【恋と深空】廃れし時に廻る

城の中にずっといたら、この亡霊の街が……意外と生活感に満ちてるように思えてきたんだけど？

セイヤ、あそこで木彫を売ってるみたい。でもこの木彫り……ちょっとあなたに似てる気がする

眉間にしわを寄せて、冷たい顔で、剣を持ちながらすごい剣幕でーー

なら、このキラキラした聖なる光をまとった小さな彫像はあんたってことだな

待って、どうして買うの？

道中退屈だし、暇つぶし用にあんたにやる

俺もほとんど生活感がないって思ってるんだろ？

お馬さん。あなたはずっとここで暮らしてるから、巡礼の道を一往復したらどのくらいかかるか知ってるの？

お馬さん。もうずいぶん走ったから、どこかで休もうか。

今ここで人間の言葉を理解できるのは俺しかいないはずだ。回りくどいことしなくていい

誰かさんとは会話がうまく嚙み合わないし、この子の方が仲良くなれてるからね

ここ数日、あんたはいつもそいつのたてがみを手入れしてやってる。仲良くもなるだろ

この子の反応からして、てっきり嫌われてるのかと……ちょっと待って、どうしてそれを知ってるの？

そいつがあんたの気持ちに応える方法がわからなくて、俺に聞いてきたのかもしれない

それか、あんたがそいつとイチャついてた時に、俺が近くにいたのかもな

『食用キノコの見分け方』を持ってきてよかった

このカラフルなキノコの中から毒のないやつを選んで、今日の夜食にするつもりか？

「猛毒のキノコは普通、柄にリング状のツバや根元にカップ状のツボが付いている」って書いてある

待って！それは色は鮮やかじゃないけど、傘のシワがすごく怪しい

……厳選した結果、4本しか残ってないが

今夜の食材はかなり豊富に集まった。
一汁三菜作れそうだな

『食用キノコの見分け方』をちゃんと読んだから、今回は毒キノコはないはずだよ

俺は読んでない

……え！？

どれも食べたことあるから大丈夫
……なんで捨てるんだ？

この道のルーメンの花、明るくなったり暗くなったりしてる……他の道にしない？

これは人を惑わす花の陣だ。解くには特別な方法が必要だ

よく見たら、この花の陣が作り出す幻は、あなたが育ててる花によく似てるね

フィロスでも珍しい花なの？

いや、よく見る花だ

だからふとした瞬間に、過去の面影かと錯覚してしまう

あれ、セイヤ？どこ行ったの？

探すつもりあったんだな。てっきり、景色を見るために勝手にルートを変えたのかと思った

しっかりついて来てくれ。俺はいつもそばにいられるわけじゃない

いつもそばにいてくれてるよね？

この剣、すごくカッコい……うっ……す、すごく重いね

それを担いで、前にあるあの木を切り倒すつもりか？それとも重力と勝負したいのか？

セイヤ、あなたはどうやって凶悪な亡霊騎士を倒したの？私も戦い方を学びたくて

まずは技術、次に心構えだ

技術って？

腕を楽にして、重心を下に。つま先で地面を踏みしめ、肩の動きに従って剣を振るうんだ

前のあの木を敵だと思って、剣自身の重さを利用して振り下ろすーー

……脱臼するとこだった。まずは心構えから学ぼうかな

心構えはどういう感じなの？王の落着きと冷静さってこと？

敵と向き合った時、平常心で一振り一振り確実に仕留めていくことだ

こんなに歩いて疲れただろ。眠くないのか？

一緒に見張りをするって言った……だから……

はっきり喋ることもできないのに、まだ強がるのか

強がりじゃなくて……強いの……

……

髪を焼かれたくなかったら、もっとこっちに来い

毛布もちゃんと掛けるんだ

ん……？

風邪を引いて熱を出す救世主なんて、亡霊達の想像とだいぶ違うな

ここの市場、本当にめちゃくちゃだね……

