【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード3 Story6
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story1 CARNⅣAL
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story2 LABYRINTH
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story3 LABOURS
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story4 TROJAN WAR
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story5 MISCHIEF
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story6 HERMES
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story7 エピローグ
目次
story1 VS X
ゼウスⅠさん!おんしゃあ、裏切っとったんか!
裏切ってはいないさ。オレは始めから、メルクリアのためにここにいる。
あの方の正体をご存知だったと言いますの!?なぜそのようなことをお許しに……。
愚問だな。オレはゼウスⅠ、狙った相手を抱くためなら、なんだってするさ。
ゼウスⅠの全身から、神の力が逍る。神器を覚醒させた今、その力は先の比ではない。
そういうわけだ。おとなしくオレに倒されてもらおうか、アレス零!
ストライキング・ケラウノス!
雷が巨大な拳を形成し、アレイシアに襲いかかる。その威はかって初代ゼウスⅠが得意とした雷霆拳と比べても遜色ないものだ。
どつき合いなら負けとらんわぁ!マーベラス・ラリアァァァァット!
そう叫び、正面から立ち向かおうとするアレイシアの前に――
君が飛び出して、障壁を張って雷霆を防ぎ、仲間がすかさず後に続く。
ケルベロス・オニュクス!
カリュブディス・ブフェス!!!
アレイシア!ここは私たちに任せて、ヘルメスのところへ行くにゃ!
じゃ、じゃけんど、神器もなしに、全力のゴッド・ナンバーズを相手だなんて……。
なにを言ってるの。勝負を決めるのは、武器の強さなんかじゃないわ。
どちらのHEARTがより熱いかですわ。違いまして?
み、みんな……。了解じゃあ!ヘルメッさんはワシがぶん殴る!ここは任せた!!
君たちに背を任せ、アレイシアは駆け出した。
***
ここかあ!どこじゃ神さぁぁぁぁぁん!!!
アレイシアはヘルメスが放送をしていた場所へと乗り込んだ。そこに待っていたのは……。
わわっ!ど、どうしたの?そんな怖い顔して飛び込んでこないでよ。ぼく、泣いちゃうよ?
え……へルメス神……だよね?
ぼくの身体を乗っ取っていた神様なら、さっきどこかに行っちゃったよ。ぼく、怖かったんだからね。
身体を乗っ取ってた?じゃあ、Ⅹさんの正体が、ヘルメス神だってわけじゃないの?
そりゃそうだよ。冷静に考えてよ。ぼく、何年ヒーローやってると思うの?神様がそんなことするわけないじゃない。
……たしかに、神様にしては、あんまりな放送だったような……。
アレイシアさん!騙されないでください!
店長!無事だったんだね!
神は不老不死です!遊びのために50年や100年は平気で使います!ヘルメスは、間違いなくそこにいます!
それにいくら神でも、精神だけになって人間に取り憑くなんて、有り得ません!
えっ?そうなの?でも……。
め、滅多なことでは有り得ません!ヘルメスはできないはずです、たぶん絶対に!
そんないい歳してエリュマでアルバイトしている怪しい人なんかより僕を信じて!おなじヒーローじゃない!
……わかったよ。おなじヒーローだもんね。
言葉よりも拳じゃあ!殴り合えはすべて解決じゃい!
えっ、ちょっ、待ってよ。ぼくは戦闘は嫌いなんだってば。
もう言葉はよか!かかってこんかあ!
言いながら殴りかかってこないでよぉ!
***
はい、やめやめ。そうだよ、嘘だよ。ぼくがヘルメスだよ。
しゃあ!やっぱ拳の話り合いに嘘はつけんかあ!
まったく、生まれ変わってもアレスとは相性が良くないね。会話が通じないんだもん。
でも終わり。ほら、観客席を見なよ。
スタジアムの上空に、赤熱した金属の球体が浮遊していた。
ここはぼくの支配域だと言ったろう?これ以上、ぼくに逆らったら、あれを爆発させるよ。
まあ、死ぬのは3000人程度だろうし?ぼくを倒すのを優先するのも手だと思うけどね。
アレイシアさん!ダメです!交渉してはいけません!ヘルメスは……。
うるさいな。少し黙っててくれない?
ヘルメスが指を鳴らすとふわりと布が浮き、プロメテウスの口へと巻き付いて、言葉を奪った。
さて、それじゃどうする?みんなのヒーロー、アレスちゃん。犠牲を承知で、ぼくと戦うかい?
