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イリア・思い出

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思い出1

イリア

……騎士のイリア・ノクターンだ。

厄介になる。


闇色の鎧をまとった
女性騎士がにらみつけてくる。
その眼差しは、貫くように鋭い。


キャトラ

ずいぶん無愛想な騎士さまねぇ~。

ちょっとは明るく笑ってみたら~?


イリア

興味がない……敵と戦い、打ち破る

ことだけが、私の存在理由だ……


アイリス

……? 騎士って誰かを守るために

戦う人のことじゃないんですか?


イリア

私は主君を持たぬ騎士だ。

守るものなどない。

ただ破壊するのみ……


イリア

わかったら、さっさと行け。

私の倒すべき敵を探してこい。


イリア

何者であろうと、

この槍で葬ってくれる……


思い出2


イリア

……何をしにきた。

今は戦闘中ではあるまい。


キャトラ

あんたねぇ~……戦い以外で

話しかけちゃいけないっていうの?


イリア

無論だ。

話すべきことなど何もない。


キャトラ

あーもうホント無愛想なんだから!

人付き合い悪すぎぃ!


イリア

貴様は人ではなかろう。


キャトラ

そういうことじゃないのぉー!


イリア

私も同じだ。


キャトラ

へ?


イリア

私を敵と思うな。

敵を倒す槍と思え。

――これ以上、私に構うな。


キャトラ

だぁーっ、もぉっ。

このガンコ者ぉーっ!


思い出3


アイリス

……!

イリアさん、ケガしてます!


キャトラ

うわ、ホントじゃない!

言ってくれたら手当てするのに!


イリア

自分の傷だ……自分で処置する。


キャトラ

って、ぜんぜん

手当てできてないじゃん!

意外と不器用なのねぇ……


イリア

う、うるさい!


アイリス

腕……出してください。

手当てしますから。


そっと手を伸ばすアイリス。
だがイリアは、ハッとなって、
その手を鋭く振り払った。


アイリス

きゃっ――


キャトラ

ちょっと!

そんなに乱暴にしなくてもさぁ!


イリア

う――うるさい!

私のことは放っておけ……!


叫び、背を向けるイリア。
その横顔には、
痛切な色がにじんでいた……


思い出4


イリア

…………


アイリス

イリアさん、またケガを……


キャトラ

無鉄砲に突っ込むからよ~。

もっと味方を信頼したら?


イリア

……信頼は、危険だ。


イリア

裏切られたら……それはたやすく、

心をむしばむ毒に変わる……


アイリス

そういうこと……あったんですか?


イリア

昔の……話だ。

貴様らには、関係ない……


イリア

…………


アイリス

腕……出してください。

包帯を巻きますから。


イリア

…………


アイリスが、静かに歩み寄る。


イリアは迷いの表情を見せつつも、
無言でその腕をゆだねた……


思い出5


キャトラ

アイリスってば、

イリアの包帯を巻くのも

慣れたよねぇ~。


イリア

…………


イリア

昔も……こんなことがあった。


イリア

戦いから戻ると、主君が

包帯を巻いてくれた、

穏やかに、微笑みながら……


イリア

地獄のように過酷な戦場だった。

それでも、主との絆があれば

耐えられると思った……


イリア

だが……絆は毒に変わった。


イリア

戦争を終わらせるため……、

主君は敵と取引し、

私を売った……


アイリス

どうして、そんな……


イリア

私が、命を奪いすぎたからだ。

敵は私をひどく恐れ、憎んでいた。

和睦を受け入れる条件として、

私の身柄を要求するほどにな。


イリア

罠にかけられ、敵に囚われた私は、

隙をついて川に身を投げ、死んだと

思わせ、どうにか逃げ延びた……


イリア

だが、もはや私に居場所はなかった。

戻る場所などなかったのだ……


イリア

戦争は終わった。

みなが幸せになった。

――売られた私を除いては。


アイリス

イリアさん――


イリア

おまえたちも……

そうじゃないのか……?


イリア

優しさを示し、情けをかけておいて

……それでもいつか、

裏切るんじゃないのか!?


イリア

私は誰も信じない!

ただ戦い、ただ倒す!

この闇色の鎧は、

我が身を焦がす憎悪の証だ!


イリア

だから……もう、私に構うな……!

これ以上……

私に優しくするんじゃないッ!!


思い出6


イリア

なんだ……このやわらかい光は……


イリア

どうして、こんな……

まるで、私を包み込むみたいに……


茫然と震えるイリア――その腕に、
アイリスが、そっと触れる。


アイリス

ルーンは、気持ちを示すから、

気持ちに嘘はつけないから……


イリア

これが……おまえたちの気持ちだと

いうのか?


イリア

こんな私に……こんな……

これが……


イリア

…………


イリア

もう一度だけだ……


イリア

もう一度だけ……信じてみよう。


イリア

おまえたちを、私自信を――


イリア

守るために戦う……

そんな、あるべき騎士として――


そう言って、イリアは顔を上げた。


貫くようなまなざしに、
気高い決意の光を宿して。

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