【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード3 Story5
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story1 CARNⅣAL
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story2 LABYRINTH
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story3 LABOURS
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story4 TROJAN WAR
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story5 MISCHIEF
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story6 HERMES
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story7 エピローグ
目次
story1 GAME START
スタジアムがどよめく。
ヒーローではない者にもひと目でわかった。スタジアムを覆った力は、尋常なものではない。
な、なんじゃこりゃあああ!いったい、なにか起こっとるんじゃあ!
君たちも戦いの手を休め、状況を把握せんと周囲の様子を見る。
そこへ、巨大モニターになにかが映し出される。
はい、みんなあんまり騒がない。
……Ⅹ。正直に言いな。これはなに?
やだやだ、Ⅸは怖いなあ。大丈夫、このスフィアはぼくが張ったものだよ。
な、なんのためにですか!?
このスフィアの内部はね、ぼくの支配域なんだ。外部からの侵入を拒み、内部はいつでも攻撃可能。ただの人間ならー瞬で殺せるよ。
な、なんでそんなものを展開しましたの!?
え、ここまで言ってもわかんないの?人質だよ。このスタジアムの観客さん、全員、ぼくの人質になったってこと。
なにを言うちょる……!ヒーローがいったいなにを言うちょるんじゃ!
だってぼく、ヒーローじゃないもの。
ぼくはヘルメス。君たちが崇めるオリュンポス12神のー柱、伝令と悪戯の神ヘルメスさ。
ヘルメス神……!?そんな……ウソよ!
だが、モニター越しにも、その場にいるだれもがいた。かつてあらわれた嘆きの神となにかを、この者は持っている。
信じてくれないなんて恋しいなあ。君たちだって、プロメテウスを見たはずだろう?神は実在するんだよ。
じゃけんど、12神は別の世界に行ったはずじゃろが!
あれ?いいのかい?この放送はー般市民も見ているんだよ?この世界が神に見捨てられたなんて、公表していいのかな?
巻き起こるざわめきにクスクスと笑い神は続ける。
ま、ぼくたちの世界なんだ。いつ帰ってこようが勝手でしょ?
得体の知れないところはあったけど、まさか神様とはね。で、目的は?仲良くしたい、なんて言わないよね。
うん、目的はね、もう達しているんだ、これを見ればわかるかな。
モニターが神器の飾られた特別展示室を映し出す。その床に倒れているのは――
お、お父様!あなた、お父様になにを……!
あー、ちがうちがう。そっちは関係ないよ。邪魔だから、ついでに摘んどいただけ。まったく、どこ見てるのさ。
あ、でもごめんね。暗い過去とか関係ないなんてカッコいいこと言ってたけど、君の過去、これで暗くなっちゃったね。あはっ。
……いいから説明。はやく!
ぼくの目的は覚醒した神器の回収だよ。で、それは成功した。嘘だと思うなら、呼んでみるんだね。
〈ケストス〉!〈ケストス〉!
使い手の呼びかけに、神器はなにも応えなかった。
神器は人間の手には余る宝さ。だからオリュンポスに持って帰ることにした。そのためにヒーローとして潜入してたのさ。
……神器がナンバーズの手を離れ、ー箇所に集まるのはカーニバルのときだけ。この瞬間をずっと狙ってたってわけ?
ハデスの神器とポセイドンの神器の状態が万全になるのも含めてね。
ま、そんなわけで、目的は達したから、このまま黙って帰ってもいいんだけど……。
わざわざ説明したんだ。オレたちになにかをやらせたい。そんなとこだろう?
正解だよ。せっかくのカーニバルなんだ。結末まで見ていこうと思ってね。けど、このままじゃ面白くない。
だってそうだろう?こんなお遊びでヒーローのなにが競えるって言うんだい?ぼくが見たいのはね、本物の勝負さ。
と、いうわけで、みんなには風船割りなんかやめて、殺し合いをしてもらおうと思うんだ。名案だろう?
