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【黒ウィズ】ぽっ!かみさま 〜北風のエルフと炎の鳥〜 Story

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最終更新者:にゃん

ぽっ!かみさま 〜北風のエルフと炎の鳥〜
開催日:2019/01/21

目次


Story1 リザとグレイス

Story2 サンザールの雪

Story3 生きる術とカレー

Story4 北風のエルフと炎の鳥

エピローグ




主な登場人物








story1



「あれ? これ、他の本と違う。」

本の山から取り出した本は、表紙の素材が他のものと違った。

もうひとつの本の山の中にいる少女に声をかける。部屋の大部分のスペースを本が占領していた。

「グレイス、これってあなたが探してる本じゃない? ほら、なんが素材が違う。」

山の向こうから、反応はない。

「グレイス? グレイス? グレイス!?」

「ほうほう……ほうほう……。おお~、そういうことか。」

山の向こうの少女は、やるべき作業をやらずに本を狭んでいた。

リザは本を掲げ、それをグレイスという名の少女の頭に落とした。

「いたーー!」

「こらこら。あなたがリュディの本を探しているんでしょ。自分でサボってどうするのよ。」

「そうだった……ごめんなさい。

でもこの本面白いよ。魔王と天使の物語なの。」

「……どうせ、お人好しの魔王と無茶苦茶な天使が出て来るんでしょう?」

「ちょっと違う。厳しいけど優しく強い魔王と愛情深くしたたかな天使が出て来るんだよ。」

(だいぶ盛ったな、リュディ……)

