ミシェル・思い出
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思い出1
???
ここが噂の飛行島……
すごい、本当に空を飛んでるよ!
あどけない笑顔を浮かべた少年が、
瞳を輝かせて辺りを走り回る。
アイリス
初めまして。
あなたのお名前は?
ミシェル
こんにちは、僕はミシェル!
今日からここでお世話になります!
頭を下げるミシェルの後ろから、
羽の生えた小さい女の子が
ひょこりと顔を覗かせる。
???
ミシェル、言ったでしょ?
自己紹介は~!
ミシェル
あぁ、そうだった!
えっと……――
ミシェル
ふとんがふっとんだ!!
キャトラ
……は?
ミシェル
トイレにいっトイレ!!!
アイリス
え、えっと……?
キャトラ
それは……ダジャレ、なの?
ミシェル
だ、ダジャレ!? そんな……
飛行島に受け継がれる、
伝統的な挨拶だって!
アイリス
……そうなの、キャトラ?
キャトラ
いや、絶対違うよね!?
明らかにダマされてるよね!?
???
……ぷっ、あははははは!
ミシェル
ああっ!
シルフィーお前
ダマしたなぁっ!?
???
気付くのが遅いわよ、ミシェル。
まだまだ大人には程遠いわね~。
キャトラ
シルフィーって、妖精さんの名前?
シルフィー
そう、私がシルフィー。
妖精じゃなくて精霊なの。
ミシェルの保護者ってところかな。
アイリス
妖精じゃないんですか?
シルフィー
性質はほとんど変わらないけど、
精霊は肉体を持たないの。
ソウルの力で人型を
保っているけどね。
キャトラ
精霊が人間のお守りなんて
初めて聞いたわ。
シルフィー
普通は自由気ままな精霊を
人間が手なずけるものなのよ?
本来ならお守りなんて
絶対にお断りなんだけど……
シルフィー
こんな感じで
ダマされやすい子だから
おもしろ…いや、心配で……
キャトラ
おもしろ……?
ミシェル
こ、子供扱いするなっ!
僕だってもう、一人前なんだぞ!
シルフィー
はいはい。
一人前の人は隠れて
敬語を練習したりしません。
ミシェル
ど、どうしてそれをっ!?
シルフィー
そして、ダマされて古いダジャレで
挨拶したりしません。
キャトラ
ダマした本人が言った!?
思い出2
ミシェル
やぁ、アイリス、今日もすっごく
か、かわ……
アイリス
?
キャトラ
……アンタ、何がしたいの?
顔、真っ赤だけど。
ミシェル
女性をスマートにホメるのが大人の
男だって、本で読んだから……
キャトラ
どんな本よ、それぇ!?
アイリス
ミシェルくんは、
どうして大人になりたいの?
ミシェル
大人になれば、シルフィーに
認めてもらえるでしょ?
そうすれば精霊の故郷へ
行けるんだよ!
キャトラ
精霊の故郷……?
ミシェル
精霊はソウルの結晶みたいなもので
ルーンの力を高める能力がある。
僕の故郷は、その力を借りて
栄えた国家なんだ。
ミシェル
国家は恩を感じて、
精霊たちをとても大切にした。
そのおかげで、今では人間も精霊も
家族同然に暮らしてるんだよ。
アイリス
ふふ、素敵な国なのね。
ミシェル
王家には特別なしきたりがあって、
精霊とパートナーになる
契約を結ぶんだ。
ミシェル
先代の王が精霊の故郷へ導かれ、
力を得て国を治めたことから、
相棒の精霊と故郷へ行くことが、
王になるための試練なんだ。
キャトラ
なるほど、だから精霊の
故郷を探してるのね~。
キャトラ
……って、アンタ王家の人なの!?
ミシェル
えっへん! 一族の英雄だった、
ひぃひぃじいちゃんみたいに
慕われる王様になるんだ!
アイリス
じゃあ、王様はみんな精霊の故郷に
行ったことがあるの?