いやいや、無理強いはしないよ?ただ、このスタジアムにいる観客の命が、ぼくの気分次第だってことは覚えておいてね。
story2 OLLISSION
その頃、メインスタジアムの外でも大騒ぎが起こっていた。
なんだこの放送は!?Ⅹがヘルメス神!?ヒーロー同士で殺し合いだと!?なにが起きている!
落ち着くんだ、アポロンⅥ。まずはヘラⅢやデメテルVに連絡を。
わかっている。英雄庁、応答せよ。こちらアポロンⅥ――
だが、連絡の結果、さらに最悪の状況が判明した。
英雄大戦時に倒したはずの巨神ヴィランが復活し、大群を成してオリュンボリスに向かってきているというのだ。
アルテミスⅧを中心とした戦闘部隊はその対応に追われており、ヘラとデメテルVは事態の究明に奔走しているという。
……状況はわかった。こちらは私とⅠ、Ⅸでなんとかしょう。街は任せた。
アポロンⅥは通信を切り、頭を上げる。その顔には、この上ない苦渋が澪んでいた。
神が相手であれ、市民を脅かす者は許さぬ。だが、神器なしで、どこまでできるか……。
ケーリュケイオン。死者を蘇らせると伝えられるそれは、伝令神ヘルメスの杖として知られている。
オリュンポリスを襲う巨神の群れは、そのケーリュケイオンの力によるものだ。
ま、実際には蘇らせているわけじゃなくて、実体のある幻覚に過ぎないけどね。時間稼ぎにはなるでしょ。
まさか神自身が己の神話還りに化けていたとはな。見下げ果てたぞ、ヘルメス。
この姿では久しぶりだっていうのに、ずいぶんじゃないか、プロメテウス。もしかして、まだ怒っているのかい?
〈神話に終焉を告げる獣(マイス・エント・ブリンガー)〉があらわれた時、この世界を捨てるよう、ぼくがゼウスに進言したことをさ。
……貴様の進言がなければ、ゼウスとてあのような決断をくださなかったはずだ。貴様さえいなければ、この世界は!
この世界は、じゃなくて、アレスは、だろう?君はいつもアレス、アレスだ。変わらないね、プロメテウス。
貴様は変わり果てたな、ヘルメスよ。12神ともあろうものが、潜入のためとはいえ、あのような道化に成り下がるとはな。
君には言われたくないなあ。ぼくが知ってるプロメテウスは営業スマイルなんかしないし、同担拒否の厄介ファンでもなかったよ。
ま、おかげでぼくだとわからなかったろう?いや、見ものだったよ。隣にいるのにまったく気づかないんだからさ。
……演技だけではないな。その程度で何年も私を欺けるわけがない。姿も、魂も、以前の貴様とはまるで別物だ。
最後に会ってから何千年経ったと思うんだい?オリュンポスでもいろいろあったのさ。
私を試合の解説に呼んだのは、体よくここに隔離するためか。私のアレイシアヘの想いを利用するとは、貴様らしい卑劣さだ。
神の力を失った君になにができるとも思わないけど、余計な入れ知恵をされたくないからね。
プロメテウスは身動きを封じられている。ただの人間と変わらぬ今の彼に、自力で脱出する方法はない。
まあ、どうせなにもできないんだ。いっしょにゆっくり楽しもうじゃないか。
君の大事なアレイシアが、ヒーロー同士で殺し合いをするさまを、さ。
***
さて、ヒーローの諸君。それじゃ、仕切り直しの4thステージ、再開しようか。
今度はチーム戦なんてケチくさいこと言わずに、全員てのバドルロイヤルだ。
終了条件はひとつだけ。君たちのうち、だれか3人が死ぬこと。
後はなんでもありだから、好きにするといいよ。ただし、あんまりぼくを退屈させると――そうだな。
――観客席に有機水銀の雨でも降らすことにしようか。即死はしないだろうし、優しいだろう?