ぐ……ぎぎ……わかった!みんなには手を出すな。
はい、お利口さん。しかし君もよくよく考えなしだね。 Ⅸの狙いは良かったよ。あのまま襲撃されてたら準備できなかった。
けど、Ⅰに足止めされた時点で、ぼくを奇襲するチャンスはなくなったんだ。作戦の練り直しでしょ、普通は。
それじゃ次はどんなゲームを君にしてもらおうかな。
ヘルメッさん……アンタの狙いはなんなんじゃ?なんでこんなゲームをするんじゃ?
それはもう、君を苦しめるためさ。ぼくは君が大っ嫌いだからね。
嫌いって、ボクがなにをしたって言うんだ。
なにをした?よく言うね。明るくて、騒がしくて、素直で、みんなのために戦って、みんなに愛されてて――
その全部だよ。全部全部、大っ嫌いさ。何万年も昔からね。
それはボクじゃない。アレッさんだ。アレッさんとボクは……。
おなじだよ。ぼくから見ればね。ずっとずっと我慢してたんだ。目ー杯楽しませてもらうよ。
なに、そのうち帰るから、安心してよ。君がぼくを、満足させられたらね。
story SOTEIRA
アレイシアがヘルメスと対峙する頃、残された君たちはゼウスⅠと向き合っていた。
神器もなしでオレに立ち向かうとは、正気かい?〈神王雷霆〉のパワーは神器最強だ。知らないわけないよな?
あら、ゴッド・ナンバーズともあろう方が存じませんの?勝てる時だけ戦うような人を、ヒーローとは呼びませんのよ。
ハッハァ!そいつはまったく違いないな。間違っちゃいないんだから、違いない。
まあいいさ、ここまできてぺちゃくちゃおしゃべりってのも色気がねえだろ?さあ、思いっきりやろうぜ!
***
エウブレナの記憶の中にある父は、いつも笑っていた。
穏やかで、優しくて、どんなわがままにも応えてくれる父。大好きだった。
そんな父が、ー度だけ怖い顔を見せたことがある。
その夜、家の外はひどく騒がしく、怖かった。仕事を休んでいた父は、通信を受けると、仕事着に着替え、エウブレナに会いにきた。
出かけるつもりなんだ、と思い、父に怒った。私が怖いのに、置いていくな、と泣き叫んだ。
「できれば、ずっと君とここでこうしていたい。けれども、私はヒーローなんだ。
守るべき未来がある。救うべき友がいる。たとえ命を落とすとしても、いま行かなければ私は絶対に後悔する。なにより――
人々を苦しめる悪を見逃すことなど、私にはできない!
……なんて、悪いパパだね。ごめんよ。大丈夫、きっとすぐ帰ってこれるから。愛しているよ、僕のエウブレナ。」
――それが父を見た最後となった。
ティタノマキア事変。ハデスⅣである父は、その日、命を落とした。
以来、父のようなヒーローになることが、エウブレナの目標となった。命を捨てる時にも揺るがぬ正義を持つヒーローが。
だが――
生きて還るまでがヒーローじゃろがぁぁぁぁ!
(アレイシアの言葉が私を変えた。けれども、パパヘの憧れが消えたわけでもない。
私がハデスⅣを継ぐ自信がないのは、きっと心が定まっていないから。私はどっちつかずの半端者。そう思った。
けど――)
そんなぬるい攻撃じゃオレは倒せない。そろそろ諦めたらどうだ?
君は歯噛みする。実際、打つ手に詰まっていた。
エウブレナとネーレイスを守るため、君の魔法は防御と回復を中心にし、攻撃はふたりに任せていた。
だが、神器〈神王雷霆〉により強化を施されたゼウスⅠの肉体は、神器なしのふたりの攻撃を意にも介していなかった。
君が攻撃に転じるという手もあるが、ゼウスⅠの攻撃は遠く、ふたりが危険だ。
どうするべきか、判断に迷っていると、エウブレナが決然とした声で告げる。
ヘカテーを使うわ。
な、なにを言っていますの!?そんなこと、許しませんわ!
ハデスヒーロー最強の技、ヘカテー。狂気の女神を身に降ろすその技は、その威力の代償に使用者の命を奪う。
大丈夫よ、ネーレイス。貴方に言われたこと、忘れてはいないわ。でも、だからこそ――
私は身に付けなくてはいけないの。私なりのヘカテーを!
