Gamerch
CHUNITHM攻略wiki

モーガン・フェール

最終更新日時 :
1人が閲覧中
作成者: ゲストユーザー
最終更新者: ゲストユーザー

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN )】【マップ一覧( NEW / SUN )】


Illustrator:姉崎ダイナミック


名前モーガン・フェール
年齢外見年齢30代(実年齢不詳)
職業老舗ライブハウスオーナー
時代現代

これまでに数々のミュージシャンを指導してきた老舗ライブハウスのオーナー。

しかし最近、彼の周りではバンドメンバーの失踪という不穏な動きがあるみたいで……?

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1ジャッジメント×5
5×1
10×5
15×1
25限界突破の証×1
50真・限界突破の証×1
100絆・限界突破の証×1

  • ジャッジメント【NEW】 [JUDGE]
  • 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。オーバージャッジ【NEW】と比べて、上昇率-20%の代わりにMISS許容+10回となっている。
  • PARADISE LOSTまでのジャッジメントと同じ。
  • 初期値からゲージ7本が可能。
  • NEWで追加されるトラックスキップ機能や判定タイミング音機能で他のスキルと似たような条件にすることが可能。これらを組み合わせることでPARADISE LOSTまでのスキルと似たようなゲージ上昇率、判定タイミング音、中断(強制終了)にすることができる。
  • 判定タイミング音をATTACK以下に設定:パニッシュメント
  • 判定タイミング音をJUSTICE以下に設定:ヴァーテックス・レイ
  • トラックスキップをSSに設定:ボーダージャッジ・SS(達成不能で楽曲が中断されるため注意)
  • NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したDANGER系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大49個(GRADE50))。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
  • スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
  • CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「ジャッジメント」から変更された。
効果
ゲージ上昇UP (???.??%)
MISS判定20回で強制終了
GRADE上昇率
▼ゲージ7本可能(190%)
1200.00%
2200.30%
35210.20%
50214.70%
▲PARADISE LOST引継ぎ上限
▼ゲージ8本可能(220%)
68220.10%
102230.10%
152240.10%
200~249.70%
推測データ
n
(1~100)
199.70%
+(n x 0.30%)
シード+10.30%
シード+51.50%
n
(101~200)
209.70%
+(n x 0.20%)
シード+1+0.20%
シード+5+1.00%
プレイ環境と最大GRADEの関係
開始時期最大GRADE上昇率
NEW+145238.70% (8本)
NEW253249.70% (8本)
~PARADISE×302
2022/9/29時点
筐体内で入手できる所有キャラ
  • 登場時に入手期間が指定されていないマップで入手できるキャラ。
CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
バージョンマップエリア
(マス数)
累計*1
(短縮)
キャラクター
NEWep.Ⅰ
sideB
4
(95マス)
190マス
(-40マス)
オネスト
・クンツァイト
NEW+ep.Ⅴ1
(205マス)
205マス
(-)
モーガン
・フェール
2
(295マス)
480マス
(-20マス)
EMANON
ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
バージョンマップキャラクター
NEW+maimaiでらっくすらん
期間限定で入手できる所有キャラ
  • カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。

