【黒ウィズ】ハッピースイーツカーニバル Story6【白猫】
story
〈君たちが次に訪れたところは、バターがたっぷりの甘いビスケット、香ばしいコーン、それに――〉
〈チョコの香りに満ちた場所だった。〉
道がビスケットで出来ているにゃ。
とても立派でしょ。カプリコ城に向かう唯一の道なんですよ。
〈彼女の言う通り、長々と続くビスケットの道の向こうには、鮮やかな彩りの大きな建物が見える。〉
〈きっとあれもお菓子で出来ているのだろう。そんなことを考えていると、〉
あ。あなたは……。
この方々は……ルシエラさんのお知り合いですか?
〈と、いつか見たことのある天使が君の頭上で羽ばたいていた。〉
〈その腕には、見知らぬ少女が抱えられている。ふたりはゆっくりと君の目の前に降りた。〉
えーと……お久しぶりですね……えーと……。
ウィズにゃ。
〈君もそれに続いて、改めて名を名乗った。〉
ですよねぇ!
きっと名前を忘れてたにゃ。
そ、そんなことありませんよ。ウィズさんと……えーと……。
〈君は再び名を名乗った。〉
ですよねえ!覚えていましたよ。忘れるわけありません。
すぐ忘れるにゃ。
君の知り合いか?
〈君がうなずく。〉
〈きっとラヴリの魔法で呼ばれたのだろう。〉
翼があって、なんだか変わった人ね~!
〈君はルシエラに事のいきさつを説明した。〉
〈自分たちがやってきたこと。デザートンのことなど、君の知る全てのことを。〉
なるほど。たしかに私は魔界のお菓子〈ダークサンブラッド〉を食べている最中でした。
あたしも、お兄ちゃんとカティア様とおやつを食べていました。
甘いものを食べていたり、持っていたりする人をこの世界に呼んだというは本当みたいですね。
〈控えめな口調でそう言ったのはルシエラと一緒にいた少女である。
あ、自己紹介もせずにすみません。あたし、ミレイユといいます。
どうかよろしくお願いします。
〈ミレイユという名の少女は深々と頭を下げた。〉
丁寧な子にゃ。どこかの誰かさんも見習ってほしいにゃ。
ピークさん、言われてますよ。
ウィズさん、ちょっとしつれーいじゃない♪
どうしてそうなるにゃ!
デザートンを倒さなきゃ、ずっとこのままの可能性もあります。
そうですね。ここは楽しい世界だけど……向こうにはあたしの帰りを待っている人がいます。
あまり心配させたくないです………
そういう意味ではルシエラも同じないかにゃ?
ん?あ、すいません。途中から全然話聞いてませんでした。
集中力なさすぎにゃ。
ははは……。なんだか変わった人たちが仲間になってしまったな。
story2 吹きすさぶ風
〈君たちがカプリコ城に向かっていると、突然ものすごい追い風が吹き抜けた。〉
うわわわ……。
〈突風がようやく止み、君は薄めた目を開いた。〉
〈そこには、なんというか……暑苦しい男が立っていた。〉
どうだ、僕の運動能力は、すごいだろ?
さてはデザートンの分身か……。
そうさ。俺はマッハ。運動能力が高くて、めちゃモテの男さ。
そこの金色の翼の生えたガール。好きだろ?足の速い男。
あの、すいません。言っている意味がよくわからないです。
どうしてわからない?女子は足の速い男が好きだろ。そこの白い翼のガールは?
え?何ですか?全然話聞いてなかったです。
なんだいキミ、やる気がないのか?
あるか無いかで言えば、無いですよ。
はっきり言い過ぎじゃないかい?少しは遠慮しなよ。まあいいさ。俺とスピード勝負だよ。
どうしてそうなるにゃ。
でも、対決して倒さないといけないみたいだし、受けるしかないんじゃない?
〈君はピークの意見に賛成した。理由はともかく彼らを倒さなくてはいけない。〉
〈そうしなければ、元の世界にも戻れない。〉
やれやれにゃ。で、どうやって勝負するにゃ。
簡単だ。先にカプリコ城に着いたものが勝つ。それだけだ。
ちょっと侍ってください。それなら審判が必要じゃないですか?
