【非人類学園】白黒無常（シロクロムジョウ）のデータ

　　「人生の様相って、出会った人次第だ」

　　鬼の生涯も同じ。

　　黒ちゃんと白ちゃんは出張で非都に来た。鍾馗は非都の定住民として、四匹の幽霊にしつこく言われたので、（嫌そうに見えるが、実はどうしようもない心持ちで）二人の古い友達を招待した。

　　食いしん坊が専業のイエローちゃんが担当した鍾馗家の特別飲茶は、黒ちゃんと白ちゃんの好評を受けた。特に白ちゃんのためにわざわざと作った『メープルシロップ冬瓜の茶』と黒ちゃんのために作った『西瓜ミント味のリキュール』は、焼きたてのチーズ味のお菓子と苺マフィンと組み合わさって最高だった。

　　「黒と白－－無常として二人の職は幽霊に羨まれる仕事だよね。もし鍾馗様と契約を結んでいなかったら、やってみたいよ」イエローちゃんはお菓子を食べながらそういった。

　　「そうだそうだ」とブルーちゃんも相槌したが、生き延びる欲望のために駆使されることの辛さを想像したのか、やっぱり「あ、もちろん鍾馗様に奉仕することの方がいいよ！」と言い直した。

　　「黒ちゃんと白ちゃんはとても優秀で、テストを通り越して特別募集で無常になったんでしょ？」レッドちゃんは知らず知らずのうちに羨ましくなった。

　　白ちゃんは冬瓜の茶を一口啜り、めったにないツッコミの口調で「ええ。でも、無常になるって言えば…...」

　　黒ちゃんもしょうがなく続いて言って「鬼王の謝さん、知ってるよね？”」

　　グリーンちゃんは頷いて「知ってる知ってる。黒ちゃんと白ちゃんの名字は鬼王から借りたものなんだよね。謝様はカッコよくてすごい人だよね。確か、今の無常部隊の訓練は彼が担当してるんだっけ？」

　　「噂によれば、謝様は五大の鬼王のなかで戦力が一番強い人だそうで。そして、彼は冥界生まれの者ではなく、元は人間で死んでから幽霊になったんだそう。なのにそんなに強くなって、ホントに凄いな！」ブルーちゃんも付け加えて言った。

　　白ちゃんは密かにため息をついた。「惜しいな」

　　ブルーちゃんは驚いた。「え、違うの！？」

　　黒ちゃんはリキュールを三杯飲んで、みんなが盛り上がっている最中に落ち着いて言った。

　　「鬼王に関して本当のことを言うとね。あの年、私と姉ちゃんは7歳くらいで、忘却温泉の近くで遊んでいた。銭湯上がりの謝さんは『うん、ガキにしてはできてるな。見ればわかる。無常にふさわしい！いや、無常になるために生まれてきたようなものだ！どうだ、わしの弟子になるか？』と、私達に言った。その時謝さんはきっと巨乳のおばさんのとこで飲みすぎてたから、突拍子もなく弟子入りなんてことを切り出したんだと思う。鬼王は評判が良いし、それに私も姉ちゃんもまだ幼かったから、そのまま弟子入りすることに。ついでに無常の雇用契約書も交わした。あのクソ野郎！今考えてみれば、未成年労働者の雇用問題に引っかかってるよね？鬼王の搾取能力は戦闘力と同じくらい高いレベルなんだから！......それで、正式に入職する日に、“親愛なる” 鬼王様はこういった。『親愛なる弟子よ、入職おめでとう！何故か君たちを選んだかわかるか？君たちはよく白黒無常と言われているだろう？今日から君たちは本当に黒と白になったんだよ。他の相方を探す必要が無くなって手間もかからないだろう。ハハハハハ！もちろん、資質も悪くないよ！ハハハハハ！』。ちっ、今考えたら本当ににひどい。ひどすぎ！」