最初に口火を切ったのは、アフロディテⅨだった。
やるよ。全員、構えな。
リベッさん!?まさか本気で戦うつもりじゃ……。
あれが脅しに聞こえる?あれは本当にやる奴の顔。わかるでしょ。
神器が押さえられ、外部との連絡も遮断された以上、市民の命を守るためには、あいつに従うしかない。
ヘルメスは3人殺せと言っている。つまり、従えば被害は3だ。だが逆らえば……。
このスタジアムに詰めかけた何千何万もの市民の命が失われる……。それはわかりますわ。けれど!
迷ってる時間があるならいくらでも迷うけどさ。そうも言ってられないわけ。
はい、もたもたしない。あと30秒だけ数えるよ。それを越えたらどうなるか……。想像にお任せかな。
……ってわけ。さあ――いくよ!
どうせ死ぬのは弱いやつだ。思いっきりやろうじゃないか!
させんとよぉ!どうしても戦うっていうなら、ボクが、全員守る!
***
アフロディテⅨとゼウスⅠは本気だった。本気で君たちに襲いかかってきていた。
それで全力?零のナンバーが泣くよ、アレイシアちゃん!
ぐぅぅぅぅぅ!まだじゃああぁぁぁ!
対するアレイシアは、不調だった。そして君も。
先ほどまで、君とアレイシアは全力で風船割りをしていた。その時に力を使いすぎたのだ。回復の時間が必要だった。だが――
手も足も出ないか?無理もないさ。このゼウスⅠが相手ではな。
ゼウスⅠの重く速い拳が、それを許さない。
アケローン!
ネーレイスが水流の型を張り、その動きを阻もうとするが――
だれもオレを止められない。オレは止まらないからな。
くっ……やはりわたくしひとりでアケローンはまだ無理……。エウブレナ!
わかってるわ!けど!
エウブレナはアレイシアのサポートにまわり、君の方にまで手が回せない。
チーム分けをしたわけでもないのに、気がつくとアフロディテⅪとゼウスⅠのふたりを、君たち4人で迎え撃つ形になっている。
2対4、だが、それでようやく互角だった。
ぐぅ……もうちょっと回復すれば、アレッさんの力が使えるのに……。
したら、神器なしのあーしに勝ち目なし。わかってっから、手はゆるめない。
けどね、出来たらアレイシアちゃんには引いてほしい。
ヘルメスをなんとかするには、戦力が必要。なら、残すべきはあーしとⅠと、アレイシアちゃん。でしょ?
戦力として未知の君を除外すれば、その選択はまったくもって妥当だった。だが、そんなものに納得するアレイシアではない。
させんとよぉ!ワシらはヴァンガートじゃ!そんな理屈は通さんばぁぁぁぁい!
気持ちだけて済むなら、ルールはいらないっての!
あはは!いいよね、正義のぶつかり合い!が本当のジャスティス・カーニバルだ!はははははははははははははは!
story3 DISTORTION
見なよ、プロメテウス。君の愛しのアレイシアが必死だよ。
……なにを考えている、ヘルメス。このような悪趣味な余興に、なんの意味がある?
そうだね、君風に言うなら、罰かな。
この世界を捨ててから、千年ほどが過ぎた頃かな。ぼくはゼウスに命じられ、この世界の様子を見に来た。
まったく驚いたよ。〈神話に終焉を告げる獣(マイス・エント・ブリンガー)〉に滅ぼされていると思ったのに、生き残ってるんだから。
おまけに当時の人間ときたら、アレスを篤(あつ)く信仰していたんだよ?
な……にを言っている?人間どもは、アレスを忘れ果て……。
テュポーンを倒すところを見ていたんだろうね。それはもう熱烈な信仰だったよ。主神ゼウスに並ぶほどにね。
そんなの、ゼウスに報告できるわけないだろう?八つ当たりでぼくがケラウノスに撃たれてしまうよ。
と、いうわけでね、それからぼくは何百年かかけて、アレスの存在を神話から抹消してあげたのさ。
なっ……!貴様が……貴様がアレスを!