ん?それもそうだな。なら君たちの誰かがやるといいよ。どうせ僕が勝つんだけどね。
それじゃあ、ラヴリさん、プレミオさん、ピークさんでいいんじゃないですか?
〈ラヴリは、事情を飲み込めず、首を傾げた。〉
……実は。
〈ルシエラはラヴリになにやら耳打ちする。それを聞いて、ラヴリもなにやら納得したようだった。〉
なんでもいいから、早くしてくれ。僕の足の速さみたいにな?
〈と言って、したり顔でマッハはミレイユを見た。どうだと言わんばかりの表情である。〉
あの……急いだ方がいいですか?
たぶん上手いこと言った、と思ったんじゃないですかねー。
「早い」と「足が速い」がかかっているにゃ。
ああ、なるほど。
そういう説明はスポーツマンシップに反するよ、
君たち……。
story
じゃあ、行くよ!……どん!
言うや否や、マッハはカプリコ城目指して駆けていく。
あ。ずるいにゃ!私たちも追いかけるにゃ!
大丈夫ですよ。まあ、ゆっくりお話でもしながら行きましょう。ちゃんと方法は考えてますから。
〈ルシエラがそう余裕たっぷりに言うので、君は少し拍子抜けする。〉
〈何を考えているのかわからないが、彼女はふわふわとお菓子の道をゆっくりと飛んでいった。〉
〈ルシエラの白い翼を見て、ふと君はミレイユのある変化を思い出す。〉
〈いつの間にか彼女にも翼が生えている。〉
え?あ、すみません!翼が出ちゃってますね………
〈君の視線に気づいて、ミレイユは慌てて翼をしまう。〉
〈君もルシエラと同じ天使なの?と君は訊ねる。〉
て、天使……?違います。あたし……。
〈彼女は少しだけ言いよどむ素振りをした。〉
驚かないでくださいね。あたし、〈フェニックス〉と合成された人間なんです。
〈〈フェニックス〉………たしか物語に出てくる炎の鳥。〉
〈絶えず燃え続けるその炎の様子から、不死の力を備えているともいわれる。〉
〈それと、合成された人間?聞きなれない言葉だが、それが持つ意味は分かる。〉
〈ただし、突拍子もない、現実味のない考えだが……。〉
あたしのなかに〈フェニックス〉のヴィータがいるんです。とても賢い子なんですけど……。
たまにあたしの感情に反応して、〈フェニックス〉の力を表に出しちゃうんです。
さっきはマッハのせいで驚いたから、翼が出ちゃったんだにゃ。
この翼で飛ぶことはできないですが、〈フェニックス〉の力で、炎を使うことはできます。
あと、傷を癒したりもできますけど、天使じゃありません。
それだけ出来れば、充分天使っぽいにゃ。
なるほど、ミレイユさんは鳥さんなんですね。
と、鳥?えーと……。
天使よりは……鳥さんに近いですよね?
えーと……。ど、どちらかといえば、そうですね。
〈認めなくていいよ………と君は誘導されるミレイユに助け舟を出してやる。〉
当の天使がこれにゃ。どちらかといえばミレイユのほうが天使に見えるにゃ。
ルシエラは飛ぶ以外に何か力があるのかにゃ?
えー、ありますよー。私も癒しの力です。
〈そう言われて、君ははたと考え込む。そんな力を見た覚えがなかったからだ。〉
覚えがないにゃ。
気づきませんか?心を癒す。癒しの力です。
……さ、行くにゃ。
い、いいんですか?
〈いいんじゃないかな?と君はルシエラをおいてウィズの後を追った。〉
***
〈しかし――。〉
〈ルシエラは大丈夫だと言うが、カプリコ城に向かっていったマッハの姿ははるか彼方にある。〉
さすがに心配になってきたにゃ。
そうですね。ここからどうやって逆転すればいいのか……。ルシエラさん。
〈ミレイユが不安げな視線をよこすと、ルシエラは、〉
わかりました。ではそろそろお菓子を食べましょうか。
〈と言って、一同にチョコで出来た小石を配った。〉
お菓子……ですか。
そう。お菓子ですよ。どれも甘くておいしいですよ。
〈君は怪訝に思いながらも言われるままに渡されたお菓子を口に放り込む。しかしこれでは………〉
問題の解決になってないにゃ。
〈ウィズの言う通りだった。これで何が解決するのか。〉
〈またルシエラにはぐらかされているのだろうか?〉
でも……甘くておいしいです。
〈だがそんな不安も、お菓子を口に入れた途端に広がる甘い誘いに、かき消される。〉
〈すると……。〉
story4 戦いの行方
はあ、はあ、ここまで来れば大丈夫だろう。
〈マッハはもうゴールであるカプリコ城の目の前まで来ていた。〉
〈ゴールまであと少し。審判のラブリたちの姿もはっきりと見えてきた。〉
はは、ぼ、僕の勝ちだ。僕がナンバーワンだ!