　　ブルーちゃんは再び驚いた様子で「そういえば、鬼王様は最初から黒と白っていう色の組み合わせだけがお気に入りだったのか......？」

白ちゃんは黒ちゃんの肩を軽く叩いて、「でも、無常の仕事は大体公費を使って旅行するのに等しいじゃん。こう考えてみれば、なんの問題もないよね」って言った。

　　「そうだよな」「うん、結果から見ればなかなか良い」幽霊たちも頷いて相槌した。

　　「そういえば......」と、ずっと黙々とお菓子を食べていた鍾馗が話し始めた。「当時僕も鬼王にスカウトされて、鬼魂管理処に派遣されたな」

　　黒ちゃんはとっくに知った顔で、「だから、嘘王の趣味は優秀な鬼と人間を招集して、うまいことを言って地獄の公務員システムに放り込むことなんだよ。さすが、仕事のためには手段を選ばないね！」

　　「じゃあ、謝さんは当時なんで鍾馗様を誘ったの？」ホワイトちゃんは小声で聞いたが、その質問は的を得ていた。

　　皆が息を止めて、答えを待っている。

　　「特別な理由なにもなかった。ただ、『いつかお前はわしの代わりに鬼王になるよ！』って僕に言ったんだ」と、鍾馗。

　　「......さすが嘘王だ！」

　　【無常に関する豆知識】

　　１. 無常は無常部隊に勤めている幽霊である。今無常部隊に在職している黒無常は60001人で、白無常は59897人。

　　２. 白黒無常は地獄でよく見られる公務員として働いており、以前の仕事は魂を人間界から地獄に案内することだった。三界が融合してから地獄が飛躍的に発展したことを受け、無常部隊は仕事の内容によって、白黒無常を多数の小チームに分けた。これは、例え内容の違う公務が来ても応対することが出来るようにするためである。黒無常と白無常は無常部隊の派遣内定を受け、鬼魂管理処に務めるようになった。しかも鍾馗と同じ部門である。

　　３. 白黒無常の言葉通り、無常はいつもペアで行動する。白黒無常の関係は『狙撃手とサブ』、『隊長機と僚機』ようなものである。面白いことに、二人の上下関係は任務によって変化する。

　　４. 無常部隊に配られたスタンダードの武器は、それぞれの無常に合わせて調達されたものではない。そのため、通常強い無常は自分の専属武器を持っている。

　　特別募集で採用された無常として、黒ちゃんと白ちゃんも皆と同じように自分の専属武器を欲しがっていた。だって、それは強さの証だから。しかも他人との差別化を証明する証だ。もちろん、現実的に無常部隊に配られた武器の使い心地が良くないのもその一因である。

　　あの鬼王・謝さんは黒ちゃんと白ちゃんの上司兼保護者で、二人の専属武器の要求を聞きすぎるあまり、耳にタコができている。

　　「おいおい、武器がそんなに大事なものなのか？まず初めにどうやって教えてたかちゃんと覚えているか？まずは能力だ、それから武器なんだよ。それに、わし自分でも名刀剣などは使ってないじゃないか。どの任務に対しても、木槌を使ってたじゃないか？」

　　「でも、『大工が良い仕事をしようと思えば、まず道具をよく整えておかなければならない』って言ってたじゃん」と、白ちゃんは謝さんのマントの一角を掴んでいった。

　　「しつこいな」鬼王がしょうがなく言った。「欧冶子の武器倉庫はもうあんたたち無常にひっくり返されたんだ。わしの顔面もあいつに叩き潰されそうになった。今の所、本当に適当な兵器が無いんだ。それは天意だ。分かるかい？」

　　黒ちゃんと白ちゃんは全く受け入れようとせず、謝さんのマントを掴んで左右に謝さんを揺らした。鬼王はめまいを起こして首を痛めた。

　　鬼王は必死に案を考え出した。「あんたたちの一人が相手の武器に化けてみたらどうだ？凄いことじゃないか？」

　　「なるほど！」黒ちゃんと白ちゃんは目を輝かせながら声を上げた。

　　「結果から見れば、互いに相手の武器になれるの強力だし、自分たちのスタイルにも合ってる。......でも、謝さんは当時私達を騙そうしてた......よね？絶対そうでしょ？」

　　「ええ。鬼王のことだから」