セラ・思い出
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思い出1
飛行島はまた新たな仲間を迎えた。
ダグラスらと共に、あの島の冒険を
乗り越えた、槍使いのセラだ。
セラ
…………
キャトラ
いらっしゃ~い、セラ~。
アイリス
気分はいかがですか?
セラ
風がとても心地良いわ。
いまのあたしには、
うってつけの場所かもね……
キャトラ
風を感じたかった?
セラ
ええ。最近のあたしは
少し火照っていたから。
ちょっと冷ましたいわ。
キャトラ
アララ、なんだか
オットナ~な発言ねえ。
アイリス
茶化さないよ、キャトラ。
セラ
ふふ……いいの。笑い話に出来る
くらいにならなくちゃ、吹っ切れた
とは言えないもの。
キャトラ
ウ~ン、それも極端な話じゃない?
セラ
かもね。
セラ
でも、極端なことを繰り返して、
安定するラインを
探していくんじゃないかしら。
キャトラ
むむむ……深いわね……
アイリス
……セラさん。私たちは
いつもここにいますから、
なんでも言ってくださいね。
セラ
ありがとう。
アイリスちゃん、キャトラちゃん、
主人公くん。
セラ
でも、心配はいらないわよ?
キャトラ
そう? 無理はヨクナイよ?
セラ
無理とかじゃないわ。
―歩ずつでも、自分から歩かなきゃ
未来はやってこないからね。
セラ
色んな方向に
踏み出してみるつもりよ。
キャトラ
なんか……やっぱりセラって、
大人のお姉さんってカンジする!
セラ
そういう人は好きじゃない?
キャトラ
ううん! なつくわ!
アイリス
キャトラ……
アイリス
(キャトラって、大人の女の人に
あこがれがあるのかな……?)
思い出2
キャトラ
セラって退魔士なんだよね?
メアとかと一緒でさ。
セラ
いいえ、『元』よ。
キャトラ
あっ、みんな『元』なんだっけ?
どうしてやめちゃったの?
セラ
やってることは
変わってないんだけどね。人々に
害成す存在を討つ、っていう。
キャトラ
ほへほへ?
セラ
ただ、<退魔士>という
肩書きは捨てたの。
何の意味もないことを知ったから。
アイリス
なんの意味もない……?
セラ
だって、そうでしょ?
あなたたちだって、名前で<闇>と
戦ってるわけじゃないじゃない?
キャトラ
ま、そーね。
セラ
むしろ、余計なしがらみが
なくなったおかげで、
いまはのびのび戦えてるわ。
キャトラ
セラって、討伐とか結構好きよね。
セラ
ええ。元々の性格が、
割と過激なのかもね。
キャトラ
そんなカンジも
ないっちゃないんだけどなー。
セラ
あたしってね、ちっちゃな頃から
とっても目が良かったの。
キャトラ
へー、どれくらい?
セラ
槍の師匠と初めて立ち合ったとき、
突きも払いも全部
止まって見えたわ。
キャトラ
うひょ~、すご~い!
セラ
でも、かわせたわけじゃないの。
そのときは体が目に
追いついていかなくって。
キャトラ
ふむふむ。では、成長した今では?
セラ
……無敵?
キャトラ
わぁお!!
セラ
ふふ、それは言い過ぎだけどね♪
思い出3
キャトラ
主人公!
主人公!
アイリス
そんなに慌てて、
どうしたの? キャトラ?
キャトラ
セラがどっかいっちゃったの!
アイリス
え?
ちょっと討伐とかじゃなくて?
キャトラ
ううん……だって、
書き置きがあったんだもの。
『しばらく旅に出ます』って……
キャトラ
せっかく、ちょっとずつ
仲良くなれてきたと
思ってたのに……
アイリス
……やっぱり、そんなに
簡単な問題じゃないんだよ……
キャトラ
だからこそ、アタシたちと
一緒にいればいいのに……
アイリス
……待ちましょう。
アイリス
セラさんは、強い人だから……
踏み出した一歩を、
止めることはできないわ。
アイリス
だいじょうぶよ、キャトラ。
『しばらく』って書かれてたなら、
セラさんは必ず戻ってくるわ。
キャトラ
そう……?
アイリス
待ちましょう。
セラさんにはきっと、
この時間が必要なんだよ……
…………
……
セラ
……飛び込みだったけれど、
いい宿が取れちゃった。
宿の室内に荷物を運び入れたセラ。
窓際の机に、手にしていた
読みかけの本を置く。
と。南向きに備え付けられた
窓から、サンサンとした日差しが
入り込んでくることに気づく。
セラ
窓は、開くかしら?
セラ
素敵……! 潮風の香り……
さざ波の響き……
セラ
……この島には誰もいないのよね。
あたしのことを
知ってる人なんて……
セラ
……ふふふ……
セラ
いっそのこと……
この島に、住んじゃおうかな……?
思い出4
セラ
おじさん、このフルーツ
一ついくらかしら?
商人
それは――!?
美人のお嬢さん、
見ない顔だが、観光客かい?
セラ
移住希望者よ♪
商人
はは、そいつぁいい!
それは私からのお祝いだ!
代金はいいさ、持ってきな!
