【恋と深空】幻海の誓約

ホムラ、この皮のマントはどう？

サメを窒息死させそうに見えるね

じゃあ、この麻の上着は？

ザラザラしていてウロコが削られそうだーーちょっと待って、僕に着せないでよ

寒くないかなって心配してるんだよ。上に何も着てないじゃない

ほら、ちょっと選んでみて。この市場で気に入った服があればプレゼントするから

遠慮するよ。君たち人間はすぐ自分の体に網をかぶせたがるけど、僕にそんな習慣はないからね

寒くないか心配だっていうなら、君が手を貸して温めてくれれば十分さ

あの人達はトンカン叩いて何をしているんだろう？

小さな鐘楼の修理だよ。ずいぶん前に･･････ある年の謝海祭で私が指揮して建ててもらったんだ

神殿に鐘楼まで･･････僕のために、こんなに色々な場所を作ってくれていたの？

花婿のために家を何軒か建てるのは当たり前のことでしょーーって、何してるの？

花嫁が建ててくれた家が壊れたんだ。修理を手伝うなとは言わないよね？

割れたステンドグラスが散らばってしまっているね。こっちへ来て、手を貸して

ここの海神をデザインしたのは君かい？

うん。昔のは大柄で髭の生えた姿ばかりだから、職人に頼んで変えてもらったの。海神様はご不満？

いや、むしろ満足だよ

かつての君が思い描いていた僕の姿が、今わかったからね

うまく合わない･･････何百年も経ったせいで、すっかり腕が落ちちゃったみたい

どうってことないさ。君が何でもこなせてしまったら、職人たちの立つ瀬がないからね

見て！このカモメ、あなたに頼まれて塔の中にいた私に貝殻を届けてくれた子にそっくりじゃない？

ああ。あのカモメは君の騒々しさで耳が痛くなったと言って、他の海域へ療養しに行ったけどね

そんなにうつさくしてないのに･･････塔の中が退屈すぎて、つい何度も話しかけちゃっただけで

でもホムラ、あなたはさらに長い間封印されてたんだから、私よりもっと辛かったよね？

そうだね

だから君の声が聞けるなら、たとえ僕の悪口であっても面白いんだ。退屈な海底よりもずっと

この山道、かなり険しいね。支えながら一緒に歩いてあげようか？

どうやら僕は、風にも耐えられないほど弱々しく見えているようだね

だってあなたの足は魚の尾が変化したものだし、前は陸に上がって歩いたこともなかったでしょ？

でも、かなり安定して歩けてるみたいだね･･････いつの間に足を使って歩くことを覚えたの？

伝説に記録されていなかった？海神は初めに陸に上がる前、魚の尾を二本足に変える魔法薬を飲む

日が暮れるまでに歩き方を覚えられず、時間通り海に戻れなければ、泡となって消えてしまうんだ

･･････私を騙してないよね？

自分で考えてみただろうだい？

あそこ、たくさんアザミが咲いてるように見えるね

アザミって？

すごく生命力が強い花で、どこに実をまいても一面に花を咲かすんだよ

それでも海の中は無理だろう。特に深海では、生き残れる動物さえ少ない

試してみなきゃわからないでしょ？陸の生き物だって、案外海でうまくやれるかもしれないし

ほら、これがアザミの実

君が困らせているのはその花なのか、それとも僕なのか。でも･･････

まあいいさ。僕も深海に花が咲き乱れる光景を見てみたいからね

すごい雨だね･･････この洞窟があったおかげで、雨宿りできてよかったよ

入り口で風に当たっていないで、こっちへ来て。石を2つ選んでほしいんだ

･･････いつの間に石壁に壁画を掘ったの？すごく綺麗

試しにやってみたんだ。ここの石はもろすぎて、複雑な模様は彫れないけどね

私も何か彫ってみたいな。教えてくれる？

それなら、まずは君の手元が安定しているかどうか見てみよう

この小魚が見えるかい？一筆書きしてごらん

どうだった？海神様の試練はクリアできたかな？

