リンベル・思い出
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思い出1
リンベル
みなさん、こんにちは~!
私、リンベルっていいます!
アイリス
はい、こんにちは。
飛行島へようこそ、リンベルさん。
キャトラ
元気な子ねぇ~……って、
そのベル、ミョーにおっきいわね。
リンベル
これは<魔法のベル>です!
これで奏でた音色によって、
どんな願い事でも叶うんですよ!
アイリス
ね、願い事が叶っちゃうんですか?
キャトラ
なにそれすごい!
まるで神さまみたいじゃない!
リンベル
なにかお願い事がありましたら、
遠慮なく言ってくださいね~。
キャトラ
じゃあ、力二カマが欲しい!
リンベル
いいですよ~!
どのくらい出しますか?
キャトラ
空から雨のごとく!!
リンベル
わかりました!
えーっと、力二カマとなると……
リンベル
海の小波に雨の滴る音が合わさって
鐘の中で反響するイメージで――
リンベル
潮の香りが交じる空気が振動して
ぷるぷるとプリンのごとく――
アイリス
……リンベルさん、目を閉じて
なにをしてるのかな……?
キャトラ
う……今さらだけど、
なんか不安になってきたわ……
リンベル
ドォ―――!!!
キャトラ
ひっ!
リンベル
イメージできました! 奏でます!
リンリンリィン……
リンリンリィン……
アイリス
! 魔法のベルが光ってるわ!
キャトラ
ほ、本当に力二カマくるの?
きちゃうのぉ~~!?
ヒュルゥゥゥ~……
キャトラ
ぎにゃっ!
アイリス
キャ、キャトラ!? 大丈夫?
キャトラ
いったぁ~~い!
なんなのよこれぇ……
…………ナベのフタ?
リンベル
はうう、すみません……
やっぱり失敗しちゃいました……
キャトラ
やっぱりぃ~?
―体どういうことなのよ~?
リンベル
……この魔法のベルは、
願い事の内容をイメージした音色を
奏でないとダメなんです……
リンベル
その音色を間違えちゃうと、
こんな風に金物が降って
きちゃうのです……
キャトラ
……ちなみに、
今まで成功したことは?
リンベル
ふぇぇ、―度もありませぇん……
キャトラ
もが――!!
そういうことは先に言いなさーい!
リンベル
す、すみませぇ~~ん!
アイリス
もう、キャトラったら……
思い出2
リンベル
早朝に落ちた朝露の波紋――
溶けて響くように伝わる水の音――
リンベル
…………よし!
イメージできました!
リンベル
モーニングベルで
みなさんに気持ちのいい朝を
迎えてもらいましょう!
リンベル
ラァ―――!!!
リリリリリリン……
リリリリリリン……
キャトラ
ZZZzzz……
アイリス
すぅ……すぅ……
ヒュルゥゥゥ~~……
キャトラ
ぎゃふんっ!
アイリス
あいた! うーん……これって
…………おたま?
リンベル
あ……
キャトラ
こら―――!
朝っぱらからなにして
くれんのよー!
リンベル
すみませぇん……
私、みなさんに気持ちよく
目覚めてもらおうと思って……
キャトラ
ええ、確かに目が覚めたわよ。
痛みと怒りでねっ!
アイリス
なかなか上手くいかないんですね、
魔法のベル……
リンベル
うう……イメトレもいい感じに
できたと思ったのに、
どうしていつもダメなんだろう……
キャトラ
イメトレって……
目を閉じてブツブツ言ってるアレ?
リンベル
はい……魔法のベルは、
<願いの音色>をイメージして
鳴らさないといけないんです。
リンベル
だから私、願い事を聞いたら、
まずは音色のイメトレから
はじめるようにしてまして……
キャトラ
音色のイメージって……そんなこと
わかるの?
リンベル
あ、言い忘れてました!
実は私、こう見えて
ハンドベルの奏者なのです。
リンベル
なので、ベルに関することなら
お手のモノなのですよ!
キャトラ
でも、失敗してるのよね、毎回。
リンベル
うっ! は、はいぃ……
キャトラ
とにかく、朝起こしてくれるなら、
今後は普通のベルでおねがいよ!
リンベル
はぁ~い、すみませんでした……
リンベル
うう、せっかく魔法のベルで
役に立てると思ったのになぁ……
思い出3
リンベルは、長机の上に
いくつもの小さなベルを
並べている。
キャトラ
リンベル、なにしてるの~?
リンベル
あ、みなさん、実は
これからハンドベルの演奏を
しようと思いまして。
アイリス
ベルの音で演奏するんですか?
リンベル
はい、それぞれのベルごとに音階が
違うので、それを組み合わせて
一つの楽曲にするんです。
キャトラ
へぇ~、一体どんな
かんじになるのかしら。
リンベル
それでは、演奏しますね!
リンベルが号令をかけると、
ハンドベルが一斉に宙に浮かぶ!
