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紺青の錬金術師

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バックストーリーの1つ「紺青の錬金術師」についてまとめたページです

紺青の錬金術師


親愛なる日記さんよ、こんなことを書けるのはここだけだと思ってな。俺の剣に不満があるわけじゃないが、この学者(であり悪党)から羽根ペンと上等な皮紙が手に入ったってのもある。


こいつは前の持ち主より俺が使うべきものだ。なにせ俺はこいつを使って、この土地が容易に忘れることのない話を書き記すんだからな。


前回の襲撃は大成功に終わった。そして俺たちが狙う品は良い身なりをした商人と、経験の浅そうな2人の守衛によって護られていた。


俺たちは奴らが剣を抜くよりも先に、2本の矢で守衛を片付けた。


商人は値がはりそうなクロスボウを構えて、グンダルに向けた。グンダルは大剣を振り上げて、今まさに斬りかかろうとしているところだった。あの商人はきっとそれまでクロスボウで撃ったことなんてなかったろうが、放たれたボルトはまっすぐにグンダルの野郎の手を貫き、もう1本がやつのこめかみに刺さった。


山賊稼業には常に血がつきまとう。だが俺はさほど苦労せずに、この商人を仕留めることができた。そして売れるくらいには状態亥のいい商品を獲得できたってわけだ。


襲撃をしたのは、俺たちが混生の錬金術師と呼ぶようになった、あの小賢しいジジイを捕まえた時以来だった。


俺たちはある噂を耳にしていた。ある囚人が懺悔の野営地に連れていかれようとしていると。罪人が刻印の審問官に変えられるというう、あの場所だ。


俺たちはそれまでも何人か仲間を得ていたが、そいつらはみんな兵士とかごろつき連中だったから、錬金術師が仲間になるなんてのは初めてだった。


俺たちのボスは一見恐ろし気だが、実は武力よりも知恵に長けた人だってことを俺は知ってる。


俺たちが解放しようとしてる囚人が錬金術師だと知ると、ボスはその傷ついた灰色の顔を輝かせて言った。これは願ってもないチャンスだと。


紺青の錬金術師は特に抵抗もしなかった。俺たちに加わった連中の多くは、最初は山賊となることに戸惑う。だが俺たちがやつらを拘束者から解放した時点で、やつらもまた法の外に生きるしかなくなるんだ。


たとえ俺たちがやつらを逃がしたとしても、奴らは死んだも同然だ。だが紺青の錬金術師はちがった。やつはうやうやしく頷くと、こちらの話に耳を傾け、言われた通りにした。


今回の襲撃にあたり、ボスは紺青の錬金術師は参加させないと主張した。

俺たちが長年危険と隣り合わせで生きている中で、1人だけ特別扱いを受けることは当然いい気分はしなかった。だがボスには何らかの考えがあるんだろう。w


そして紺青の錬金術師は、商人の箱の中から何か特別な容器とコルクで栓がされた瓶を見つけ、嬉しそうな表情を浮かべてた。


ボスはもう何日も、夜になると紺青の錬金術師と2人だけでテントの中でひそひそと話をしている。


俺たちはみんな何のために動いているのだとボスは言った。もちろん俺はボスを信じてる。紺青の錬金術師のことはまだ信じてないが。


ボスは計画を明らかにした。そしてそれはほんとに見事な計画だった。


ボスが混生の錬金術師と時間を共にしていたのは、錬金術の効果と限界をよく理解するためで、ボスはその知識を活用してとんでもない大儲けが見込める襲撃をしようと考えていた。


狙う対象となったのは蒼霞と呼ばれる不可思議な物質が入った樽で、そいつはかなりの数があった。


そいつはノランド砦の西のはずれにある、兵舎と兵舎の間に置かれていた。ミューリックは持ち前の性格を活かして、あそこに向かう途中の部隊の信頼を得た。やつは吟遊詩人が歌い継ぐような大騒ぎの夜のあとに、部隊からはぐれた兵士に偽装したんだ。


ミューリックは哀れな部隊の連中から必要な情報をすべて聞き出すと、合図を送った。俺たちは全員で襲いかかり、やつらを皆殺しにした。


ミューリックは準備をしていた。俺たちのうち3人が殺した兵士の服を着て、ノランド砦に向かえるように。


3人は紺青の錬金術師が用意した液体を飲むことになった。やついわく「幻覚の酒」という名のエリクサーで、それを呑むことで椅子や箱のような物質に姿を変えることができるらしい。