▲ ページトップ

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
~50
スキル
~100
スキル

▲ ページトップ

STORY

EPISODE1 神聖なる吹き溜り「勘違いしちゃダメよォ? あくまでここはロクデナシの集まる場所。間違えると痛い目見るわよ」

 「だから俺はあの女にビシッと言ってやったわけよ」

 「ふーん。なんてだよ?」

 「『俺はいつか天下取る男だ。そん時泣きついてきてもしらねーからな』ってよ」


 とある老舗ライブハウス。

 ステージのあるライブフロアと、扉一枚隔てて隣接しているバーフロア。

 扉といっても防音効果が高いわけでもなく、ライブフロアからは常に生演奏の音が漏れてきている。

 客はバーで酒を楽しみつつ、好みの音が聞こえてきたらライブフロアへと自由に行き来する。

 この辺りでは珍しい、古き良きスタイルのライブハウスだ。

 そんな中、バーフロアで息巻く若いミュージシャン達の前にひとり。

 カウンターの中でドラァグクイーンを思わせるかのような派手なメイクとファッションで着飾った“男性”が、客の会話に呆れ顔を浮かべながらグラスを磨いている。

 彼の名はモーガン・フェール。

 バーフロアのマスターであり、このライブハウスのオーナー。

 つまり彼は、この小さな“世界”における神であり、秩序であるのだ。


 「ぎゃははは。天下、天下ってよぉ、お前いっつも口ばっかじゃねーか」

 「なっ……!? ひ、ひでーこと言うなよ! なあ、今の聞いた? ひどすぎると思わない!?」


 ほどよくお酒の入った若者が、カウンターに身を預けながらモーガンに泣きついた。

 モーガンは過剰なまでに目力たっぷりのギラギラしたアイメイクを施した目を片方だけ吊り上げると、容赦無くぶった切る。


 「ホントのことでしょォ? アンタ、あの子にいくら借りてるのよォ。それでよくもまあそんな偉そうなこと言えたわね」

 「あっ、い、いやー、それとこれとは別っていうか……お、音楽で天下取る人間は金なんて気にしないんだよ!」

 「ったく……この業界は大体クズばっかだけどねェ、女泣かすタイプのクズは成功しないよ!」

 「ええっ!? そんなぁーーー!!」


 モーガンの言葉にショックを受ける若者。彼が本気で落ち込むのには理由がある。

 モーガンはマスター兼オーナーであるが、腕利きのブッキングマネージャーでもあるからだ。

 これまでに彼が発掘してきた若手ミュージシャンは数知れず。

 絶大な人気を誇るトップミュージシャンのほとんどは、大なり小なりモーガンの世話になっている。

 そんな実績を持つモーガンに、たとえ冗談でも『成功しない』などと言われては、笑って流すことはできないだろう。


 「悔しかったらね、本当に実力で見返してみなさいよ」

 「そうだそうだ。お前のバンド、動員はちょっとずつ伸びてるんだしさ。そろそろ本気で目指してみろよ。アレ」


 若手ミュージシャンの片割れが、カウンターの横に貼ってあるポスターを指さした。

 そこには燃え盛る炎をイメージした背景の中に、シンプルに要件だけが書き添えられている。

 『K.O.B(KING・OF・BAND)出場バンド選抜フェス開催! 参加バンド募集!』と。


 「K.O.Bか……そうだな、いっちょ挑戦してみるのもアリかもしれねぇな。俺が天下を取るためにもよ」

 「い~んじゃな~い? 一回めちゃくちゃに打ちのめされてみるのもイイ経験よォ」

 「だから落とさないでよーー!!」

 「ぎゃはははは!!」


 モーガンは肩をすくめながら、さりげなくポスターに目をやる。

 K.O.B――世界中のミュージシャンが一堂に会し研ぎ澄まされたその音楽を武器に戦う音の祭典。

 その頂点を極めることはもとより、出場することだけでもそこらのバンドキッズにとっては羨望の的だ。

 だが、ポスターを見るモーガンの視線はその内容ではなく、最下段に書かれたひとつの名前へ注がれていた。


 (主催・ギーゼグール……か。彼、なーんか胡散臭いのよねェ……)


 目を細め、世紀の祭典の主催であるピアニスト兼プロデューサーに警戒心を持つモーガン。

 そこへ若手ミュージシャンが懲りもせず尋ねてくる。


 「ねえ。マスターはK.O.Bにバンド紹介とかしてるんでしょ? なんかアドバイスちょうだいよ」

 「……あのね、何を考えてマスターって呼んだの? このアタシがオトコに見えるってワケ!?」

 「えっ……そりゃさすがに……じゃなくて! えーっと、じゃあ……ママ?」

 「アンタの母親になった覚えもないわよ!!」


 モーガンの怒りの咆哮がバーフロアに響く。

 その迫力に圧倒され思わず身を屈める若者に、今度はわざとらしくとびきり優しく甘い声でモーガンは言う。


 「アタシのことはオーナーとお呼び。このモーガン・フェールにぶっ飛ばされたくなければね♡」

EPISODE2 ハロー・ナスティ「こんな名前の看板を掲げて言うのもナンだけど、ホンモノのゲスは確かに存在するの。意外と身近にね」

 その日、モーガンはいつも以上に念入りにグラスを磨いていた。

 ここしばらく客の入りが芳しくなく、暇を持て余しているからだ。


 「オープン当初以来よ、こんなの」


 モーガンのお眼鏡にかなう極上のバンドが連日出演する、ここ『ナスティ・フェール』。週末はもとより、平日も多くの客で賑わうのが常である。

 とはいえ、客商売には集客の上下はつきものだ。タイミングや時期的なもの、または流行り廃りなど様々な要員が考えられるが、今回はそのどれでもなかった。

 そのどれでもないからこそ、モーガンは危惧していた。

 骨董品レベルの年季の入った電話機からベル音が鳴り響く。それを取ったモーガンの表情がすぐさま曇る。


 「……明日の出演キャンセルですって? うん……うん……いーのよ、疑ってないから。キャンセル料? 気にしないで。そういう事情があるのに取れないわよ。ええ、無事だといいわね。それじゃ」


 連日続くバンドの出演キャンセル。

 そのどれもが“メンバーの失踪”という物騒な理由からくるものだった。

 バーフロアが併設されているとはいえ、あくまでもここはライブハウス。バンドのいないライブハウスに客が集まるわけがない。

 モーガンのツテや箱バンなどに頼んで、なんとかステージを空けるような事態は回避しているが、やはり活気はない。


 「おっす、マ……じゃなくて、オーナー」

 「あら、ダメ男ちゃんじゃない。シラフなんて珍しいわね」

 「ダメ男呼ばわりはやめてよ……」

 「ふふ、嫌なら真面目に練習でも……って、あら? いつも一緒にいる坊やは?」

 「あぁ……それがさ……」


 女と金にだらしない若手ミュージシャンと仲の良い、常連客の青年。

 彼も同じく成功を目指すバンドマンなのだが、先週から一切連絡がつかないのだという。


 「あいつとはガキの頃に危ない橋渡ったこともあったけどさ、連絡取れないなんて初めてだから心配で……」

 「あの子も……それ、ここ最近の失踪事件と関係あると思う?」

 「『裏K.O.B』を名乗る団体が、イケてるミュージシャンを拉致ってるっていうアレ? 確かにあいつのバンドは俺んとこより人気あるけど……どーだろ、さすがにこんな人数をバレずに拉致りまくるなんて、よっぽどの組織じゃないと無理じゃね?」

 「それもそうよねェ。で、何飲む?」

 「あー、まずはビールちょうだい」


 冷蔵庫からジョッキを取り出し、飲み口をノズルに突っ込む。慣れた手つきでサーバーからビールを注ぎながら、モーガンは思案する。


 (『裏K.O.B』……果たしてホントに“裏”なのかしら……これだけ大掛かりな事件を起こせる組織……それこそK.O.Bほどの勢力があれば可能ではあるわね……K.O.B……ギーゼグール……目的は一体なに……?)

