【黒ウィズ】ハッピースイーツカーニバル Story3【白猫】
story
〈君たち一行は、船に乗ってスィー島から少し外れたアイスのお城に辿り着いた。〉
〈アイとテレーゼは、別行動――というより、ふたりは観光を楽しむつもりらしかった。〉
素敵なもの。美しいものをちゃんと見ておきたいから。
〈とは、アイの言葉だ。テレーゼもまたそれに同調した。〉
〈出会った記念に、とラヴリが渡したお菓子に感謝の気持ちを述べたふたりは、別の場所へと進んでいった。〉
***
アイスのお城よ。
〈君たちは、恐る恐る足を踏み入れる。〉
〈ラヴリが言ったように床も柱も天井も、全てがアイスで出来ているお城だった。〉
これ全部、アイスにゃ?キミ、ちょっと置いてあるアイスを食べてみるにゃ。
食べても大丈夫ですよ♪
〈興味を惹かれるまま、君は近くにあるアイスを手に取り、口にした。〉
〈甘い。〉
〈ちゃんとアイスの昧がする。〉
凄いにゃ。こんな建物、今まで見たことないにゃ!
〈君は、また一口アイスを舐めてみた。〉
〈冷たい甘さが、口に広がっていく。〉
〈思わず虜になってしまいそうな味だ。〉
キミ、食べすぎはよくないにゃ。お腹を壊しても知らないにゃ。
〈ウィズに言われて、これ以上アイスを舐めるのを自重する。〉
さすがに、ここにデザートンはいないか……。
こんなわかりやすいところにいるわけないわよね。
〈その時――〉
「ワン!ワン!」
「キャンキャン!」
犬の鳴き声?行ってみましょう。
〈君たちは、鳴き声が聞こえた方に向かうことにした。〉
***
cワンワン!
キャンキャン!
〈二匹の犬が、君たちの前で楽しそうにじゃれ合っている。〉
kクロ、よかったな。友達ができて。
タロー楽しそう。やっぱり、キワムにーにに付いて来てよかった。
k小さい女の子を、ほったらかしにしておくわけにはいかないだろ。
ここに来たときは、誰もいなくて……凄く寂しかったけど………
キワムにーにに会えたからよかった!一緒に帰る方法を考えようね!
kああ……早くみんなのところに帰らないと……。でも、戻るったって、どうしたらいいんだろうな………
……にしても、ここはー体どういう場所なんだ?全部アイスでできた城って……ん?
〈君たちの存在に、キワムが気づいたようだ。〉
キワムだにゃ?まさか、こんなところで会えるなんて、奇遇にゃ!
kおー!ウィズと魔法使いじゃないか!お前たちこそ、どうしてここにいるんだ?
cワン!ワン!
〈クロが勢いよく、ウィズの元に駆け寄ってくる。〉
やっぱりクロだったにゃ?
どこかで聞いたことのある鳴き声だと思ったにゃ。
cワン!
〈嬉しそうに、ウィズにじゃれつくクロ。〉
キャン!キャン!
〈クロに続いて、もう一匹の犬がウィズの元に近付いてくる。〉
もう一匹いたのかにゃ?見たことない犬にゃ。
タロー待って、あう………
〈コヨミは、君を見て身をすくませる。そして、素早くキワムの背中に隠れた。〉
kコヨミ、心配ないよ。この人は、俺の知り合いだ。
昔世話になったことかあるんだ。いい人だから、怖がらなくていいよ。
〈コヨミは、キワムの背中に隠れながら、恐る恐る君たちを覗いていた。〉
いきなり噛みついたりしないにゃ。
喋る……猫さん……?
名前は、ウィズにゃ。コヨミちゃん、よろしくにゃ。
よ……よろしくお願いします。
〈コヨミは、怖々と手を差し出す。〉
〈ウィズは、握手の代わりに自分の頭をコヨミの手にこすりつけた。〉
ウィズねーね。アイスの香りがする。
この城は、全部アイスにゃ。アイスの香りがするのは、当然にゃ。
あ、それもそうだね。じゃあ、コヨミもアイスの香りするかも。くんくんっ。
面白い子にゃ。
〈コヨミの警戒が解けたところで、お互いの状況を打ち明け合った。〉
story 迷子の子羊?
k俺もクロも……気づいたら、この島に迷い込んでいたんだ。
キワムにーには、どうしたらいいのかわかんなくて迷子になってるわたしを助けてくれたんだよ。
すいません。私が、魔人と戦うために戦ってくれそうな人を呼び寄せたんです。
kじゃあ、俺がここにいるのは、お前らに呼ばれたからなのか………
デザートンを倒せば、すぐに元の世界にお帰しますので……!