道を示したのは、アフロディテⅨだった。メタモルフォシス・ウラニア。アフロディテ神の別の側面を引き出す技。
神には様々な側面がある。ヘカテーもまた然り。狂気の女神と呼ばれる彼女は、時に救世主とも呼ばれた。
神の異なる側面を制御するのは、ふたつに刮れた心を保つような精神性を要する。
だからこそ、今の自分なのだ、とエウブレナは理解する。父への憧れと、友への想い。双方を胸に抱く自分でなければ、ダメなのだ。
エウブレナの肉体が、紫光を放つ。それは冥府最強の女神の力。
これが私のヘカテー……。メタモルフォシス・ソーテイラー!!!
次の瞬間、エウブレナの姿が消えた。いや、消えたのではない。高速で移動したのだ。
そこか!ケラウノ・ストライク!
瞬時に見極め放たれた拳を迎え撃ったのは、細くしなやかなエウブレナの蹴りだった。
カルコス・エンブーサ!!!
それはこれまでのエウブレナとはまるで異なる戦い方。神の力によって冥府の獣を象るのではなく、その力を五体に宿す格闘術。
冥府の魔獣の力を宿した蹴りが、突きが、絶え間なくゼウスⅠを襲う。
戦の狂気が心を深淵へ引きずりこみ、友の言葉がそれを正気の彼岸へ引き上げる。
それはまさしくエウブレナだけが辿りつける、冥府の王たる者の新たな領域であった。
ハッ!なるほど、攻撃に全てを振り、オレの速度に並ぶか。だが、誘ってるのかい?ガードががら空きだぜ!
ゼウスⅠの拳から雷霆が放たれる。攻撃に集中したエウブレナは避けられない。
しかし君の張った防御障壁が、エウブレナを守る。
神器無しの付け焼き刃。1対1なら貴方に敵うべくもないわ。けれど私には、仲間がいる!
さあ、覚悟しなさい、ゼウスⅠ!天空神の暴走を止めるのは、兄弟たる冥府神と――
大海神が為すものと決まっていますわ!
面白い!面白いじゃないか!来いよ!お前らの全て、このゼウスⅠが抱いてやる!
***
BOSS:ゼウスⅠ
***
ゼウスⅠは、唐突にどさりと腰をおろした。
負けだ。
え……?まだ、だれも倒れていませんですわよ。
3対1とはいえ、神器もない奴らにここまで喰い付かれた。こんなのはお前、抱いてやるなんて言えやしねえよ。
参ったな、こいつは。久しぶりに師匠にぶん殴られちまう。
ゼウスⅠは神器も鎮め、完全に戦闘態勢を解いている。
メルクリアを止めるんだろう?行きな。
君たちは戸窓う。だが、アレイシアが心配だ。エウブレナ、ネーレイスとうなずき合い、君たちはアレイシアの後を追った。
あーたさ、ホントわかんない奴だよね。なに諦めてんのさ。足止めじゃなかったわけ?
なんだⅨ、生きてたのかい。嬉しいぜ、いい女は多ければ多いほどいい。
勝手に殺すな。ま、当分は動けないけど。あーあ、〈ケストス〉があればな~。
なんだい?誘ってんのかい?抱っこをご所望かい?
いらね~し。あーたさ、いつからXの正体知ってて、なんで協力してんのさ。
神だって知ったのは、さっきだな。
……は?
オレはガキの頃から、ゼウスⅠを継ぐべく師匠に厳しく育てられていてね。友達もいなけりゃ娯楽もなかった。
今となっちゃ師匠にも感謝しているが、あの頃は辛くてね。よく泣いてたもんさ。
そんな時、どこからともなくあらわれて、オレを慰めてくれたのがメルクリアさ。言ってみりゃ近所の優しいお兄さんお姉さんだ。
あの頃のオレは、あいつがいたから生きていられたようなもんさ。
ま、いずれゼウスⅠになるオレをガキの頃に籠絡しておこうって腹だったんだろうがな。それでも恩は恩だ。
あいつの頼みは聞いてやると決めていた。それだけだ。神だろうがなんだろうが、オレには関係ねえのさ。
……で、なんでそれで急に戦うのやめたわけ?