 「……ナー……オーナー……!」

 「えっ?」

 「オーナー! こぼれてるって!」

 「あっ!? やだァ、ごめんなさァい!」


 考え込みすぎていたのか、ビールがジョッキから盛大に溢れてしまっている。

 だが、謝罪しつつ泡を注ぎ直しながらも、すでにモーガンの表情には決意めいたものが浮かんでいた。


 「はい、おまたせ。来て早々悪いんだけど、お代はいらないからこれ飲んだら店じまいにさせてくれないかしら」

 「えっ、珍しい。どうしたの」

 「ちょっとした野暮用よ」


 そう言いながらモーガンは腰に手を当て、鍛え抜かれた胸囲を突き出して言い放った。


 「アタシ、やるべきことは放置できないタイプだから」

EPISODE3 火花はどこへ落ちる「これでも数え切れないほど色んな人間を見てきた。でも、ここまでドブ臭い野郎に会うのは初めてよ」

 「これはこれは。業界のレジェンドとも呼ばれるあなたから突然会いたいだなんて、驚きましたよ」

 「余計な挨拶はノーサンキューよ。ただアタシの質問に答えてくれるだけでいいの」

 「ずいぶん不躾ですなぁ。こう見えて私は多忙な身でね。あなただというから無理に時間を空けたんですよ? モーガンさん」

 「それならなおのこと話は短いほうがい~んじゃないかしらァ? ギーゼグールちゃん」


 ギーゼグールが複数持つオフィス。その中のひとつで、モーガンはギーゼグールと対峙していた。

 用件はいたってシンプル。

 この度の失踪事件にギーゼグールが関わっているかどうかだ。


 「ここ最近、とっても才ある有能なミュージシャンたちが次々と姿を消しているわァ。アナタ、何か知らないかしらァ?」

 「その事件なら耳にしていますよ。実に嘆かわしいことだ。未来の宝だというのに」

 「そうよねェ。特に、アナタの商売的にも困るわよねェ?」

 「ああ、その通り。こちらとしても原因究明に協力しようと考えていたところでね」

 「ふぅん」


 当然、ギーゼグールの顔色が変わるようなことはない。ここまではモーガンの予想通りであった。

 長々と小手先の探り合いをするつもりはない。単刀直入に切り出す。


 「アナタが一枚噛んでるっていう可能性は考えられないかしらァ?」

 「私が? なんのために!」


 そう言って、ギーゼグールが高らかに笑う。


 「手前味噌で申し訳ないが私の主催するK.O.Bは何もかもが上手くいっている。強制的にミュージシャンを連れ去るメリットなど、どこにもないんだ。ふふ……冗談としてはなかなか面白いがな」

 「ま、そりゃそうよねェ……ありがと、時間取らせたわね」

 「用件は以上かね」

 「ええ。何か情報を掴んだら教えてちょうだい」


 そう言うと、モーガンはさっさと踵を返し、手をひらひらと振りながらオフィスを立ち去った。

 ギーゼグールが事件に関与しているかどうかは未だ分からない。

 だが、モーガンはひとつだけ確信していることがあった。


 (あの底知れない瞳の闇……アタシを騙して逃げた昔の恋人とそっくりだわ……あれは典型的な嘘つきの目。ギーゼグールは嘘をついているに違いないわ)


 ギーゼグール、K.O.B、失踪事件。

 何かさらに大きな事が起ころうと……いや、すでに起こっているのかもしれない。

 そんな事を考えながら、モーガンは『ナスティ・フェール』への帰路につく。

 気づけば夜の空は濃い雲に覆われ、やがて稲妻と共に強い雨が降り出した。

 まるでこれからの未来を暗示するかのように。


 「もう! なんなの、この変な天気! びしょ濡れになっちゃったじゃないの! って、あら……看板出しっぱなしじゃない! 早く仕舞わないと……」


 店へと戻ったモーガンは、閉店後片付け忘れた看板を雨に打たれながら急いで中へ仕舞おうとする。

 豪雨に打たれ焦っていたのか、もたつくモーガン。その背後に、ひとつの人影があった。


 「……あの」


 振り返った先には、同じく傘もささずびしょ濡れになった少女が立っていた。

 宝石のような薄紫に光る瞳。浅黒い肌。大人びた顔をしてはいるが、まだあどけなさが残っている。


 「兄さんが……私の兄さんがここに来ていませんか……?」

EPISODE4 ストレイ・キャット「はぁ……ガキの面倒なんて見るつもりなかったのに。コブ付きだと思われたらどうすんのよ、ホント」

 客のいない閉店後の店内。カウンターの中にいるモーガンの向かいには、バー・チェアの上に縮こまって座っている少女の姿。

 モーガンに差し出されたタオルを頭から被っているが、その前髪からはまだ滴が垂れ落ちている。

 自らを『ティリー・キャクストン』と名乗った少女を黙って横目で見ていたモーガンは、しびれを切らして声をかけた。


 「ティリーって言ったっけ。で、アンタの兄さんがどうしたっていうのよ」

 「実は……ふた月ほど前から兄さんが行方不明なんです。あちこち探したけれど見つからなくて、それで……」

 「なんでアタシのところに?」

 「探してるうち、音楽業界に詳しいモーガンさんなら何か知ってるかもって情報をもらって。兄は……ミュージシャンだったから」

 「ふうん……」


 ティリーの話を聞いて、モーガンは確信する。十中八九、一連の事件の被害者なのだろう。

 事情は理解したものの、現状モーガンにしてあげられることはない。ギーゼグールが怪しいと睨んではいても、それ以上の情報は持ち合わせておらず動きあぐねている状態だからだ。


