【黒ウィズ】Birth of New Order Story 序章
Birth Of New Order (バースオブニューオーダー)
story
君とウィズは、またしても見覚えのない世界に飛ばされてしまった。
それにしても、ここはどこだろうね?と都市全体を見渡す――直後、君は彫像のように固まってしまう。
宗教的な建物が、都市全体を見下ろすように建てられている。問題なのは、その背後だ。
宗教的なモニュメントというにはやたら威厳のある巨大な建造物が聳えている。
男は、襟元をめくって鎖骨を見せた。印章の形をした火傷の跡が、肌に痛々しく浮かんでいた。
厄介ごとに巻き込まれるのは、ごめんだった。
とはいえ、男のように焼印を押されてしまうのも気が進まない。
それしか道はない、とウィズは判断した。郷に入っては郷に従う。これまでの旅で得た経験から来る判断だ。
その判断が、間違ってないことを祈ろう。
君とウィズは、審判とやらを受けるために教えてもらった場所に向かう。
***
大聖堂へとつづく道。
そこでは、生まれたばかりの子どもを抱えた母親たちが、列を作って並んでいた。列は、都市の外にもつづいている。
そんな面倒な手続きを踏まないとここに住めないなんて、不便なところだね、と君は言う。
列は順調に消化されていき、ようやく君たちの番になった。
君は、余所から来たばかりでなにも知らない。道行く人に、審判を受けるように勧められただけだと伝える。
背後に聳える巨大なモニュメント。あれが、大審判獣と呼ばれるものらしい。
聖職者は、大審判獣様とやらに芝居がかった調子で頭を下げて審判の結果を伺った。
お前は、〈善〉なるものと判断された。聖域で暮らすことを許可する。おめでとう。
君は、袖の中に隠したサイコロのようなものを見せてくれと聖職者に言った。
その言葉を合図に、他の聖職者たちが、一斉に群がってきた。君からウィズを引き離そうとする。
君は、それに抵抗する。抵抗の意思ありとみなされ、周囲が、―気に慌ただしくなった。
戒律など関係ない。こんな見知らぬ土地でウィズと引き離されたくない。その一心だった。
君は、なんとか逃げ出す道を探そうと視線を走らせた。
静かな怒りを秘めた声と共に男が現れた。ほかの聖職者たちとのちがいは、全身を包む装束と――
男が背負っている奇妙な形の剣。柄まで刃の剣など、君ははじめて目にする。
審判獣が下した判決は絶対だ。そして、俺には、戒律に従わないバカを裁く権限が与えられている。
どうしてもウィズと引き離そうとするなら、こちらにも覚悟がある。
カードを引き抜いて魔力を込め、叡智の扉の向こうからの呼びかけに応じる。
魔法発動。集まった聖職者たちに直接危害を加えないように、彼らの足元へ魔法をぶつけた。
この世界では、魔法が珍しいようで、威嚇手段としては効果抜群だった。
リュオンは、心の中で舌を打った。思った以上に面倒な狼籍者だ。
切っ掛けを作ったものを睨み付ける。
リュオンは、鎖を手にする。柄の無い剣を、いかにして扱うつもりなのか。
審判獣ネメシス。我と汝の契約に従い、罪人を処断する力を。
背負った刃が中空に飛び上がる。
柄のない十字の剣は、まるで血肉が通った生き物のように宙を自在に動き回っている。
――あの鎖で操っているようなら鎖を切り落とせば済むと思ったのだが、どうやら簡単にはいかないようだ。
十字の剣は、宙で旋回し、君を襲った。君は防御結界を張り、攻撃の手から逃れる。
そのような攻防が、二度、三度つづいた。リュオンは、表情を一切変えずに、淡々と君を、ある場所へ追い詰めていく。
ウィズは単なる黒猫じゃない。師匠だと君は答える。
聖職者たちが、武器を持って君たちを捕まえようと取り囲んでいた。
その背後には、騒ぎを聞きつけて集まった野次馬が、人垣を作っていた。
ウィズの言葉に従い、君は後に飛び下がった。
頭上で、重たいものが切断された音がした。
十字架の形をした剣が、君の頭上に聳え建つ、尖塔の先端を切断――
ウィズが叫んだ時には、もう遅い。
君は、落下してきた塔の破片を頭に受けて……意識を失った。
***
牢獄に叩き込まれて、一週間ほど経っただろうか……。
その間、君の側にウィズはいなかった。
気を失っている間に、引き離されてしまったらしい。己の不覚を呪うしかなかった。
俺たちはいま戦争をしている。インフェルナという、聖域から追放された奴らとな。
審判などというあんな強引なやり方で住人を選別していたんじゃ、反発を受けるのも当然だと君は告げる。
冷酷で冷静な男。きっと情に流されるタイプではないと君は分析する。
この男のせいで、君はウィズと引き離されてしまった。君にとっては憎い敵……。
お前の師匠を知っている者と出会えるかもしれんぞ。
ウィズと再会できるのであれば、どんなことでもするつもりだった。
問題なのは、このリュオンという男が、約束を守ってくれる男なのかどうかだ。
しもべになれとは、完全に隷属しろということか?誰がお前のものなんかに――怒りと共に吐き捨てる。
とつぜん、顔面の真横に強い衝撃を受けた。
リュオンの足が、君の背後の壁を蹴ったのだ。蹴った衝撃で、壁が崩れ落ちた。
お前は、旅の人間だから知らないんだ。聖職者がこの聖都で、どれほどの地位を持つかを。
彼らに逆らった君は、たとえ〈善〉だと審判されていたとしても立派な重罪人だと告げられる。
よくて終身刑。下手をすれば死刑もありうると――
だが、俺のしもべになると誓えば、俺の力で、お前を牢から出してやれる。師匠とやらにも会いに行ける……。
だれが敵に下るか、と言いかけたが、ふと思い直す。
いま優先すべきは、意地を張ることじゃない。ウィズを探しに行くことだ。
脱獄するには、相当なリスクが付きまとう。リュオンに従えば、牢の外には出られる……。
しばし考えたのち、君はリュオンに従うことにした。
牢が開け放たれ、君は出獄する。
うーんと大きく背伸びをする。肩にウィズがいないのは、やはり寂しい。
開放感もそこそこに、いつ出発するのか訊ねた。
お前は、魔法で戦闘に貢献すればいい。多くは望まない。
口ではそう言っているが、人を根本から信用していない目をしていた。
この男の本性は、いったい善なのか悪なのか、君には判別できなかった。
サンクチュアとインフェルナ
衝突するふたつの信念。
青年は、仲間との絆を信じ、弱きものを守るために――
少女は、虐げられた民の希望となるために戦いに向かう。
やがて両者は出会い、運命に引き裂かれることとなる――