セラ
ありがとう♪
今にも鼻歌を歌い出しそうなセラが
賑やかな大通りを
ウキウキと歩いていく。
セラ
……町の人もみんな、
優しくていい感じ……
セラ
本気で、考えちゃおっかな……
セラ
……あら?
ふと、小路に目をやると、
そこに佇んでいた
一人の少年が目に留まる。
みすぼらしい衣服に身を包み、
絵筆を構えて
キャンバスに向かっている。
セラ
あんなに小さいのに……
絵を……?
セラ
こんにちは。
あなたは、画家さん?
少年
あっ!? えっ、えっ!?
セラ
何を描いているの?
良かったら、見せてくれない?
少年
あっ、あの、その……!
セラ
ふふ、緊張しないで。ね?
少年
あの……ごめんなさい!
少年は一目散に駆け出すと、
雑踏の中に消えていってしまった。
セラ
あんなに慌てて……
ふふふ……
セラ
……この絵、やっぱり。
道行く人の似顔絵も
描いているんだわ。
セラ
今度描いてもらおうっと。
置いていった道具も、
返してあげなくちゃね……
思い出5
セラ
こんにちは、小さな画家さん。
少年
あっ!? こ、このあいだの……?
セラ
忘れ物よ。
そう言って、セラは
預かっていた
少年の画材一式を渡す。
セラ
ごめんね、見ちゃったわ。
少年
…………
セラ
絵、上手なのね。
良かったら、あたしも
描いてくれない?
少年
え……?
セラ
おいくらかしら?
少年
あっ、その、お代は、
出来てからで、その、
良くなかったら、タダでも……
セラ
ふふふ。自信があるのね?
少年
そ、そういうわけじゃ、
あの、下手な物じゃあ、
かえって迷惑になるし……
セラ
そんなことないわ。あたしは
あなたに似顔絵を描いて欲しいの。
お願い出来ないかしら?
少年
あっ、あの、その……!
……わ、わかりました……!
セラ
ふふふ。美人に描いてね?
少年
…………
正面にセラが座ると、
少年の様子が一変した。
透き通るようなまなざしで
セラを見つめたかと思うと――
やがて、絵の具をのせた筆を、
一心不乱に動かし始める――
セラ
…………
少年
…………
…………
……
少年
――で、できました……!
セラ
ふふ、すっごく集中してたわね。
あたしの方がみとれちゃった。
少年
は、はい、こ、こ、これを……!
セラ
さてさて、君にはあたしが
どんな風に見えて――!?
セラ
――これ、って――
少年が描き上げたセラの似顔絵。
それは――
――深い深い悲しみに、
唇をかみしめ、涙を流している
表情だった――
セラ
……こう、見えてるの……?
少年
お、おねえさんには、
きずがあります……
まだ、ふさがってない……
少年
絵を通すと、見えます、
わかります……
少年
あなたは、まだ、
全部は、受け入れきれては、
いません……
少年
これが、あなたの、
いまの、すがたです……
セラ
……そう。
セラ
……やっぱり、そうなのね……
セラ
……う……
セラ
……うぅ……
あああああぁぁぁぁ…………!
顔を覆った両手の指の隙間から、
とめどもなく涙が零れ落ちる――
――まるで、少年の描いた絵、
それそのものに
なってしまったように……
そのとき。
遥か彼方より、想いが光となり、
空より射してくる――
思い出6
セラ
この光は――?
少年
!! お、おねえさん!
顔を上げて!
セラ
え……?
少年
描きます、
描き忘れていたものが、
ありました!
――涙でべとべとになった
セラの顔が乾くよりも早く、
少年が筆を走らせると――
少年
で、できました!
これで、完成です!
セラ
……あ……!
少年が筆を加えたその絵には――
セラのことを心配そうに見つめる、
キャトラやアイリス、
主人公に……
メアやバイパー、
オズマとおぼしき、
多くの人影が加わっていた――
セラ
…………
少年
描けました……!
こんなの、ぼくも、
はじめて描きました……!
少年
よ、よかったら、
受け取ってください、ぼくも、
満足した、初めての作品です……!
セラ
……ええ。
セラ
ありがとう……
大切にするわ……
…………
……
キャトラ
……届いたかな……?
ルーンの光で、アタシの気持ち……
アイリス
心配しないで。きっと大丈夫。
ね? 主人公?
キャトラ
だって、
まだ帰ってこないんだもん……
セラ
誰がまだ帰ってこないの?
キャトラ
セラ! も~! アンタよ!
アンタの帰りを待ってたのよ!
セラ
ええ、知ってるわ。
アイリス
知ってる……?
セラ
離れていても、伝わってきたわ。
こんなあたしだけど、
心配してくれる人がいるのよね……
アイリス
セラさん……
セラ
傷心旅行はもう終わり。
休んでた分、
バリバリ働かないと。
キャトラ
もうどこにもいかない?
セラ
そんなこともないけどね。
旅行は楽しいもの。
着いてからも、それまでの道中も。
そう言うと、セラは
読みかけの本に挟んであった
しおりを取り、ひらりと投げた。
アイリス
あら? いいんですか?
途中だったんじゃ……?
セラ
いいの。
この本、いいお話だったから――
セラ
――続きはいいの。
ずっと途中で止めておくわ。
アイリス
セラさん……
セラ
新しい本を読むことにする。
好きだったシーンを、
心に焼きつけたまま、ね――