あいつを抱いてやろうと思ってな。
……いや、意味わかんないし。
知らなかったのかい?いい男ってのは、ミステリアスなもんさ。ミステリアスな方が、いい男だからな。
story HOPE
ヘルメッさん……あなたは、悲しい神だね。
……なんだって?
あなたは泣き方を知らない。知らないから、代わりにずっと笑ってる。
ひとりで泣くのは悲しいことだよ。けど、泣きたい時に泣けないのは、もっと悲しいことなんだ。
ボクを嫌いなら、それでいい。だから、もっと自分の悲しみに気づいてあげて欲しい。
「巨人の壹に閉じ込められていたオレを、お前が助けたって話が広まっているよな?
ま、事実と逆だが、それはいいんだ。別に、オレがどう思われようがかまわねえ。いくら笑われても、オレはオレだ。
けどな、ヘルメス……。お前は、本当にそれでいいのか?オレは、それが心配なんだよ。」
またか、アレス!貴様にぼくのなにがわかる!勝手にぼくを憐れむな!
ボクはアレッさんじゃない。アレッさんとのあいだになにがあったのかも知らない。けど……。
もういい!次のゲームを決めたよ。アレスちゃん狩りだ。
観客に武器を与え、君に攻撃を当てたものはここから解放してあげることにしよう。
みんなの人気者の君なら、きっと無傷で済むだろうね。楽しみだ……。
激しい衝撃と音がスフィア内に轟いたのは、その瞬間だった。
時をわずかにさかのぼる。
も、もうダメだ……。神が我らを見捨てたのだ……。すべて終わりだ……。
放送を見守る人々に絶望が広がる。もはや、何人にもそれを止めることなどできないかと思われた。
だが、どのような絶望の中でも、箱の底に希望は残る。
諦めるな。まだなにも終わっちゃいない。
ヒーローは、ここにいる。
訪れたのは、沈黙。驚愕。そして歓喜。
ディ、ディオニソスⅫ!ほ、本物なのか!?
間違いない!子供の頃、ゼウスⅠとの対決を見た!あれは、ディオニソスⅫだ!
生きていた!〝最強〟はやっぱり生きていたんだ!!
そうだ。俺は死にゃしない。このオリュンポリスに悪がある限り、何度でも甦り、立ちはだかる。
たとえ相手が、神そのものであろうともだ!!
歓声が爆発する。まさしく消えさる希望。〝最強〟に託された人々の願いだった。
***
わかっているな、Ⅻ。変身までは許す。だが、戦闘は許さんからな。
心配そうな顔をするなⅥ。そう簡単にくたばるつもりはないさ。
お前のその言葉は信用できん。とにかく、戦おうとしたら、私の命に代えても止める。良いな。
かつての戦いでヴァッカリオの肉体は限界を超えている。ディオニソスⅫとして戦闘できるのは、あと2回が限度だろう。
だが、神器を覚醒させ、変身するだけならば、肉体にかかる負担は大きく減る。
かつて、初めての変身により疲れ果て、気を失ったアレイシアを、プロメトリックがさらおうとした。
ヴァッカリオはその際、10年ぶりに神器を覚醒させ、ディオニソスⅫとして立ちはだかった。
結果的に、その時は戦闘にまでは発展しなかった。激突した瞬間、プロメトリックが退いたからだ。
……今日のところはやめておくとしよう。君の命、ここで燃やし尽くすのは、まだ早いようだ。
神々との戦いの道具としてディオニソスⅫを利用するためだったのだが、その時はそこまではわからなかった。
わかったのは、変身だけならば、命への負担は少ないということだ。
(もっとも、戦うよりはマシってだけで、身体は悲鳴をあげちゃいるが……お兄ちゃんには内緒にしとくさ。
見事だ、Ⅻ。お前の姿によって、市民が落ち着いた。これならば、安全に避難させることが出来るだろう。
避難誘導は任せな。 Ⅲから人員を借りた。ひとり残らず安全に脱出させてやるよ。
借りた、ではなく奪ったのだろう。まあよい、ならばそちらは任せた。Ⅻ。
ああ。俺が神器を共鳴させる。〈遠矢射る光明神(エキヴォロス・アポロン)〉に呼びかけてくれ。
神器は互いに共鳴する。それを利用し、〈尽きざる蜜の神酒杯(アヘイロン・ネクタル)〉を通して、アポロンⅥは自らの神器に呼びかけようとしているのだ。
アポロンⅥの掌が、ディオニソスの神器に触れる。
我が神器よ、応えよ!私はここだ!
