【黒ウィズ】アイドルωキャッツ!! Story5
2018/00/00 |
逆に、ロディの出番によくばりサンドイッチの宣伝が行われる。
つまり重要なのは、どれだけ視聴者の目を引くかだぜ。
さあ、それがわかったら、弁当食って出番に備えっぞ!
静かに頷き返し、きゃっつはいつもの茶色弁当を手に取った。
ところが、手に馴染むその弁当箱を持ち上げるのを止める声がした。
配られたのは、猫々苑の特上カルビ弁当であった。
きゃっつには、ウィズの説明も、弟子の花輪のことも聞こえていなかった。
目の前にある茶色だけど、いつもと違う茶色弁当に心が踊っていた。
いつもと違うどえらい茶色弁当だった。
一口食べる。
肉ののった米を口に持っていく手が震えていた。食べると、□の中がなんだかよくわからなくなった。
リルムが呟いた。
気が動転しているようだった。
その言葉に、少女たちに遺伝子レベルの超反応が起こった。
米ジェノサイダーの誕生である。
おかずと米の1:1の等価交換の法則を打ち破り、
おかずと米1:5の虐殺的比率で米を食らう人種。
米の絶対滅亡因子。
それが米ジェノサイダーであった。
そして、この時、ガトリンは米で米を食らうという危険な行為にまで及んでいた。
これらはすべて、特上カルビという肉の魔力のなす業であった。
yみんな……緊張してるの?
しこたま米を食らい、英気を養ったきゃっつは決戦に向けて、円陣を組んだ。
「「「「きゃっつ!」」」」
合わせて、右足の腫を床に打ち付ける。
初めてのライブでは、思い思い好きなことを言って、最後に辻棲を合わせただけだった。
何度かのわからないこと会議を経て、いまではそれなりに洗練されていた。それは彼女たちの成長の証しでもあった。
***
最初の出番はきゃっつ。誰もがただの前座だと思っていた。誰も期待もしていなかった。
違うと思っているのは、自分たちだけである。
ステージに向かっていると、バックヤードでロディと出会った。
去っていくロディの後ろ姿と、それを見送るリルム。
ふたりだけの秘密の関係を繋ぐのは、パンのポイントシールだった。
あのきれいなお皿が当たるポイントシールだった。
きゃっつのみんなと食べた分だけ集まった思い出のポイントシール……。
様々な思い出が、集まったポイントの数だけある。世界を失えば、その思い出も消え、きれいなお皿ももらえない。
負けるわけにはいかなかった。
48時間が過ぎた。
きゃっつはいっぱいいっぱいであった。ぷっちゃけ96時間をなめていた。
これだけの時間、ライブを続けることはもちろん初めてである。
大体平均して30分前後の出番しかないきゃっつが、48時間こなせたのはほぼ奇跡であった。
それでも、きゃっつの異様な本番の強さが発揮され、パンケーキの販売シェアは伸びつつあった。
だが、次の48時間はどうなるのか……。まったく見えなかった。
そんな状況に奮起したのは、ひとりの守護天使だった。
そう言うと、ルカは傍にあるのり弁をひとつ、取り上げた。
のり弁の封を切ると、ルカはまず白身魚のフライ、チクワの天ぷらを米の上から退けた。
次は、ご飯を……はぁああ、ほッ!海苔を下にするようにひっくり返します。
そして、敷き詰められた米の裏表を豪快にひっくり返した。
今度は、おかずをまたご飯の上に戻します。
そして、水の張ったボウルを取り出すと、両手を湿らせた。
ここからは気合が必要ですよ。両サイドからお米を持ち上げてえ……挟む! そして握る! ここはかなり力技です。
挟んだらーい……、むぎぎ、握ったらーい……という思いを込め、強引に握り飯の形に持ち込みます!
yルカちゃん……すごい!
見さらせ! これが、ルカ特製のり弁握り飯です。これならワンハンドで食べられて、手軽に栄養補給できますよ。
きゃっつは一口その握り飯を食べた。
「「「のり弁だ!
さらにもう一口食べた。
「「「でも握り飯だ!