いつもめちゃくちゃなのが、もっとめちゃくちゃになっただけだ

ウサギがあちこち走り回ってるから、気をつけろ

あそこの屋台のウサギが逃げ出したみたい。1匹こっちに来るよ！

やっとみんな捕まえたね

あんたの輝かしい功績がまた一つ増えたな

今回は違うよ

？

あなたの名前も並ぶから

何匹か足りないようなーーちょっとセイヤ、あなたの肩に1匹いる！

……さらにもう1匹、俺のマントに隠れてる

なるほど。ウサギ達は、安心できる場所に落ち着こうとしてるんだね

セイヤ、腕から血が出てるよ

さっき、イバラで擦ったんだ。大丈夫……って、俺のマントを破って何する気だ？

使えるものが他にないから。ひとまずこれで応急手当するよ

というか、怪我したことに気付いてなかったの？

気にしなくていい。ただのかすり傷だ

じゃあ、私は「救世主」としての責務を果たしてるってことにしといて

この大げさな包帯は、俺の傷を冷やさないようにするためか？

川の霧が濃くなってきた。気をつけろ

あなたは「灰の川は記憶の川」っていう伝説を聞いたことある？

最も月が明るく光り、最も霧が濃い時、川面に触れるだけで映った人の過去の記憶を覗けるんだって

なるほど。あんたがさっき俺の影をかき回してたのは、鬱憤を晴らすためじゃなかったのか

さっきは……いくつか情景が見えたけど、かなりぼんやりしてた

……暗闇の中で、ずっと私のそばにいてくれる人がいたんだ。その人は、あなたによく似てた

……

やっぱりこの霧は危険だ。あんたを混乱させたみたいだな

うっーー

気をつけろ！

水の中に、私に触れさせようと仕向けてる何かがあったような……

はっきり見たのか？

あなたと私を見た気がする。私達は昔……

それは灰の川の幻にすぎない。ただの錯覚だ

ここにも剣がたくさん落ちてる……この辺りの亡霊騎士、ますます制御が効かなくなってるみたい

よく戦争に負けて、こういう剣塚ができたのかな？

いや、生きても死んでもない奴らが、負けを認めるわけがない

ここにある剣を抜くつもりか？

ううん……どうしてかわからないけど、この剣の柄に触れると、彼らの感情が心に流れ込んでくる気がする

悔い、怒り、迷い。数百年もの間、彼らはそういう感情だけを持ってるんだろう

だから何の意味もない戦いを続けて、自分の存在を確かめようとしてるんだ

岸に座礁した船があるよ。早く来て！

帰りたいのか？

ちょっと歩き疲れたから、一緒に横になって月を見たいなと思っただけだよ

そういえば最近、街で私達の新しい噂が流れてるけど、聞いた？

例の『救世主と狂王の知られざる真実』ってやつか？

……ずいぶん更新されたよね

もし帰り道を見つけられなかったら、私達二人は本当にそういう伝説になっちゃうのかな？

救世主と例のかつての王が森の奥深くに入り、ついに戻ってくることはなかったとか……

「救世主は自ら危険に身を投じ、狂王を欺いた」よりはマシな結末みたいだな

誠意のないコメントだね。じゃあ、物語の主人公の一人として、あなたはどういう結末を書きたいの？

……

これがいいーー彼らは遥か彼方まで歩き続け、運命でさえ二人に追いつくことはできなかった

この先は行き止まりだ。あんたの伝説を探す旅もそろそろ終わりだな

巡礼の儀に参加してる亡霊が多いから、帰る途中ではぐれないように、ちゃんとついて来てね

はぐれたりしない

いい考えがあるよ。セイヤ、ちょっと頭を下げて！

……？

考えって、俺の髪を編むことか？

目立つでしょ？これで、はぐれてもすぐあなたを見つけられる

……目立ってはいるが、必要ない

あんたがどこにいても、俺はあんたを見つけられる