じっとしている限り、幻覚は有効だとのことだ。俺たちのうち3人が兵士に偽装し、3人が物資に化けて荷車に乗る、というのが計画だった。


そして残りの者は騎乗して近くの森に待機し、襲撃に備える。


俺たちはミューリックに率いられて門に近づく。やつは何らかの作り話をでっちあげ、幻覚がちゃんと機能すると想定し、俺たちの乗った荷車が倉庫に運ばれるようにする。


倉庫の中に入ったら、荷車の中にいる俺たちは夜まで待つ。そして幻覚を解き、荷車の中から重いものをすべて出し、蒼霞の入った樽を可能なかぎり積み込む。


出発の準備ができたら、紺青の錬金術師が用意した調合薬を使う。爆風の調合薬2瓶を脱出口となる後方の壁に投げ、さらに爆風の調合薬1瓶と、腹腐りの調合薬1瓶を扉に向けて投げる。


この上でも俺たちの鼓膜が破壊されずに済むと仮定すると、俺たちの前方にはノランド砦からの脱出口が開け、後方には守衛の注意を引きつつ、かつ近づくのをためらうであろう、おぞましき爆発のあとが残る。


俺たちは全速力で荷車を森に向けて動かし、そこでは仲間が騎乗した状態で待ち受けている。


その間、兵士に偽装した3人の仲間もまた騒ぎのどさくさに紛れ、森に移動して合流する。


全く大した計画だった!そして今ここに記しておこう。この計画は全て予定したとおりに実行され、俺たちは完璧な成功を収めたと。


実行前にこの計画のことを書かなかったのは、もしそれがよからぬ者の手に渡ったら、俺たち全員の破滅を招く可能性があったからだ。


自分がそこまで頭がよくないことは自覚してるが、それでもそんな危険を冒すほどバカじゃあない。


紺青の錬金術師の手引きにより、俺たちは蒼霞という、やつらが言うところのとんでもなく貴重なモノを大量に手に入れた。そいつが実際何なのかは不明だが、ボスは興味津々って感じだ。


その後も俺たちはいつもの襲撃なんかを続けていたが、次第に一風変わった貴族たちが俺たちの中に混じるようになった。みんなとてつもなく裕福で、退屈していて、危険や神秘的なシロモノに惹かれる連中だ。


連中はこの蒼霞とかいう奇妙なシロモノに考えられないような額を支払っている。そして紺青の錬金術師もそのうちいくらかを自分のものにしている。ボスが許可したそうだが、普通だったら考えられないことだ。


紺青の錬金術師が仲間になったことで、俺たちの財政状況は劇的に向上したが、いいことばかりではなかった。


かつての俺たちは危険を伴う襲撃を繰り返して生きていた。いつも空腹で腹もすり切れていたが、それでも仲間たちとの間に楽しい時間もあった。


今の俺たちは想像もできないくらい裕福な貴族の世界と、摩訶不思議な物質の存在を知り、まるで強欲に突き動かされる獣のようになっている。


ボスはいつだって意志の強い人だったが、紺青の錬金術師は俺たちの間にあるある種の腐敗をもたらしたように思う。そしてその腐敗に、俺たちは屈しようとしている。


俺たちはこれまで蒼霞の強奪を3回おこなった。そしてその手法は回を重ねるごとに大胆になっていった。


ボスの存在感は薄くなっていき、紺青の錬金術師の存在感は増す一方だった。


一番最近の強奪はひどいものだった。2人が混生の錬金術師の調合薬によってズタズタに切り裂かれ、もう1人は爆風で体が硬直し、あっさり敵に拘束されてしまった。


以前にも仲間を失ったことはあったが、俺たちは死者を悼み、敬った。だが紺青の錬金術師は死者が出たことをなんら悔やむことなく、どんな感情も表さなかった。


俺たちの行為はもともと英雄的なものではなかったが、今じゃ悪しき人形遣いの奴隷になったような気分だ。


ボスはすっかり内にこもるようになり、やがてあの印が現れた。ボスの顔に、俺には読めないルーンが浮かび上がっていたのだ。。


ボスはそれについて何も説明しないどころか、俺たちと話すことすらしなくなった。


俺たちは金持ちになったが、紺青の錬金術師によってもたらされた奇妙な悪魔の虜と化してしまった。


状況は破滅的だ。これが日記に記す最後の分となるだろう。紺青の錬金術師はその体に理解を超えた力を取り込んだ。歪みに歪んだ恐怖の力を。


地面に亀裂が入る様を見るまでは、聖獄の裂け目なんてのは作り話だと思っていた。その裂け目の中では赤い炎が燃え盛り、謎のグリフが森の土に輝く赤い傷跡を刻んでいった。


そして怪物が現れた。狼の頭と、昆虫のような皮膚、牙の突き出た口を持ち、硫黄のような息を吐く怪物が。


紺青の錬金術師の外見も変化した。背が高くなって身体が細くなった。それに蹄までついていた。


この奇妙な変身を見て、俺は全身が凍り付くような思いだった。俺はもうどうしていいかわからない。もう終わりだ。


親愛なる日記さんよ。俺はお前を俺のテントの下に埋めておく。ここなら、いずれ俺を呑み込むかもしれない聖獄の怪物の眼から離れているしな。神々が俺に慈悲を見せてくださらんことを。



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