いや、なかなかに手間だったよ。アレスの代わりにハデスを12神に入れたけど、辻褄合わせが大変でね。
君が怒り狂っていることを知った時は嬉しかったなあ。それだけぼくの仕事が完璧だったってことだもんね。
人間は……彼を忘れたくて忘れたわけではなかった……。私はそんなことも気づかずに、あのようなことを……!
そう落ち込まないでよ、プロメテウス。君はずっと眠っていたんだし、仕組んだのはこのぼくなんだ。見抜けるわけがないさ。
その後はオリュンポスに戻って、この世界のことは忘れていたんだけどね。20年ほど前かな。ふと思い出して様子を見に来たんだ。
驚いたよ。神話還りなんてものが生まれているし、君はプロメトリックと呼ばれている。
中でも興味を持ったのは神器だ。ぼくら12神の力が封じられた宝物。あんなものが人間の手にあるなんてね。
だれが作ったのか予想はつくけど……放っておくことはできないよね。
それで、ぼくはヒーローとして英雄庁に潜入することにしたんだ。最高の状態の神器を手に入れるためにね。
そんなわけで、目的は達成したし、帰る前にちょっと遊んでいくことにしたのさ。
まだなのか……自分たちで捨てたうえに、まだ貴様ら12神は、この世界を自分たちの玩具と思っているのか!
思ってるに決まってるじゃないか。捨てるのも遊ぶのも勝手だろう?だって、ぼくらは神なんだ。あははははははは!
story4 URANIA
成長したじゃん、エウブレナ。あーしの剣を防げるなんてさ。
ありがとうございます!けど、もうこんなことやめましょう!
それで市民を見殺しにしろって?アンタ、やっぱⅣには向いてないね。情に流されてちゃ裁きなんてくだせない。
アンタのその真面目さも、優しさも、たしかにハデス神のー側面だろうさ。けどね、それじゃ全然足りないっての。
よーく見ておきな。神の力の操り方。
アフロディテⅨがレイピアを天に向ける。次の瞬間、彼女の身体がまばゆい光を発した。
メタモルフォシズウラニア!!!
これは……神の力が、変わった?でもまぎれもなくアフロディテ神のもの……。
さ、ふたりとも、ゲームを終わらせよっか!
アフロディテⅨが前方へ駆ける。速い。だが、先ほどまでと速度は変わらない。
そこじゃあい!
アレイシアが槍をふるう。手応えはない。避けられていた。
サーペラズファング!!!
すかさず、エウブレナによる二の矢が放たれる。が、それもかわされた。
ふたりはそのまま連撃をしかけるが、すべてかわされ、捌かれ、あいだに鋭い刺突が飛んでくる。
これは……まるで別人の動き!
速くなったわけでも、力が増したわけでもない。だが、さきほどよりも的確に避け、きわどい隙を衝いてくる。
まるで、ふたりがどう動くかわかっているように。
理解できた?これがアフロディテ神のもうひとつの側面、ウラニアの力ってわけ!!
女神アフロディテには二面性がある。ひとつは、地上の愛を司るアフロディテ・パンデモス。
いまひとつが、天上の愛を司るアフロディテ・ウラニア。ウラニアは未来予知に通じる女神の名でもある。
アフロディテⅨは美神の力を制御し、引き出す側面を切り替えたのだ。
いまのあーしには、ー瞬先のあんたたちの動きがわかる。何人がかりだろうが、勝ち目はないよ!
わかるのは、コンマー秒にも満たぬわずかな刹那。だが死闘の最中では、その刹那が勝負を分ける。
ふたりのいかなる攻撃も寸前にかわし、伸びてきた刺突が当たる寸前にわずかに軌道を変える。
これが……アフロディテⅨの本気……!神器も使わずに、こんな……!