ミシェル
うん、でも、場所は絶対に秘密
なんだ。自由な精霊に認めさせて
そこに連れて行ってもらえるか
どうかで王になれるかが
決まるんだって。
ミシェル
僕も、早くシルフィーに
認めてもらえるように
頑張らないと!
キャトラ
それで大人にこだわってるわけね。
シルフィー
うーん、心配だわ……
アイリス
あ、シルフィーさん!
ミシェル
心配しないで!
努力を続ければ、絶対に報われる
ってお父さんが言ってた!
シルフィー
そ、そうなんだけど……
いい? 王様になるには、
強い意志が必要なの!
先代の王様は――
ミシェル
また始まった……
はいはい、わかってるよ~!
シルフィー
こらっ!
最後まで聞きなさいってばーっ!
アイリス
行っちゃった……
思い出3
ミシェル
う~ん……、
どうしたら大人になれるかな?
キャトラ
まだ悩んでるの?
ミシェル
みんなに子供扱いされるんだ。
もう、やめてほしいよ。
シルフィー
――そういうことなら、
女の子を口説いてみるとか!
ミシェル
く、口説く……っ!?
シルフィー
そう、女の子を口説ければ、
少しは大人に近付けるんじゃない?
シルフィー
まぁ……まだ子供のミシェルには
難しいかしらね~、ふふっ。
ミシェル
な、何言ってるんだよ!
それくらい、朝飯前だぞ!
シルフィー
ふふ、じゃあ決まり!
アイリス、相手役お願いね~!
アイリス
わ、私ですか……?
シルフィー
大人の男になろう作戦、第一弾~!
『デートに誘う!』
ミシェル
で、デートに!?
え、えっと……場所は……
ミシェル
あっ!
新しくできたお菓子屋さんに
行ってみたいと思ってたんだ!
アイリス
そこ、私も行きたいと思ってたの。
一緒に行きましょう?
シルフィー
むむ、いつもマダム達を
うならせるだけあるわね……
キャトラ
えええっ、これでいいのぉ!?
シルフィー
第二弾! 『手をつなぐ』 !
ミシェル
手をつなぐ!?
え、えっと……
ミシェル
僕、手が小さいのが悩みなんだ。
女の子と比べても……ほら。
アイリス
どれどれ……あ、本当だ。
シルフィー
会話の流れで自然と手を
触れさせる高等技術……やるな。
キャトラ
ねぇ、だからあれでいいの!?
本当にいいの!?
シルフィー
第三弾! 『告白』 !
キャトラ
展開はやぁっ!
ミシェル
こ、告白!?
え、えっと、そのぉ……!
ミシェル
そ、その……す、す……す……
す……すぅ……
ミシェル
……や、やっぱり無理だぁ!!
まだ、僕たち知り合って
間もないし、その……
シルフィー
そういう問題じゃないの!
恋愛に時間は関係ないのよ!
キャトラ
本来の主旨はどこいったのよぉ!?
思い出4
ミシェル
おっとっと……
アイリス
どうしたの? そのお菓子の山……
ミシェル
な、なんでもないよ!
別に、シルフィーの元気がないから
買ってきたわけじゃ……!
アイリス
え……シルフィーさんのために?
ミシェル
ああっ、しまった!
二人だけの秘密だったのに~!
アイリス
ふふ、優しいのね。
キャトラ
アイリスー! ミシェルー!
やっほー!
キャトラ
ああっ!!
なに、この大量のお菓子!?
ミシェル
えっと……
これは僕とシルフィーの……!
キャトラ
ポリッツにキャルボ……
ペイの実もある~!
キャトラ
おいしそう~!
食べたいなぁ~! じー。
アイリス
キャトラ、これは
ミシェルくんが……
キャトラ
こんなにあるんだから、
少しくらいいいでしょ?
アタシたちと一緒に
食べちゃおうよ~!
ミシェル
……うぐっ。
実は、僕も食べるの
我慢してたんだ……。
キャトラ
ちょっとくらいなら大丈夫~!
……はむっ!
アイリス
もう、キャトラってば!
ミシェルくん、大丈夫なの?
