【黒ウィズ】ARES THE VANGUARD RAGNAROK Story3
目次
ARES THE VANGUARD RAGNAROK
~ADVENT~
story1 AUDIENCE
ナンバーズの会議から抜け出した後のことだ、ゼウスⅠは、戦闘機に乗り、ひとりで天空の神殿へと向かっていた。
メルクリア……そこにいるんだな。
だが、簡単に乗り込むことはできなかったある程度まで近づくと、なにかが神殿に張り巡らされているのがわかったからだ。
カーニバルの時にメルクリアが張ったバリアと似たようなものか。ならば!
ケラウノ・ストライク!
機上から拳を放つ、だが、バリアはびくりともしなかった。
まるで無理のように無理だな。別の手を考えるべきか……ん、いや?
張り巡らされていたバリアが、ふいに消滅する。
オレの攻撃で壊れた……のではなく、向こうから解除した、というところか。ご招待なら、応じようじゃないか。
ゼウスⅠは神殿に降り立ち、最奥までまっすぐに歩いていった。
君が私の力のー端を持つヒーローとやらか。
ほう、アンタが天空神ゼウスか。
ふむ……不快だな。このような滓(かす)が私の名を使っているとは。
そう言わないでよ、ゼウス。これでも使い道はあると思うよ。
メルクリア。やはりここにいたのか。
はは、そりゃいるよ。ぼくはゼウスの忠実なる伝令神だもの。他にどこに行けというのさ。
それで、なにしに来たのかな?
お前に会いに来たのさ。会いたかったからな。
会って、それでどうするの?ぼくにはもう、君と話すことなんてないけど。
確認したかっただけさ。そして確認はもう済んだ。
そんな目をさせる奴のもとに、お前を置いておくわけにはいかないってな!神器、お目覚めの時間だ!
ゼウス!メルクリアを返してもらうぞ!
放たれるのはゼウスⅠ必殺の技。パワー最強と呼ばれる神器〈神王雷霆〉の全力をこめて放つー撃。
パントクラトル・ケラウノス!
天を切り裂く雷霆が拳から放たれ、唸りをあげて玉座の神王へと喰らいつくだが――
こんなものがケラウノスだと?あまり私を笑わせるものではない。
無傷だと!?オレの拳を受けて!?
雷霆(ケラウノス)とは閃光(ステロヘス)、稲妻(アルケス)、雷鳴(ブロンテス)を合わせた力を指すが、いまのは閃光にも劣る。
ほんの少しだけ見せてやろう。本物のケラウノスというものをな。
ゼウスは手にした杖でゼウスⅠを指し、それを軽くふった。
その瞬間、先の必殺技の倍にも及ぶ激しさの雷霊が宙を切り裂き、ゼウスⅠの肉体を激しく打ち据えていた。
ぐぉああああああああぁぁぁぁ!
避けるだとか防御するだとか、そんなものを考える余裕もない。気がつけば膝をつき、ー歩も動けなくなっていた。
これが……天空神……!
わかったよね、ユピテリオス。ヒーローなんて本物の神には遠く及ばない。所詮、君たちは滓から生まれたんだからね。
オレが……カスだと……?
ただの事実だよ。そうだね。君たち神話還りがどうやって作り出されたのか、少し教えてあげようか。
ヘルメスはそういうと、己が纏う緑の布を手に取った。
これはね、服ではなくて、ぼくたち神のー部なんだよ。肉体というわけではないけど、ぼくたちの力が集まってできたものだ。
言い方は悪いけど、そうだね、言ってみれば垢みたいなものかな。
垢といえど神のー部だから、力が宿っている。ほんの欠片みたいなものだけどね。
けど垢だから、古くなればこぼれ落ちたりもする。プロメテウスは様々な神や半神のそれをひそかに集めていたのさ。
そしてそれを溶かし、君たちの飲食物に混ぜることで、適性のある人間を神話還りに生まれ変わらせたんだよ。
ははっ、気持ち悪いよね。要するに君たちヒーローは、ぼくらの残り滓から生まれた、滓太郎君ってわけだ。
ゴッド・ナンバーズだなんて気取っていたって、そんなものだよ。滓にはなにも救えない。
たとえカスでも……。
ゼウスⅠは動かぬ肉体を動かし、這う、ヘルメスに少しでも近づこうと這っていく。
お前がそんな顔をするなら……抱いてみせる!ガキのオレを、お前がそうしてくれたように……!