キャトラ
おおっ! なにこれ、魔法!?
リンベルの指先の動きに合わせ、
次々とハンドベルが奏でられる。
アイリス
あんなにたくさんのベルが
流れるように鳴って……
まるで合唱してるみたい……
キャトラ
なんだかリンベル、
楽団の指揮者ってかんじね……
やがて楽曲が終わりを迎え、
リンベルが静かに手をおろす。
すると浮遊していたハンドベルは、
長机の上へと戻るのだった。
リンベル
――と、こんなかんじです!
キャトラ
リンベル、今のって……
リンベル
私の家は、もともと
魔法使いの家系だったのですよ。
リンベル
ですが、大婆様が魔法のベルを
見つけてから、その研究の一環で
ハンドベル演奏をはじめたのです。
リンベル
本来ハンドベルは楽団を組まないと
演奏できないものなのですが、
そこは魔法でカバーしまして――
アイリス
それじゃあリンベルさんは、
魔法使いでもあるんですね。
リンベル
えっと、一応そうなるんですが、
いつの間にか家がハンドベルの
名門みたいになっちゃいまして。
リンベル
気がついたらそっちのほうが
本業になっちゃってました。
キャトラ
ハンドベル演奏家兼魔法使いって
わけなのね。
リンベル
でも本当は、魔法のベルを使って
世の中の役に立てることが
私の家の目的なんです。
リンベル
ハンドベルの演奏は、
あくまで魔法のベルの研究のため
というか手段といいますか……
アイリス
でも、さっきの演奏、
私はすごくいいと思いましたよ。
キャトラ
アタシも~。
やっぱりプロだなって感じたわ。
リンベル
そ、そうですか……
アイリス
(リンベルさん……なんだか
浮かない顔をしている……?)
思い出4
リンベル
うーん、どうして
上手く奏でられないんだろう……
リンベル
……ねえ、どうすれば
あなたは応えてくれるのかな?
リィン……リィン……
ヒュルゥゥゥ~~……
リンベル
はうあっ! うう、痛いよう……
……今日は、やかんかぁ。
キャトラ
……なにしてるの、リンベル。
リンベル
あ、みなさん。
その……どうして魔法のベルが
使いこなせないのか考えてました。
キャトラ
実はただのガラクタだったりして。
リンベル
そ、そんなはずありません!
これは確かにお願い事を叶える
ベルなんです!
キャトラ
じょ、冗談だってば……
気を悪くしたなら謝るわ。
リンベル
……記録だと、大婆様が一度だけ
魔法のベルを使ってお願い事を
叶えたそうです。
リンベル
でも、その一度きりだったそうで、
その後も私の家は、
魔法のベルの研究を続けました。
アイリス
確かそれで、リンベルさんのお家は
ハンドベルの演奏で有名に
なったんですよね。
リンベル
はい……でも
魔法のベルがお願いごとを
叶えることは一度もなくて……
リンベル
それで、とうとう魔法のベルの
研究は取りやめることに
なってしまったんです。
キャトラ
ええ、なんでよ~!
もったいないじゃない!
リンベル
その……家の方針で、
ハンドベル演奏の興行に
専念したほうが将来安泰だって……
アイリス
そんな……
リンベル
こんなに可愛いベル、
他じゃ絶対にお目にかかれないし、
作ることだってできないでしょう。
リンベル
だから、もしこのベルを上手に
奏でられたら、きっとすごく素敵な
『音』が出せると思うんです。
リンベル
私、どうしてもそれが
聴きたくて……でも……
アイリス
それだけ魔法のベルに
思い入れがあるんですね。
キャトラ
なんとかしてあげたいけど、
アタシら専門家じゃないしねぇ。
リンベル
はい……願い事の音色を
イメージして鳴らす、というところ
までは突き止めたんですけど……
キャトラ
それは……ますます素人じゃ
わからないことよね。
リンベル
うーん……イメージ、イメージ……
音色をイメージしなきゃ……
ぶつぶつ……
アイリス
リンベルさん……
思い出5
リンベル
お待たせしました、キャトラさん!
キャトラ
うぇ!? ……な、なにが?
リンベル
今日こそキャトラさんのために
カニカマの雨を降らせてみせます!
キャトラ
い、いや、あれは冗談だし、
気にしなくても……
リンベル
私、カニカマの音色を出すために
イメトレに次ぐイメトレをして――
リンベル
それで今朝、ようやく『音』を
掴めた……気がするんです!
リンベル
たとえばそう、断崖の海燕たちが
飛翔する空を裂くような音と、
渦潮の回る音が協奏するような――
キャトラ
ごめん、まるでわからないわ。
アイリス
リンベルさん、目の下にクマが……
大丈夫ですか?
リンベル
平気です!
この機を逃すわけにはいきません。
早速、奏でたいと思います!
キャトラ
あ、うん……
リンベル
お願い、魔法のベル……!
