パン・思い出
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思い出1
パン
……
数匹のうさぎを連れた少女が、
じっ……と
こちらを見つめている。
アイリス
そのうさぎ―――
パン
…………。
うさぎ……好きですか……?
アイリス
うん。かわいいよね。
パンは、うっすらと唇を曲げた。
……微笑んだらしい。
パン
あなたたち……いい人……
パン
私……パン。
失われた魂を呼び戻す……
霊媒師……
キャトラ
じゃ、じゃあ……死んだ人を
生き返らせてくれるの!?
パン
それはだめ……私が呼び戻すのは、
うさぎだけ……
そう言って、
パンはうさぎを連れ去っていく。
キャトラ
ま、まさか、あのうさぎって……!
アイリス
霊体……だと思う。
死んだうさぎの魂が、
現世に具現化しているの。
キャトラ
そ、そんなことできるのぉ!?
アイリス
きっと……
それが、あの子の力なのね……
思い出2
アイリス
こんにちは、パンちゃん。
アイリス
また……会ったね……
この子たちも……うれしいって……
キャトラ
そ、そうなんだ……
微笑むパンの足元を回るうさぎたち
―――その姿は、生きているように
しか見えないが……
アイリス
ねえ……さわってもいいかしら?
アイリスが屈みこんで訪ねると、
パンの顔から笑顔が消えた。
パン
それは……だめ。
パン
この子たち……パンの友達。
あなたたちの友達じゃ、ない……
パン
だから……だめ。
絶対に……あげない……
思い出3
パン
ふふ……
パンが、うさぎをなでて微笑む。
やわらかく、穏やかな表情だ。
アイリス
こんにちは、
うさぎさん、本当に好きなのね。
パン
うん。かわいいし……
もふもふしてるから……
パン
それに……
アイリス
それに?
パン
昔もらった人形が、うさぎで……
大事にしてた。
はじめての友達だったから……
パン
でも……ぼろぼろになって。
捨てられた……
私、ひとりぼっちになった……
アイリス
そうだったんだ……
さびしかったのね。
パン
うん……でも、今は平気。
パンは、うっすらと笑う。
パン
気が付いたら、
この子たちがいてくれたから……
だからもう、さびしくない……
思い出4
アイリス
こんにちは、パンちゃん。
その子たちも、元気そうね。
パン
うん……死んでるけど、元気。
キャトラ
そ、そういうもんなのぉ?
パン
この子たち、霊体だから。
心が元気なら、死んでても、元気。
愛おしそうに、うさぎをなでながら
―――パンは、ぽつりと
暗いつぶやきをこぼす。
パン
生きてたら……
いつかパンを置いていっちゃう。
ずっといっしょにいられない。
パン
この子たちは、霊だから……
そんなことない。
永遠にいっしょ。さびしくない……
ふいに―――
アイリスが、
パンの頭を優しくなでた。
パンは、びっくりして
アイリスを見上げる。
パン
な、なに……?
アイリス
私たちは生きているから、
ずっといっしょには
いられないけど……
アイリス
いつかいなくなるのだとしても……
ずっと友達同士でいることは、
できると思う。
アイリス
だから、よかったら、
あなたと友達になりたいな……
だめかしら?
パン
う……あ。
あわあわとうろたえたパンは、
うさぎを抱えて
ダッと駆け出していく。
キャトラ
ふぅん。脈なし……ってわけじゃ
ないみたいねぇ。
思い出5
パン
あ……あの―――
顔を赤らめ、
うつむいてもじもじとしながら、
パンが声をかけてくる。
パン
あの……ええと……
その―――うぅ……
キャトラ
どうしたの~?
あ、ひょっとして……
パン
ま、待って! 言わないで!
パン
私―――私が、自分で言わないと……
じゃないと、意味がないから……!
パン
だ、だけど……うぅ……
そうなんだけど……
思い出6
パン
この、光……
目を見張るパン―――
その時、
いくつものささやきが響いた。
小さなうさぎ
パンちゃん、がんばって!
まんまるうさぎ
だいじょうぶだよ、パンちゃん!
元気なうさぎ
勇気を出して、正直に! ね?
パン
う……あ。
響く声に、
パンは涙声でうめいて―――
パン
あ、あの!
意を決し、
こちらに向かって頭を下げた。
パン
お―――お願い……
みんな―――私と友達になって……!
キャトラ
いいのぉ?
アタシたち、生きてるけどぉ……
パン
そ、それでもいいの!
ずっといっしょにいられなくても、
私、みんなと、友達になりたいっ!
叫ぶパンの頭を、アイリスがなでる。
パンがうさぎたちにするように。
アイリス
うん。みんなで、友達になろう。
パン
う―――うん……! うん!
太陽のように明るい笑顔で、
パンはぶんぶんとうなずく。
その足元で、
うさぎたちが、祝福するように
飛び跳ねていた―――
思い出7
パン
あ……あのね……みんな……
キャトラ
どうしたの、パン?
パン
うさぎさんたちがね……
パンは……もっと笑ったほうが
いいって……
アイリス
私もそう思うわ。
笑って、パンちゃん。
パン
……まだ……怖いの……
いつか、お別れしなくちゃ
いけないのが……
アイリス
パンちゃん……
パン
でも私、笑いたい……!
いつもみんなと、
笑ってたいの……!
思い出8
パン
あったかい……
まるで、うさぎさんたちに
囲まれてるみたい。
パン
えっ……私……
笑ってる……の……?
パン
……ありがとう
主人公。
もう……怖くないよ
パン
私……ずっとみんなと
笑っていたい。
これからも……よ、よろしくね。