……そう。じゃあ、ぼくの役に立ってもらおうかな。ゼウス、あなたの布を。
ゼウスのまとう布のー部がちぎれ、掌に乗る。ヘルメスはゼウスⅠのかたわらに屈み、それで彼の両目を覆った。
君が役に立ってくれれば、ぼくは楽ができる。せいぜいがんばってよね。
メルクリア、なにを……!これは……身体が……!おおぉぉぉぉぉぉ!
story2 Ⅸ VS Ⅰ
どいてくれぇぇぇ!
君たちがヘラⅢを解放した矢先、室内に飛び込んできたゼウスⅠは、叫びながらデメテルVのもとへ駆けた!
させんとよ……お……お……?
駆け出そうとしてアレイシアが膝をつく先の戦いで君の与えた魔力が切れたのだ。
君はカードを構えアレイシアに魔力を送るが、その隙にゼウスⅠはデメテルVのもとへ行き、両腕で抱き上げていた。
ケルベロス・オニュクス!
すかさずエウブレナの放った番犬が、ゼウスⅠを追う。
しかし、それが届く寸前、ゼウスⅠは窓の外へと身を躍らせ、はるかな眼下へと飛び降りてしまった。
逃げられた!?早く追わないと!
その必要はないよ。
ⅦとⅫが来ているんだろう?君たちは保管庫にある神器をふたりに持っていってあげるといい。
でも、V様が!
”Ⅲの判断は正しい。君たちは神器を運ぶべきだ。”
それじゃ〈システム・エリニュス〉を止めることが!
問題はない。Ⅰは私がいるのとは反対の方へ去っていった。
つまり、彼女の待ち受ける方角にな。
連絡を受けたそのヒーローは、しなやかな指をレイピアにそっと這わせる。
Ⅰが相手かあ、しょんどいなあ。ま、しかたないか。
アフロディテⅨ |
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寝ぼけた男にビンタする役なんて、あーしがやらなきゃだれがやるって感じだし!
story2-2
デメテルVを抱えたゼウスⅠは、高速で駆ける。
時折、デメテルVの指が、行き先を示す。そのたびに、ゼウスⅠの肉体は方角を変え、止まらす走り続ける。
どうやらヒーローの部隊が待ち受ける場所を避けて移動しているらしい、とゼウスⅠは理解する。
その動きの奇妙さに先に気づいたのは、デメテルVだった。
(うまく遭遇をかわしているように見えて、その実、巧みに誘導されています……。この部隊指揮は、やはり……。)
考えている間も、ゼウスⅠの肉体は、部隊の囲みがうすい方、うすい方へと移動していく。
川の源流へさかのぼるようにその行動範囲は狭まっていき、やがてビル街にあらわれた渓谷のような場所に――
果たして、彼女は待ち受けていた。
おつかれちゃん。んじゃ、やろっか。
リベルティーナ……やめた方がいい。オレはオレを止められない。手加減はできないんだ。
いらねーし。優しさと舐めるの、ごっちゃにしてない?
デメテルVの身体が離れ、ゼウスⅠの身体が臨戦態勢を取る。
Ⅸ!やめてください!貴女では……いまの貴女では、Ⅰと戦うのは危険です!
大丈夫だってばV。操られてる奴に負けるほど、あーしは落ちぶれてないし。
ですが、貴女の肉体は、あのカーニバルでボロボロではありませんか!いつ引退してもおかしくないのですよ!
ヘルメス神の介入により、死のゲームと化したジャスティス・カーニバル。
その終盤、アフロディテⅨは力を与えるため、アレイシアの槍を敢えてその身に受け、倒れた。
その後、神器〈ケストス〉により回復し、動けるようにはなったし、大会後に治療も受けた。だが――
神であるプロメテウスをも倒したー撃である。それを受け、更には残った力も与えた、無事でいられるわけもない。
いまのアフロディテⅨは以前の半分も力が出せるかどうか怪しい、傷口だって、いつひらくかわからない。
だがそれでも――
それがどうかした?どれだけ身体がずたぼろでもさ――
悪に操られた仲間を放っておく理由になんて、なるわけないっつーの!
どこまでも美しいな、リベルティーナ。できれば早く倒れてくれ。オレの身体が本気を出す前に。
story1-3
ゼウスⅠの拳は重く速いさらにそこに雷撃が乗る。
かつてのアフロディテⅨなら神器を利用し、その打撃を受け流すことができたが、いまの彼女には不可能だ。
技術が通用するのは、根本的な力に大きな差がない時だけだ、どんなに上手くガードしても、ガードごとぶち壊されては意味がない。
いまのアフロディテⅨは、ー撃でももらえばそれでアウト攻撃に関してもおなじだ。
もらった!
