ヴォルワーグ・思い出
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思い出1
ヴォルワーグ
帝国陸軍所属
ヴォルワーグ・ロマネ大尉だ。
軍服をまとった狼の獣人が、
毅然と声を張り上げる。
ヴォルワーグ
着任のあいさつがしたい。
バロン殿はおられるか!
アイリス
バロンさんのお知り合いですか?
ヴォルワーグ
うむ。バロン殿が
この島の警備を憂いたゆえ、
帝国から私が派遣されたのだ。
キャトラ
そ、そうなんだ……
影響力ある人だったのねぇ……
ヴォルワーグ
なんだ、知らんのか?
嘆かわしい……
ヴォルワーグ
まあいい。
着任した以上は全力を尽くす。
ヴォルワーグ
帝国陸軍の力……
とくと見るがいい!
思い出2
アイリス
ヴォルワーグさんは、狼の獣人さん
なんですね。
ヴォルワーグ
そうだ。人間の身に、耳や尻尾だけが
生えたような半獣どもとは違う。
ヴォルワーグ
獣の身体能力を持ちながら、
人間の起用さで武器を振るう……
ヴォルワーグ
ことに自然領域の戦いにおいて、
我ら獣人は無類の強さを誇る。
ヴォルワーグ
我が帝国軍には、獣人だけで
結成された精鋭部隊もあるほどだ。
アイリス
へぇ……すごいんですね!
ヴォルワーグ
ふん。真価は戦闘ばかりではない。
優れた嗅覚は災害救助でも……
ヴォルワーグ
がはぁっ!?
アイリス
ど、どうしたんですか!?
キャトラ
は~。やれやれ。
困ったもんだわ~。
アイリス
キャトラ?
キャトラ
今、村で、
ニシンを発酵させて保存した料理の
試食会をやっててねぇ~。
キャトラ
伝統料理らしいんだけど、ニオイが
キツすぎて逃げてきたのよ~。
キャトラ
……あら? ヴォルワーグ?
うずくまって、何かあったの?
アイリス
能力が高すぎるのも大変……
みたいな?
思い出3
アイリス
こんにちは、ヴォルワーグさん。
これからお茶会なんです。
キャトラ
アンタも来る~?
ヴォルワーグ
結構だ。これから訓練なのでな。
……私はあいつとは違う。
キャトラ
あいつ?
ヴォルワーグ
我が軍に紅茶好きの少尉がいてな。
腕は確かなのだが……
ヴォルワーグ
行軍時にまで紅茶を持ち込むのだ。
余分な荷重になるというのに。
キャトラ
はあ……いいんじゃない?
増えるって言っても紅茶でしょ?
ヴォルワーグ
紅茶は我が国の名産品であり、
私も愛しているが、
それとこれとは別だ。
ヴォルワーグ
装備は重量を鑑みて厳選するもの。
茶葉だろうと余分は余分だ。
ヴォルワーグ
だいたい女が軍に入ること自体……
軍の規律に悪影響が……ぶつぶつ。
キャトラ
……頭カタそーねぇ、アンタ。
思い出4
ヴォルワーグ
むぅ……
キャトラ
どうしたの、ヴォルワーグ。
難しいカオしてるわね~。
ヴォルワーグ
最近、軍の規律が緩みつつあると、
バロン殿に相談したのだが……
ヴォルワーグ
バロン殿は、『時代は変わるものだ』
とお笑いになってな……
キャトラ
ああ、『女が軍人になるなんて』
とか言ってたアレ~?
ヴォルワーグ
うむ……
ヴォルワーグ
決して女性を下に見るわけでは
ないが……戦うのは男の務めだ。
ヴォルワーグ
これは古代からの風習でもあるし、
実際、男の方が力に優れている。
ヴォルワーグ
部隊に女がいれば、変に色目を使う
軟弱者が現れて規律が乱れるし……
ヴォルワーグ
だいたい男同士の尊厳を賭けた
神聖な戦場に女が出るなど……
ヴォルワーグ
……
アイリス
……ヴォルワーグさん?
ヴォルワーグ
……いや。
結局、私の頭が固いだけか……
ヴォルワーグ
時代は変わる。
私はそれに取り残されていると……
そういうことか……
思い出5
ヴォルワーグ
主人公……
おまえはどう思う?
ヴォルワーグ
やはり、私を時代遅れの堅物だと、
そう笑うか……?
アイリス
ヴォルワーグさん……
ヴォルワーグ
……自分でもわかっているのだ。
変化の波が来ていると。
ヴォルワーグ
モンスターの増えた今、時として、
軍人より、おまえたちのような
冒険家の方が、人を救えもする。
ヴォルワーグ
女が戦場に出ることもある。
子供でさえ己の意思で戦う。
ヴォルワーグ
そういう世の中になってきたのだと
……頭ではわかっている。
ヴォルワーグ
だが……そうなれば、
我々が築いてきた誇りはどうなる?
ヴォルワーグ
男たちが命がけで築いてきた誇りは
……時代遅れの遺物なのか……?
思い出6
ヴォルワーグ
これは、なんと気高く、
そして雄雄しい光なのだ……
ヴォルワーグ
主人公……
これがおまえの光か……
ヴォルワーグ
…………ふ。
ヴォルワーグ
そうだな―――そうだった。
俺にもそんな頃があったのだ。
ヴォルワーグ
笑いながらも情熱を抱え……
若さを侮られぬよう努力した時が。
ヴォルワーグ
あの時、俺は
『若いお前に何ができる』
と言う連中に反発してきた。
ヴォルワーグ
時代遅れの堅物共に、自分の力を
見せてやりたかったのだ……
ヴォルワーグ
まさか―――おつしか自分がその
堅物になってしまっていたとはな。
アイリス
でも……あなたは気づいた。
今の自分に、変革の波に。
ヴォルワーグ
……ああ。
おまえたちのおかげでな。
ヴォルワーグ
変化は起こる。時代も移る。
だが、変わらぬものもある。
ヴォルワーグ
軍人が民を守るために戦う……
それだけは変わるまい。
ヴォルワーグ
ならば私は、その誇りを抱き抜く。
どんな時代でも――ずっとな。
そう言って――ヴォルワーグは、
ニヤリと笑った。
ヴォルワーグ
抱いた誇りを貫ける……それが、
堅物の取り柄だというものだからな!