ミシェル
一つくらいなら……はむっ!
アイリス
あ、食べちゃった……
シルフィー
…………
アイリス
あっ、シルフィーさん……
キャトラ&ミシェル
!?
キャトラ
あばばっ、これは、そのぉ……
ミシェル
シ、シルフィー!?
違うんだ、これは――
シルフィー
……ミシェルのバカッ!
二人で食べようって約束したのに!
シルフィー
王様は優しいだけじゃダメ。
強い意志が必要なの。
どうしてすぐに誘惑に
負けちゃうのよ!
シルフィー
――もう、ミシェルなんか
知らない!
ミシェル
シルフィー……
キャトラ
……アタシ、
もしかしてまずいことした?
アイリス
私も、ちゃんと
止めればよかった……
思い出5
ミシェル
…………
キャトラ
ミシェル、この間はゴメンね!
アタシ――
キャトラ
――って、ど、どうしたの!?
そんな泣きそうな顔して~!
ミシェル
どうしよう、シルフィーが、
シルフィーが…!
アイリス
シルフィーさんが、どうかしたの?
ミシェル
これ……
ミシェルの手には
光り輝く球体が握られている。
アイリス
これは……?
ミシェル
シルフィーだよ。
キャトラ
……え、ええええええっ!?
ど、どういうことっ!?
ミシェル
力が弱まって、
人型を保てなくなったんだ……
アイリス
そんな……どうして?
ミシェル
詳しいことはわからないけど……
ミシェル
契約を交わした精霊は、
パートナーとの絆が強いほど
力を発揮するといわれているんだ。
それが関係してるのかも……
アイリス
二人の心が離れたから、
力が弱まったってこと……?
ミシェル
わからないけど、
それ以外考えられないんだ……
ミシェル
きっと、シルフィーは
僕の顔なんて見たくないんだ……!
僕が子供で、頼りなくて、
困らせてばっかりだから……
ミシェル
僕がシルフィーを
追い詰めたんだ……っ!
キャトラ
ミシェル……
思い出6
ミシェル
――うわぁっ!?
ミシェル
優しくて、温かい光……
なんだか勇気が湧いてくる……
ミシェル
この光は、ルーンの力……!?
アイリス
シルフィーさんは、
ミシェルくんからの言葉を
待ってるんじゃないかな?
ミシェル
僕の言葉を……?
アイリス
悩んでるのはミシェルくんだけじゃ
ないのかもしれないよ。
キャトラ
そうそう。
ちゃんと言葉で伝えないと、
気持ちは伝わらないよ!
ミシェル
…………
ミシェル
シルフィー、これからも僕と一緒に
旅を続けてくれないか?
ミシェル
僕はシルフィーと一緒に
精霊の故郷へ行きたいんだ!
シルフィー
…………
眩い光が辺りを包む。
気がつくと球体は消え、
代わりにシルフィーが姿を現す。
シルフィー
……ミシェル。
ミシェル
シルフィー……!?
本当にごめんなさい。
僕のせいで――
シルフィー
ううん、私こそごめんね……
シルフィー
私ね、ミシェルと一緒に
旅をしていけるか悩んでたの。
シルフィー
ミシェルを導くのが私の役目なのに
ただ口うるさいだけの自分が
情けなくて、焦るほど力が
弱っていって……
シルフィー
だからミシェルの想いを聞けて、
すごく嬉しかったよ。
ミシェル
そ、それって……!
シルフィー
ミシェルは世界に一人しかいない、
私の大切なパートナーだもん。
シルフィー
仕方ないから、
私がビシバシとしごいてあげるわ。
ミシェル
シルフィー……!
僕、がんばります!
シルフィー
精霊の故郷へ行くのはそれから!
まだまだ先は長いんだからね!
ミシェル
うん! これからもよろしくね!
アイリス
……ふふ、いつもの
二人になってよかった。
キャトラ
頑張んなさいよ~!
二人のこと、
全力で応援してるんだからね!
ミシェル
うん! 見ててね、絶対に
精霊の故郷に辿り着いてやる!