ー瞬の隙をつき、レイピアをしならせ、ゼウスⅠのがードを縫って、脇腹へと滑り込ませる。
だが、鋭く研ぎ澄ませた刃は刺さらず、分厚い肉の鎧に弾き返された。
ー度だけではない。幾度も繰り返した、ー撃必倒の打撃の隙間を縫い反撃しても、ダメージを与えられず、後退を余儀なくされる。
距離を詰められ、雷撃拳を放たれる、髪の焦げる臭いがするほど際どくかわし、踏み込みながら肘を放つ。
それすらも片手で受け止められ、軽々と放り投げられた時、アフロディテⅨは壁際まで追い詰められていた。
わかるだろう、リベルティーナ……。こんなのは勝負じゃない。早く逃げてくれ……。
なるほどね。これはたしかに、いまあーしがアンタに勝つのは無理かもしんないわ。けどまあ……。
1対1とは言ってないしね!
デウカリオン・プリミラ!
ぐはっ!
突如としてあらわれた背後からの水流にゼウスⅠが押し流される。
流された先に待っていたのは、この瞬間のために溜めていた力を解放した、必殺のカウンター。
エルキスティコス・アナストロフィ!
***
う、うう……。
身体が……動く……。自由になったのか?
無理しない方がいいんじゃない?アンタ、ずっと暴れてたんでしょ?
あのー撃のために、そのお嬢ちゃんをすっと潜ませていたのか。
そういうことですわ。Ⅰ様のお相手はわたくしがしますと言ったのに、Ⅸ様がゆすらないのですもの。
本調子じゃなくたって、これくらいだいじょぶだっての。実際できたっしょ?
シアリーズ(テメテルV)はどうなった?
ご安心を。私も解放されております。
デメテルVの直接戦闘能力は低い、ナンバーズふたりが揃えば、布を取ることは容易かった。
皆様にはご迷惑をおかげしました。ですが、もう〈システム・エリニュス〉を悪用されることはありません。
Ⅲ様とⅧ様も正気に戻ったことですし、これで操られたゴッド・ナンバーズはいなくなりましたわね。
ⅦとⅫも戻ってきてるっていうし、これだけナンバーズが揃ってるなら、相手が神だろうがなんとかなるっしょ。
どうだろうな。神の力、あれは……。
きゃっ!ななんですの!?
爆発!?どこ!?
あれは……ヴァンガードベースの方角です!
story
ゼウスⅠが英雄庁より逃げた直後――
では、神器の輸送は任せたぞ。私はアポロンフォースと共に本部に陣取り、周辺の敵を鎮圧していく。
Ⅸ様はともかく、ネーレイス、大丈夫かしら……?
ネーさんはもう立派なナンバーズだよ。信じて、ボクたちはボクたちの役目を果たそう。
そうね。ゴッド・ナンバーズだもの。いつまでも私が心配するなんて、おこがましいわね。
さあ、魔法使いさん。ヴァンガードベースに戻りましょう。
君はうなずき、アレイシアたちとふたたび走りだした。
story
ゴッド・ナンバーズなる者たちが、我が支配から逃れたか。
そうみたいだね。どうする?回復してきたし、また私が行こうか?
あの者たちを支配したのは我が慈悲だ。それを解さぬというのなら、教える必要があるな。
アテナよ。行ってくれるかい?
はい。それが父様のお望みであるならば。
***
うおおお!ベースが見えてきたぞ!
よかった。なんとか無事に戻れそうね。
そうだね、と君がうなずいた、その時――天よりー筋の光が差し込んだ。
な、なんじゃあ!?
あまりにも眩いそれは、次第に小さな影に収束していき――
ひとりの少女がそこに立っていた。
見た瞬間、君たちは同時に理解した。
神……なの?
私はアテナ。ゼウス父様の盾にして剣である。
アテナ神!ほ、本物……?
アレイシアが戸惑った声をあげるのも無理はない。戦略と守護の神として知られるかの女神が、このような幼い姿だという伝承はない。
人間、神器とやらを持っているな。差し出すがいい。父様に捧げるのだ。
ゼウスは神器を手に入れてどうするつもりにゃ!
……いま、父様の意を問うたのか?
不敬が過ぎる。
背筋が凍った。
君はほとんど反射的に防御障壁を張る、アレイシアとエウブレナも防御態勢をとった。それでもなお――
死ね。
無造作に振った剣から放たれた衝撃波は、たやすく障壁を砕き、君たちを吹き飛ばした。
うおおぉぉぉぉぉぉ!なんじゃこりゃあああぁぁぁ!