 「手がかりは、こんなものしか……」


 そう言って、ティリーはくしゃしゃになった一通の便箋を差し出す。

 受け取り、取り出した手紙を開くと、そこには血よりも深い真っ赤な文字でただ一言『WELCOMETO THE KOB 』とだけ記されてあった。

 一瞥したモーガンは、黙ってそれを返しながら淡々と言う。


 「悪いケド、アンタの力にはなれないわ。アンタ、兄さん以外にも行方不明になってる人が増えてるのは知ってる?」

 「はい、聞いています」

 「アタシもこの事件は見過ごせないでいる。でも手がかりがないのはこっちも同じ。つまり、アンタみたいな小娘にできることはないってコト」

 「……黙ってじっとしてろってことですか」

 「ハッキリ言うけど、そういうこと。この事件はしかるべき人間に任せて大人しくしてなさァい。あまり嗅ぎ回ってると……痛い目に遭うわよ」

 「……やっぱり何か知ってますよね。モーガンさん」


 藪蛇。

 何も持たぬ少女が、闇の深いこの事件へ探りを入れる。その危険性を知っているモーガンは、彼なりにティリーの身を案じて忠告したつもりであった。

 だがその態度は、モーガンに何か心当たりがあることを証明する結果となってしまった。

 モーガンはしなを作り、手を顎に当てながら呆れたように言う。


 「……けっこーめざといのね、アンタ」

 「私、本気です! 何か知っているのなら教えてください! だって兄さんは……兄さんしか……私の家族はいないから! うっ、ううっ……」

 「あーあー、やめてよねェ……ガキが泣くとこ見るの一番嫌いなの。アタシ」


 言いながらしかめ面を浮かべるも、モーガンの心中はかなり動揺している。

 幼い頃より一人で生きてきて、酸いも甘いも経験してきたモーガン。波乱万丈な人生を送る彼の唯一の心の拠り所だったのが音楽だった。

 世界最高峰のギタリストと呼ばれるほど名を馳せたのち、突如身を隠すように引退。その後はライブハウスのオーナーとして若手のチャンスの場を作り続けている。

 一見華やかに見えるも、順風満帆ではない。

 彼はその人生で汚いものを多く見てきたが、それでも音楽と夢を見る若者の瞳だけは信じ続けていた。それを守るのが自分の使命だと考えるほどに。

 だからこそ、それらをビジネスや私欲を満たすためだけに扱うものが許せないのだ。

 泣く子供を見るのは嫌いだとモーガンは言う。なぜなら、同じくらい彼の心も痛むからだった。


 「……アンタ、命を懸ける覚悟はあるの?」

 「え……?」

 「2度も言わせンじゃないわよ。兄さんを探すためなら命懸けでなんでもやれるのかって聞いてんの」

 「は、はい! どんなことでもやります! やらせてください!」

 「あっそ、分かった。小娘、今夜行くアテは?」

 「ない……です」

 「明日は? あさっては?」

 「それは……その……」


 そんな気はしていた。

 口ぶりから察するにティリーが頼れる肉親は兄のみ。それに彼女の身なりを見る限り、これまでも安定した暮らしなどしてこなかったのだろう。この街では珍しくもない。


 「……じゃあ上」


 それだけ言って、モーガンは天井を指さした。

 訳がわからずポカンとするティリーに、ぶっきらぼうな口調で言い放つ。


 「階段あがった上の階が、アタシの住居。ひとつ部屋余ってるからアンタに貸してやるわ」

 「あ……ありが――」

 「ほら、さっさとあがって風呂入りな! 風邪なんてひいたら承知しないよ、小娘!」

 「……はい! ありがとうございます、モーガンさん!」


 その言葉を聞いたモーガンは苦笑いしながら、それでも有無を言わさぬ口調ではっきりと言い放った。


 「オーナーとお呼び! 次間違えたら引っ叩くからね、小娘!」

EPISODE5 ウィップラッシュ「ふうん、思ったより根性あるじゃない。アタシのレッスンについてこれるなんて、なかなかのモンね」

 こうして、モーガンの元でティリーは住み込み生活を送ることになった。

 だがそれは、行き場のない少女をモーガンが匿ったなどという単純なものではない。

 ティリーは失踪した兄を探し出すため。モーガンはK.O.Bの闇を暴くため。互いにメリットのある協力関係なのだ。

 一連の失踪事件はK.O.B、ひいてはギーゼグールが関与していると踏んでいたモーガンであったが、モーガンほどの知名度がある人物では密かに探りを入れることは不可能に近い。そのため、彼に代わって真相究明のために動く“駒”が必要だった。

 ティリーに与えられた役目は、その“駒”としての働き。

 失踪事件、ティリーの兄の行方。

 全てがK.O.Bで繋がっているのなら、K.O.Bに潜入目的で出場すればいい。

 シンプルながら芯を捉えた計画であったが、ひとつ問題があった。

 世界中のミュージシャンが集うK.O.Bに潜入しようとするも、ティリーは楽器の経験がなかった。

 そのため、夜は店のウェイトレス兼雑用をこなしつつ、昼はモーガンによる指導の元で徹底的にギターの演奏技術を叩き込まれることになったのだ。


 「じゃあ今のフレーズを繰り返し100回。メトロノーム使ってリズムも意識して」

 「はい……!」

 「それが終わったらBPMを10ずつ増やして。その度に100回ね」

 「……は、はい」

 「何よ小娘。無理だって言いたいワケ?」

 「いえ、やります。やってみせます……!」


 悠長にしている時間もないが、闇雲にやればいいというわけではない。

 かつて世界最高峰のギタリストと呼ばれるほどの過去を持つモーガンは、その技術と経験をもって最適な練習プログラムを用意していた。

 誰にでもこのような施しを与えるわけではない。今回は己のメリットも計算に入れた行いである。

 だからこそ、指導にも熱が入る。


 「も、ぜーんぜんダメ。これじゃK.O.B出場なんておこがましくて笑っちゃうわァ」

 「何がいけないんでしょうか……」

 「だってそれじゃただ“音を出してる”だけだもの。弾けりゃいいってもんじゃないのよ。出す音全てに感情を込めなきゃ、人の心を掴める演奏なんてできないわよ」

 「感情……」

 「そんなこともわかんないワケ? ほんっとダメダメねェ。勘も悪いし、センスも悪いし、頭も悪い。ギターを引かせりゃゴミみたいな演奏。ねえ、諦めて帰りなさいよアンタ。本気で兄さんを見つける覚悟もないんでしょ」

