【恋と深空】共に巡る風光

ほら、トウモロコシだよ。これをあげるからもう少し頑張って。

動かないみたいだな。

何かいいアイデアはある？

うーん･･････ほら、チモシーだ。海岸まで連れて行ってくれたらやるぞ。

それにもあんまり興味ないみたい。

単にトウモロコシが好きじゃないだけかと思ったんだが。

これ以上進みたくなさそう。やっぱりこの子を連れて引き返す？

こいつを連れて帰ったら、俺達は店に案内料をもらえるんじゃないか？

どうして？

俺達は今、馬の馬になってるからだ。

この木を見たのはこれで12回目だな。

この変な形の石も。

この半分削れた杭も。

あんたの方向感覚もこの山に食べられてしまったのかもしれない。

確かにちょっとおかしいね。ほら、ここを見てーー

地図に書いてある標識が一つも見当たらないな。

もしかしてこの地図、期限が切れちゃってるのかな？

確かにちょっと古いやつみたいだ。

･･････そうか。地図じゃなくて、俺達が歩いてる道の期限が切れてるんだ。

たぶん、風で標識とかが全部飛んで行ってしまったんだと思う。

このまま道が見つからなくても大丈夫だ。テントは持ってきてある。

夜遅くなったら、ここにテントを張って野宿すればいい。

セイヤ、あそこの湖を見て。なんだか火鍋みたいじゃない？

じゃあ、湖の真ん中の道は鍋の真ん中の仕切りだな。

湖の上にいる緑の服のあの2人組は･･････

火鍋のスープに散らしたネギだね。

そう思うと、このロープウェイも2本のお箸に見えてきたよ。

ロープウェイは想像力をかき立てる効果もあるんだな。

そうかも。私も無意識に想像しちゃってたし･･････

それか、想像力をかき立てるのは空っぽの胃袋の方かもしれない。

食べ物ばかり思い浮かぶってことは、お腹がすいてるんだろ？

向こうに着いたら、火鍋を食べに行こう。

観光ガイドによると、ここの鳥は手に餌を置いたら飛んでくるらしいぞ。

本当に飛んできた！人懐っこいね。

あとどの鳥も食いしん坊だから、群れに囲まれる可能性があるとも･･････

あ。

セイヤーー次からは一気に言って！

わっ･･････どうしよう、大量の羽に囲まれちゃった･･････！

大丈夫だ。すぐに助ける。

待て、俺まで囲むな･･････！悪い、助けには行けそうにない･･････

今日は日向ぼっこしないの？

ああ。ここ数日ずっと日を浴びてたから、もう十分だ。

顔も体もそんなに隙間なく覆って、暑くない？

･･････ちょっと暑いが、我慢できる。

ふふっ･･････なるほどね、理由がわかったよ。

今こっそり笑ったよな？聞こえたぞ。

ふわあ～。何か言った？眠くてよく聞こえなかった･･････

セーーイーーヤーー

ん？周りの竹が妖精になって話しかけてきたのか？

（え？これって即興劇？それなら･･････）

コホン。この竹仙人が来たのに、お主はなぜ出迎えもせず座っておる？

失礼しました、竹仙人。何かご要望はありますか？

お主が何を読んでおるのか聞かせてもらおう。

マンガです。興味があるなら差し上げます。

タイトルは『決して竹仙人と話してはならない』です。

この子、あなたを怖がってたのにどうしてすぐおとなしくなったの？

特別なことは何もしていない。しばらくなだめただけだ。

動物は、行動から善意を感じ取ると言われている。

そのおかげで、私への警戒心を解いてくれたのかもしれないな。

ただ、1つ問題がある。

この馬の本来の名前は「ブラウン」というのだが、今は･･････

「いい子」になった。

なだめすぎて、自分の名前がそれに変わったと誤解させてしまったようだ。

レイ、上から鍾乳石が垂れ下がってるよ。見える？

ああ、オレンジ色の鍾乳石か。独特な自然風景だな。

じゃあ、これを見て何か独特な感覚はする？

どんな感覚だ？

おいしい友達のことを思い出したりとか。

おいしい友達？それは･･････？

ニンジンのこと。

･･････

もう1回鍾乳石を見てみて。今度は何か感じる？

もう見たくないという「独特」な感覚がする。

レイ。ビールとジュースとミネラルウォーターだったらどれがいい？

飲み物を買いに行くのか？それなら私が行ってこよう。

ううん。雑誌の性格診断テストだよ。3つの中から1つ選ぶの。

では、ミネラルウォーターで。