な、なんて威力……!こんなの、ゴッド・ナンバーズにも……。
以前のふたりなら、あるいは違っていた。アレイシアにはアレス神の力があり、エウブレナには神器があった。
そのふたつを共に失っているいま、アテナ神の次の攻撃を防げるとは、とうてい思えなかった。
だから、君は前に出た。
ふたりとも、下がるにゃ。こいつの相手は私たちがするにゃ。
なに言うとるんじゃ!ボクに力を与えたせいで、魔法使いさんも疲れとるじゃろが!
君は、そうだけど自分もヴァンガード隊のヒーローだからね、と笑い、カードを構えた。
いただけないねえ。
ヒーローってほら、公務員じゃない?そういう根性論、組織だと邪魔なんだよねえ。
その通りだ。無理をする必要はない。ヒーローは、ここにもいるのだからな。
Ⅶ様!Ⅺ様!来てくださったのですね!
どうやら持ってきてくれたようだな。来い。そして覚醒せよ、神器!
こっちもよろしく頼むよ、神器!
アテナ神よ。以前からすっと、会いたいと思っていた。
プロメトリックから、神がこの世界を捨てたと聞いた時、私はあなたこそが悪だと思った。
守護女神が守るべき世界を捨てたのだ。その罪、許しがたい。だから私は、あなたを誅するため、神と戦うプロメトリックに与した。
もっとも、愚かな私はやり方を間違った。あなたを断罪する資格はないのかもしれない。だが、ー度だけ問う。
我が女神アテナよ。あなたにとって、人間とはなんだ?
知らない。
なに?
全ての存在はゼウス父様のためにある。父様にいらないと言われれば消えるべきだ。死ねと言われれば死ぬべきだ。
それ以外の道も価値も、人間にはない。
……なるほど、理解した。罪を犯した私に、なぜ神器が力を与えてくれているのかを。
どうやら私は、あなたを止めるために、これまで生き恥をさらしてきたようだ!いくぞ、ヘパイストスⅪ!
了解だよ!それが君の選んだ道ならば、神だって倒してみせようじゃないの!
ならば、死ね。
***
ヘパイストスⅪの神器〈鍛治神の撃鉄〉が立て続けに火を吹く。
だが、撃つた者の意のままに曲がる弾丸は、吸い込まれるようにしてアテナ神の構える盾にぶつかり、砕け散った。
はあっ!
その弾丸を追うようにして、すでにアテナⅦは斬りかかっている。
剣閃が4度、突き、斬り、払い、それらフェイントとして、本命の突き。
その全てが、敢えなく弾かれる。
幼い少女としか見えないのに、アテナ神は大盾と大剣が合体したような不思議な武具を軽々と振り回した。
見事なものだ。それが本物のアイギスの盾というわけか。
アイギスの盾?
ならば、我が神器とどちらが上か、試してみるとしよう!
アテナⅦの神器〈アイギスの盾〉が輝く。それは神の力を高め、盾と共に叩きつけるアテナⅦ最大のー撃。
アペルピスィア・アイギス!
ふたつの盾が、正面からぶつかり合う。
そして――神器は砕け散った。
なっ!〈アイギスの盾〉が!
私の武具、パラス・アテナは父様を守る最強の剣であり盾。神々にも砕けはしない。
Ⅶさん!
危機を察したアレイシアが、自らの身の危険も顧みず飛び出そうと――
させないよ!
するよりも先に、ヘパイストスⅪが、アテナ神に飛びかかっていた。
邪魔だ。
音もなく。
巨大な剣が、しわひとつないスーツに突き刺さっていた。
アイスキュロス!
来るな!全員さがれ!
その言葉に、エウブレナはアレイシアが飛び出さないように後ろから押さえ、君は残った魔力でアテナⅦを守る障壁を張る。
なにをするつもりだ!まさか!
ヘパイストスⅪは神器〈鍛治神の撃鉄〉の銃口をアテナ神に向ける。
銃弾で撃つため、ではない。いま彼の持つ神の力の全てが、火薬となって雷管に詰められている。
撃鉄が叩いた瞬間、それは噴火にも匹敵する大爆発を起こすだろう。――引き金を引いた人間を、巻き込みながら。
幸せになるんだよ、ネルヴァ。
アイスキュロス!アイスキュロース!なんて……ことを……。
爆発は広範囲ではなかった。威力が低かったのではない。局所的に凝縮された爆熱だった。
舗装された道が蒸発し、小さなクレーターが生まれていた、その中心に――
少女神は無傷で立っていた。
何者も、アイギスを破ることはできない。
アイギスの盾。そう呼ばれることが多い。だが時にアイギスは、肩当てや胸当て、あるいはそれに類したなにかと伝えられる。
実際は、形など関係がない。守護女神アテナの権能たる絶対防御障壁。それがアイギスの正体である。
何事もなかったかのようにアテナ神は歩きだす。その歩みの先は、アテナⅦ。
だが、その足をつかむ者がいた。
いかせ……ないよ……。
自らの起こした爆発でボロボロになり、立ち上がることもできず、それでもなお、確かな意思で神を留める。
守るんだ……僕が……だから……。
邪魔だ。
その意思を断ち切るように、アテナ神の大剣が、地を這う男に刃を向ける。
やめろ!やめてくれ!