〈申し訳なさそうに頭を下げる。〉
kいや、すごいな。そんな魔法があるなんて!
〈純粋に驚くキワムとは対照的に、コヨミはタローの頭を撫でながら、険しい表情を見せる。〉
どうしてみんなケンカするのかなぁ……?みんな仲良くすればいいのに……
キャン!キャン!
〈話し合って、すぐにわかりあえる相手ではなかった……ということだ。〉
kデザートンか……。
〈なにか知っているの?と君はキワムに問いかけた。
kいや、俺は――
〈その時だった。
ふっ、ふっ、ふっ……。よく来たね。哀れな迷子の羊たち………
〈あやしげな笑い声が、どこからともなく聞こえてくる。〉
お、男の声?一体どこにいるの!?
あそこだ!
ボクは、ほら、見てのとおりのハンサム!だから名前もハンサム!この城へようこそ!
ハンサム?自分で言ってちゃ世話ないにゃ。
ほんとね………
〈ハンサムと名乗るあやしい男は、君たちの前に立ち塞がる。〉
デザートンを追うだなんてバカなことはやめて、このボクの美貌に見とれてるがいいさ。
そういうお前は何者だ?
ボクは、デザートンの分身さ。彼のハンサムになりたいという願望がボクを――
〈ハンサムは、地面を蹴って高々と飛び上がった。〉
〈そして、空中で宙返りして華麗に――〉
〈ハンサムは、着地の瞬間、足首を捻ってしまった。〉
ぐあっ!足が!?だが……ボクは、こういう時でも華麗に……格好いいのさ!
〈ハンサムは、びしっと(捻った足首に負担のかからない)ポーズを決めた。〉
面白い男にゃ。
はあ……。
この美しいボクを倒さなければ、デザートンの元に辿り着けないよ!
kなに!?
この城は、一度入ると抜けられない迷宮!このボクに挑もうというのなら――
死にもの狂いで、ボクに追いついてごらん!
〈足を捻挫しているはずなのに、ハンサムの逃げ足は速かった。〉
見失う前に追いかけるにゃ!
k行こうぜ!
〈君たちは、ハンサムを追うことにした。〉
***
〈ハンサムを追いかける君たちは、アイスの城の内部を駆け回っていた。〉
ハンサムは、こっちに向かったみたいにゃ。
いくら進んでも、出口に辿り着かない………
kあのハンサムを倒さない限り、先には進めないってことかよ。
〈君は、アイスの床の上を走るが、さすがにアイスでできているだけあって、滑って走りづらい。〉
きっと、これもハンサムの作戦なのでしょう。
〈ウィズは、一生懸命みんなに付いてくるコヨミを気遣った。〉
いきなり巻き込むことになってごめんにゃ。大丈夫かにゃ?
うん、コヨミは平気だよ。それにしても、さっきの人、足捻ってたみたいだけど大丈夫かなぁ?
こんな時に、敵の心配かにゃ?君は優しい子にゃ。
〈だからこそ、コヨミたちに負担がかからないよう、頑張ろうと君は思った。〉
story かっこよさとは?
あ、あそこにさっきの人がいるよ!
〈コヨミが、指差した先には――〉
あいてて……足首の腫れが酷くなってきた。ボクとしたことが………
〈先ほどの着地失敗で痛めた足をかばいながら逃げるハンサムがいた。〉
今のうちに捕まえちゃいましょう!
k任せとけ!行け、クロ!
cワンワン!
もう追いついたのかい?なかなかやるね………
こうなったら、ボクの美貌で、足止めしてみせる!
〈ハンサムは、上体を捻って足首に負担のかからない格好いいポーズをとった。〉
くらえ!ハンサムフラァァァッシュ!
〈ハンサムの全身からまばゆい光りが放たれる。〉
……まぶしいにゃ!
ボクのような美しい存在を目にしたことがないだろ?そのまま見とれ続けるがいいさ!
〈あまりのまぶしさに、君もハンサムの輝きから目を逸らさざるを得なかった。〉
ウィズねーね、しっかり!
コヨミ、あいつを見ちゃダメにゃ!
kおいおい。みんな、どうしちゃったんだよ?