オッケー。ミネラルウォーターを選んだあなたはーー

「ミネラルウォーターは食堂車で販売中です。今すぐ買いに行きましょう」

このテストは新手の食堂車の広告か？

旅の性格診断テストもあるよ。行くなら山と海どっちがいいかって。

おそらく、このテストの結果も同じようなものだろうな。

山を選べば山への旅行を、海を選べば海への旅行を勧めてきそうだ。

どちらも該当しない場合は？私達が乗っている列車は鎮青市行きだろう。

うん、その場合の結果も書いてあるよ。それによるとーー

レイ、あなたは反抗的な人なんだって。

ここは納涼山荘って言われてるけど、全然涼しくないね。

そもそもここは、建物の配置によって空気の流れを速めているだけだ。

だから暑い時は暑い。

ミネラルウォーターまで熱くなってるよ。

コホン。ねえレイ、あなたのEvolで･･････

･･････貸してみろ。

･･････私は観光地に置かれた製氷機に見えるのか？

ううん、善良で親切な観光客に見えるよ。

今の漕ぎ方だと、日が暮れてもまだここをぐるぐる回っているだろうな。

うーん、かなり頑張って漕いでるつもりなんだけど。

むしろ力を入れすぎているせいで進めずにいるのかもしれない。

わかった。じゃあちょっと力を抜いてみる。

ねえレイ。私達、岸からどんどん遠ざかってない？

ああ。このまま漕ぎ続ければ、海まで行ってしまうかもしれないな。

ずいぶん落ち着いてるね。焦ってないの？

さっきお前が「わかった」と行った時、船頭にメッセージで確認したんだ。

この先には漁網があるから、海に出る前に私達を引き上げてくれるそうだ。

庭にある祈りの木に鈴を吊るすと、願い事が叶うんだって。

お前が物凄い速さで鈴を手に取ったのは、自分で願いをかけたいからか？

今回は違うよ。今回はあなたが願いをかけて、恋人の私が木に吊るすの。

一人でやるより、叶う確率が上がるような気がしない？

ああ。もう願いはかけたぞ。

何をお願いしたの？

今言うと、叶わなくなってしまうかもしれない。

お前が鈴を吊るしたら教えてやろう。

これで教えてくれるよね？

ああ。だが、もう少しだけその願いが叶ったままでいさせてくれ。

この魚の柄のお椀、私の好みにぴったり。

じゃあ、買ってレッドのベッドにする？

あなたの朝ご飯のベッドにしてもいいかも。

ところで、この魚の柄･･････

見覚えがある？

そうなんだ。

昔の知り合いに会ったような気持ち？

ちょっとだけね。

なんとなく通じ合うものを感じる？

どうしてわかるんだい？

前に来た時、このお店で作ったお椀だったのか･･････

決めた。これを買って、あなたにあげる。

元の持ち主に渡すなんて、珍しいプレゼント方法だね。これが今の流行り？

30文字以上？景色がとてもとても綺麗で、日差しもとてもとても･･････

そこのお客様、適当に書いていませんか？

まさか。心がこもった華のあるレビューだよ。

どこに華があるんだい？水しかないじゃないか。

水？どういうこと？

水増ししているってことさ。

華には水が必要でしょ。

続きは書けた？参考にちょっと見せて。

「彼と一緒に乗れて超楽しかったです。また二人で来ます！」･･････

じゃあ僕は「彼女と一緒に乗るのは超超超超超楽しかった」と書こう。

ここがもう「百鳥湿地公園」っていう名前に変わってたなんて。

どうして昔の人はここを「鳥鳴湾」と呼んでいたんだろう？

たぶんーー

なんて？よく聞こえない。

たぶん、ここの鳥の鳴き声がうるさいからーー

もっとーー大きいーー声でーー話そうーー

この鳴き声ーーいつーー止まるんだーー

なんかーーどんどんーー大きくなっているーー気がするんだけどーー

あなたよりーー大きい声をーー出そうとーーしてるのかもーー

この山荘の裏の泉、何か不思議な力でもあるのかな？

観光客が泉で手を洗ったり、泉に向かって何か呟いていたけど。

健康とか安全のご利益があるのかも。

この水･･････確かに普通とは違うものを感じる。君もやってみて。

そんなに効果があるの？

あつっ！

この名前になったのは、何か特別な意味があるのかな？

どういうこと？魚も当たり屋みたいなことをするようになったの？

･･････君、ちょっと笑いすぎじゃない？こいつを川に戻すのを手伝ってよ。

