【黒ウィズ】アイドルωキャッツ!! Story0
2018/03/30 〜 05/01 |
世界を救ったアイドル、きゃっつ(仮)。
今では(仮)も取れて、立派なアイドルになって……いなかった。
毎日毎日、ケータリングはのり弁。
ちくわの天ぷらも白身魚のフライも、味を感じなくなるまで食べた。
理由は簡単。きゃっつは売れていなか⊃た。
世界を救っても、売れないものは売れないという、非情な現実があった。
そんな彼女たちの知らぬ所で、再び地下世界が動き出していた。
世界からピュアが失われようとしていたのである……
story0 プロローグ
世界を救い、鳴り物入りでアイドルとなったきゃっつ。
あれから時が経ち、(仮)が取れ本格始動した彼女たちはいま……。
ちくわの天ぷら……。
白身魚のフライ……。
のり。
おかか……。
全体的に茶色いです。茶色弁当です。
お野菜全然ありませんね……。
オメエたち、食べられる時に食べとかないと、ライブの時に動けねえぞ。パッと食って次の出番に備えっぞ!
じー……。
リルムがうろんな目つきで、ペオルタンを見つめる。
リルムだけではない。きゃっつのメンバー全員が同様だった。
どうしたんだ、オメエたち……。
ピュアの人。私たち人間なんだよ。少しは私たちのこと人間らしく扱ってよ。
え? まあ、きついスケジュール組んでることは認めっけど、アイドルでテッペン取るんだろ?
アイドルのテッペン取るには、これくらいのスケジュールにはとれえしなきゃいけねえんだ!
オメエたちはそのことをわかってると思ってたぜ!
そうじゃないよ!
じゃあなんだってんだよ!
もう三日連続でお昼ご飯、のり弁だよ!
そうです……この現場だけじゃありません。前のライブでも全日程のり弁でした。
でものり弁うめえだろ?
おいしいけど、毎日はおかしいよ。
もうのり弁を食べ過ぎて、ちくわの天ぷらを食べても味を感じなくなってきたんだぞ。
みなさん、イマジンしてください。明日ものり弁。明後日ものり弁。その次の日も、そのまた次の日も!
もう一生のり弁しか食べられない日々を。
うわああ、地獄です!
ペオルタン。我、杖だから物は食べないが、小娘たちの気持ちはわかるぞ。人というのは同じことの繰り返しを嫌うからな。
そうなのか……? のり弁、コロッケ弁、のり弁とかの方がよかったのか?
いや、のり、のり、コロッケ、のり、コロッケの方がいいだろう、うん。
のり弁を軸にして組み立てるな! あと、コロッケ弁も白身魚のフライがコロッケに変わっただけだからダメだ!
オメエも悪魔の癖に好みがうるせえな……。
オマエが無さすぎるんだ。
でもなあ、のり弁とコロッケ弁以外はたけぇんだよな。ぶっちゃけ、オレたち……。
全然売れてねえからな……。
「「「「それな。」」」」
きゃっつは全然売れていなかった。
鳴り物入りでアイドルになったはいいが、アイドルの道は世界を救うより難しかった。
世界はわりとフィーリングだけで救えたが、アイドルの世界はしがらみ、思惑、時の運。
売れるためには、自分たちの力だけでは制御不可能の様々な要素が絡んでいた。
偶然のように、それらの要素が結びついた瞬間に、アイドルはスターダムに駆け上がるのだった。
ほらほら、バカやってねえで、さっさと飯食えよ。食べねえと体がもたねえぞ。
言われて、きゃっつは渋々とのり弁をつつきだす。茶色と黒と白のコントラストで支配されたソリッドな弁当を。
この世界ではそれを茶色弁当と呼んだ。売れていないアイドルたちが現場で食べる昼食は、それら茶色弁当である。
色とりどりの衣装を着てカラフルなライトを浴び、自らの一挙手一投足に喜々として、ファンがサイリウムを振る。
そういった華やかな舞台に立つには、数多の茶色弁当が積み上げられ形作られたアイドル坂を駆け上がるしかないのだ。
ちくわの味を感じなくなったら、備え付けのソースをかけるしかない。
ソースの味に飽きたら、自前の調味料を持ち込むしかない。
それでも茶色弁当を食べるしかなかった。食べた茶色弁当の数がアイドルヘの道を作るのなら。
ガドリン、レモン持ってる?