最後通牒だよ、アレイシア。そこを退きな。でなければ、残すナンバーをアンタから魔法使いに切り替える。
なにを言われようと、だれかを切り捨てる方法を認めるわけにはいかない!来い、アフロディテⅨ!
了解。いつでもなんでも救えるほどヒーローが甘くないってこと、教えてあげる!
***
アフロディテの神器〈ケストス〉に選ばれるには、強さの他に条件がある。
アフロディテの神話還りの中でもっとも美しく、そしてそれを自分で信じられること。
その美しさには、心の美しさも含まれる。
ゆえに、アフロディテⅨは、ゴッド・ナンバーズでもっとも代替わりが早い。
外見の美しさを保つことは難しい。だが、己の心の美しさを信じ続けることは、もっと難しい。
力なきものを守るためのルールが、時にヒーローを縛る。ルールさえなければ、もっと救えたのではないかと苦しむ。
アフロディテⅨが自らの選択に疑念を抱いた時、神器〈ケストス〉は、次の使い手を選ぶのだ。
だから、ヒーローを志したその時、リベルティーナは心に決めた。
あーしは、己の選択を悔やまない。なにがあろうと、己が美しくあるように生きる。
リベルティーナがⅨの名を背負ってから2年半。彼女はー瞬たりともその想いを忘れたことはない。
だから、いまこの瞬間の選択も悩まない。悔やまない。ただ美しくあるために、アフロディテⅨは審判をくだす。
だれよりも美しい、美と戦いの女神であるために。
アレイシアの槍が光を放つ。それは今ある全力を秘めた、戦神のー撃。
アレス・ザ・ヴァンガァァァァァド!
迎え撃つのは、心臓をー突きする必殺のカウンター。
エルキスティコス・アナストロフィ!!!
ふたつの力が交差する、その瞬間。
やっぱできぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!
アレイシアの槍は、ギリギリでアフロディテⅨから逸らされた。そして、それもまた美闘神の予知した未来だった。
(やっぱ、アレイシアちゃんはそうでないとね)
だから、アフロディテⅨは、逸らされた槍の穂先に自らの身を移動させた。
アフロディテⅨに、後悔は許されない。自らの心が曇る選択など有り得ない。
だれかが犠牲にならなければいけないなら、それはまず、自分であるべきなのだ。
倒れるアフロディテⅨの上体を、アレイシアが抱き支える。
リベッさん!リベッさんなんでじゃ!
言ったっしょ……。いつでも全部守れるほど、ヒーローは甘くないって……。でも、だからこそ、アレイシアちゃん……。
美神の細くしなやかな腕が伸び、祝福するように、アレイシアの頭を抱きかかえた。
あなただけは、変わらずにいてね……。
そして、耳元で囁く。
エンチャント・エロス。
愛の神エロスはアフロディテの子であり、その名は性愛や生の本能を意味する。同時に、真善美への憧れを指す言葉でもある。
リベルティーナにとって、アレイシアの生き方は、まさしくまばゆい憧れ、自らが選択し得ない公りなき希望であった。
だからこそ、悔いなく捧げ、託すことができる。自らの命を燃やした、渾身のエンチャントを。
この瞬間でなければならなかった。邪悪な神が見守るなか、アレイシアに力を分け与えるには、これしかなかった。
アレイシアの身に神の力が漲る。
これは……アレッさんの力が……!
急いで、アレイシアちゃん。あいつが市民を攻撃する前に!
リベッさん……このために……!よっしゃあぁぁぁぁ!任せんかぁぁぁぁぁぁぁぁい!
戦神の力が迸る。それは正当なる12神の力。悪戯の神に向けて、アレイシアは飛び――
神器、お目覚めの時間だ。
え……?
ケラウノ・ストライク!
次の瞬間、アレイシアを撃ったのは、傲慢なる絶対者の雷。
覚醒した神器による、雷霆の威を秘めた拳だった。
なんでじゃ、ゼウスⅠ……。なんで神器を持っとるんじゃ!
