しているうちに先へ先へと行きたいところだったが、余計なことを口走ってしまった。
エリスは非常に優秀な魔道士だ。
若輩ながら魔道士協会を仕切り、何より魔道士たちへの抑止力となる封印の魔法を扱うことができる。
レナはかって、エリスの魔法を反則だなんだと騒いでいた。>
<世界広しといえども、封印は既にシャルム家に伝わるのみ。>
<何よりエリスが飼いならしている魔物は、アリエッタや、かの魔杖ですら対策を講じることができないものだ。>
<でも今日はダメだった。ポンコツだった。>
<アリエッタの保護者をやっていた者が今日はすっかり保護される側になっている。>
おいエリス。とりあえずシャルムタウンとかいうところに行こう。
泣いていてもいいが、とりあえず歩いてくれ。