持っていますよ。いつでもどこでも唐揚げにレモンをかけられるようにスタンバイしています。
それ迷惑だからやめろよな。
レモン果汁の入った注射器を回しながら、彼女たちは巷で流行っているサンドイッチのことを話した。
あのカラフルなサンドイッチが食べたいです……。赤青黄色のきれいな断面のアレです!
CMでよく見るヤツだよね。ロディがイメージギャラの。
あれ、お野菜たっぷりで美味しそうですね。どんな味がするんでしょうね。
具だくさん過ぎて、何味なのか、全然イマジンできませんね。
あれ、ロディに超似合うよねー。かっこいいよねー。会ってみたいよねー。
ロディ。その名を持つアイドルこそが、現在のアイドル界の頂点に立つ少女であった。
ロディなら、いまステージ下見してっぞ。
マジ!?
サツアイしにいきましょう! ついでに写真も一緒に撮ってもらいましょう!
我先にと立ち上がるきゃっつの面々。
ちょ、ちょっと待て。ワタシまだ食べてる最中だぞ……もういいや持っていこ。
***
サビ終わりで1カメに向くのは嫌って、撮影監督に伝えておいて。お客さんの方に向きたいわ。じゃ、あとよろしく。
大急ぎで駆けつけたきゃっつは、ステージの下見を終えたばかりのロディと鉢合わせた。
あ、終わったみたいこっち来るよ。準備準備。
外務大臣! エクセリアさん、お願い!
あ、はい。では行きますね……。
バックヤードに向かってくるロディをきゃっつはエクセリアを先頭にして待ち受ける。
こういう偉い人やすごい人とのサツアイの鉄砲玉になるのは、エクセリアというのがきゃっつの決まり事であった。
もちろん彼女が〈竜の国〉の王女であるという経歴を生かした配置である。
私たちは、ペオルタン芸能事務所のきゃっつというアイドルグループです。あの、今日はよろしくお願いします。
……きゃっつ? 知らない。……よろしく。
それだけ言うと、ロディはきゃっつたちの前を素通りしていく。
頂点と底辺は交わらない。そんな当たり前のことを見せつけられた瞬間である。
そこへ遅れてきたセラータが茶色弁当片手に駆けつける。
オマエ達、速く走りすぎだ! 見失ったじゃないか……って、あ、ロディ……。
目の前に駆け込んできたセラータの顔も見ず、ロディは茶色弁当だけを見つめていた。いま初めて、きゃっつを認識したかのように、彼女たちを見すえた。
あなたたち、そんな添加物まみれの物を食べてるから売れないのよ。他のアイドルと同じものを食べて、アタシに勝てると思わない方がいいわよ。
私たち……勝つとか負けるとかじゃなくて……。
遊びでやってるアイドルが、お客さんに何を与えられるのよ。
ロディはもう一度きゃっつに背中を向けると、今度はそのままバックヤードの奥へ消えて行った。
やばい……ロディ節だ。本物だ。
ロディがアイドルとしてブレイクした要因は、物怖じしない精神と、他のアイドルとなれ合うことのないスタイルだった。
それがいまこの瞬間に、この世界が求めていたものだった。だから頂点に立っていた。
当然、きゃっつもロディ流のアイドル像に憧れと尊敬を持っている。
でも……面と向かって言われると、ちょっとショックだな……。
そうですね……。
アイドルキャッツ!!
6 番外編
7 嘘猫は眠らない