悪いな、嬢ちゃん。オレが「木馬」だ。
story5 SWINDLER
あはははは!あははははははははは!
言ったよね?ぼく言ったよね?4thステージには敵側のスパイ――「トロイの木馬」がひとりいるってさ!
展示室にある〈神王雷霆〉はイミテーション。彼がつけているのは始めから神器さ。
さあ、ゲームを続けようか、アレスちゃん。みんなが君の勇姿を見ているんだからさ!あはははははははははははははははははは!
ヘルメス……どこまでも見下げ果てたぞ。かつての貴様なら、そこまで人間を弄びはしなかったはずだ。
記憶の中で美化してくれてるんだね。ありがとう。まあ、そう怒らないでよ。君の計画を陰から支援してあげたりもしてたんだよ、ぼく?
ナンバーズの内通者が必要だと思って、アイスキュロスをヒーローにするために、ヴィランに彼の子供を襲わせたりとか。
ネルヴァの母親を追い詰めて事件を起こさせ、彼女に殺されるように状況を整えたりとか。
英雄庁のデータベースにあるアレイシアの神話特性を「不明」から「ハデス」に書き換えたりとか。
君に気付かれないように、いろいろやってあげてたんだよ?う~ん、ぼくって健気だ。
私の計画を……?なぜだ!なぜそのようなことをした!
君の計画が上手くいくほど、アレスの生まれ変わりが苦しむと思ったから。
なっ……。
ぼくはね、プロメテウス。アレスが大っ嫌いだったんだよ。だから、アレイシアに苦しんで欲しいのさ。
では、まさか……今このくだらぬゲームを続けているのも!
もちろん、アレイシアを苦しめるためさ。ヒーロー同士が殺し合ったり裏切ったり、あの子には一番辛いことだろう?
ヘルメス……!ヘルメス!貴様という奴は!
さあ、プロメテウス。お楽しみはこれからだ。愛しいアレイシアの苦しむ姿を、たっぷりと味わうといいよ。あははははは!
叫び、足掻いても、プロメテウスは動けない。神に抗う力など、彼にはもうないのだ。怒りに満ちた目をヘルメスに向けるだけだ。
その激しい憎しみを浴びながら、悪戯の神は笑う。
(ああ、やっぱりだ。やっぱり、憎しみは愛より強い。
今、プロメテウスの心にアレスはいない。ぼくだけがいる。ぼくへの憎しみだけが。ああ、この瞬間をどれほど待ち望んだことか。
あとはアレイシアを苦しめて殺せば、君の心は、未来永劫、ぼくへの憎しみで埋め尽くされる。そうだろう、プロメテウス?)
ふふ、ふふふ……あははははははははは!
***
アポロン。バスター!
くっ、やはりメギストスでなければ、あのスフィアは壊せぬか。だが肝心の神器はスフィアの中……。
この会場にいる市民の不安は限界に達している。なんとか安らがせねばならぬというのに、私の力が足りぬばかりに!
アポロンⅥ。もういいだろう?神器なしでは神の力には抗えない。
これ以上、市民に不安を広げないためには、神器によって変身したヒーローの姿が必要。もうわかっているはずだ。
わかっている。わかっているのだ!だが!
カーニバル開催中、神器はすべてメインスタジアムに集められる。だが、ひとつだけ例外がある。
ディオニソスの神器〈尽きざる蜜の神酒杯(アペイロン・ネクタル)〉――行方不明ということになっているナンバーズが持つそれは、当然、集められていない。
そして、その神器は今、ここに――ヴァッカリオの腰に下げられている。
俺しかいない。今この混乱を収められるのは、ディオニソスⅫしかいないんだ。
たとえそれで、俺の命が尽きるとしても。
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story1 CARNⅣAL
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story2 LABYRINTH
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story3 LABOURS
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story4 TROJAN WAR
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story5 MISCHIEF
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story6 HERMES
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story7 エピローグ