ヒナ・思い出
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思い出1
アイリス
あれ？
木の上になにかあるみたい。
キャトラ
……鳥の巣？
ずいぶん大きいわねえ。
大きな鳥の巣のようなものから、
なにかの気配がする。
？？？
……ピヨ？
キャトラ
女の子！？
この巣の中で寝てたの？
？？？
……パパ。
キャトラ
ええーっ！？
なにいってんの、この子？
ヒナ
……ヒナの、パパ。
キャトラ
なんで主人公を
パパだと思ってるのかしら。
アイリス
あなた、ヒナちゃんっていうの？
ヒナ
うん。
アイリス
どうしたの？
迷子になっちゃったの？
ヒナ
……ううん。自分できた。
アイリス
自分で？
たったひとりで、どうやって……
ヒナ
鳥さんを追いかけていたら、
気づいたら、ここにいたの。
キャトラ
鳥を追いかけてたですって？
ヒナ
ヒナは、鳥さんみたいに、
さえずりたいの。
キャトラ
『さえずりたい』？ なにそれ？
それに、アンタ、どうして
鳥の巣なんかに入ってたの？
ヒナ
……巣の中は……落ち着くから……
キャトラ
まさか、アンタが
この巣を作っちゃったの？
ヒナ
うん。
……小枝を集めるの、大変だった。
キャトラ
そりゃあ、この大きさじゃね。
ていうか、なんで巣を作るのよ……
ヒナ
……パパも一緒に入れるよ？
キャトラ
また、変わった奴が
増えちゃったわねえ。
思い出2
キャトラ
ねえ、ヒナ。アンタ、
いったいどこから来たの？
ヒナ
……産まれたのは、
＜ピヨピヨの島＞。
キャトラ
＜ピヨピヨの島＞？ なにそれ？
もしかして、住んでる人は
全員ピヨピヨしてるとか？
ヒナ
うん。みんな鳥さんと友達だから
ピヨピヨお話できるの。
キャトラ
鳥と話！？ まあ、アタシも
猫だけど人と話せるし、
世の中、そういうこともあるかも。
ヒナ
ヒナは、もっと、鳥さんみたいに
きれいにさえずりたいの。
ヒナ
だから、きれいな声の
鳥さんを追いかけたら、
ここまで来ちゃった。
キャトラ
そういや、アンタ、
鳥を追いかけて、
飛行島に来たっていってたっけ。
キャトラ
でも、勝手に出てきたら、
＜ピヨピヨの島＞の家族が
心配してるんじゃない？
ヒナ
ううん。平気。
ヒナのパパ、ここにいるもん。
キャトラ
だけど、アンタを育ててくれた人が
いたはずでしょ？
ヒナ
小さいとき、育ててくれたのは、
鳥のパパとママ。
アイリス
（じゃあ、ヒナちゃんの
本当のご両親って……？）
ヒナ
ヒナ、大きくなったから、
鳥のママとパパにもらうだけじゃ、
ごはんが足らなくなっちゃったの。
ヒナ
だから、＜ピヨピヨの島＞を出て、
大きい島に行ったんだよ。
キャトラ
アンタ、子どもでしょ？
どうやって生活してたのよ？
ヒナ
ヒナ、
＜マーチングバンド＞に入ったの。
ヒナ
＜マーチングバンド＞では、
＜さえずりの力＞を勉強しながら、
ごはんと寝るところが
もらえたんだよ。
キャトラ
まーちんぐばんど？
アイリス
＜マーチングバンド＞
……つまり、行進しながら
演奏する音楽隊のことね。
ヒナ
ヒナが演奏してたのは、これ。
＜フルーピョ＞。
ヒナ
＜フルーピョ＞は
＜さえずりの力＞を
持つ楽器なんだよ。
キャトラ
へえ、初めて見る楽器ね。
ヒナ
みんなで演奏楽しかった。
でも、今は……
キャトラ
なにかあったの？
ヒナ
王様が、もう、音楽はあきたから
だれも、演奏しなくていいって……
キャトラ
それって……！ 突然、みんなを
クビにしたってこと！？
なんて勝手なの！？
ヒナ
でも、もし、ヒナが
もっと、きれいにさえずれば、