「この本、読む? リザ。」

「いらない。読まなくてもだいたいわかるから。それよりもこの本は?」

本を受け取り、グレイスは表紙を目を細めて睨んだ。

「じー……。」

さらに触る。

「さわさわ……。」

そして、嗅いだ。

「ふんふん。ふんふん。」

すべての過程を終えると、ふう、と一息つく。

「これは違うね。」

「ホントかよ。何をもって、違うと言い切ったのよ。」

「匂い。時代の匂い。歴史の色。重み。」

「全部、ぶわっとしてるなー。……まあ、いいけど。あなたの方は調べ終わったの?」

「終わったよ。ぜーんぶ調べた。」

「あっそう。私の方も調べ終わったから。今回も収穫なしね。」

部屋を埋め尽くす本たちを眺め、ふたりは歩んできた道程の長さとかかった時間を思い起こす。

「これでサンザールにある本は全部調べ終わっちゃったわね。」

「うん……。結局、探してる本はここにはなかったみたい……。」

残念そうにうなだれるグレイスを見て、リザが立ち上がる。

「ご飯を食べに行きましょうか。外の空気を吸うのも必要よ。」

「そうだね。」

窓の外には粉雲が見えた。最近、サンザールでは雪が降る日が多かった。

「この街に雪が降るのは珍しいんだって。カヌエが言ってた。

「そうなんだ。」

身支度をしながら、グレイスは重ねて尋ねた。

「そういえば、カヌエ様はどこに行ったの?ここ、2、3日見てない気がするけど。」

「一緒に暮らしだして、わかったんだけど、あの子、どこか行くのよね。行先も言わずに。

いつも黙って出て行くなって怒るんだけど、なかなか治らない癖なのよね。」

「大丈夫かな? 危ない所とか行ってないかな。」

「大丈夫でしょ。大丈夫だけが取り柄なんだから。それにあの子、一応神様よ。大丈夫大丈夫。」

身支度を終え、扉を開けると、風が粉雪とともに、ふたりの柔らかい髪を舞わせた。

久しぶりに味わう外の冷たい空気は、厳しさよりも、心地よさの方が勝っていた。





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story2 サンザールの雪


「グレイス、何食べたい?」

「なんでもいいよ。」

「ダメ。なんでもいいなんて言ってたら、大物になれないわよ。」

「えー、それなら、リザの食べたいものが食べたい、」

「牛の脳。」

「ううー、それはちょっと……。」

「だったら自分の食べたいものを言いなさい。好きな食べ物とかないの?」

「おばあちゃんが作ってくれるシチュー!」

「どんなシチュー?」

「おばあちゃんがコトコト時間をかけて煮込んでくれるんだよ。」

「だから、どんな味のシチュー?どんなお肉が入ってるとか、そういう話。」

「え? えーと、えーと、あったかくて、おいしい……シチューだよ。愛情たっぷりの!」

「……もういいわ。」

初めて会った時から、グレイスとは要領を得ない会話になることが多かった。

それに、リュディのことを知っていると聞き、会ってみたが、実際はまるで違った。


 ***


「ということは、あなたはリュディを知っているわけではなくて、リュディの書いた本を探しているのね?」

「はい。グレイスの家族は202年前に、長い航海を経て、新大陸に移住したんです。

その旅の道中で、様々な場所を訪れたのですが、そこでいくつものリュディガー・シグラーの本を手に入れました。

新大陸に移住してからも、その本は大事に保管されていました。

ですが、グレイスのおぱあちゃんが子供の頃に、それが散逸してしまったんです。

その頃、土地の猟師たちが山賊のように周辺から略奪を行っていました。

そこで、グレイスの一族は、さらに大陸の東へ移動することを決めたんです。

着の身着のままの状態で逃げたようなものだから、家財などはすべて残してきました。

そのことをおばあちゃんはとても後悔していました。

特にリュディガーさんが書いた本の中でも、直筆の貴重な本は取り戻したいと思っていたんです。

グレイスが16才になった月がきれいな夜に、グレイスはおばあちゃんとその原本を探し集めると約束しました。」

「なるほど。その話、3回目ね。」

「で、まとめるとどういう話なのかねえ?

「本を探しているんだろ?

「ですが、本を探すということで、リザの問題に何か進展があるのでしょうか?」

「あるのかなあ……? うーん、ないと思う。神様の力も案外大したことないわね。」

「これは嫌味を言われている気がするねえ。でも、私は気にしませんよ。ええ、気にしません。」

「少しは気にしなさいよ。」

「あの? グレイスはどうすれば、いいのでしょうか?」

一同は揃って、リザを見た。彼女の問題に関わることである。彼女の判断を待った。

後ろめたさに逃げ場を奪われるような気持ちで、リザが答えた。

「……リュディの本、探しましょうか。」


 ***


いまでもこの判断が正しかったかどうかはわからない。

むしろかなりの遠回りを強いられている気がしていた。

カヌエの――

「だーいじょうぶだから。これも縁だから。」

という言葉が頭に残っているが、時折、自分をイラつかせるだけだった。

そんなことを考えていると、グレイスのことを知ったのは、チミチャンガとフグを食べている時だったと思い出した。

「グレイス、チミチャンガ食べる?」

「チミチャンガ? なにそれ?グレイス、チミチャンガ食べたことない、食べたい!」

「じゃあ、チミチャンガにしましょ。……あれ?」

風が強く吹いた。とても嫌な風だとリザは思った。風を操る彼女特有の感覚である。

その感覚は間違っていなかった。

風とともに何か不思議な光がサンザールの街を通り抜け、それと同時に小路の石畳が凍りついた。

睨みつけるように、風を見つめる。

「何あれ……?」

人ではない何かが風に紛れて、舞っていた。悪意や禍々しさはないが、怒りのようなものを感じた。

リザとグレイスを見つけると、それは苛烈な速度でこちらに向かってきた。

「あわわわ! こっち来るよ!」

「グレイス、私の傍を離れないで!」

リザのペンダントが光を放ち、敵対者と自分たちの間に風の壁を生み出した。

ふたつは激しくぶつかり、互いに弾けた。

「私にケンカ売る気?」

『さ……さ……げ……よ』

睨み合い、再び衝突の気配が訪れる。そこに……割って入る声が響いた。

「こらこらこらこらこら。ちょいと待ちなよ~。お待ちなさ~いよ~。」

声の主は、ギコギコとゴンドラを漕ぐ者。神であった。

「こらこらこらこら。こらこらこらこら。」

と、威勢はいいが、ゴンドラの速度は遅かった。

(舟、遅いな……)

