お正月版イリア・思い出
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思い出1
……明けまして、
おめでとう。
キャトラ
もっと、めでたそうに
言いなさいよ……
言えと言われたから、
言ったまでだ。めでたいと
思っているわけではない。
アイリス
でも、言ってくれたんですね。
ありがとうございます、イリアさん。
……慣れない役目だ。
次は他の者に頼め。
キャトラ
それにしても……
あんたの格好、ちょっと怖くない?
それも<正月>なわけ?
タツノシンが言うには、
そうらしい。
奴が生まれた東の島にも、
<正月>というものは
あるそうでな――
イリア
そういうわけだ。
<正月>らしい格好とやらを
しなければならない。
タツノシン
なるほどねェ。
しろと言われてするようになる
たァ、あんたさんも、ちょいと
丸くなりやしたねェ。
イリア
放っておけ。
それで、どうだ。
心当たりはあるのか?
タツノシン
任せてくだせェ。
知り合いに、いい呉服屋が
いやしてね――
タツノシン
こちらの旦那でさァ。
こりゃべっぴんさんだな。
おうおう、タツノシンのおっさん、
あんたも隅におけないねぇ。
イリア
東の島には、とにかく無駄口を
叩かねばならない、という風習でも
あるのか?
怖ぇ怖ぇ。こういうタイプにゃ、
やっぱこの格好が
似合うんじゃねぇかな?
タツノシン
お、いいねェ。さすがは旦那の
見立てだ。ささ、姐さん。
さっそく着てみなせェ!
……と、いう具合だ。
キャトラ
タツノシンに頼んだのが、
そもそもズレてたんじゃない?
思い出2
ダリア
あ、イリア! やっほー!
ヒュウガ
お? なんか、動きやすそうな
カッコしてんな!
勝負しようぜ!
キャトラ
新年早々!?
いいだろう。
キャトラ
アンタもためらいとかないのね!?
ダリアたちとは、よく手合わせを
している。日課のようなものだ。
キャトラ
へぇ~。ちょっと意外ね。
アンタたちの気が合うなんて。
ダリア
確かにイリアはクールだけど、
けっこう付き合いいいんだよ!
武技の修練に関してだけだ。
手合わせの相手は
多いに越したことはないからな。
ヒュウガ
わかるぜ、イリア! ライバルは
多ければ多いほど、この拳も熱く燃え上がるってもんだ!
拳が燃えるかどうかはともかく、
その意見は、まちがってはいない。
アイリス
ふふっ、本当に気が合うんですね。
キャトラ
ていうか単に、3人とも戦闘バカなだけよね、これ。
さて……私もちょうど、
身体を動かしたいと思っていた
ところだ。
ヒュウガよ。
おまえの申し出、受けて立とう。
ただし――
ヒュウガ
わかってるって。
やるからにゃあ、お互い全力だ!
行くぜ!
ああ――来いッ!!
ダリア
次、勝った方は私と修行ねー!
キャトラ
うーん、アタシたちには
ついていけない世界だわ~。
アイリス
そうね。でも、ちょっと
うらやましいな。
思い出3
キャトラ
イリアってさ。
ひょっとして、強いヤツが好き?
好き、というわけではないが……
優れた技量を持つ相手のほうが、
矛を交えていて充実感を
覚えるのは確かだ。
アイリス
そうなんですね。
たとえば?
……アンナだな。
貴族の令嬢と侮っていたが、
ヤツの培ってきた戦闘センスは、
並みの槍使いの比肩しうる
ところではない。
キャトラ
センスっていうか……
ビームとか出すしねぇ……
聞けば、セイクリッド公爵の一人娘
だという。であれば、その強さも
うなずけるというものだ。
アイリス
アンナさんのお父さん、
そんなに強いんですか?
<戦神>セイクリッド公といえば、
世界に武名を轟かせる
槍術の達人だ。
槍の一閃で、並みいる敵を
鎧袖一触に薙ぎ払う、
まさに一騎当千の古強者――
あまりの強さゆえ、
<竜と契約して力を授かった>と
まことしやかにウワサされている。
アイリス
イリアさんは、戦ったことは
ないんですか?
残念ながらな。
キャトラ
残念なんだ……
音に聞く<戦神>の力が
いかほどのものか、
やはり試してみたくはある。
ただ……
アイリス
ただ?
手合せを申し入れたのだが、
『娘の友達を傷つけたら、娘に
嫌われてしまうから』と、
断られ続けている……
キャトラ
……弱腰じゃん。そのパパ。
思い出4
キャトラ
イリアってさ。
ひょっとして、強いヤツが好き?