今日こそお願いを叶えて……
あなたの本当の『音』を聴かせて!
リンベル
ラ―――!!!
リリリンリン! リリリンリン!
アイリス
! キャトラ見て!
魔法のベルが虹色に光ってるわ!
キャトラ
いつもと様子が違うわね……
これはもしかしてもしかする……?
キャトラ
……ん?
なんか急に暗くなったわね……
アイリス
…………キャ、キャトラ……
う、上よ……上っ!
キャトラ
どうしたのアイリス、
そんなに慌て――
キャトラ
…………………………
キャトラが見上げた先――そこには
飛行島に匹敵する超巨大な
カニカマが浮いていた!
ヒュルゥゥゥ~~……ポト。
アイリス
見て! あのカニカマから、
カニカマが落ちてきたわ!
キャトラ
ど、どういうことなの……
まさかこれが魔法のベルの力だって
いうの……?
リンベル
や、やりました! イメージとは
ちょっとだけ違うけど、
お願いを叶えることができました!
キャトラ
いや、確かにカニカマは
降ってきたけどさ!
この状況はアレすぎるでしょ!!
ヒュルゥゥゥ~~……ポト。
ヒュルゥゥゥ~~……ポト。
ポト。ポト。ポト。ポト。ポト。
ポト。ポト。ポト。ポト。ポト。
ポト。ポト――!!!
アイリス
……あのカニカマ、
飛行島を狙い撃ちしてるような……
キャトラ
ていうか! もうすでに
島全体がカニカマでいっぱいよ!
ポト。ポト。ポト。ポト。ポト。
ポト。ポト。ポト。ポト。ポト。
ポト。ポト――!!!
キャトラ
リ、リンベル! もういいから!
あのカニカマを止めて!!
リンベル
……え? あ、すみません!
今止めま……え、えーっと……
リンベル
どうすればいいんでしょうか……?
直後、上空の超巨大カニカマは、
飛行島に向かってゆっくりと
降下をはじめた!
リンベル
あわわ、どうしようぅ……
イメトレしないと……
早くイメトレしなくちゃ……!
キャトラ
ぎにゃ――!
カニカマに踏み潰される――!!
なんでもいいから早く助けてぇ!!
リンベル
は、はいぃぃ!
リンベル
(みんなを助けなきゃ……
みんなを助けなきゃ……!
みんなを助けなきゃ……!!)
リンベル
お願い魔法のベル!
みんなを助けて~~!!
リンベル
ファ―――!!!
チャラララン! チャラララン!!
思い出6
ルーンの光に呼応するように、
魔法のベルがひと際、
強い光を解き放つ!
チャラララン! チャラララン!!
チャリラリラァァン……!
キャトラ
な、なに、この音……?
鐘の音っぽいけど、
なんだか、どことなく……
アイリス
歌ってる、みたい……?
リンベル
すごい……これが、
魔法のベルが奏でる『音』……
聞いてるだけで心地いいですぅ……
アイリス
見て! あの大きいカニカマも、
あんなにたくさんあったカニカマも
全部消えたわ……!
キャトラ
た、助かったぁ~……
あと少しでカニカマで
あの世にいくところだったわ……
リンベル
みなさん! ほんっとうに!
お騒がせしました!!
キャトラ
ま、まあ、一応助かったんだし、
気にしないでいいわよ。
アイリス
魔法のベル……すごかったですね。
リンベル
はい! あんなに素敵なベルの音、
生まれて初めて聞きました!
キャトラ
でも、なんで急に上手くいった
のかしら? 火事場のなんとか?
リンベル
うーん、私は、
みなさんを助けたいって
そう願っただけなんですが……
キャトラ
それでいいんじゃない?
イメトレとか余計なこと考えてた
のがよくなかったとか。
リンベル
確かにそれなら、今まで失敗してた
理由もうなずけますね……
リンベル
よし、それじゃあ今度は
イメトレなしで奏でてみます!
キャトラ
あ、ちょ! 待ちなさ――
リンベル
直感のままに……シィ―――!!!
キャランキャランキャラン――!
ヒュルゥゥゥ~~……
キャトラ
ぎにゃっ!
アイリス
キャトラ!
キャトラ
うへぇ……
だから言ったのに……
…………ナベだわ。
リンベル
あれぇ~、おかしいなぁ……
さっきは上手くいったのに。
もう一度聴かせてよぉ~。
リンリンリン……
キャトラ
ぎゃんっ!
アイリス
あ、今度はボウルが……
リンベル
……あ! すみません!
私ったらつい……
キャトラ
もが――!!
気安く使うから失敗するのよ!
リンベル
はいぃぃ……
アイリス
でも、また聞いてみたいですね、
魔法のベル。
リンベル
はい、私もです!
もっといっぱい練習して、ちゃんと
使えるようになれば、きっと……!
リンベル
待っててくださいね。
あなたの奏でるベルの音、
たくさんの人に届けてみせます!