 「ッ…………!」

 「あら、いっちょまえに怒ってんの? だったらその気持ちを演奏にぶつけてごらんなさいな」


 言われてティリーはギターを掻き鳴らした。

 怒りで頭に血が上っているせいか、先ほどまでとは違ってリズムも運指も乱れまくった演奏。

 にも関わらず、モーガンは満足そうな表情でうなずいている。


 「それよ、それ! アタシの顔面をぶん殴ってやろうっていう思いがビシバシ伝わってくるわ! どんな感情であれ、少なくともアンタのプレイで思いが伝わった。それがロックよ!!」


 生徒を大切にするような指導ではないモーガン。初めは面食らっていたティリーだったが、それが彼のやり方なのだということが分かると、それを受け入れていく。

 一方モーガンは、口では罵りに近い檄を飛ばしまくるが、ティリーに並外れた才能があることに早々に気づいていた。

 その才能とは、根性。

 どんな特訓にも文字通り血を流しながらついてくるティリーの上達速度は、目を見張るものがあった。


 (この子……もしかするともしかするかもね……)


 モーガンはこの計画が成功するどころか、実行に移せる可能性さえ低いと考えていた。

 だがティリーの急成長を目の当たりにして、計画は真実味を帯びてくる。

 強大な組織によって深まり続ける闇。その闇を払うのはもしや――

 そんなことをモーガンが考えていると、盛大な腹の音が部屋中に響き渡った。


 「あ……ごめんなさい、オーナー」

 「ふふ。とりあえずご飯にするわよ。ほら、ギター置きなさい」

 「でも、まだ練習が――」

 「おだまり! アタシの言うことが聞けないってわけ!? そんな爆音でグーグーいわせてたら練習になんかなるわけないでしょォ!?」

 「うっ……」

 「アンタ、オムライス好きって言ってたっけ。今から作るから手伝いなさい」

 「は、はい! ありがとうございます!」

 「まったく……変なとこは年相応にガキくさいんだから……」


 性別不明のライブハウスオーナーと、行方不明の兄を探す孤独な少女。

 ちぐはぐな二人の不思議な共同生活は続いていく。

EPISODE6 スイート・デイズ「このままのほうがいいのかも。そう思うこともある。でも納得なんてしないんでしょうね。あの小娘は」

 3ヶ月後。

 相次いでいた失踪事件もなりを潜め、『ナスティ・フェール』は以前に近い盛況を取り戻しつつあった。

 時と共に、日常という平和で緩慢な空気が広がっていくが、失踪した者の関係者は決して諦めているわけではない。

 それはモーガンも、そしてティリーも同じ。

 計画のことは細心の注意を払って表に出さず、そしらぬ顔をしつつも虎視淡々と狙い続けている。

 決行の日は近い。


 「ティリーちゃん、ギター歴3ヶ月ってマジぃ!?」

 「うん」

 「やっべぇ……もう俺のテク楽勝で超えられてんだけど……」

 「気合いが足りてないんじゃないの。それか向いてない」

 「ひどいよ、ティリーちゃ~~~ん!!」


 例の常連の若者が自分のギターをティリーに弾かせてみたものの、圧倒的な実力差と辛辣な言葉を返されて本気でへこんでいる。

 ティリーはそれを無視して一旦モーガンのいるカウンターに足を運んでから、再び若者のいるフロア中央のラウンドテーブルに戻ってくると、ぶっきらぼうにグラスを置いた。


 「お待たせ。ウイスキーロック」


 ウェイトレスというには、いささかロックすぎる……もといセクシーすぎる、露出の多いティリーの衣装。

 「大した仕事もないんだから、せめて客寄せパンダになりな!」というモーガンの意向によるものだが、当のティリーはまったく気にならないらしく、クールな仏頂面をその顔に貼り付けている。

 だが愛想はないものの、実際モーガンの思惑通りティリー目当ての客は増えていた。それはこの若者も同じく。


 「しっかし今日もティリーちゃんは可愛いねぇ~。ねえねえ、仕事終わったら俺と遊びに行こうぜ」

 「やだ」

 「いっつもそれじゃーん。たまにはいいだろ?」

 「無理」


 簡潔に、それでいてこれ以上ないほどハッキリとフラれて若者は再びうなだれるが、せめて八つ当たりでも文句を言ってやろうと、カウンターにいるモーガンに向かって声を上げた。


 「オーナー! お宅んとこのウェイトレス、冷たいんですけど~!」

 「アタシは別にプライベートは関与してないからね。単純にアンタが嫌なんじゃないのォ?」

 「いや、それ一番落ち込むから!」

 「アンタみたいに女泣かせる男に引っかかって、厄介事持ち込まれるよりだいぶマシ」

 「ぐっ……で、でもさぁ、さすがに客に愛想悪すぎだって~」

 「ふふ、それは確かにそうかもねェ。ティリー! ゴミ出し行ってきてちょーだい!」

 「はい!」


 モーガンに言われたティリーは、これまでとは打って変わって抜けるような笑顔で返事をすると、言われた通りにいそいそとゴミを持って裏口から出て行く。


 「おーおー。オーナーにはずいぶん懐いちゃってんだから……まさか、手つけてないよね?」

 「馬鹿おっしゃい! アタシの恋の炎はね、とっくの昔に燃やし尽くしたの! そうじゃなくても、あんな乳臭い小娘相手にするもんですか」

 「じ、冗談だってば。でも珍しいじゃん、この店でオーナーがバイト雇うなんて」

 「まあ、ね。色々あんのよ。アタシだって雇いたくて雇ってんじゃないわァ」

 「とか言う割に、ここ最近ずっと機嫌よさそうじゃん。オーナー」

 「……このアタシをからかおうなんて、いい度胸してるわねアンタ」


 事実、若者の言う通り二人の関係は当初より変化していた。

 兄以外の肉親を知らずに育ったティリーは、厳しくもその奥に優しさを持って接してくれるモーガンへ絶大な信頼を寄せている。ギターのレッスンだけじゃなく、生き様、物の見方、ティリーにとってはまさに師と仰げる存在になっていたのだ。