敵対者は神の登場をこれ幸いとばかりに、狙いを変える。ゴンドラに向かうと、神をむんずと捕まえて、飛び去ったのだ。

「あれーーーー。」

「何しに来たのよ! グレイス、追いかけるわよ!」

駆け出して、返事がないと思い、リザはグレイスの方へ振り返る。

「はあ、はあ、リザ、ごめん。待って……早いよ。」

駆けたのは、一瞬だったのに、かなり後ろにいた。

(足遅いな……)「もういい、グレイスは安全な場所にいて!」

間に合わないと判断したリザは、再びペンダントに力を込める。風が粉雪を巻き込んで、彼女の周囲に集まる。

「待ちなさい!」

猛烈な上昇気流がリザの体を持ち上げた。



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story



塔の中では、サンザールの宗派のひとつである〈マニフェ〉の御子ホリーが祈りの儀式を行っていた。

毎日欠かすことなく、行われる祈りが今日もまた終わろうという時、窓が音を立てて、軋んだ。

「風? かしら?」

ひとりでに窓が開け放たれる。そこから入ってきたのは、見たこともない存在であった。

血肉が通っているというよりも、世の中の理とはズレた所にいる存在のようだった。あるいはより高次な存在。

脇に抱えているのは、対となる教え、〈ヴィジテ〉の神カヌエである。

「こらこらこら。神様、小脇に抱えるなんて、ちょっと粋を通り過ぎて、生意気だよ。ホリーからも何か言ってやってよ。」

「カヌエ様……。あ、あなた! カヌエ様を離しなさい。」

『…………。』

暇の前の得体の知れない何かが、声もなくホリーを睨みつける。瞬間、ホリーは命の危機を感じた。

「……ッ!?」

喉まで出かかった叫び声が、止まった。窓の向こうから、猛然とこちらへ向かってくるリザが見えたからだ。

「カヌエを離しなさい!!」

速度はそのままで、リザは相手の背中に蹴りを見舞う。こうなったら高次の存在だろうと関係ない。

ただ、吹き飛ばされ、壁に激突し、崩れ落ちてくる祭事の装飾品に埋もれるだけだった。

「はう! ほう! ぎゃ!」

抱えられていた神様も投げ出され、地面を2、3度バウンドしてようやく止まった。

リザは油断なく、携えた短剣を構え、相手の様子を伺う。

しかし、装飾品の山は一向に助かない。ようやく、ホリーがリザに言う。

「さあ、立ち上がりなさい。お仕置きの時間よ。」

「もう……いないのでは?」

「気配はなくなってるねえ。北の山に帰ったのかもしれないねえ?」

コロンと起き上がってカヌエが言った。

「北の山に帰る? 何かご存知なんですか、カヌエ様?」

「知らいでかい、知らいでかい。神様ですから。たいていのことは知ってますよ。

あれは、エルフです!」


 ***


「エルフというのはね、昔この世界に一番最初にやってきて、いろいろな文明の礎を作った種族です。

見たように、ちょっと不思議な力を持っていて、それぞれ細かい部族ごとに水の力や風の力なんかを司っていたりします。

今回、サンザールに来たのは、おそらく「北風のエルフ」だね。最近、サンザールが寒いのもそれのせいだね、きっと。」

「でも、来るたびに毎回あんな騒動を起こされたら大変じゃない。そういうものなの、エルフって?」

「いいえ。今回のようなことは、私も初めて経験します。」

「その通り。今回はどうもおかしいんだよね。私もエルフはもういなくなったと思っていたんだけど……。」

神様は腕組みをして、しみじみと呟いた。

「いたねー。なぜかいたねー。いるもんだねー。

私も風が妙な様子だなあ、と思ってね。慌てて旅先から戻ってきたんだよ。

そしたらエルフがいた。これは何かあるねえ、きっと。」

「旅? カヌエ様はいままで旅に行っていたの?」

「そうですよ。カヌエといえば旅の神ですよ。思い立った時に舟を出して、旅に出るのが、私という人間ですよ。」

「神でしょうが。……というか、そんなことしてたのね、あなた。」

「するっしょ。旅するっしょ。それカヌエっしょ。」

「だから、何回も言っているように、行き先を言っていけ。」

リザの拳が神様のこめかみをグリグリと責め立てる。

「ひーーー!」

こめかみをモミモミしながら、カヌエは旅の荷物の中からある物を取り出した。

「お土産あげるから許してくれないかねえ。……はい、これ。木刀。」

再び、神様のこめかみが責め立てられた。

「ひーーー!」

「カヌエ様ってお土産のセンスはないのですね……。」

「ちょっと舐めてもらっちゃこまるねえ。それはただの木刀じゃないよ。

樹齢100年の樫の木をひとりの職人が1から削って削って、削り込んだんだよ。100年に1本の木刀だよ。」

「その木刀、店に何本置いてた?」

「さあねえ、20本くらいあったかねえ。」

「騙されてるんじゃないわよ。」

「ひーーー!」

こめかみをさらにモミモミしながら、カヌエは今回の帰還の目的を告げた。

「それはともかく、「北風のエルフ」が現れた理由はちゃんと調べないといけないよ。

なので、私は北の山〈モンテ・ペロッタ〉にまた旅に行きます。」

それを聞いて、グレイスが身を乗り出す。

「その旅にグレイスもついていっていい? サンザールの本は調べ尽くしたから、別の場所に行きたいの。」

「旅の道連れは断れないっしょー。で、リザはどうするんだい?」

「え? 私?」

リザはしばらく宙を睨んだあと、答えた。

「そうね、行くわ。あなたたち、ふたりじゃ山の狼に食べられて終わりそうだもん。」

実のところ、御子代理としての毎日は、魔界育ちの自分には少しだけ刺激が足りない、と思っていたのだ。

今日の事件が魔界育ちのリザに、昔を思い出させた。リュディたちといた日々を。

それが一番の理由だった。





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