【白猫】帝国戦旗Ⅱchapter1 帝国編 Story2
2018/03/16 ~ 04/09
帝国戦旗2 Story01 序章・帝国
帝国戦旗2 Story02 序章・連邦
帝国戦旗2 Story1 帝国編
帝国戦旗2 Story2
帝国戦旗2 Story3 連邦編
帝国戦旗2 Story5 決戦
帝国戦旗2 Story6 アフターストーリー
後日談
目次
story6 埋葬者
<パイドパイパー>拠点
――どうにか片づけたな。
<アイシャは……資料の山に手を伸ばす……>
――さすがにここでニナと連絡を取る勇気はないね……
<施設内では、ルーンの使用そのものが封じられている。
また、魔法を使った通信は、傍受される危険性が高い――>
さて……笛吹き男はこの子たちをどうするつもりだったのか……
――どうする――
<アイシャは、周囲を見渡す――>
生体実験用の機材――研究機関所属の人材……
そういう、ことか――)
お姉ちゃんたち、だーれ?
ああ、私は占い師。そこの彼は、狼だ。
狼さん、こわーい!
彼が噛みつくのは、悪い狩人だけだよ。
いい狼さんなの?
ガァルルルゥ……
見た目は怖いけど、中身はもっと怖いのさ。
かっこいい!
君たち、ジェリービーンズは好きかな?
あまーいの?
いろんな味があるんだ。試してみるかい?
ちょうだいちょうだい!
僕も僕も!
……アイシャ。
なんだい、狼くん。
――任務中だ。
……みんなで食べてくれ。
<アイシャは、ジェリービーンズの瓶を子供たちに渡した……>
はむはむ……あっ、リンゴ味!
おれ、はちみつ味!
エリスにも食べさせてあげたいなー。
サイファーもアッシュも、いつになったら来るのかな?
占いはどうした。
私の占いは、決して外れない。
――知っている。
――私はひとでなしだ。だから今――私は、どうしていいかわからない……
……んー。なんだか、おねむー。
……ぐぅ……ぐぅ……
眠った――?アイシャ、ジェリービーンズに何を入れた?……!
<その男は――忽然と、その場に現れた――>
子供たちには――眠ってもらいました。
お久しぶりです、ジュダ様……
お前が、パイドパイパーの――
秘密情報部・対連邦部局長エグベルト・ヘルマン……!
光栄です……帝国の守護者たる貴殿に、覚えていただいていたとは……
リストはでたらめか――
秘密情報部は……思い通りに踊ってくれましたよ……
お前は疑わしいという理由だけで、多くの人間を粛清した。それだけではない。
帝国の機密保持の名目で、島一つ、まるごと消した。
全ては、帝国のためです……!
お前はやりすきた。だからお前は追放された。
理解されなかったのです。悲しいことに……
ですが、いずれわかるでしょう。私が正しかったことが……
黙れ、裏切り者……!
私はあなたに嫉妬していた。
圧倒的な存在でありながら、あなたは帝国にその身を捧げている。
あなたほどに献身的な存在を、私は知らない――
ぐっ……なんだ……そのルーンは!
<世界の我儘>あなたはその因子を受けついでいるそうですね……
このルーンは、我儘を暴走させ、我欲の強さに応じた力を与えるといいます……
がっ……!!
<ジュダはその場に、倒れ伏した……>
あなたが、思うがままに我儘だったならば――こんなルーンに効果はない。
しかしあなたは、己の我儘を抑え続けている……!
ガァルルゥ!!
――さあ、抑えつけられた我儘の衝動が、溢れかえりますよ!
グゥアアアアア!!
――愚かだな、笛吹き男。帝国の棺に封じられた力は、この世のものじゃない……!
――ソウル圧、推定九七億アニムス。島どころじゃない。海域がまるごと消滅するか……
――ジュダ。君にはまだ――伝えていない言葉がある……だがそれは、別れの言葉ではない。
世界の我儘よ――お前が世界に存在することを――!!
拒絶する!!
こ、これは……なんだ……これはぁ……!?
ガアアアア!!
<ジュダの体は……突如現れた影に呑まれ――>
――消えた――!?