〈君を含む全員が、ハンサムの放つ美貌の輝きに苦しんでいるというのに――〉
〈驚くべきことに、キワムだけは平然としていた。〉
キワムにーには、平気なの?
kというか、みんながどうしてそんなに苦しんでるのかわからないな……。
そんな……ボクのハンサムフラッシュがきかないだって?
kハンサム?お前、自分で思っているほど、ハンサムじゃないぞ?
〈キワムは、平然と答える。〉
なっ!?な……なんだって!?そんなわけ――だってほら、ボクの格好を見ろよ。
〈ハンサムは、身につけている高級そうなスーツや、有名美容師に切ってもらった髪を自慢する。〉
格好いいって、そういうことじゃないと思うな……
なななっ!?
k聞いたか?やっぱり子どもは正直だよな。
子どものたわごとだ!ボクの格好よさは誰にも負けるわけがないんだ!
でも、キワムにーにの方が強くて、優しいもん。
kはは、なんか照れるな。
〈ハンサムは、怒りで全身を震わせた。〉
〈いつの間にか、全身から発せられていた光も消え失せている。〉
そんなださい奴がボクより格好いいだと?認めない、そんなの絶対認めないからね!
〈激高したハンサムは、我を忘れて君たちのもとに向かってきた。〉
きゃああああっ!
危ないにゃ!
〈君は、咄嗟にコヨミを守るために立ち塞がった。〉
退け!ボクの格好よさを、その子どもに認めさせるんだ!
k全く……おい、魔法使い。ここは力を合わせてあいつをぶっ倒すぞ。
〈君は、頷いて、ハンサムと戦う態勢をとる。〉
***
ま……まさか、このボクが負けるなんて………
k観念しな。これ以上戦うつもりなら――来い、アウデアムス!
〈アウデアムスが、キワムの前に立ち、ハンサムを睨みつける。〉
くっ……そんな脅しで、このボクが怯むとでも思ってるのかい?
〈ハンサムの全身から、さらなる闘気が発せられた。〉
まだ戦うつもりにゃ!?
この世で一番ハンサムなのは、このボクなんだ!醜い奴らは、全て滅びろ!
〈ハンサムは、半ば自暴自棄になりながら拳を振り上げていた。〉
kほらコヨミ、巻き込まれないように下がってな。
キワムにーに……あのひと、すごく怖い………
〈目に涙を浮かべるコヨミを見て、ハンサムの動きが止まった。〉
怖い……?このボクが……格好いいでも、美しいでもなく……怖いだって?
うん……だって、さっきからずっと怖い顔してるんだもん………
そんな怖い顔してないで、一緒に遊ぼう?そしたら、きっと楽しいよ。
楽しかったら、きっとそんな怖い顔しなくなるよ。ね?
キャン!キャン!
……ぼ、ボクをそんな目で見るな!ボクは美しく、誰よりも格好いいはず……!
〈だが、終始コヨミは怯えた目でハンサムを見ている。〉
そ……そうなの……?
〈ハンサムは、なにかを悟ったように表情を変えた。〉
ボクは……外見を磨くことばかり考えていた。中身を美しくすることを忘れていたんだ………
〈アイスの床に膝を付くハンサム。その身体が、ぼんやりとかすみ始める。〉
ハンサムの身体が、消えていくにゃ!
元はデザートンの願望が生み出した分身ですから……
今度こそ……ボクは、見た目も中身も……ハンサムな男に……生まれ変わるんだ………
〈君たちに見守られながら、ハンサムは霧のように消滅した。〉
k人騒がせなやつだったな。
でもこれで、このお城を抜けられるようになったわね。
コヨミのおかげだ。感謝するぞ。
えヘヘ、コヨミ、キワムにーにたちに助けてもらっただけで、なにもしてないよ。
でも、ほっとしたら眠くなってきちゃったの……。
〈倒れそうになるコヨミの身体を、キワムはしっかりと抱きとめる。〉
〈そしてそのままキワムに抱かれながら、コヨミは眠りについた。〉
疲れて眠っちゃったのね。
kしょうがねぇ。コヨミが目覚めるまで、俺が傍にいてやるか!
いいのかにゃ?
kそのデサートンって奴の退治はお前たちに任せたぜ。
任せてください。きっと見つけ出して、皆さんを帰れるようにしますから!
kありがとう。頼んだぞ、魔法使い!
〈キワムは、コヨミを抱いたまま、君に言った。〉
先を急ぎましょう!
〈キワムがいれば大丈夫だ。〉
〈君たちは、アイスで出来たお城を後にした。〉