――だが反応はなかった。
ダメか。あのスフィアは、それほど強力ってわけだ。
せめてここに他のナンバーズがいればな。複数の神器に同時に呼びかけることができれば、あるいは――
ならば、私も協力させてもらおう。
いまさらどの面さげてと思うだろうが、私もヒーローの端くれ。人々を救いたいのだ。
いい顔するようになったじゃないか。その力、ありがたく――
申し出はありがたく思うぞ、マスクド・アテナ。だが、これはナンバーズでなければ、できぬこと。君は市民の――
アポロンⅥは、マスクド・アテナの正体にまったく気づいていなかった。
……Ⅵ。あいつの正体はアテナⅦだ。
なに?そんな馬鹿なことがあるわけ……。
……Ⅶ!Ⅶではないか!戻ってきていたのか!なぜ言ってくれなかった!
すまない。私のような罪人がヒーローを名乗るなど、許されることではないのだろうが……。
罪を感じているのなら、市民を守ることでそれを示してもらいたい。その力、貸してもらおう。
というわけだ、Ⅺ。アンタもこっちに来てくれ。
その言葉に、物陰に隠れていたアイスキュロスは嫌そうに出てきた。
気づいていたのかい?意地が悪いねえ。
Ⅺはでもか。問いただしたいことは多いが、今はこの事態の解決が先だ。力を貸してもらう。
ふたりはうなずき、ディオニソスⅫが差し出した神器のうえに、互いの手を重ねる。
〈アイギスの盾〉よ。弱き者を守るためにあるお前の力の使い方を、私は誤った。だが、もしまだ私を見捨てていないのなら……。
聞こえてるかい、〈鍛治神の撃鉄(ヘパイトス・ハンマー)〉。ひねくれ者同士だ。もうー度くらい、仲良くやってもいいだろう?だから……。
我が神器〈遠矢射る光明神(エキヴォロス・アポロン)〉よ!道を外れた神ごときに、私とお前の絆を断てるはずはない!ならば、応えよ!
ヒーローは、ここにいる!
展示室に封じられた3つの神器が光を放つ。
それは互いに共鳴し、自らの意思を持って、光を高めあい、飛んでいく。
神によって閉ざされた壁の向こうへ。自らの選んだ使い手のもとへ。
神器はスフィアを突き抜け、3人の手に収まった。
よくぞ戻った!
その力、いまー度貸してもらうぞ。
久々にやろうか。
「目覚めよ、神器!」「覚醒せよ、神器!」「起きなよ、神器!」
さーて、それじゃ露払いは、おじさまから行きますか。ドスィア・エクリクスィ!
噴火の威を秘めた弾丸が放たれ、メルクリウス・スフィアに衝突し、大爆発を起こす。
だが、神の作りし球体は砕けない。その着弾点に、帰還した戦女神が跳躍し、奥義を放つ。
この力は、だれかの涙を止めるためにある!邪悪なる神の力よ、絶滅せよ!
アペルピスィア・アイギス!
スフィアに衝撃が走る。だが、まだ砕けない。神の力にも匹敵するー撃がなければ、砕くことなど出来はしない。
ゆえに、最後にそれは放たれる。
たとえ神であろうとも、我が街に悪の居場所はない――
アポロン・バスター・メギストス!
story LAUGHING GOD
君たちは神器を確保するため、特別展示室へと向かった。
ヘルメスの力で封じられているかと思われたそこは、内部からの力で開封されており、中に入ることができた。
お父様!大丈夫ですの!?
床に倒れていたポセイドンを助け起こし、君は回復魔法をかけた。
すまぬな……油断をした。まさかⅩがヘルメス神だとはな……。
わしは大丈夫だ。頼む、あやつを止めてくれ。ネーレイス、〈トライデント〉はお前を正式に選んだ。持っていくがいい。
え!?わ、わたくしをでしゅか!?しょ、しょんなましゃか……。
い、いいんですの……?そ、それじゃ……。
ネーレイスが神器を手にするー方、エウブレナもまた己の神器に向き合っていた。
〈見えざる神の二叉槍(バイデント・アウドネウス)〉……。私には自信がなかった。パパの後を継ぐことも、アレイシアと並んで戦うことも。
けど、その迷いも含めて、私の強さなんだと思う。だからお願い――力を貸して!