やれやれ……自己……拒絶……無理を……しすぎたか……
<アイシャは――その場に崩れ落ちる――>
夢を見るのは、流儀に反する……だから、可能性に賭けるよ。
待っている……
story7 我がために
<荒地>
がっ……
<影は――平原のただなかで、ジュダを吐き出した――
ルーンの影響より逃れた――影が……俺を運んだのか……
――あの女、俺の影を――いいように使ってくれたな――
<弔い手は……ゆっくりと立ち上がる。>
くっ……
<拳を握るが――力が入らない――>
ううううう……
<いつ以来の屈辱であろう――
仮面の道化に、<我儘>を混ぜられた時以来か――
簒奪者に帝国を奪われたあの時であろうか――
小さなネズミの獣人が、己の骨を投げた時であろうか――>
俺が、我儘、だと――
<否。
これ以上の屈辱が――これ以上の怒りが――
だが、弔い手の怒りが向けられているのは――己であった――
何が――帝国の棺だ――
<ひらひらと、蝶は舞う。そして――狼の耳元でささやく。>
――自分に対して怒っているのね。この世でもっとも危険な獣であるあなたが――
――誰よりも我儘なあなたが――
俺の知るお前は、帝国の影に巣くう毒虫たちの首魁――
<帝国の貴族である元老院。彼らは神獣の血を引く、人外の怪物でもある……
その彼らさえも恐れさせる、<夜会の青い蝶>その存在もまた伝説――>
死を司るあなたも、美しかったけど、醜い我儘にまみれたあなたも、同じくらい素敵……
そんなあなたが、我儘を抑えながら戦うところも素敵……
全てお前の思惑通りか……
そんなのつまらないわ。パーティーを計画するのも。プレゼントを用意するのも――
あなたたちの仕事でしょ?ともあれ、パーティーは御開き。作戦は終了ね……
俺は、笛吹き男に棺を送る。
そういうと思ってた――でも、どうするの……?
<ジュダは息を荒げた……立っているのがやっとの状況。>
あの子の作った拒絶の鎖が、あなたを縛っている……
私ならその鎖を――解いてあげられる。
――この程度の鎖など――
鎖をひきずっていくのね――ふふふ……
――嫉妬するわ。あの子に――
――ただの我儘だ――この俺の――
<狼は、歩き出す――その歩みは、這うように遅い。
青い蝶は、その背中を見つめる。>
遥かな昔に、夜があった――夜は、眠りと夢と――死を産んだ。
あなたは忘れてしまった……夜の世界を……
…………
……
<ヴェーザーベルク城、研究区画――>
<アイシャはパイトバイパーに捕らえられていた――>
こいつは概念使いか……
帝国にそんな技術が……?
獣人どもは技術を軽視している。おそらく買ったんだろう。
帝国にも<本店>の手が回ってるらしいですね……
――あなた方研究者にとっては、彼女は貴重なサンプルということでしょうか……
好きにしていいのは死体だけです。生命活動を停止させなさい。
承知しております、サー……
――では、仕事をすませるか――
story8 ゆるやかに効く毒
(――今のうちに生体実験を行う。全く……もののわからない人間はこれだから困る)
……概念移植部に……術式刻印があります。
――いや、違う――これは古代文字だ。
……解読します。『親愛なる我が同胞。未知に挑む愚か者たちよ……』
『この花は美しいが毒がある。手折るならば注意したまえ』
警告文……!?まさか、こいつは――
主任、――<ガルボ>からの連絡です。
なんだ、こんな時に……
概念兵を増やしたいと――
…………
……
<影が運んだのは、島の辺境……陰謀が渦巻く城とは、遠く離れていた――>
<狼は進む――>
くっ……
<その脚こそが、残された最後の武器――>
ブラックレター作戦……特務機関の存在のリーグ……そしてあの子供たち……
<獲物に牙を突き立てるまで、狼は止まらない……>
奴らは息を潜めていた。獲物に狙いを定めて――何を狙っている……!
「――なあジュダ。君は棺を運ぶ弔い手だ。もし私が死んだら――
どんな棺を送ってくれるんだい?」
――奴らに棺を送ってからだ。
<弔い手の影が――刹那、じろりと蠢いた……
(だが、今の俺に何が出来る……!)
何が――
<こんな森ではなかったか――
ジュダが、皇帝と呼ばれる男と出会ったのは……>
あいつは、骨を投げた――骨を投げて、俺を誘った……
自白剤を投与して、10分――
……ですが、供述の内容に変化はありませんね……
帝国軍秘密情報部所属、マデリーン・ギラム……
数年前に能力強化手術を受けたといっているな。
その際に何らかの概念を?移植されていたと……
帝国にそんな技術が……
もう一人の男、あいつも概念使いなんですか?
そんなところだろう。スポンサーは顔見知りらしいが、我々には関係ない。
ううっ……私は……何も……知らない……
苦痛のルーンを使ってみろ。
ぐああっ!!
<助手は、計器を見た……>
……精神は屈服状態……恐怖と混乱で発狂寸前です。
知らない……私は……ゼラニウムのことは……
ゼラニウム?何のことだ?
知らない……私は何も……知らない……!
<――その時、助手が隠し持った伝声のルーンが、音声を伝えた――>
”……まだ処分してないのですか?”
