ロックスター★アミー

　北から来た傾奇者少女。キセルギター使い。

普段から独眼竜スタイルで斜に構え、周囲からもいわゆる不良のレッテルを貼られている。

だが、根は乙女。ロックによって表現される自由への憧れが高じ、自ら音を奏でるようになった。

　古風な土地で育ったため、言動にはやや時代感覚とズレたところもあるが、彼女のサウンドはむしろ、流行にとらわれない新しさをはらんでいる。

　彼女はパンキッシュな改造制服とブーツに身を包み、お供のバンドメン（ぬいぐるみ）を引き連れ、傾奇や数寄を理解しない頭の固い連中とのバトルを繰り広げつつ聖地ハラジュクの制覇を目指す。

　なんかもう。どうしようもないので。

あたしは自分勝手に、都へ出かけることにした。

　石頭の唐変木といつまでもしゃべっていても、ラチが開かない。世の中、前進しないんよ。

草ぼーぼーの寒い田舎でじっと辛抱して暮らすことがウチの伝統だって言うならそれもよし。

そんな伝統、あたしはこのままここに置いていく。

薪と一緒に風呂釜にでも焼べてしまえばいい。

マジくすぶって、あんまり燃えそうもないけど。

　まあいい！　そろそろ行くか！

忘れ物はないかい？

我が魂であるギター。雁首もピカピカ。良し。

アサクサから取り寄せた衣装。バッチリだ。

兄貴、たしかに覚悟はもらったぜ！　ありがとよ！

で、他にあたしのお供になりたい奴はいる？

　早くしな、ボヤボヤしてると置いてくよ。

用意できたか？　んじゃ点呼いくぞー！

　クアベアー！（ドジャドンドン！）

　ネコキャット！（ぴろぴろぽろー）

　ウサラビット！（ギャイギャイーン！）

　……オマエラの名前、もう少しなんとかならないの？

我が愛しのバンドメンたちではあるけどさー。

まあ、名前なんてどうでもいいんだ。

あたしたちに大事なのはサウンド。そして、魂。

　なんだかんだ、このあたしも、吹雪にも負けない強くて熱い魂はきっちり、土地の伝統を受け継いでる。

恥じてない。伝統でも、こいつは誇り。

誇りは守って、でも、やり方を新しくしたいだけ。

そう。己を試すために、確かめるために。

あたしたちは行くんだ。

　メンバー揃ったし、雪が止んだら出発な。

え？　なんだよ兄貴、そんなにあたしが心配かい。

まあ兄貴のぶんの覚悟はあたしがもらっちゃったから、兄貴はそのままだと心許ないよな。

しょうがないねえ。一緒に行くか。

とりあえず、あたしの頭にでもくっついときなよ。

　実はあたし、都ってどんなところなのかよく知らないんだよね……行くの、３回目くらいだし。

しかもウエノより南に行ったことない。

ほら。最近通販がめちゃめちゃ便利じゃん。

遠出しなくても買い物できちまうから。

兄貴はハラジュク、見たことある？

　年食って気分的に行き辛くなる前に、都に乗り込んでおくのは手だよねー。

兄貴だって田植え始まったら面倒くさいだろ。

あ、食うで思い出したけど向こうって飯食うとこあるのかな……弁当、用意しておこう。

　ちょっと待ってくれよ！　あたしはただ列車に乗りたいだけなんだ……どうして降ろされるのさ。

　え？　『そんなデカいキセルとぬいぐるみを椅子へ置くなら３人分の特急料金が必要です』って？

なんというケチくさい。

あたしもあたしで、金ないけど……。

いいよわかったよ降りるよ。てか、もう乗らねー。

　こうなったら、あたしは都まで歩くぞ！

一日十里！　三日で三十里！　いつかはつくだろ！

　ほら、歩けって。もうへばってるのかよー。

ベアー、ドラムのくせに体力ないぞー。

おいキャット寄り道すんな。

ラビットに至っては道端で寝てるし！　のんき！

　夕暮れになってきちゃったなあ……あとは明日だな。

兄貴、今日はこの辺で宿とろうか。

とれなきゃ野宿か……まだ寒いから、やだよなー。

　日が昇ったらひたすら歩き、暗くなったら寝る。

そんな感じで南下していくとシュリケンが飛んできた。

おのれ貴様ら、噂のコーミョー軍団だな！

　あたしは突然現れたコーミョーニンジャどもをキセルギターでぶん殴る。こいつ頑丈だからちょっとやそっと

じゃ壊れない。殴る殴る。奴らが吹っ飛ぶ。よし。

しかしギター、あとでチューニングし直さないと。

　ニンジャがそそくさとどこぞへ消えていって、続けて歩くけど、あたしたちは小腹が減った。

出がけに持ってきた弁当は流石にもう食べ尽くしてて、相変わらずお金はないから現地調達をする。

　海岸線に向かって兄貴と一緒に釣り。大漁。

これはきっとキャットの用意した餌がいいんだなー。