アフロディテの神器〈ケストス〉もまた、ふわりと浮かび飛んでいく。
みんな、準備は整ったにゃ!ヘルメスのもとに向かうにゃ!
***
倒れて動けないアフロディテⅨのもとに、〈ケストス〉がひらひらと舞い降りる。
お~そ~い~。あーたさ~、選ぶ条件が面倒なんだから、もっとちゃんとケアしろっての。おけまる?
そこへ、アポロンⅥとアテナV、ヘパイストスⅪが降り立った。
ここにいたか、Ⅰ、Ⅸ。立てるな?ヘルメスのもとへ行くぞ。
いいのかい?オレをヘルメスに会わせて。
強がってはいるが、消耗しているのだろう?今のお前がなにを企もうと、私が阻止できる。
ま、移動くらいはできっけどさ、戦力としては期待しないでよ?
甘えるな。立ち上がる以上は戦うのがヒーローだ。
あ、やっぱそう思う?仕方ないなあ。もういっちょ、がんばりますか。
ヴァッカリオ!なぜここにいる!ついてくるなと言っただろう!
ふふ……英雄庁も変わりつつある。その中心にいるのは零か。ならば、急がねばならぬな。
ではゆくぞ。ゴッド・ナンバーズ、出撃だ!なお、Ⅻはいないものとする!
***
メリクリウス・スフィアが砕けた!?ぼくの最高傑作だぞ!?神器がナンバーズの手に戻ったのか!?
もう人質はいない。みんなはここに向かっている。おしまいだよ、ヘルメッさん。
アレス……!アレスアレスアレス!いつもそうだ!お前がいると、なにもかもが狂う!
勝っていたはずだ!手に入れていたはずなんだ!お前にさえ、惑わされなければ!
叫びに応えるように、神器をその手にゴッド・ナンバーズたちは舞い降りた。
身勝手な物言いだな、X。零を弄んだのはお前だ。自らの醜さが、お前に破滅を呼んだのだ。
我執が正義を濁らせる。己では気づかぬものだ。
ま、僕は偉そうに言える立場じゃないけどね。ゲームオーバーを受け入れないのは、見苦しいんじゃない?
あーしのジャッジでは、完全にギルティ。神だからって手加減できないから、覚悟しな。
お父様を傷つけた罰、受けていただきますわ。
貴方は許されざることをしました。ですが、神を不当に疑める気はありません。どうか、抵抗をやめてください。
ゴッド・ナンバーズ……!神器の力を借りて、神に並んだつもりか!みくびらないで欲しいね!
やめておけ、メルクリア。悔しけりゃいくらでも抱っこしてやる。だがこいつはもう、覆らねえよ。
ゴッド・ナンバーズたちは、神器を構える。それは悪を滅する必勝の陣。たとえ神でも逃れる術はない。
だが、それを制するように、ナンバー零――アレイシアが静かに前に出る。
みんな、ここはボクに任せてほしい。
なにを言っている。これは英雄庁全体で考えるべき――
いいよ、好きにやんな。いまみんな疲れてっから、このうえ零ちゃんと揉める気力ないし。
ありがとう、みんな。
アレイシアは神に向き直る。
ヘルメッさん。君になにがあったのかは知らない。けど、わかる。君は、プロメテウスとおなじ目をしている。
言いたいことがあるんだね。溜め込んできた想いがあるんだね。いいよ。ボクが全部、受け止める。だから――
さっさとかかってこんかぁぁぁぁい!いくぞぉぉぉぉぉぉぉ!神さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
アレス!君だけは許さない!許してたまるものか!
***
BOSS:ヘルメス神
***
神の宝物タラリア。それはヘルメスを伝令の神たらしめる有翼のサンダル。
それを身に着けたものは、あらゆる空間の縛りから解き放たれ、足音を立てることもなく、風の速さで宙を舞う。
もはや君にもヘルメスの姿を捉えることはできず、ー陣の風かー条の光としか思えなかった。
アレス!君がいるからオリュンポスは歪んだ!無欲が!君の無私が!君の正義が!ゼウスを脅かし、12神に亀裂を生んだ!
そうかぁぁぁぁぁぁぁい!そりゃ大変じゃったのぉぉぉぉぉぉ!それからとうしたぁぁぁぁぁぁ!
君えいなければ!君さえいなければゼウスは正気に戻り、オリュンポスは安泰!思った!だのに!