 対してモーガンも、母性なのか父性なのかは分からないが、そういった感情の芽生えを覚えていた。

 己の過去を語ろうとはしないモーガンだが、初めて芽生えたこの感情に戸惑いつつも、そう悪い心持ちではなかった。


 (アタシもトシ食ったってコトかしらねェ……)


 ゴミ捨てから帰ってきて、まるで従順な大型犬のように主人からのお褒めの言葉をもらいたそうな顔をするティリー。

 その顔を見たモーガンは、相変わらずの苦笑混じりではあるが、柔らかく微笑むのだった。

EPISODE7 かつての先人たち「そう遠くない出来事なのに、随分昔のことみたい。あらヤダ。年寄りくさいこと言っちゃったわ」

 あれから少しの時が経ち、ライブハウスの営業を全て終えた夜。

 ティリーと話をしようと住居中を探していたモーガンは、最後にやってきたバルコニーでやっとその姿を見つけ出した。

 手すりに身を預けながら夜の景色を見つめているティリー。

 何か物思いに耽っているような彼女の様子を見てモーガンは一瞬ためらうが、意を決して声をかける。


 「こんなところにいたのね、小娘。探しちゃったじゃない」

 「あ、オーナー……」

 「なーにたそがれてんのよ」

 「兄さんのこと……考えてました。結局手がかりは今まで掴めてないし、もう生きてるかどうかも……」

 「アンタね、そーゆーコトは言わないって決めたでしょ。それに、アンタの兄さんを探す計画はこれからが本番じゃないのよ」

 「はい、分かってます。でもそうじゃなくて……私、ここでの暮らしが楽しいんです。オーナーに色んなこと教わって、仕事して、お客さんにもよくしてもらって。でも、私ばかりこんなに楽しんでいいのかなって……」

 「バカね。アンタの兄さんだって、妹が毎日暗い顔してるよりよっぽどいいでしょうよ」

 「そう……ですね。へへへ」


 馬鹿なことを言ってしまったと、照れたように笑うティリー。

 その頭をたしなめるように軽く小突きながら、モーガンはティリーの姿の向こうに郷愁を感じていた。

 若さゆえの無謀さ、がむしゃらさ、譲れないものへの信念。

 悩みもがきながら転がるように生きるティリーが、いつかの光景と重なって見える。


 「ふふっ……」

 「な、何に笑ったんですか?」

 「あーごめんごめん。ただの思い出し笑い。最近減ったけど、ちょっと前はアンタみたいな若者がいっぱいいたなーってね」

 「私みたいな……ですか?」

 「そーよォ。ガキのくせにいっちょまえにプロ意識が高くて、自分が成功するって信じて疑わなかった可愛げのないヤツとか」

 「その人は本当に成功したんですか?」

 「したわ。色々アドバイスしたけど、ちょっとこっちが引いちゃうくらい成功した。バーニッシュって知ってる?」

 「ええっ!? もちろん知ってます! 彼も『ナスティ・フェール』に!?」

 「インディーズの頃ね~。あとは“超”がつくほど自信過剰で、誰が相手でも噛み付きかねないトガったガキとか。えーっと、トラ坊……じゃなくて、虎之助――」

 「白川虎之助ですか!? 兄さんがしょっちゅうデモテープ聴いてました!」

 「あら。クソガキだったけど、やっぱ好きな子は多いのよねェ」

 「でも、二人とも最近全然名前を聞かないですよね」

 「そりゃあね。だって、どっちも消えちゃったもの」

 「え?」

 「消えたのよ、文字通りね。アンタの兄さんと一緒。アタシはギーゼグールの仕業だと思ってる」


 ティリーの兄が巻き込まれた失踪事件。あの事件が表沙汰になる前から前兆はあった。

 バーニッシュや虎之助といったシーンを席巻したミュージシャン達が、ひとり、またひとりと行方が分からなくなっている。

 モーガンは今回の事件がきっかけではなく、以前からギーゼグールの動向に注意を払っていたのだ。


 「だからアタシも救い出したいの。アンタが兄さんを思うのと同じくらいね。ギーゼグールの目的は分からないけど、若い子を食い物にするなんて許せない」

 「オーナー……私、今度の作戦を絶対成功させてみせます! だからすぐにでもK.O.Bに――」

 「焦んないの」


 そう言って、モーガンは一通の招待状を取り出した。

 宛先はティリー・キャクストン。開くと『WELCOME TO THE KOB』とだけ記されてある。ティリーの兄が残したのと同じものだ。


 「これは……!」

 「招待状よ。K.O.Bのね。アンタを育ててステージに出しまくった甲斐があったわ。どうやら向こうから食いついたみたいよ……アタシたちが撒いた餌にね」


 招待状を受け取ったティリーの手が震える。今にも破れそうなほど握りしめながら、その目はまっすぐモーガンを見据えていた。


 「この時がきたんですね……!」

 「そうよ。気張りなさい、小娘」


 そう言ってモーガンは、力強くティリーの肩を叩いた。

 計画の成否は、文字通り彼女の肩にかかっている。


 ――そして数週間後、K.O.B予選会場。

 本戦出場を狙う熱い魂を持った若きミュージシャンたち。それを応援する多くのファンがひしめくスタジアム。

 あくまで予選大会であるにも関わらず、会場の規模とそれを包む熱気は凄まじく、K.O.Bというイベントがどれほどのものかを物語っている。

 そんなスタジアムの客席に、いつもの派手なメイクを控えて変装したモーガンの姿があった。


 (小娘の実力を考えれば、心配するほどじゃなかったかしらァ。ま、教え子の晴れ舞台を見届けるのも悪くないわね)