叫び、祈る、だが愛する者の命を奪おうとしているのは、まさにその祈るべき神なのだ。
では、なにに祈るというのか?
ネルヴァの心によぎったのは、長い年月を共にした相棒だった。
神器よ!これ以上、失いたくない!私に、守る力を!
その瞬間――
ネルヴァの肉体が輝きを放ち、応えるように砕けた〈アイギスの盾〉が、もとの形へ戻っていく。
私が守るのだ!アイスキュロスも!この街の人々も!
……これは……根源の……?
邪悪なる神を打ち払え!〈守護女神の愛(アイギス・フィリア)〉!
まばゆい光がアテナⅦを中心に広がるそれはその場にいる人間になにも影響は与えず――
アテナ神のみを空の彼方へと弾き飛ばした。
それだけではない。その光はオリュンポリスを覆う天蓋のように広がり、都市を守る防御結界と化した。
だが、アテナVは己の成したことに見向きもせす、大事な人のもとへ、ただ駆け寄る。
アイスキュロス!アイスキュロス!無事か!
ああ……僕の思った通り……。君は最高のヒーローだよ、ネルヴァ……。
そう言って意識を失ったアイスキュロスの顔には、誇らしげな笑みが浮かんでいた。
***
驚いたね。まさかアテナが失敗するとは。
申し訳ありません。
オリュンポリスを覆う結界、僕が作ったメルクリウス・スフィアと変わらないほど強固なものだ。
あんなものを、人間が作れるなんてね。
間違いあるまいな。神器とやらの正体は〈襖〉だ。
〈楔〉?なんのことだい?
知る必要はない。……だが、そうだな。次はお前に行ってもらうとしよう。
はいはい、かしこまりました。けど、あの結界はどうするの?ぼくの力じゃ、解除に時間がかかるけど?
安心するがいい。〈襖〉があるのならば、私も覚悟を決めることにした。
我が同胞(はらから)の力を借りるとしよう。
***
無事なナンバーズで作戦会議をするため、君たちは英雄庁本部へと集合していた。
ユピテリオスさんは治療中です、意識はありますが当分は戦えないでしょうね。
そもそも我と戦った時に散々射ち抜いておる。あれだけ暴れられた方がおかしいのよ。
そういうⅥも、無理してるんでしょ。休めばいいんじゃないの?で、そっちはⅪがリタイアか。
ああ、なんとか命は助かったが、いまは眠っている。当分は戦えないだろう。
ともあれナンバーズが正気に戻り、アテナ神も退けた。おかげで少しずつ状況は好転している。
わたくしとⅨ様が指揮する部隊によって、操られたヒーローたちも、順調に正気に戻っていますわ。
Ⅶの張った結界が、このまま神の干渉を防いでくれんなら、近いうちに全フォースを立て直せんじゃない?
Ⅶ様のあの力……すごかったわ。あれなら神にも対抗できるかもしれません。
でも、なんでⅦさんはあんなことができるようになったの?
正確なところはわからないだが、心当たりはある。
ホント!?教えてください!
ああ、いいだろう。実は……
と、その時、血相を変えたゾエルが部屋に駆け込んできて、悲鳴のような声をあげた。
おいおいおいおい!冗談じゃねえぞ!全員、空を見やがれ!
彼らは空を見た。
いや、彼らだけではない。オリュンポリスにいる全ての人間が、己の目を疑いながらそれを見た。
空に巨大な異界の歪みが出現していた、その歪みから、なにかがあらわれる。
君は驚き、ウィズも目を見開いて、信じられないというようにつぶやく。
そんな……なんであいつがここにいるにゃ?
その鯨にも似た姿の、巨大な異形は、城のごとき巨体を丸めると、光を背部にぎゅるぎゅると凝縮させ――
光の奔流を背から吹き上がらせた。
その光は千々に裂け、雨粒のように降り注ぐ。そしてオリュンポリスを覆う結界に突き立ち、爆裂し――
結界を破壊した。
間違いない、と君は確信するあれは――
〈終焉のかけら(エンド ブリンガー)〉だ。