すみません。隙を見て始末しますんで……
”あの女は危険です。”
だから<概念兵>にするってことじゃないんですか?
”まったく……あの人の気まぐれにも困ったものですね……”
ところで……この女、妙なことをいってます。
”詳しく。”
ゼラニウムのことは知らない。だそうです……
”この件を、ガルボは知ってますか?”
――誰にも伝えてません。
”ゼラニウムの件は、そちらで握りつぶしなさい。”
了解――
ぐぁああっ……!!
……あの子供たちを……助けないと……
――ガルボに伝えてくれ。帝国のエージェントが――
ゼラニウムの花のことは、知らない――そう言っている。意味はわからん。
ああ、よろしく……
<六つの花に、六つの花びら、反りかえる六つの花糸。比類なき異形の美。
不思議なほどに鮮やかな赤は、燃える炎か、それとも鮮血か。
――花は、毒を秘めている。ゆるやかに効く毒を……>
story9 地に伏して
ヴェルガ王国、<黒煙の島>大使館。
どう思います、大佐……どうして帝国が我々に?
<ブランド大佐は、秘密裏に送られた一通の手紙に目を通していた……
帝国の諜報員が……この俺と接触して、何を聞くつもりだ?
パイトバイパーに連絡を?
それはそうだろう……今は奴らに恩を売りたい。我が国にはもっと武器がいる。
誰かは知らんが……冥福を祈らせてもらうよ……
…………
……
<……路地裏を通りがかった老人は、通りに面した小さなほこらに目をやった。
ほこらには小さな女神の像……そして一冊の本が置かれている。老人は本を手に取った。>
……目標発見。
<本には、黒煙の島が帝国の諜報員に向けたメッセージが書かれている――
諜報員は、そのように思い込んでるであろう。だが全ては罠であった。>
”始末してください。”
――了解。
<>
<みすぼらしい老人は、その場に倒れた――
構成員は、目標の絶命を確認する――>
何だ……?
<倒れた老人は、何かを持っていた。>
銃弾……
<さきほど自分が発射した、銃弾である――
――諜報員は撃たれていない。弾が当たる前に受け止め、死んだふりを――>
がっ……!?
<老人の一撃で、構成員は意識を失う……>
<ジュダは構成員の体をまさぐる……>
フン……
<ジュダが手にしたのは、伝声のルーンであった。>
終わった。
”潜伏先を割り出してください。”
情報をもっていた。
”……情報……?”
組織内に裏切り者がいる。
……ゼラニウムですか……
(――ゼラニウム?)
――会って話す。
……議事堂で合流しましょう。直接私の元に来なさい。
<通信は切れた――>
議事堂……連邦議会議事堂のことか――
<そこでは今、連邦の行く末を決める会議が催されているはずだった――>
奴らの狙いは、連邦総議会か――
まだ――やることが残っている――
<ジュダは、歩を速めた。>
story10 手紙
<アイシャの身柄は、研究所から監房に移されていた……>
――毒は回ったか――だが、もう一押し……
<アイシャは、トイレットペーパーに己の血を使って、文字を書く。>
奴らは優秀で賢い……こういうことをすれば、かならず気づいてくれる。
<アイシャは手紙を、丸めて、食べ残しのスープに入ったポテトの中に押し込む。>
(全身に薬物の影響……パフォーマンスは七割減。脱出は厳しいか……
さあ、どうする?)
ん……この部屋は……
<見れば……壁には子供の書いたものらしいラクガキが描いてある。>
……子供たちを捕らえていた場所だったか……
だとしたら――
<アイシャは室内を見回す。そして――見つけた。
壁にあいた穴に押し込まれた、紙片……
トイレットペーパーに、血で書かれた文字……
…………これは。
このてがみを、みつけてくれて ありがとう。
あたしはもう、わたしのなまえが、おもいだせません。
なんねんも、なんねんも……ずっとここにいるような きがしています。
わたしたちは、えらばれたせんしになりました。それはとてもすてきなこと。
イヤ!ちがう!あたしはそんなのになりたくない!
……ごめんなさい。あなたに、おねがいがあります。
みんなを、たすけて。
あたしは、もう、だめだから。はいきしょぶん だから。
廃棄処分……
だから、おねがいします。みんなを、さいふぁーのところに。
<手紙はそこで途切れた――>
そういうことか――つながったよ、全て――
そして私の腹も決まった。今回ばかりは……少し私情を挟ませてもらう。
「大丈夫、あたしが今すぐ助けてあげるー――」
この声は――!