 「ハァッ!! フィルス・インフェルノッ!!」


 ティリーの一撃が決まり、『勝者! ティリー・キャクストンッ!!』というアナウンスが響き渡った瞬間、会場中が湧き上がった。

 ステージには、額に汗を浮かべたティリーが高く腕をあげている。

 歴は浅いものの、モーガン仕込みの地獄のレッスンをこなしてきたティリーの実力は相当なものだ。優勝に向かって危なげなく勝ち進んでいく。

 残るはあと2ステージ。優勝を勝ち取り本戦まで進むことができれば、よりK.O.Bの内部を探るチャンスが生まれるだろう。


 (ただ……ちょーっと疲れが見えるわねェ。やっぱり“場数”だけはどうしようもないか……)


 実力はあるが、経験が足りない。そこから生じる体力の消耗をモーガンは危惧していた。

 その時だった。

 予選大会、それも準々決勝というタイミングではあり得ない、まさかの人物がステージに現れたことで会場は騒然となる。

 思わず立ち上がったモーガンは、驚愕し叫んだ。


 「どうして……どうしてギーゼグールがここにいるのよッ!!!!」

EPISODE8 ファイアクラッカー「文字通り“火をつけて”くれたわね、ゲス野郎。アタシを敵に回したらどうなるか、教えてあげるわ」

 ステージに現れたギーゼグールであったが、マイクを使って何かアナウンスをするということもなく、ただティリーを見据えている。

 スタジアムの巨大モニターには何も映っておらず、客席からではギーゼグールの表情は分からない。

 ざわめく観客達を縫うようにして、慌てて走り回るスタッフの姿が見えた。どうやらこれはイレギュラーの状況であるようだ。


 (何を考えているの、ギーゼグール……! ティリーがステージにいるこのタイミング……偶然か、それとも……)


 意図が分からない以上静観するべきか。警戒してティリーをガードするべきか。だが、計画が頓挫することはなるべく避けたい。

 客席にいるモーガンはギリギリと歯軋りをして思い悩む。

 すると、ふいにギーゼグールが歩みを進め始めた。ティリーの目の前までやってくると、彼女の耳元で何か囁いているように見える。

 今にも飛び出しかねない様子でそれを見ていたモーガンだったが、ギーゼグールは踵を返してステージ袖へと戻っていく。ティリーにもおかしな様子はない。

 多少ホッとして息を吐くモーガン。

 無事に済むならよかった。何を言われたのかは後でティリーから聞こう、とそんなことを考えている時だった。

 ギーゼグールの姿がステージ袖に消える間際。

 彼はおもむろに腕を上げたかと思うと、指を鳴らした。


 ――パチン。


 その瞬間、ティリーの体は炎に包まれた。

 大きく、激しく。

 炎はどこかこの世のものではないと一目で感じさせる。

 禍々しさと神々しさの相反する存在を内包した、まるで煉獄の炎を思わせる火柱が、蛇のようにティリーに絡みつく。

 明らかな異常事態だと判断したモーガンが席を立ち上がったと同時に、ティリーはその身を燃え上がらせたまま、ギターを掻き鳴らし始めた。

 瞬間、彼女を取り巻いていた炎は化学や物理の法則を無視し、巨大に膨れ上がりながら四方八方へと飛んでいく。

 ステージ、客席、そしてスタジアム全体へと。


 「ちょっと通してちょうだい! お願い、どいて!」


 一瞬で阿鼻叫喚と化した会場。悲鳴を上げながら逃げ惑う客達の流れに逆らいながら、モーガンはステージを目指す。

 だが、怒涛の勢いで押し寄せる観客の波はかわしきれない。埒が明かないと判断したモーガンは客席のイスに足をかけると、そのままイスからイスへ飛び移り、観客達の頭上を超えながらステージ脇へと降り立った。

 そのまま、襲いかかる炎を巧みにかわしながらティリーの元へとひた走っていく。


 (これは誰の力!? いえ……何か混ざってるけど、小娘の気配も感じる……ギーゼグールは何を……!)


