【恋と深空】金蝕の創世

顔が赤いな。何か飲んだのか？

キャラバンの行商人から飲み物を貰ったの。秘密の「愛の香辛料」が入ってるらしいよ

小瓶も買ったんだ。あげる

「愛の香辛料」というのは、具体的にどんな効果があるんだ？

パッと元気になって、好きな人にもっと好きになってもらえるんだって

元気になるという点では、確かに効果がありそうだ

匂いからして、これはただの血行を良くする香辛料だからな

「好きな人にもっと好かれる」という効果についてはーー

お前には必要ないだろう

ずっと前にここを通った時は、この塩の沼はまだできてなかった気がする

今では澄みわたった水面が、まるで鏡のようだな

鏡よ鏡、ネアで一番すごい神は誰？

お前だ

素直で賢い鏡だね。じゃあ、ネアで一番親切な神は？

お前だ

それから教えて。神を一番愛してるのは誰？

･･････

嘘はなしだよ

こちらに来て、私の隣に立ってくれ

「鏡」の中に、お前を最も愛する者が見えたのではないか？

熟したデーツを見て、足が止まっちゃう人もいるんじゃない？

足が止まる？

それは私のことか？それとも、私の背にしがみついている誰かのことか？

食べたいのは私だよ。これで満足？

ずっと私を負ぶってくれてたから、一番大きい実はあなたにあげるよ

お前の民は、最も良いものを最も大切に思う神に捧げるだろう

私も同じだ

酸っぱい！

渋いな

運よく遺跡を見つけて、避難できてよかったよ。じゃなかったら、砂嵐に飲み込まれてたかも

もしかしたら遠い未来、私達もこの遺跡のように、誰かに見つけられるのかもしれない

じゃあ見つかる時には、この遺跡みたいにバラバラに崩れてないといいな

ならばもっと近くに来てくれ

少なくとも、後の人々に二人は共にあったとわかってもらえるようにな

レイは考えたことある？もし本当に私達が消えてしまったら、神のいない世界はどうなるんだろうって

その時が来れば、創造する神がいなくなって、創られた世界そのものが残るだけ

創造は神の特権じゃなくなるかもね

その権利を人間に渡すのも悪くないかもしれない

この砕けた粘土板は、私が彫った小さな似顔絵に似ているな

うん、あなたが彫ってくれたあの絵だよ･･････すごく気に入ってるから、持ってきたの

こんなことになるなら、神恩の塔の宝物庫にしまっておけばよかった

一緒に元に戻してみよう

息がぴったりだったな。これで誰かさんが悲しむことはなくなった

レイ、この粘土板で思いついたことがあるんだ

ほら、葦のペンだ。お前の隣に私を彫るのだろう？

どうしてわかったの？

私達は二人で歩んでいるのだから、粘土板のお前を一人でいさせるわけにはいかない

ダメ。元通りにできそうにない

そう落ち込むな。戻ったら、また彫ってやる

夜風が冷たかったから、ラグダの毛のマントを半分わけてくれて助かった

お返しは、何か物語を聞かせてくれればいいよ？

そういうのは得意ではないのだが

ネアの語り部達はみんな、「昔々、あるところに塔がありました」から始めるよ

わかった。昔々、あるところに塔があった。塔には一人の女性が住み、いくつもの世界を旅していた

それから？

その後、彼女は怪我をし、十六の弦を持つ琴を奏でる歌い手に助けられた

彼らは朝も夜も共に過ごし、やがて愛情が芽生えた

彼女は彼のためにその世界に留まったの？

物語はまだ終わっていないから、私にもわからない

だが愛というものは、確かに歩みを止めさせることもあれば、再び旅立つ勇気を与えることもある

この屋台の護符は、少々作りが粗いな。ネアにあるものとは違うように見える

そんなにはっきりわかるの？

神恩の塔から持ち出したものと比べればわかる

よく見抜いたね

だがよく考えれば、護符が本物かどうかはそれほど重要ではない

うん。込められた祝福が本物なら、それでいいよね

護符が欲しい人は、きっと神の加護が欲しいんだから

ならば、お前と共にこの護符に祝福を与えよう

残念だけど、どれが本物でどれが偽物か、見分けがつかない

その護符に込められた祝福が本物であるならば十分だ

私達二人の祝福で、この護符は本物の中の本物になっちゃうね

いくつもの材料で占っているようだが、何かわかったのか？

占いの結果はーー「あなたは甘いものが好きすぎて、将来、歯が悪くなってしまう」だったよ

私もお前を占ってみよう

結果はどう？

結果はーーお前の占いはかなり当てにならない。占い師になっても、前途は怪しいな

ふん。レイ、前に言ったでしょ？口っていうのは食事をするだけじゃなくて、あと･･････

あれ？口って他に何ができたっけ？思い出せないな。あなたは覚えてる？

相手の聞きたい言葉を伝える、だ

ふふ、覚えてたんだね

他も覚えているぞ。お前にキスができる

谷でこれだけ多くの鉱石を鑑定してみて、何かわかったか？

どれも私の剣を修復するのに向いてないみたい

もしかすると、鑑定のために触れていた時間が短かったのかもしれない

以前聞いた話なのだが、長く触れ続けると、その物が自分のものかどうかわかりーー

その手は何をしている？

レイに触れてるの

･･････

話、まだ終わってないよね

続きはーー

触れる時間が長ければ長いほど、好感を抱きやすくなる

どうして漕げなくなったんだろう？まだ川の真ん中なのに

言い伝えにも正しいものがあるようだな。ここを通る舟は、全て川底へと沈んでしまうそうだ

そんなの信じないよ。私達の力ならーー

すでに水はお前の足首を超えているが

･･････早く水を汲み出さなくちゃ

もう間に合わない。沈む方が速い

レイ、それじゃあ呼吸を止めて･･････ん？

水はまだお前の腰あたりまでしかきていない。しっかり立って、呼吸をしよう

泉の水、鉱石、それに勢いよく燃える火。準備は整ったね

レイ、始めよう

私と一緒にやるつもりか？

もちろん。もしこの先あなたが忙しくて修復する時間がなくても、私一人でできるからね

いいだろう。ならば今回は、お前と私で力を合わせてやるとしよう

思ってた通り、実際にやってみても難しくなかったよ

鉄をも断ち切れるほどに修復された剣で、また羊の毛を刈るつもりか？

次は果物を剥くよ。どの果物が食べたいか、前もって教えといてね

それはありがたい

手伝いが必要だったら、前もってレイを呼んでおいてくれ

神器の修復って思ってたよりもずっと難しいんだね

持ち帰った材料はたくさんある。もしまだ試したいのなら･･････

付き合ってやろう

これは何だ？新しい目を隠す布か？

私の剣を鋭く蘇らせてくれたお礼だよ。どんな模様を刺繍しようか、考えてるところなんだ

どんなものでも構わない

そう？じゃああなたの名前にしよう

実用的で便利だしね。もしなくしても、誰かが名前を呼びながらあなたを探してくれるかも

なくしたりなどしない

それに、私の名を呼ぶのはお前しかいない