…………
……
ヴェルガ王国、首都――
「嵐が来る……この国に……
この国がどれだけ乱れるか。どれだけ命が奪われるか……
帝国のたどるべき道も、それによって決まる――
我らは均衡の守護者――なーんてね……」
…………
……
<埋葬者は、捕らえた帝国の諜報員がポテトの中に隠した手紙に目を通す――
文章は支離滅裂であったが――ここでもゼラニウムの花について触れられていた。
――ゼラニウムの花。
あれは、ボリスが適当に決めた符丁だったはず――
それらしい合言葉で、意味などないはずでは――
<埋葬者がボリスに与えたのは、リストと……帝国側が計画するとある計画について。
ボリスにはそれが、帝国内部でのクーデターに関する情報だと思い込ませてあった。>
意味があるとしたら、クーデターに関する情報が、ゼラニウムのはず……
だが、別の符丁だとしたら――
<ボリスが最初から――帝国に通じていたら――?埋葬者は疑いを抱いた。>
いや……情報を送ろうとしたのは、<ガルボ>へだ……
こちらの弱みを握られた可能性がありますね――
<例えば――帝国内に忍ばせた、本当の裏切り者のリストが――>
――手間をかけさせてくれる!
…………
……
<アイシャは……再び拘束されていた……>
本来ならば、09に匹敵する幹部級の能力者ですが……
<絆>を設定する時間がありません。作戦への投入は控えるべきかと――
<研究員は、伝声のルーンを手にしている――>
――わかりました。戦闘を行うだけの<兵器>ならば調整は可能です――
この女は幼いころに、兄弟を戦争で失ってます。調整を行えば……
ううっ……ここは……?
『子供たちを守りたい』という願望を利用して、動機づけができるかと思われます。
お前たち、あの子たちに……何を……
すぐにお前も後を追う。
<研究員は、アイシャの首筋に、注射を打った――
アイシャは、意識を失う――
いいんですか?この投与量だと、数時間は暴れられますが――
その後ショック死する。死んだ方が都合がいいだろ?
……双方の顔が立つってわけですね……
…………
……
……うっ……?お、俺は――
<構成員が目を覚ましたのは、ヴェルガ王国の街角……>
――ここにいたか。
<見れば……王国の衛兵である。>
――何だ、お前たち――
ゼラニウムの件を知られるのは、都合が悪いってさ……
何だ……ゼラニウムって……
<>
…………
……
ぐはっ……!
<黒煙の島が、取引に使っていた工場にて――>
や、やめろぉ……!
あんた、うるさいんだよ。
<>
それじゃあ、ずらかるぞ……
「――ゼラニウムの花――意味を知りたくないか?」
――殺せ!
<狼は――凄まじい笑みを浮かべる――>
story11 餓狼
<ジュダは、生き残りの男の、首を締め上げる……>
お前……何なんだよ……!!
弔い手だ――
は――?
お前に送る棺はない――このまま葬ってやる
<男の体はそのまま地面に叩きつけられた――
へぶっ!?
お前たちは帝国の敵だ……一人たりとも、逃がしはしない。
ぐっ……
<ジュダは、片膝をついて耐えた――>
送ってやる……命が行きつく果てにな……
…………
……
――どうにもいかんな――こうまで船頭が多くては、まとまるものも……
……聖王家どもめ……!我らをないがしろにしおって!
とはいえ、会議が踊ってくれるならそれでもやりようはある。
――こちら、異常なし――
……ずいぶんと長引くな……まったくお偉いさん方は……
えっ……?
<警護兵が――己の心臓が止まる数秒前に見たのは――
人の姿をした怪物――
お、おい……なんなんだこりゃあ!?
<始まるのは絶望――>
ふふふ……こっちよ……死にたくなければ、ついて来なさい……
ひいっ!?
こ、これはどういうことだ!くそっ聖王家!抗議してやる!
連邦に恩を売るなんて、滅多にない機会だし……利用させてもらうわ。
さあ、牙をむきなさい。死よ、我が同胞よ――
今のあなたは完璧……語られざる神話の続きを高らかに語りなさい――
…………
……
音もなく現れた死神たちは――
ヴェルガ王国の首都で、死をまヴェルガ王国の首都で、死をまさ散らす――
その速さ、その火力――人外の領域。
ぐああっ!!
ひいいっ!?
<いや――>
た、たすけ……
<人外以上――>
ガァルルルル……
”ジュダさん、気をつけてください!この兵士たちは普通じゃありません!”
――任務は終わったはずだ。
”お二人が帰るまで、私の任務は終わりません!
二人といったか――
ジュダさん……あっ!来ました!
そうだな――
私が魔法でサポートを……って、あれ?ジュダさん!?
<ジュダは、ためらいなく――人外の兵たちの前に進む。>
――弔ってやろう。この俺が――
白猫 mark