 何かに取り憑かれたように、一心不乱でギターを掻き鳴らし続けるティリーのいるステージ。

 やっとの思いでたどり着いたモーガンが叫んだ。


 「小娘! 演奏をやめなさい!」


 だが、ティリーからの反応はない。

 モーガンの言葉など意に介さずギターを弾き続ける。

 おどろおどろしく、かつ情熱的にフレーズが展開していくたび、煉獄の炎はさらに激しく燃え上がっていく。

 何かに操られているのか、それとも憑依されているのか。ティリーの自我は感じられない。

 そうであるなら目を覚まさせればいい。だが、そう単純な話ではないのだろう。

 考えられる最悪の事態。それは、すでに“ティリー自身”が失われていたとしたら――。


 「……ンなこと、させてたまるもんですか!」


 己で想像したバッドエンドに悪態をつきながら、モーガンはティリーを見据えた。

 彼女がティリーなら。自分を慕う教え子の心が残っているのなら。

 きっと――いや、必ず応えてくれるはず。そうじゃなかったら引っ叩いてでも目を覚まさせてやる。

 そんなことを考えながら、モーガンは叫ぶ。


 「小娘! アタシの言うことが聞けないの!?」


 それでもティリーの演奏は止まらない。

 だが、ギターを引き続ける体に抵抗するかのように、項垂れる彼女の頭がゆっくりと持ち上がっていく。

 前髪に隠れていた表情が露わになる。

 そこには、まるで罪人が拷問を受けているかのような、悶え苦しみ悲痛な表情を浮かべるティリーがいた。

 そして彼女は、絞り出すようにして必死に言葉をこぼす。


 「オー……ナー……たす、けて……」

 「ティリー!!」


 事態は切迫している。無難な解決法など考えている時間はない。

 方法はある。だがそれはティリーの体を傷つけてしまうため、モーガンは躊躇っていた。

 しかし力づくでもティリーを止めなければ、彼女の命自体が危ない。

 覚悟を決めたモーガンは辺りを一瞥する。

 その視線の先、ボロボロになったステージの上には、他の出場者が残していたギターが転がっていた。

 躊躇うことなくそれを手に取ると、炎で表面が溶けつつあるスピーカーアンプのジャックへ、慣れた手つきでケーブルプラグを思い切りぶち込んだ。

 そして、全てのボリュームノブを目いっぱいに右へと回しきる。


 (本気で弾くなんていつぶりかしら……確かにブランクはあるけど、この程度の炎でアタシを圧倒しようなんて、100万年早いのよ!)


 モーガンは小さく息を吸い込み――


 「ぶっ飛びな」


 一度。ただの一度だけギターの弦を震わせた。

 その音がティリーの演奏さえ掻き消すようにスタジアムに響き渡ったかと思うと、一瞬の静寂が訪れる。

 瞬間、モーガンを中心にとてつもない衝撃波が爆散し、アンプやドラムセット、照明から支柱まで、あらゆるものがハンマーで殴られるような質量をぶつけられて吹き飛んでいく。

 同じく吹き飛ばされたティリーは、瓦礫片となったステージの基礎に空中で何度も叩きつけられながら、やがてスタジアムの中心へと転げ落ちた。

 あちこちで燻っている火は見られるが、さきほどまでの煉獄の炎は見る影もなく消えている。

 倒れたまま動かないティリーの元へ駆け寄ってきたモーガンは、彼女の体を抱き起こすと焦りを取り繕うことなく何度も声をかける。


 「小娘、しっかりしなさい! 小娘! ああ……よかった、生きてるわね……」


 腕に抱かれたティリーからは先ほどまでのような禍々しい気配は感じられない。

 モーガンのよく知る少女、ティリー・キャクストンは、全身に怪我を負いながらも小さく呼吸をしている。

 その少女の目が弱々しく開かれたかと思うと、驚くモーガンにティリーは呟くように話し始めた。


 「オーナー……ごめんな、さい……」

 「いーのよ。アンタが気にすることなんて何もないわ」

 「私……ギーゼ、グールに……」

 「詳しい話はあとでじっくり聞くから。今は安心しておやすみなさいな」

 「はい……ありがとう……モー、ガン……」


 それだけ言うと、気絶するように眠りについた。

 その体を、モーガンは力一杯抱きしめる。

 計画の矢面に立たせ、まだ幼い少女を危険な目に合わせてしまった。己の軽率な判断を悔やみながら、何度も何度も謝罪の言葉を呟くモーガン。

 だが、いつまでも自罰的に己を責め続ける彼ではない。

 この責任は、しかるべき人物に取らせてみせる。そう、この事件の黒幕であるギーゼグールに。

 モーガンは怒りに身を震わせながら、それでいて頭の中は澄んだように冷静になっていくのを感じていた。


 「自分の限界をとっくに超えた不自然なティリーの力……そしてこの世界の闇で蠢いている企み……もう搦手なんて必要ない。アタシの手でキッチリ落とし前、つけさせてもらおうじゃないの!!」


 誰もいないスタジアムに。

 モーガンの叫びだけが、木霊になって響いていた。

▲ ページトップ


■ 楽曲
┗ 全曲一覧(1 / 2) / 追加順 / 定数順 / Lv順
WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
マップ一覧

脚注
  • *1 エリア1から順に進む場合
コメント (モーガン・フェール)
  • 総コメント数9
  • 最終投稿日時 2022年06月15日 10:06
    • チュウニズムな名無し
    9
    2022年06月15日 10:06 ID:onx09gek

    トランスフォームで潜伏姿+ギターとかあったら最高だった

    いつかガチャとかで実装されないかな

    • チュウニズムな名無し
    8
    2022年06月13日 17:37 ID:cgifxz87

    この後に描かれるであろうモーガンvsギーゼグールの対決、良い意味で渋くてあまりにもカッコ良すぎるのが想像できる

    • チュウニズムな名無し
    7
    2022年06月13日 10:43 ID:oir5jgu3

    曲のせいでCV.かぼちゃ以外ありえないと思うようになってしまった

    これに限らないけどボーカル曲のキャラの声ってどうしても曲のイメージに引っ張られてそれ以外考えられなくなるよね

    • チュウニズムな名無し
    6
    2022年06月11日 09:16 ID:qvidi1kn

    男の強さと女の優しさを兼ね備えたオカマは最強。例のツダケンボイスで脳内再生されちまう

    • チュウニズムな名無し
    5
    2022年06月10日 02:20 ID:k1o7kuf5

    やはりオネエは強い…

    • チュウニズムな名無し
    4
    2022年06月09日 22:28 ID:t3ysfoqw

    カッコイイし強いしマジで惚れたわ、抱いて

    • チュウニズムな名無し
    3
    2022年06月09日 22:07 ID:mqy22uz0

    オーナー、格好良すぎる…

    • チュウニズムな名無し
    2
    2022年06月09日 21:53 ID:d1mlpr14

    絶対A〇EXに居た

    • チュウニズムな名無し
    1
    2022年06月09日 21:50 ID:bbxnn01d

    作画コストクッソ高そう

    ファーの方に目が行くわ

新着スレッド(CHUNITHM攻略wiki)
注目記事
ページトップへ