　ベアーが張り手で片っ端から魚を捌いてテンプラやスシにしていく。その見事な手際にただただ感心だ。

　とれたてがうまいんよー。遠慮せず食え、兄貴。

　ラビットはまた寝てた。食べなくていいの？

　ご、誤解するなよ！　てか、そんなに見るなって！

別にオナカ、見せびらかしてないから！

　このオナカの傷は手術跡だろう。フツー。

虫垂炎。古くはモーチョーと呼んだとか。なあ兄貴。

オナカの病気は怖いんだ。こじらせると穴だらけ。

　あたしを縫った医者はものすごく腕のいい人で、あたしはその人から裁縫を習おうかと思ったくらい。

その割に、縫い目がハッキリあるって？

ファッションなんよー、ファッションー。

このオナカの縫い目とモーチョー、場所全然違うし。

虫垂って、オナカの右よ？

　そういえばバンドメンたちが破れて、中のワタが結構出てきちゃってるな……。

医者直伝の縫い針使いで、早めにどうにかしよう。

綺麗にしてあげないと、かわいそうだからね。

みんなでトネガワやアラカワをじゃぶじゃぶ渡って、ついに、あたしたちは都に上陸した！！

　兄貴が見たがっていたウエノの博物館を巡り、そして途中の大道芸で結構お金を稼いでたあたしは、アメヨコでスタッズを買い集めて、装備を強化する。

これでいよいよ、聖地ハラジュクに殴り込み。

ところでオカチマチからハラジュクってどう行けばいいの……メトロってどうやって乗るんよ？

　都はやっぱり賑やかで、いかにも都会って感じだ。

ハラジュクはどういう場所なんだろ？

雑誌や噂で情報集めて、熟知してるつもりだけど。

　見た目から入っても見映え最高なら馬鹿にされない。

ゴシックからパンクからスラッシュまでなんでも共存できる土地。

自由と憧れが、ハラジュクにはある！　はず！

　コーミョー軍団もいっぱいいるらしいってのが、少々気掛かりではあるけど……

でも頑張って、勝つ。そして世界を変えちゃおう。

あたしたちが間違えて登っちゃったカグラザカを勢いよく駆け下りていると、向こうからもドヤドヤと、カミシモやヨロイの連中がこちらへと接近してきていた。

おのれ貴様ら！　またしてもコーミョー軍団か！

　コーミョーのノブシたちが、あたしを取り囲む。

イアイの達人まで呼んできてて、奴らマジで真剣。

「先生！　お願いします！」とか言って。

割りと本格的にあたしをぶっころそうとしてる。

辻斬りって、都じゃ犯罪にならないの？

　多勢に無勢だし、兄貴やバンドメンを巻き込みたくないので、あたしはイアイの達人との決闘を申し出る。

どうにか、相手は承諾した。

　離れててくれ、みんな。大丈夫だ、兄貴。

あたしのこの腕には、兄貴から預かった覚悟が、

こうやって、ちゃーんと、掛かってるんだから！

　さあさあ。勝負は一瞬で決まる。刮目せよ。

　あたしの向かいにいる、イアイの達人が飛んだ。

ぶわっと。そこらの木を蹴って。そして抜刀。

　あたしは見上げた。逆光なので太陽が眩しくて、あたしはそいつの斬ってくる方向がサッパリわからない。

　でも、なんということはなかった。

相手の狙いは間違いなく、あたしだから。

見えなくても、無難にその場で迎え撃つだけだった。

　あたしも、抜刀した。

これだけは使いたくなかったけど、仕方ないんよ。

キセルギターのギターネックは、隠し刀。

　あたしの伝統の一撃で、ズバッと相手が切れた。

コーミョーたちは身体が半分になったイアイ先生を抱え、いそいそと逃げていく。あたしの勝利。

　ああー。だけど。

またつまらぬものを斬ってしまったー。

刃も錆びるし、あんまり刀は使いたくない。

あたしはできればギターで、決着をつけたかった。

　あたしたちは、ようやくハラジュクにやってきた。

ここから大暴れの始まり。あたしは期待に胸膨らむ。

　なのに、ハラジュクはすごく静かで。

色彩が乏しくて、クレープ屋も全然なかった。

ゴシックやパンクどころじゃなくて、ロリポップも、ヒップホップすらも不在で、タレントの店もない。

　おかしいな？　あたしの知ってる感じじゃない。

このハラジュクは、まるで偽物。

そこらじゅうに『建設中』って立て看板と壁がある。

正直、壁は多すぎて、すごく邪魔だった。

誰も見てなかったので、試しにあたしは、その辺の壁を一枚、ぶち破ってみる。

　……すると、破れた壁の向こうに、未来があった。

だけど、まだ出来上がってなかったっぽい……どうやら、あたしの来るのが早すぎたみたい。

　まあ、続きはまた明日だ。いいよな、兄貴？