【黒ウィズ】ハッピースイーツカーニバル Story5【白猫】
目次
story
まっちゃ村といちご村の人々と別れ、君たちはスィー島の新たな名所を訪れた。
そこは森だった。
すごいにゃ。
四方を取り囲むように自生する木々を君は見た。
この森の木々の枝になっているのは、深縁の葉ではなく、芳醇な香りを放つチョコである。
ひとつ取ってもいいかな?と君はラヴリたちに訊ねる。
どうぞ、どうぞ。この島にあるお菓子は自由に食べてください。
おいしいものはみんなで分ける。それが私たちのルールなんだよ。
だがデザートンはそんなことはお構いなしにお菓子を独り占めにしている。
許されることではない。と君は思った。
懲らしめないとダメにゃ。
うん。でも、かわいそうですね。
かわいそう?ラヴリの言った意味が分からず、君はオウム返しに聞き返した。
ひとりで食べても寂しいですから……。
うむ。そうだな。それはただお菓子を食べているだけだ。
みんなで食べるからおいしいし、楽しいんだよね♪
そうかもしれないと、君は答えた。
お菓子がある時とない時じゃ幸せな気持ちが全然違うんですよ。それがお菓子の魔法なんです!
せっかくなので、みんなで幸せな気持ちになろうじゃないか。
プレミオは森の木々になるチョコをみんなに手渡し、そう言った。
君はこくりとうなずき、チョコを食べた。
***
甘い……。
誰かいるにゃ。
森の奥に進むと、チョコの木の陰に男がひとり佇んでいた。
その男のまとう言いようのない不穏な気配は、一目見て、彼が只者ではないと教えてくれる。
あのー?もしかして私が呼んだ助っ人の方ですか?
助っ人?さあ、知らんな。
でもとてもこの世界の住人とは思えないにゃ。
我は不死者の帝王ヴィルフリート。ここは甘いものが多い。
だが、甘いものの次はしょっぱいものが食べたくなる。そしてまた甘いもの………
どうやら妙な袋小路に迷い込んでしまったようだ。
お菓子を楽しんでもらっているならよかったです。
楽しんでいるのかな?と君は首をかしげる。
たぶん私たちにしてあげられることはなさそうにゃ。
助っ人でないのなら、彼に無理を言うこともできない。
君たちはその場を立ち去りかかる。
待て。……我も連れていけ。
どうしてにゃ?
くくく……。
なんだか難しい人だな、と思いながらも、君たちはヴィルフリートと共に森を進むことにした。
story2 元帥と帝王
ヴィルフリートを連れて、先へ進んでいると――
今度は君の前に、痩身長躯の男が現れる。
あの、歪な戦いの気配が再び君をとらえる。
貴君か……。こんなところで会うとは奇遇だな。
来ていたんだ、と君は返した。声は、震えていなかったはずだ……。
小声で訊ねるように
どなたですか?
事情を知らないはずのラヴリですら、彼の雰囲気に戸惑いを隠せない。
ウィズに彼の素性を訊ねる声は、自然と小声になっていた。
ディートリヒ・ベルク……。ドルキマスという国の元帥にゃ。
そんななか、ただひとりディートリヒの醸し出す殺伐とした気配に気おされぬ者がいた。
ほう、その眼……。
貴君、何者だ。誰が私の顔を見ていいと言った。
そしてディートリヒもまた、ヴィルフリートの不穏な気配にまったく動じていなかった。
無礼者め。
君はにらみ合うふたりの間に割って入り、その場をとりなす。
ラヴリの魔法でやってきたことやデザートンのことなども、一息に説明した。
少し慌てていたかもしれない。このふたりの衝突など想像するだけでも恐ろしかった。
***
貴君……。
その声はザクリと君の背筋を刺した。
私は暇ではない。我が国は、戦争の只中だ。ここにも、その下らん怪物にも、興味はない。
無論、死にぞこないの帝王などにもな。ドルキマスヘ帰る。案内をしろ。
それだけ言って、彼は先に行ってしまった。
あ。行っちゃったにゃ。
君は慌てて後を追った。なぜかそうしなければいけない。そんな風に考えてしまったのだ。
ディートリヒ・ベルク。……気に入った。とても気に入ったぞ。
story3 剣呑な空気
妙に緊張した雰囲気のまま、君たちは道中を進んでいた。
その原因はもちろん……道連れとなったふたりである。
ディートリヒ……。
……。
唐突に話を振られても、ディートリヒ・ベルクという男は眉ひとつ動かさない。
そんな男だった。彼は鋭い双眸を少し動かしただけで、その返事とした。
その眼。その眼だ。貴様、人に頭を下げたことはあるか?