ナンバーワンは!僕だ!
あ、見えてきた。それじゃあ、いきますよ!
甘いの甘いの、いらっしゃい!
にゃにゃ!
あ、ここって……ラヴリさん、プレミオさん、ピークさん。もしかして………
そうです!ゴールですよ。
もしかして私たちを呼び出した魔法で……。
〈だからお菓子を食べたのか。たしかに一気にゴールに到着したけど………〉
〈君は振り返って、後ろを見た。そこには呆然と立ち尽くす悲しい人影がある。〉
ちょ、ちょっと、ずるくないかい。魔法を使うとか反則じゃないか。
でも、特にそういうのを禁止するとは言われませんでしたよ。
言わなかったけど、普通はそうだろ。
あなたの普通と私たちの普通が同じとは思わないでくださーい。
ひどッ!君たちにスポーツマンシップというものはないのかい?
スポーツマンじゃないですから。私、天使ですから。
〈君も魔法使いです、と答える。〉
猫にゃ。
どちらかといえば、鳥です。
なんなんだ、君たちは!も、もうこうなったら力押しだ!覚悟しろ!
〈頭に血が上ったマッハは、君たちに向かって猛然とダッシュしてきた。〉
***
〈向ってきたマッハを君たちは大人げなくこらしめた。元々少し足が速いだけなのだ。〉
〈君たちに戦いで及ぶべくもなかった。〉
僕の負けか……。これじゃあモテないし、お菓子ももらえない。運動能力が高くても……ダメなのか。
それは違いますよ。
〈打ちのめされたマッハの顔に、ふわりと白い羽が一杖降りかかった。〉
あなたは……。
頭が良くないからモテないんですよ。
え?
ついでに言えば、運動能力が高かったらモテるとかそういう発想がちょっと気持ち悪いですね。
〈ひどい、と君は思った。〉
〈折れかけたマッハの心は、ルシエラの容赦のない言葉でぽっきりと折られ、さらに投げ捨てられ、〉
〈埋められて、さらにその上に大きな石を置かれて……。〉
〈とりあえず、それくらい再起不能にされた。〉
もう、やめてあげるにゃ。……やめてあげてほしいにゃ。
〈マッハのむせび泣く声が聞こえる。〉
〈君は顔をそむけて、ただ早くこの声が止んでくれるのを待った。〉
〈どうにかしてやりたくても、かける言葉が見つからなかった。そんな時……。〉
はい。どうぞ。
〈マッハに手を差し伸べたのはミレイユだった。その手の上にはチョコがある。〉
おいしいですよ。きっと泣きたい気持ちも吹き飛ばしてくれます。
〈チョコを受け取ると、マッハはむさぼるようにチョコを頬張った。〉
うまい……。人にもらうチョコはこんなにおいしいんだね。
ええ。そうです。だからあなたもお菓子の独り占めはやめてくださいね。
お菓子はみんなで楽しく食べましょう。そのほうがおいしいですよ。
〈すでに泣き笑いの表情となったマッハは、うんうんと激しく首を縦に振る。〉
あんたは……天使だ。
〈ミレイユは少し悩んでから、答えた。〉
……いえ、どちらかといえば鳥らしいです。
そこはそういうことじゃないにゃ。
〈マッハは満足したような笑みを浮かべながら、ほのかな光を放ち始めた。〉
〈どうやら今回も勝つことができたようだ。〉
彼はようやく、愛されるよりも、愛することが大事だと知ったようですね。
ルシエラの言葉に愛はなかったけどにゃ。
〈改心したマッハが消えてゆくのを見送り、君たちはスィー島のさらに奥へと進んでいった。〉