それでも、少しだけきゃっつは回復することが出来た。だが、まだ足りない。
もうどうしようもなく寝たいのだった。少しの時間でも次の出番のことを考えず、眠りたいのであった。
重たい眠気を背負い、きゃっつはソンビの如く這い回っていた。
それを見て、右耳に寝癖をつけたウィズが言った。
きゃっつが回復するまで、代わりに、チミたちがステージに出てほしいニャ。
y私もやったことないです。
それはわかっているニャ。それでもお願いするニャ。きゃっつを守ってほしいニャ。
その言葉を聞き、ふたりの心は決まった。
ユッカとルカの唐突なのり弁握り飯アイドルとしてのデビューが決まった。
ぶっちゃけ、きゃっつ陣営は全員頭がおかしくなっていた。
***
ユッカとルカは舞台袖で合わせ鏡のように見合い、お互いの衣装を確かめた。
y帽子かぶった。握り飯持った。よし! オッケーだね!
確かめあうと、ふたりは深く呼吸する。
ーーーーーーー
96時間が経った。つまり戦いが終わった。
エゴサ大臣アイラが打鍵する。打ち込まれた言葉が秒速を超えた速度で数十万の結果を導き出した。
それを聞いて、ロディは少し寂しそうに呟いた。
彼女の肩に乗ったぬいぐるみがにやりと笑っていた。
やあ、だらしないペオルタン。ボクはイーラモンだよ。キミの代わりに世界を滅ぼしてあげる悪魔さ。
不敵な笑顔を見せるぬいぐるみに、不気味な真顔のウィズが言い放つ。
すぐに答えがでた。
バナナパンケーキだけじゃよくばりサンドイッチに勝てなかったニャ。
でものり弁と合わせれば、サンドイッチに勝っているニャ。
それだけの人々がよくばりサンドイッチヘの欲望に打ち勝ったニャ。イーラモン、チミの負けニャ!
ウィズがカードを取り出し、投げつける。カードはイーラモンの額に張りつくと、激しく発光した。
悪魔は地面に落ちると、しなびたように横たわった。
悪魔を見下ろすロディには、そんなことすら興味が湧かないようだった。
それになんかちょっと強そうだし。たぶん病気としてもすごいはず。
リルムがおもむろにロディの手を掴む。手の甲に浮き出た小さなこぶを触れた。
ひとしきり、笑ったあと、少女は項垂れた。
チミは自分を貫こうとして悪魔と手を組んだニャ。アタイはそれを責めないニャ。ここのみんなも責めないニャ。
ロディは周りにいるアイドルたちを見た。彼女たちの顔は一様に笑顔であった。
まるで世界を失いかけたことなど、もう忘れているようであった。
もしかしたら、本当に忘れていたかもしれない。その可能性はあった。
色々終わったから、お腹空いた。もうそれしか考えられなくなっちゃった!
ロディはエクセリアからのり弁を受け取る。
一口、食べると涙が出てきた。
孤高のアイドルが涙していた。のり弁を食べて泣いていた。
それは生を喜ぶ昧がするのか、あるいはアイドルとして駆け出しの頃、食べた味がするのか。
その場にいる誰もわからなかった。
だがはっきりとわかるのは、彼女が明日を生きるために食べているということだった。
だから、いつまでも……。ロディ・ギャドのそんな姿を見ないであげるニャ。
ウィズの言葉に同意して、アイドルたちはその場を後にした。
***
セラータ、リルム、リリー!オメエたちなんか人に見せらんねえ格好になってっぞ!
まったくよー……それにガトリンはどこ行った!?
ぞば……ぞば……。ぞば……ぞばー……。
大きな戦いを制したきゃっつだったが、その代償は大きかった。
燃え尽き症候群丸出しで、人様の前に出られる状態ではなかった。
せっかく、注目を浴びてるってのによぉ……。
ペオルタンが愚痴っていると、鏡が光った。
yこんにちはー!
yうん。いまは繁忙期じゃないからね。
yじゃあ、またアイドルやるってこと?
「「はい!」」
こうして、ペオルタン芸能事務所に新たなアイドルが誕生した。
新たな門出を祝ってか、空には咲き始めの桜が風にのって、舞っていた。
サクラサク
サクラサイタラ
コメタケタ
アイドルたちの新たな門出であった。
***
アイドルキャッツ!!
6 番外編
7 嘘猫は眠らない