どうしたぁぁぁぁ!もっとじゃあぁぁぁぁ!おんしの心の叫びはそんなもんかぁぁぁい!腹から声え出さんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
叫び、斬り結び、また叫び、殴り合う。
戦いの華麗さもなにもない。そこにあるのは、剥き出しにされた数千年の逆恨み。
アレイシアの拳は、槍は、ただそれを受け止める。
この世界を捨てて!オリュンポスは終わった!だれも、止める者がいない!だれもが、私欲に走るばかり!
アレスが乱しているのだと思った!なのにアレスがいなくなり、オリュンポスは崩壊した!
そうかぁぁぁい!アレッさんはたいしたもんじゃのぉぉぉ!
認められるか、そんなこと!ぼくが間違っていたというのか!?
答えは……自分の胸にあるやろがい!せやろがぁぁぁぁ!
返せよ!プロメテウスを返せ!あいつの心を返せよ!君はいつもそうだ!いつも、ぼくの大事なものを奪っていく!
知らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!でも辛かったんじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
受け止める。神を。受け止める。神話を。ただのひとつの、叫びとして。
君のように生きろというのか?君のように生きれば愛されるとでも?
ふざけないでよ!ぼくはヘルメス!詐欺と泥棒の神!なにをしたって君にはなれない!
ならんでよかとぉぉぉぉ!おんしはおんしで、かまわんじゃろがぁぁ!
それでも!それてもぼくは!ぼくは君に!
君に……なりたかったんだよ。君のようなヒーローに。
けどなれなかった。ナンバーズを名乗っても。あは、バカバカしいね。アレスはもう、いないというのに。
戦いは、いつしか終わっていた。ヘルメスは動きを止め、力なく腕を下げていた。
認めるよ、アレイシア。ここで君を倒しても、ぼくはなにも得られない。とうに負けていたんだ。アレスを死に追いやった、あの時に。
ケーリュケイオン。
ヘルメスの頭上に、杖があらわれる。神杖ケーリュケイオン。その杖は生者に眠りを与えるという。
よくわかったよ。この世界に、もう神はいらない。ぼくの居場所はここにも、オリュンポスにもない。
もういいさ。眠ることにするよ。さようなら――
神の力の源に向け、ケーリュケイオンは落下する。それが胸を貫く刹那――
パントクラトル・ケラウノス!!!
ゼウスⅠの奥義が、神の杖を砕く。
そしてヘルメスの小さな肉体は、青年の太い腕に抱き上げられていた。
言っただろう?オレはお前を抱くってな。勝手に寝たりはさせねえよ。
ヘルメス神よ。我々は神の死を望まない。この世界を捨てた恨みを言う気もない。
願わくは、黙ってあなたの世界へ帰って欲しい。これは長年、英雄庁を支えた戦友への頼みでもある。
……帰ることはできる。けど、きっと後悔するよ。ぼくが帰れば、ゼウスは全てを知る。その時、彼がなにを思うか――
かまわない。そのために我らがいる。そうだな、ナンバーズよ。
居並ぶゴッド・ナンバーズは、力強くうなずいた。
……わかったよ。ユピテリオス、放して。
ヘルメスは立ち上がると、なにかを唱える。すると、有翼のサンダルが淡い光を放った。君が異界渡りをさせられる時のように。
それがタラリアの真価。異界渡りを可能とするヘルメス専用の〝門〟だった。
帰るよ。ヒーローとして過ごす日々、悪くはなかったよ。良くもなかったけどね。
このゼウスⅠに会いたくなったら、また来い。いつでも抱いてやる。
遠慮するよ。君の抱っこ、けっこう痛かったし。じゃあね。
――かくして神は姿を消し、ジャスティス・カーニバルは幕を閉じた。
やれやれ、なんだかえらいことになっちゃったけど、これにてー件落着ってとこかな、店長。
さて、どうであろうな。私には――はじまりのようにも思えるがな。
ゴッド・ナンバーズ――彼らの力は、もはや神にも等しい。それもこれも神器の力か。
アテナ、ヘパイストス。君たちだろう?あれを作り、彼らに贈ったのは。なにを思い、あんなものを作ったんだい?
まあ、しょせんぼくは伝令神。あとは運命と天空神様の御心に、任せるとするさ。
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story1 CARNⅣAL
アレス・ザ・ヴァンガード3 Story2 LABYRINTH
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アレス・ザ・ヴァンガード3 Story7 エピローグ