【黒ウィズ】アイドルωキャッツ!! Story7
君は久々の休暇を謳歌していた。大きな事件もなく、平穏にクエス=アリアスで過ごしていた。
時間は昼を過ぎた頃だった。まだ昼食は摂っていない。
ウィズは宿屋で眠っており、君ひとりだった。つまり今日はちょっとしたチャンスだった。
以前より目をつけていた大海老のフライを提供する店に行き、ゆっくりと食事のひとときを楽しむという、チャンスであった。
君は店の扉を意気揚々と押した。
「よっ。」
君はローブを翻し、背後の扉に飛びついた。だが、扉はびくともしなかった。
「まあ、せっかく来たんだから、そこに座るニャ。」
来たくて、来たわけじゃないです、と君は愚痴を言いながら、席に座った。
君は周囲を見回す。見たこともない装飾ばかりだった。
ピカピカと光る板が壁にかかっており、楽器を弾く人もいないのに、音楽がかかっている。
ここはどこですか? クエス=アリアスじゃないですよね。もしかして異界を移動したんですか?
と君は謎の猫(?)に話しかける。
「そうニャ。ここはアタイの店ニャ。ま、クエス=アリアスではないニャ。チミもしかして、ちょっと油断してたニャ? 月2無い時もあるからなあ、とか思ってたニャ。
だぁめぇニャ。 そんなことじゃだぁめぇニャよ。そもそも、この季節になるとアタイが来ることは想定しておくニャ。」
今回呼びましたよね。なんでそんなことが出来るんですか?と君は目の前の謎の猫(?)を怪訝に思う。
「深く考えちゃ駄目ニャ。大体いつも大した理由もなく異界に移動するニャ。目の前光ったら、移動してるニャ。」
まあ、そうですね。と君は答える。
「何か食べたいものはあるかニャ? 好きなもの作ってあげるニャ。」
君はそういう気分ではない、と断った。
「何でもいいから言うニャ。食べたくなかったら残してもいいニャ。とりあえず食べたいものを言うニャ。」
けっこうしつこかったので、君は食べたかった海老のフライを注文してみた。
「冷蔵庫にハムとじゃこしかないニャ。やきめしならできるニャ。」
なんでもいいって言いませんでしたか? と君は言った。
「言ってないニャ。」
言ったと思いますけど? と返す。
「言ってないニャ。」
君は半ば呆れて、じゃあ、それでいいです。と言った。
「言ったニャ。」
構ってほしいんですか?
「かまってほしいに決まってるニャ! 年にー度くらいしかチミに会えないニャ。かまってほしいニャ~!」
すごく面倒臭いな、この人。いや猫か、猫でもないか。と、君は思った。
「あと、アタイといる時くらい他人行儀はやめるニャ。」
他人行儀? と君は聞き返した。
「それニャ。その変な「と言った」みたいなやつニャ。アタイといる時は、そんなのいらないニャ。」
なんのことかわかりません、と君は言った。
「それニャ、それ! いまのやつニャ。」
本当に何言ってるんですか?
「かまととぶっても無駄ニャ。チミもちょっと面倒だとか思ってたニャ? わかるニャよ。」
全然意味がわかりません。
謎の猫(?)はグラスを鼻息で曇らせると、キュッキュと音をさせて磨く。
そのグラスを君の前に差し出した。君はちょっとやだなと思った。
琥珀色の液体を注ぎながら、謎の猫(?)は思い出したように言った。
「そうそう。チミの代わりに、きゃっつに花輪を贈っておいたニャ。立て替えておいた分、払ってほしいニャ。」
『きゃっつ』ってなんですか?
「きゃっつニャ。知らないことないはずニャ。チミも知っている子たちがやってるアイドルクループニャ。
エクセリアとかリリーとかアイラ、セラータ。あ、最近はルカも事務所に入ったニャよ。」
……全員知らないんですけど。
「きっと忘れてるだけニャ。ともかくお金は払ってほしいニャ。クエス=アリアスのお金でいいニャ。」
よくわからないまま、君は渋々お金を払い、謎の猫(?)が入れた、ちょっと塩辛い琥珀色の液体を一口飲んだ。
冷製スープだろうか。悪くない昧だった。
ところで、ここで何してるんですか?
「世界を救っていたニャ。」
嘘ですよね。
「アタイだって本当のことを言う時もあるニャ。きゃっつが世界を救えるようにいろいろ手引きしたニャ。」
嘘ですよね。
「ぶぶ~~。不正解ニャ。少しはアタイを信しるニャ。
正直、どっちでもいいな、と思っていた。後ろで扉が開く音がする。
ぺたぺたという足音が、君の隣で止まった。独特の生臭さが漂ってきたので魚でも持っているのかと思った。
見ると、どこかで見たことがある人がいた。
「よっ。お疲れ様ニャ。いろいろ御苦労様だったニャ。あ、キュウリ冷えてるニャよ。」
「……。」
謎の猫(?)と、緑色の人を見て、君は、この異界には人がいないのだろうか、と思う。
パキッというキュウリを食べる綺麗な音が響いた。少し前まであったはずの平穏な時間が懐かしくなった。
「チミ、カラオケでも唄うニャ?〈Razor-Will〉入れるニャ。デュエットするニャ。」
君は心底帰りたいと思っていた。
アイドルキャッツ!!
6 番外編
7 嘘猫は眠らない