王様もまた音楽聞きたくなるかも。
ヒナ
＜フルーピョ＞
もっとうまく演奏できれば、
＜マーチングバンド＞
続けられるかもしれない。
ヒナ
あ、パパ。
……ヒナ、おなかすいた。
ヒナ
……木の実が、食べたいな。
キャトラ
さすが、主人公。
用意が早いわね。
アイリス
ちょうど、保存食の
木の実やドライフルーツを
持ってたのね。
ヒナ
ありがとう、パパ。
キャトラ
……もしかして、
ヒナってかなりマイペース？
ヒナ
……ピヨ？
アイリス
ヒナちゃん、ここには、
いくらでもいていいのよ？
キャトラ
そうよ、誰も出て行けなんて
いわないからね！
ヒナ
……うん！
思い出3
ヒナが、飛行島の端で、
＜フルーピョ＞を
演奏している。
アイリス
かわいい音色ね。
まるで、小鳥のさえずりみたい。
小鳥
チチチ……
キャトラ
ん？ 小鳥が……？
＜フルーピョ＞を演奏する
ヒナの周囲を、
たくさんの小鳥が飛び始めた。
キャトラ
な、なにこれー！？
ヒナ
パパ。……アイリスとキャトラ。
キャトラ
どうしたのよ、この鳥の群れは！
小鳥たち
チチッ。チチッ。ピーピー。
ヒナ
これ……
＜フルーピョ＞の力。
鳥さんたちみたいな
＜さえずり＞の音が出るの。
ヒナ
＜ピヨピヨのルーン＞の
力なんだよ。
キャトラ
そっか。いったい、
どうやって呼んだのかと思ったわ。
ヒナ
パパ、聞いててね。
ヒナが＜フルーピョ＞を吹くと、
小鳥のさえずりのような
美しい音色が響き渡る。
アイリス
ふふ、ほんとに小鳥の合唱みたい。
小鳥たち
チチ、チチチチ……
キャトラ
ちょっと待って、
……なんだか、様子がヘンよ？
小鳥たち
ピーピー。チチチチチチ……。
ピーピーピー！
キャトラ
ぎにゃー！？
鳥たちが、いっぱい来るー！？
アイリス
えっ、えっ、えっ？
ヒナ
ーーーー♪
キャトラ
ヒナ、ストップ、ストップ！
＜フルーピョ＞やめてー！
ヒナ
鳥さんたちも、みんなと
友達になりたいって。
キャトラ
アタシの話を聞きなさいよ！？
ヒナ
ピヨ？
キャトラ
『ピヨ？』じゃなくって……！
わっ！
カラスやハトも飛んできた！
キャトラ
やめなさいったら……ぎにゃー！？
鳥が威嚇してくるー！
鳥の群れ
ギャアギャアギャア……カーカー！
ヒナ
あ……キャトラはヒナを
怒ったんじゃないよ。
キャトラ
もう、過保護な鳥たちね……！
思い出4
ヒナ
ピピ……ピヨピヨ。チチチチ。
小鳥
チーチー。ピヨピヨ……
ヒナ
あ、パパ。
キャトラ
ヒナ、アンタ、今、
小鳥と話してなかった？
ヒナ
うん。話してたよ。
ヒナ
ピピピ……。ピピ。
小鳥
チチ……ピピピ。
アイリス
ふふ、小鳥さん、
ヒナちゃんの頬に寄り添ってるわ。
キャトラ
ほんとに、鳥語で話せるのね。
ヒナ
ピヨ？
ヒナ
鳥さんとお話しできるのは……
＜フルーピョ＞にはまってる、
＜ピヨピヨのルーン＞のおかげ。
キャトラ
へえー。
小鳥と、ふだんなに話してるの？
ヒナ
歌の話とか……あと、
おいしい木の実や、くだものの話。
この島のくだものはおいしいって。
小鳥
チチチ……
キャトラ
その子、今、なんて言ったの？
通訳してよ。
ヒナ
……『猫が近くに来て、こわい』
……だって。
キャトラ
えー？
アタシ、なにもしてないじゃない。
アイリス
キャトラ、気を悪くしないで。
小鳥さんからしたら、
普通の猫は天敵だもの。
ヒナ
うん。キャトラは優しいって、
ヒナも知ってるから。
ちゃんと、この子にもお話するね。
小鳥
ピ？ チチ……
アイリス
あ、小鳥さんが、
キャトラのほうに飛んできたわ。
ヒナ
ピピ……チチチチ。
キャトラ