ごめんごめん、この川の名前の由来がわかったのが面白くて。

ねえ、なんだかみんなに見られてる気がしない？

･･････川に戻しても、こいつの運命は変わらない気がしてきた。

せっかく僕達のもとに来てくれたんだし、今夜は魚のスープにしよう。

なんかおかしい。誰かに尾行されているみたいだ。

3つ数えたら、一緒に振り返って犯人を捕まえよう。

僕達と同じ、夜に散歩しているカニだったのか。

どうする？海に帰してあげる？

いや、この子達はたぶん淡水のカニだ。

彼らが来た足跡をたどってみよう。

なぜ一番気性の荒い馬を選んだ？

前に馬場であなたの馬も手懐けられたんだから、この子も余裕だよ。

ほう？そいつは楽しみだ。

さっき、誰かさんは余裕だと大口を叩いてなかったか？

ねえシンくん。この人、憎たらしくない？一緒に彼を追い抜こうよ！

その馬を「シンくん」と名付けたのか？

ぴったりでしょ？気が強くて傲慢なとこがあなたにそっくりだし。

それなら、「〇〇*1ちゃん」の方がもっとぴったりじゃないか？

今日ロープウェイに乗ってるのは私達だけみたい。ある意味貸切だね。

向こうに着くまでどのくらいかかるんだ？

調べてみたら、30分くらいだって。

遅すぎる。俺達が見る予定のショーは40分後に始まるんじゃなかったか？

まだ10分余裕があるでしょ。そんなせかせかしないで、心を落ち着かせて。

ほら、私と一緒に深呼吸しよう。息を吸ってーー吐いてーー

さっきシアターから連絡が来た。開演の10分前までに入場しろとな。

えっ？それだと間に合わないんじゃ･･････

ああ。だがせかせかしないで、心を落ち着かせないとダメなんだろ？

もうそんなこと言ってられないよ。降りたらダッシュで行こう！

シン、さっきからわざと高くボールを蹴ってるよね？

俺は普通にやってる。単にお前が球技がヘタなだけじゃないか？

わかった、じゃあどっちがヘタなのか試してみよう。

サッカーがダメだから、バレーボールに切り替えたのか？

あなたは球技としか言わなかったでしょ。バレーも球技のうちだよね？

何の球技でも別に構わない。受け止めてみろ。

あっ、ボールが丘の下に転がっていっちゃった。

ボールが何十個も落ちてるな。どうやら球技がヘタな奴は大勢いるらしい。

うんうん、私はその中に入ってないけどね。

その自信だけは、草原でも一二を争うレベルだな。

奥に進むほどどんどん暗くなるね。あなたの基地と勘違いしちゃいそう。

俺の基地はこんなに派手か？

この洞窟に比べればまだまだかな。

ここの色合いを参考にして、帰ったら基地を改造するのもいいかも。

悪くない。N109区に人口の洞窟ができるな。

基地の入り口に見学無料の看板も立てるか？

ずいぶん気前がいいね。

お前の同僚も誘うといい。前のチームビルディング以来会ってないしな。

それって純粋に招待してるんじゃなくて、絶対何か裏があるでしょ！

他の人の周りには鳥が集まってるのに、どうして私達には寄ってこないの？

俺にわかると思うか？鳥に直接聞いたらどうだ。

あ、なんとなくわかった気がする。

また「鳥達が俺を怖がってる」という理由なら、もう言わなくていい。

違うって。今回はちゃんとした理由だよ。

じゃあ一度だけ信じてやる。言ってみろ。

鳥達が近づけないのはーーあなたに取り憑いてるメフィストの怨念のせいだよ。

「ご主人様は隠れて他の鳥に会いに行ったの？」って。

･･････そうだな。デタラメばかり言う小さなカラスには会った。

ここのドア、低すぎないか？出入りするたび屈まないといけないんだが。

ここの鏡も、なぜこんな低いところに掛けられてるんだ。

このライトも低すぎる。ポールハンガーかと思ったぜ。

シン、単にあなたの背が高すぎるだけじゃないかな？

私は何も問題ないよ。見て。この鏡、ちょうど私の顔と高さがぴったり。

本気でそう思ってるなら、まずその屈めた腰を伸ばしてから言うんだな。

そうだね･･････私も気付いたよ。ここにあるものは確かにちょっと低いかも。

理由は察した。誰かさんはうっかり子供用の部屋を予約したようだな。

（え！？本当だ。部屋の名前が似てたから見間違えちゃったみたい･･････）

･･････大丈夫でしょ。誰だって昔は子供だったんだし！

それはそうだが、今のお前はもう大人だ。その現実を受け入れろ。