ファム・思い出
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思い出1
キャトラ
あら? なにかいい香りがするわ。
アイリス
とってもいい匂い……
ふふふ、この島は、
不思議な香りがしますね。
アイリス
こんにちは、旅の方ですか?
キャトラ
くんくん……アンタって、
ずいぶんいい匂いがするのね!
ふふふ……
きっと私が持ち歩いている
香料の匂いですね。
キャトラ
香料を?
私は調香師のファムです。
いろんな香りを探して、
旅をしているんですよ。
アイリス
すてきなお仕事ですね!
キャトラ
香りを?
どうやって集めるの?
いい香りだなと思ったものを、
メモしたりするの。
白い子猫ちゃんは、
石鹸とお日様の匂い、とか。
キャトラ
くんくん。
そんな香りする……?
アイリス
……うーんと、カニカマの匂い?
集めた香りのイメージから、
新しい香りを作っていくんですよ。
アイリス
イメージが大事なんですね。
そうなんだよ、この島にいれば、
すてきな香りが作れそうです。
キャトラ
きっとカニカマの匂いね。
…………
いいかもしれませんね!
キャトラ
いいのっ!?
思い出2
主人公さん、
ありがとうございます。
うわあ、立派な葉っぱですね。
これなら成分が抽出できそう。
早速準備しなきゃ。
キャトラ
なにない? ……ずいぶんおっきな
葉っぱだけど……?
これは<森の女王>といわれている
植物の葉っぱです。ご存知ですか?
キャトラ
森の……女王!?
いったい何をしてるの?
アイリス
みんなでファムさんを
手伝ってるんだよ。
せっかく飛行島にお邪魔したので、
この島をイメージした香水を作ってみたくて。
キャトラ
はあ……?
この葉っぱ、刺激的な匂いですね。
こういった香りもアクセントに
使えば、よりよい香りになるんですよ。
アイリス
身近な植物にも、いろんな香りが
隠れてるのね……!
キャトラ
……あれって、そもそも植物なの?
どんな香料ができるか、
楽しみです。
キャトラ
香料からつくるなんて、
本格的ねえ。
……材料はあれだけど。
この島にあった香水には、
島のちかくで集めた香料を
使うのが、一番ですから。
アイリス
ファムさん、
次は何を集めればいいですか?
ありがとうございます!
でしたら次は、こちらの島の洞窟に
伺いましょう。
キャトラ
洞窟? そんなところに香料が?
はい。この洞窟にはコケがたくさん
生えてるそうなんです。いい匂いの
コケがあるかもしれませんから。
キャトラ
コケねえ……
この調子でいくつ集めるつもり?
200種類ほど
サンプルが集まれば、
きっといい香料ができますよ。
キャトラ
200種類!?
そんなに!?
ふふふ、本当はもっと
集めたいですけど、種類よりも
イメージが大事ですから。
キャトラ
たいへんな仕事なのねえ……
思い出3
急場ごしらえの工房には、
フラスコや蒸留器が
並べられている。
アイリス
うわあ、本格的ですね!
はい、星たぬきさんに
頑張っていただいたんです。
お礼に、すてきな香りを
お届けしますね。
アイリス
楽しみです!
キャトラ
まるで実験室ねー。
今は何をしてるの?
いま、サンプルから
香料をつくって、
いろいろ試しているところです。
キャトラ
ちっちゃな瓶がいっぱいね?
これ、みんな香水のもと?
そうです。
この香りを、調合して……
キャトラ
どんな匂いなのかしら?
くんくん。
あっ!
キャトラさん、ダメですっ!
キャトラ
フギャッ!?
なっ、なにこれ、すごい匂い!
鼻がおかしくなるかと思った……!
これは香水の原液で、香りが
強すぎるから……薄めると、
ほら。良い香りでしょ?
キャトラ
……ああ、本当だ~!
うう、でもさっきのでまだ頭がクラクラしてるわ。
アイリス
大丈夫、キャトラ?
キャトラ
なんだかアイリスが
二人に見えてきたわ!
ごめんなさい、先にいっておけば
よかったですね。
キャトラ
だ、大丈夫よ、気にしないで……
……?……?
何か……何か、思い出しそう!?
人間や動物は、見たものよりも
嗅いだものをよく覚えてるの。
もしかして……
アイリス
いまの匂いで、キャトラの記憶の扉が……!
キャトラ
すごく重要なこと思い出したわ!
キャトラさん、何を
思い出したんですか!?
キャトラ
カニカマを買ってきてって
いうの、忘れてたわ!
アイリス
……えーと、今度、
ヘレナさんに頼んでおこうね?
思い出4
ファムは、いくつかの小瓶を
もってきた。
それでは、最初の試作品から、
試してくださいね。
アイリス
くんくん……
キャトラ
…………これは、葉っぱの匂い?
アイリス
それに……お日様の
匂いかな?