このレベルなら･･････リモリア人の50％は超えただろうね

厳しいなぁ。まさかリモリア人って、みんな芸術の達人なの･･････？

･･････やっぱり洞窟の入口に戻って風に当たろうかな

逃げてどうする気だい？雨はまだまだ降り続きそうだよ

せっかくの機会だから、僕が君の練習をしっかりと監督してあげよう

ホムラ、船の中でまた何か見つけたよ！

鏡？また新しい「お宝」を見つけてくるとはね

表面に何か彫ってあるみたい

ここまで損傷していると、その正体を確かめるためには少し手間がかかりそうだ

鏡に描かれた海神、あなたによく似てる。この船に乗ってた人達は、まさかあなたと会ってたの？

そんな些細なことまで覚えていないよ。ただ、この鏡を作った職人は優しい人だっただろうね

一人で寂しくないように、僕の花嫁も一緒に彫ってくれたんだから

表面の埃や汚れが多すぎて、すぐには掃除しきれないね

それなら一旦しまっておいて、街に戻ってからゆっくり対処しようか

大丈夫かい？

大丈夫だけど、戦闘直後に海水に流されて･･････かなり深い洞窟まで来たね。ここはどこなのかな？

･･････

どうやら僕達は、敵意満々の大物を起こしてしまったようだね

･･････また大立ち回りになるってこと？

礼儀を尽くして。うっかり住処に入り込んだのは僕達だ。殴り飛ばすわけにはいかないだろう？

彼が怒り出す前に、早くここから離れよう

ふう･･････やっとあの大ダコを振り切れた

ああ。だから僕の体に巻き付けている手足を放してくれないかな、小ダコちゃん？

追いつかれちゃった。どうする？

こうなったらーー手加減して殴ろう

すごく綺麗な「海底の花園」だね。

サンゴやイソギンチャクだ。ここは彼らにとって住みやすい場所なんだよ

だけど遠くから眺めることしかできない。この一帯のイソギンチャクには毒があるからね

そうなんだ。でもゆらゆらしてる様子を見るに、きっとすごく柔らかな手触りなんだろうなぁ

･･････

ほら、持ってみたら？

え？ちょっと待って、毒があるって言わなかった？

毒はあるけど、僕が彼らと話をつけたんだ。少しの間だけなら持ってもいいと言ってくれたよ

ここには石板が残ってるんだね。刻まれてるのは･･････リモリアの文字みたい

短くて断片的だけど、何かの神秘的な記録か･･････それとも奇妙な呪文？

「最初の雨粒が落ちてから、集まった水滴が大海原になるまで、あなたを愛さなかったことはない」

「親愛なるグレングーナ先生、本当にすみません。宿題終わりませんでした。難しすぎです･･････」

「明日の海神祭で、君のウロコが好きだって、絶対フーラに言うんだ」

コホン･･････やっぱり、何千何万年前の民たちの個人情報をこれ以上広めるのはやめておこうかな

どうして？君も何か書き残してみたらどうかな

何千何万年後に、他の誰かを同じように悩ませてあげたらいいじゃないか

この岩場の一帯には、どうしてこんなにたくさん真珠貝がいるんだろう

ねえ、順番に「ドア」をノックしてみない？

「すみません、あなたは海神の書にある『真珠を探す』の真珠ですか？って

･･････いいよ。でも、ノックの仕方が乱暴にならないよう気を付けて

貝達が大集合して、窓の外で抗議の「カスタネット」を鳴らすんじゃないかと心配になるからね

ずっと不思議だったんだけど、なんで私は生まれつき水中で呼吸できるの？海神の花嫁だから？

一般的に、リモリア人にキスされると水中で呼吸する能力が得られると言われているんだ

まして君は僕と契約した人間なんだから、できて当然だよ

でも、こんなに深いところに潜るのは初めてで･･････念のためにもう一度キスした方がいい？

ここにいるたくさんの魚やエビ、クラゲやサンゴに見られていても構わないのならーー

僕はもちろん、断らないよ