【黒ウィズ】Birth of New Order 2 Story
2018/09/28
プロローグ
地表は、血のような赤い砂に覆われている。
風が吹くたびに砂が舞い飛び、視界を染めた。
「……はっ!」
口を閉じて呼吸を止めながら、幅広の大剣を片手で振り抜く。
インフェルナ軍の剣士クロッシュ・トラウ。
かつては聖域で暮らしていた。そして、みずからの意思でインフェルナに堕ちた。それから、すでに5年が経っている。
その間、剣にいささかの錆つきもない。
ないはずだと毎日、朝と晩。こうして大剣を素振りして、腕を確かめている。
「やっぱり、ここだったわね。」
イスカは、インフェルナ軍を率いる立場になっていた。
悪の熔印を押され、聖域に住むことの出来ない民の希望だった。
「心決めたのか。」
インフェルナの民は、2万人を数える。そのうち、兵として戦えるのは3000人程度。
兵たちは、イスカのー声で動く。しかし、戦争はイスカが忌み嫌うものだった。
「軍を進めることにしました。きっと戦争になります。」
それでもイスカは、軍を率いて戦争を起こす決意をした。
インフェルナ側から戦争を仕掛けざるを得ない理由があった。
「迷いは棄てたようだな。」
土地は、貧弱で雨にも恵まれない。だから、作物はほとんど育たない。
その上、大気が汚れている。森が、ざわめきはじめたのと呼応して、瘴気がインフェルナを覆うようになった。
瘴気は、審判獣の死骸から生じていると言われているが、はっきりしたことはわからない。
「生きるためには、汚染されていない土地に行くしかありません。」
聖域には、食料がある。澄み切った大気で覆われている。
豊かな土地も清浄な空気も、すべて聖域が独占していた。
「まずクロッシュ兄さんに伝えたかった。みんなには、これから伝えます。」
2万を超える民は、イスカを信じてついてくる。
彼らに温かい食べ物と、奇麗な空気を与えたかった。
だが、サンクチュアは聖域を守るために軍を出してくるだろう。
確実に戦争になる。
「泣き言は言いません。義父さんの代わりに、みんなを率いると決めたから。」
「そんな顔で、みんなの所に行くのか?
一度だけ泣け。ここで。」
肩を抱かれた。イスカは安堵感に満たされた。
途端に、押し殺していた感情が、堰を切って溢れ出た。
「大勢死にます。戦争とはそういうものです。」
「お前だけに、苦しい思いはさせない。」
クロッシュの肩に顔を埋めて、声をあげて泣いた。
私情を持ち出していいのは、この一度だけ。
これからはインフェルナのために先頭に立ち、サンクチュア軍と戦う。
人間と審判獣、両方の血を引くイスカは、過酷な宿命を背負わされていた。
あらすじ
神にも似た存在、審判獣によって全ての善悪が決定される世界。
大地は、善とみなされた人の住む聖域〈サンクチュア〉と、聖域を追い出された者たちが暮らす〈インフェルナ〉に分かれ、人々は互いに憎しみあっていた。
大審判獣エンテレケイア暴走の後、〈インフェルナ〉の瘴気(しょうき)に汚染された地域から民を守るため、〈インフェルナ〉の戦士を率いる少女・イスカは戦争を始める決意を固める――。