日差しに照らされる、
草原のイメージです。
キャトラ
草原ねえ……たしかに、
日向ぼっこしてる感じ……
アイリス
本当、心が落ち着く感じね……
次はこれですね……
これは、飛行島に咲くお花の
イメージなんです。
キャトラ
くんくん……たしかに、
ちょっと懐かしい感じ!
アイリス
私たちの周りには、
こんな香りがあったのね……
キャトラ
さっきの匂いと
全然ちがう感じなのね?
香りを組み合わせれば、
いろんな香りになるんですよ。
キャトラ
カニカマの匂いもできる?
できると思います。
……キャトラさんって
食いしん坊さんなんですね?
キャトラ
いい匂いったらカニカマでしょ?
では、つぎの試作品を
お願いします。
…………
……
アイリス
すごいですね、どれもすごく
いい香りです。
ありがとうございます。
では……どれが一番、
飛行島らしかったでしょうか。
キャトラ
どれかといわれても……ねえ。
アイリス
みんな素敵な香りでしかたら……
…………そうですか。
……きっと、なにか
足りないんですね。
アイリス
ファムさん……
もっと頑張ってみますね。
さっそく香料を探しに
行ってきます!
キャトラ
もうそろそろ暗くなるわ。
明日にしたら?
暗く……
キャトラ
どうしたの、ファム?
なんでも、ありません……
思い出5
アイリス
流れ星を見たら、
お願い事をするんです。
願いがかなうように。
そうなんですね。
私もやってみたいですけど、
やっぱり怖くて……
キャトラ
そういえばアンタ、毎日暗くなる
前にベッドにはいっちゃうもんね。
はい……夜になると、不安で。
空一面が、闇に覆われて……
このまま、光が戻って
こないんじゃないかって……
キャトラ
そんなに夜が怖いなんて……
何かあったの?
私の故郷には、夜がないんです。
きっと、そのせいですね。
キャトラ
ええっ? 夜がないの?
私の故郷は、
常に光があふれていて、
一年中草花が茂っているんです。
キャトラ
そんなところがあるのねー。
だから私は、光に覆われた
世界しか知らなくて……
アイリス
ファムさん、よかったら……今夜、
みんなで夜を見てみませんか?
よ、夜を……!?
…………
……
キャトラ
日が暮れてきたわねー。
アイリス
ファムさん、目を開けて。
暮れなずむ街に、
明かりがともり始める。
……これが、夜……?
キャトラ
そうよー。
これが飛行島の夜。
……見慣れたと思ってたけど、
改めて見ると綺麗ねー。
暖炉の匂い……それから、
お食事の匂い……
それに……この匂いは……!
ファムは、草むらを見つめた。
そこには、小さな花が咲いている。
キャトラ
こんなところにお花が?
……このお花は、
昼間にはつぼみだったのに……
なんて、優しい香りなの……
アイリス
ファムさん……
夜に咲くお花があるなんて……
夜には、夜の香りが
あるんですね……!
キャトラ
私たちも初めて知ったわ、
そんなこと。
……夜の香り……
なにか–--–--もう少しで、
なにかが、わかりそう……!
思い出6
……この光は……!
これが、ルーンの光……?
あたたかい光……
まるで、心の中まで
照らしてくれるみたいです……
……そうだったんですね。
夜があるから、咲ける花もある……
ファムは、
自分の部屋に走っていった。
キャトラ
どうしたの?
……みなさん、この香りを
試していただけませんか。
ファムの手には、香水の瓶がある。
アイリス
ファムさん……
足りないものが、わかったんです。
キャトラ
……なにか見つけたのね、ファム。
アイリス
…………この匂い……
キャトラ
……!!
アイリス
……すがすがしくて、
透き通った香り……
キャトラ
ちょっと甘酸っぱい匂い……?
なんだか元気になる香りね!
アイリスさん、この香水……
つけてみてくれませんか?
アイリス
はい!
……………………
…………
……
---香水は、時間がたつと、香りが
変わるんです。
キャトラ
たしかに、最初は元気な感じ
だったのに、しばらしくしたら、
さわやかな感じになったかも。
アイリス
フレッシュな感じね。
まるで草原にいるみたい。
……今は……どうでしょうか?
キャトラ
……!!
香りがかわって、
優しい感じになってる!
アイリス
木と土の匂いに……少しだけ甘い
匂い。ファムさん、私、この
香り……すごく、好きです!
キャトラ
納得の出来みたいね!
……この島の一日を、
表現してみたんです。
アイリス
ファムさん……私、記憶が
ないんです。だから、私の
帰るところはこの飛行島で……
アイリスさん……
アイリス
この香りから、
飛行島が私の居場所なんだって、
あらためて思えたんです。
アイリス
ありがとう、ファムさん。
お礼をいいたいのは、私です。
皆さんが夜のことを
教えてくれなければ、
たどり着けなかった……
アイリス
ファムさん、これからも
よろしくお願いします。
こちらこそ、
よろしくお願いします!