その質問には、
前に答えたと思うが?
キャトラ
今度は、ラブ的な意味で。
……………………
キャトラ
そんな不機嫌にならなくても。
不機嫌というわけではないが、
正直、考えたこともない話だ。
アイリス
そうなんですか?
これまで、気になった人とかは?
ない。
キャトラ
となると、イリアのタイプの男性を
アタシたちで探すしかないわね!!
なぜそうなる……?
キャトラ
第1問!
熱血タイプとクールタイプ、
どっちがいい!?
うるさいよりは、静かなほうが
マシだな。
キャトラ
第2問!
感性で動くタイプと知的なタイプ、
どっちがいい!?
状況を把握し、冷静に判断する力に
欠ける者は、戦場では足手まといに
なる。
キャトラ
第3問!
スリムな痩せ型と、
がっしりした筋肉質、
どっちがいい!?
体力の差は、往々にして勝敗を
分ける要因となる。
アイリス
まとめると……
キャトラ
クールで、
知的で、
がっしりした人……
カムイ
あ、どうも、恐れ入ります!
クールインテリシティボーイベアの
カムイと申します。
呼びました?
キャトラ
……ごめんイリア。
やっぱなんでもないわ。
なんだったというのだ。
思い出5
キャトラ
ヒュウガじゃないけど、
イリア、この島に来てから、
確かに丸くなったわよね。
変化のない人間などいない。
……それについては、
よく知っているつもりだ。
アイリス
イリアさん――
ただ――だからこそ、自分はもう
<変わる>ことなどないだろうと、
そう思っていた。
人ではなく、槍となって――
<変わりえぬ>ものに、
成り果てたのだろうと……
アイリス
じゃあ――それでも変われた
イリアさんは、やっぱり、
槍じゃなくて人間のままだった、
ってことですよね。
どうやら、そうらしい。
昔は、怖いとさえ感じていた。
<人は変わる>ということを。
<変わってしまう>と
いうことなのだと。
アイリス
いい人が、悪い人になってしまう。
そういうことがあってしまうから、
ですね。
キャトラ
でも、だったら逆もある、
ってことだよね。
で、あるならば――それを
怖がっていたところで
何もできはしない。
誰が変わろうが、変わるまいが……
騎士のすべきことは、
それこそ変わりがない。
敵ならば倒す。味方ならば守る。
その誓いを、抱き続ければいい――
キャトラ
吹っ切れたって感じねぇ、イリア。
よかったじゃなーい?
この島には、
珍妙な輩が多すぎるからな。
そんなことで悩んでいるのが、
馬鹿馬鹿しくなるというのもある。
キャトラ
なんでこっちを見て言うのよ!
改めて考えると不思議に思えてな。
……おまえは、なぜ、
猫なのに言葉を話せる?
キャトラ
今さらソレ聞くぅ!?
アイリス
ふふっ――そうですよね。
普通、そこ、気になりますよね。
キャトラ
納得いかなぁーい!
思い出6
ダリア
おーい! イリア~!
どうした?
また手合せがしたいのか?
ヒュウガ
それは、さっきさんざんやったろ。
熱いバトルのあとといったら――
メシだぜ、メシ!!
ダリア
ルーグとマイとキャシーが、
あっちで鍋の準備をしてるんだ!
アイリス
鍋! いいですね!
ヒュウガ
熱く拳を交わし合い、
熱く鍋をつつき合う!
好敵手の基本だぜ!
キャトラ
そーかなぁ。
鍋、か……
ダリア
イリアさ、いつも干し肉とか、
味気ないもの食べてるじゃん?
たまには、パーッとやろうよ!
パーッとさ!
――いいだろう。
ヒュウガ
お! わかるじゃねぇか!
経験がないわけではない――
かつては、部下たちとともに、
よく勝利の宴を開いたものだ。
だが、パーッと、と言うには、
いささか規模が小さいな。
どうせなら、武勇を誇る者たちを
ありったけかき集めるのがいい。
さてヒュウガ、おまえのライバルと
やらは、何人いるかな?
ヒュウガ
言いやがったな!
見てろ、開いた口がふさがらねぇ
くらい、強者どもを集めてやるぜ!
アイリス
楽しい鍋になりそうですね、
イリアさん。
キャトラ
あいつが知り合いを集めるって
なると、楽しいっていうか、
騒がしい鍋って感じに
なりそうだけどね~。
だろうな。
しかし、たまには騒がしいのも
いいだろう。
年に一度の<正月>とやら
なのだからな――