西湖蓴菜羹・手紙
半分風雅
主人公名:
初めて空桑へ来た時、ここはまるで桃源郷のようだと思いました。風景画のような田畑が広がり、人々が打ち解け、仲良く暮らしている。杭州にいたとき、あなたが私に描いて下さった絵と全く同じですね。これこそ陸放翁が心に描いていた、太平の世なのでしょうね。東伯兄弟が「心の落ち着くところこそ故郷」と言っていたように、わたしはここでとても穏やかな気持ちを感じています。もしかすると、ここは私の第二の故郷になるかもしれません。
淳思
同袍同沢
主人公名:
空桑へ来てしばらく経ちました。初めて来たときの心地よい感覚が失われ、最近は、ここでの生活が静かで美しいほど、自分の心は不安になるのです。陸放翁の一生は不遇でした。国を思うあまり、食事も喉を通らず、夜も眠れず、それなのに国の復興と天下泰平の日を待たずに亡くなった……それを思うたびに苦しくなり、自問自答せざるを得ないのです。私はまだ世の中のためになにもしていない。それなのに、こんな静かで快適な暮らしをしていていいのだろうか?
<手紙の最後は力を入れて書かれたためか、裏側からも筆跡が透けて見える。書いた人の激しい感情が伝わってくるようだ……>
淳思
以心伝心
主人公名:
文字を見れば会うが如し。私が旅に出てから、今日で十日目。ようやく手紙を書く時間ができましたので、少し近況をお伝えしましょう。空桑でも、各地のニュースを色々な手段で知ることができました。ですが、伝聞と自分で見るのとはやはり違います。自分が身を屈めなければ、民の苦しみを本当に理解することはできない。昔、陸放翁先生が役人であったとき、各地を放浪して、民の苦しみを理解されようとしていたことを、私は大変敬服していました。今では私も先生と同じく、各地を訪ね、空桑の外の広い天地を知り、民の生活を感じています。己の力には限りがありますが、この私にできることがあれば、全力を尽くすつもりです。
手紙には、一枚の紙が同封されている。うっかり入れてしまったのだろうか。各地で視察した状況が細かく記載されている日記のようだ。
西湖蓴菜羹
金蘭之契
主人公名:
今回の遊歴から戻り、よく考えました。そして、私がどれほど国と故郷を大切に思っているのかがよく分かりました。私は以前、空桑は私の第二の故郷だから、あなたと共にここを守ると言いましたね。家を守るには、まず国を守らねばなりません。天下が太平であればこそ、家が安住の地となり、民が幸福になるのです。天下を己を守る。これは私の一生の信念です。
私にとって、あなたは知己の友であり、志を同じくする人です。あなたと一緒に過碁して、分かりました。あなたは私と同じで、いつも故郷と民の事を考えている。あなたの信念は空桑を守ることですが、心中にはより大きな理想がある。長い道のりですが、あなたと心が通じていれば、畏れることなどありません。
西湖蓴菜羹
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