ある。
意外だった。まるで生まれてこのかた、人に頭を下げたことなどない。
彼のことをそんな風に思っていた。よく考えればそんな訳はないのだ。
だがもう下げることはあるまい。その男はもう、いないからな。
いない……。ただそう言っただけのはずだ。そのはずだが……。
……なんか物騒な話に聞こえるにゃ。
いい答えだ。独善、冷徹、凶暴、あらゆる要素が備わっている。
ディートリヒ・ベルクよ。我と手を組め。そして世界の頂点を手に入れるのだ。
このふたりが組む……。それがどのような結果をもたらすのか、君にはまるで想像できなかった。
君は自分の胸に生まれた矛盾する想いに、打ち震えた。
それはまるで、自分のなかの見たくない部分を出してしまったかのような……そんな気分だ。
断る。世界など……貴君の力を借りずとも手に入れられる。
それは不可能だ。ふたりでしか手に入れられない世界というものもあるのだ。
ならば、この私の代わりとなる者を探したまえ。死にぞこないたちの帝王よ。
どこかに私以上の者がいるならな。
ちょっともう……ケンカはだめよぉ。
Story4 もうええわ!
ここはこんなものばかりだな………
ディートリヒさんもお菓子は好きですか?
私は、戦争に明け暮れていた。戦争に狂っている。私を評して、そう言う者もいる。
そんな私に、これが似合うと思うか?
そ、そんなことは……。
言いよどむラヴリの言葉を継いだのは、ヴィルフリートだった。
意外な人物が意外なものを好きだということで生まれるギャップが功を奏する場合もある。
と言い、ヴィルフリートはディートリヒにお菓子を渡した。
それを受け取り、ディートリヒは不敵に笑う。
意表を突くということか……。貴君らしい、お利口ぶった姑息な考えだな。
だが……いつか戦争の時代が終わったとき、必要とされるのはこの私よりも――。
こういったものなのかもしれない。
戦争に役立つものではありませんが、人を幸せにする魔法がありますから!
魔法か……いつ聞いても陳屑でうろんな言葉だ。
しかし、お菓子の魔法とやらは私にも容易に想像できる。
まったく素直じゃないにゃ。
ムッ!
まだまだ甘いな、ディートリヒよ。
君たちが気づかないうちに、こちらをつけ狙っていた魔物の一撃がディートリヒを襲った。
すんでのところで、ヴィルフリートの大鎌がそれを阻止した。
いらぬことを……。
くくく……!
ふん。そんなことよりも、まずはこの危険を乗り越えねばなるまい。
そうだった。いまはまずこの魔物たちをなんとかしなければいけない。だが――。君は少しだけうれしくなる。
彼らに背後を預けることがとても――。
とても頼もしい気がしたからだ。
***
魔物たちはディートリヒとヴィルフリートの連携になす術もなく、四散した。
さすがにゃ!
君もあまりの強さに思わず感嘆した。
敵にすれば恐ろしいが、味方にすれば心強い。
そんなふたりである。
死にぞこないたちの帝王よ。なかなかやるな。貴君と組むのも、悪くない。
ならば手を貸せ。我と共に世界を手に入れるぞ。まずはこれを読め。
ヴィルフリートはディートリヒに冊子を一部渡した。
なんだ、これは?
台本通りに読むだけでいい。何も最初からうまくやれとは我も言わん。
何が始まるにゃ?
さあ、と君も首をかしげ、ふたりの様子を見守った。
これを読めばいいのか……。(咳払い)
元帥と。
帝王の。ショートコント。「ハイテク芸者ガール、ゴーウエスト」
待て。
なんだ。
これはなんだ?なんの真似だ?
知れたことを。無論、漫才ではないか。我がボケで貴様がツッコミ。
我は常々、我の最高のギャグを引き立たてる最高のツッコミを探していた。
それが貴様だ、ディートリヒ。その冷徹さ、反骨精神、無意味に偉そうな態度。
優れたツッコミの資質を全て兼ね備えている。ではやり直すぞ。
元帥と。
帝王の。ショートコント。「おでんが背中に入ってますねん」
待て。
はうっ……!
……地味に痛くて長引く腹部を殴るツッコミ………
これは、平凡な頭をはたくツッコミに新たな地平を開くかもしれんぞ。貴様、やはりやるな。
人の話を聞け。私はやるとはいってない。
つま先を思いっきり踏む!素晴らしく地味に痛い!
さすが我の見込んだ男。もっとだ!
…………。
ここで何もしない。すると見せかけてしない!いいぞ……!
ふん!
はう……!と見せかけてする!いいぞいいぞ。さあ最後にあの一言を言うんだ!さあ!
……下らん。貴君と道化の振りなどやっていられん。
からの~?からの~?
……?もういい。やめさせてもらう!
どうもありがとうございましたー。……上出来だ。世界も夢ではない。
君は呆然と目の前で起こったことを眺めていた。
まあ、なんというか……。
あのふたりは置いていくにゃ。
う、うむ。早くデザートンを倒さないとな。
さあ、行きますよー♪
君たちはスィー島の混乱を収拾すべく先を急いだ。