ふふ。わかればいいのよ。
いいこいいこ。
小鳥
チチチチ……♪
ヒナ
みんな、仲良し、だね。
思い出5
ヒナ
…………
ヒナ
……パパ
アイリス
どうしたの？ ヒナちゃん。
キャトラ
元気ないんじゃない？
なにかあったの？
ヒナ
……みんなが、南に行っちゃうの。
ヒナ
渡り鳥のみんなは、冬に備えて、
南に行かないと
いけないんだって……
ヒナ
せっかく、友達になったのに……
キャトラ
そうだったのね。
でも……しかたないわよね
アイリス
そうね……寒い場所では
冬を越せないんだもの。
ヒナ
うん……
夕焼けの空では、鳥たちが、
南へと向かっていく……
ヒナ
……そうだ。
ヒナ
ねえ、パパ。お願いがあるの。
ヒナ
ヒナも、みんなといっしょに、
旅に出たい。
キャトラ
えっ、どうして？
ヒナ
……ヒナ、もっと、みんなに、
さえずりかたを教わりたい。
せっかく、友達になったかから。
ヒナ
さえずりかたを教わって、もっと、
＜フルーピョ＞がうまくなりたい。
ヒナ
そのために、みんなを追いかけて、
この島に来たんだもん。
キャトラ
ヒナ……
ヒナ
今日をヒナの
＜巣立ち＞の日にさせて。
キャトラ
ちょっとちょっと！
そんな急に……
ヒナ
＜フルーピョ＞を……もっと、
きれいな音で演奏したいの。
キャトラ
だからって、ヒナが
渡り鳥の真似をしたって……
ヒナ
演奏……さえずりかたは、
みんなが教えてくれたから
覚えられたんだよ。
ヒナ
……だから、＜渡り＞も、
必要なんだと思う。
ヒナ
パパ、突然でごめんね。
でも……＜マーチングバンド＞を
またやりたいの。
ヒナ
行かなきゃ……
みんなが、南に行っちゃう……
キャトラ
待って、ヒナ！
アイリス
追いかけましょう、
主人公！
思い出6
ヒナ
これって、パパの光の……翼？
……すごく……暖かい……
キャトラ
えっ！？ ヒナ！？ アンタ……！
ヒナ
ピヨ？
ヒナの＜フルーピョ＞から、
光があふれ出す……
アイリス
ルーンの光が翼の形になって……
ヒナちゃんの背中に……！
ヒナは、
光の翼を広げ、
大空に飛び立った……！
ヒナ
わあ……
キャトラ
どういうことよっ！？
ヒナ
パパ、ヒナ、空、飛べたよ！
ヒナ
ありがとう、みんな。
キャトラ
……行っちゃうのね、ヒナ。
ヒナ
うん。
キャトラ
まったく……寂しくなったら
いつでも帰ってきていいのよ？
ヒナ
ありがとう。……でも、大丈夫。
ヒナ
みんなといっしょに
さえずっていれば、
きっと寂しくないよ。
アイリス
気をつけてね、ヒナちゃん！
キャトラ
元気でやるのよー！！
ヒナ
ありがとう……パパ、みんな……
渡り鳥たち
チチチ、チチチチ……
ヒナ
チチ、ピピピピ、ピピピ……
…………
……
？？？
ピピ、ピヨピヨ。
キャトラ
……ん？ 今、鳥の鳴き声が……
ヒナ
……ピヨ。
キャトラ
ヒナ！
ヒナ
ただいま。
キャトラ
アンタ、南に行ったんじゃ……！？
ヒナ
あのね、
渡り鳥さんたちとお話したの。
ヒナ
『空も飛べるようになったし、
これでヒナも一人前だね』
……だって。
ヒナ
『もう教えることはないから、
人間の友達にもさえずりを
聞かせてあげなさい』……って。
キャトラ
え……？
ヒナ
『ヒナは人間だし、人間の仲間とも
たくさん過ごしたほうがいいよ』
って。
ヒナ
だから、これからは、
ヒナ、パパの島で
＜フルーピョ＞演習する。
キャトラ
まったく……しょうのない子ね。
好きにしなさい。
ヒナ
うん。＜マーチングバンド＞
またやれるようにがんばるよ。
ヒナ
そうしたら、パパも一緒に、
演奏してくれると、うれしいな。
