【黒ウィズ】ARES THE VANGUARD RAGNAROK Story3
目次
ARES THE VANGUARD RAGNAROK
~ADVENT~
story1 AUDIENCE
ナンバーズの会議から抜け出した後のことだ、ゼウスⅠは、戦闘機に乗り、ひとりで天空の神殿へと向かっていた。
だが、簡単に乗り込むことはできなかったある程度まで近づくと、なにかが神殿に張り巡らされているのがわかったからだ。
ケラウノ・ストライク!
機上から拳を放つ、だが、バリアはびくりともしなかった。
張り巡らされていたバリアが、ふいに消滅する。
ゼウスⅠは神殿に降り立ち、最奥までまっすぐに歩いていった。
それで、なにしに来たのかな?
ゼウス!メルクリアを返してもらうぞ!
放たれるのはゼウスⅠ必殺の技。パワー最強と呼ばれる神器〈神王雷霆〉の全力をこめて放つー撃。
天を切り裂く雷霆が拳から放たれ、唸りをあげて玉座の神王へと喰らいつくだが――
ほんの少しだけ見せてやろう。本物のケラウノスというものをな。
ゼウスは手にした杖でゼウスⅠを指し、それを軽くふった。
その瞬間、先の必殺技の倍にも及ぶ激しさの雷霊が宙を切り裂き、ゼウスⅠの肉体を激しく打ち据えていた。
避けるだとか防御するだとか、そんなものを考える余裕もない。気がつけば膝をつき、ー歩も動けなくなっていた。
ヘルメスはそういうと、己が纏う緑の布を手に取った。
言い方は悪いけど、そうだね、言ってみれば垢みたいなものかな。
垢といえど神のー部だから、力が宿っている。ほんの欠片みたいなものだけどね。
けど垢だから、古くなればこぼれ落ちたりもする。プロメテウスは様々な神や半神のそれをひそかに集めていたのさ。
そしてそれを溶かし、君たちの飲食物に混ぜることで、適性のある人間を神話還りに生まれ変わらせたんだよ。
ははっ、気持ち悪いよね。要するに君たちヒーローは、ぼくらの残り滓から生まれた、滓太郎君ってわけだ。
ゴッド・ナンバーズだなんて気取っていたって、そんなものだよ。滓にはなにも救えない。
ゼウスⅠは動かぬ肉体を動かし、這う、ヘルメスに少しでも近づこうと這っていく。
ゼウスのまとう布のー部がちぎれ、掌に乗る。ヘルメスはゼウスⅠのかたわらに屈み、それで彼の両目を覆った。
story2 Ⅸ VS Ⅰ
君たちがヘラⅢを解放した矢先、室内に飛び込んできたゼウスⅠは、叫びながらデメテルVのもとへ駆けた!
駆け出そうとしてアレイシアが膝をつく先の戦いで君の与えた魔力が切れたのだ。
君はカードを構えアレイシアに魔力を送るが、その隙にゼウスⅠはデメテルVのもとへ行き、両腕で抱き上げていた。
すかさずエウブレナの放った番犬が、ゼウスⅠを追う。
しかし、それが届く寸前、ゼウスⅠは窓の外へと身を躍らせ、はるかな眼下へと飛び降りてしまった。
ⅦとⅫが来ているんだろう?君たちは保管庫にある神器をふたりに持っていってあげるといい。
つまり、彼女の待ち受ける方角にな。
連絡を受けたそのヒーローは、しなやかな指をレイピアにそっと這わせる。
アフロディテⅨ |
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寝ぼけた男にビンタする役なんて、あーしがやらなきゃだれがやるって感じだし!
story2-2
デメテルVを抱えたゼウスⅠは、高速で駆ける。
時折、デメテルVの指が、行き先を示す。そのたびに、ゼウスⅠの肉体は方角を変え、止まらす走り続ける。
どうやらヒーローの部隊が待ち受ける場所を避けて移動しているらしい、とゼウスⅠは理解する。
その動きの奇妙さに先に気づいたのは、デメテルVだった。
考えている間も、ゼウスⅠの肉体は、部隊の囲みがうすい方、うすい方へと移動していく。
川の源流へさかのぼるようにその行動範囲は狭まっていき、やがてビル街にあらわれた渓谷のような場所に――
果たして、彼女は待ち受けていた。
デメテルVの身体が離れ、ゼウスⅠの身体が臨戦態勢を取る。
ヘルメス神の介入により、死のゲームと化したジャスティス・カーニバル。
その終盤、アフロディテⅨは力を与えるため、アレイシアの槍を敢えてその身に受け、倒れた。
その後、神器〈ケストス〉により回復し、動けるようにはなったし、大会後に治療も受けた。だが――
神であるプロメテウスをも倒したー撃である。それを受け、更には残った力も与えた、無事でいられるわけもない。
いまのアフロディテⅨは以前の半分も力が出せるかどうか怪しい、傷口だって、いつひらくかわからない。
だがそれでも――
悪に操られた仲間を放っておく理由になんて、なるわけないっつーの!
story1-3
ゼウスⅠの拳は重く速いさらにそこに雷撃が乗る。
かつてのアフロディテⅨなら神器を利用し、その打撃を受け流すことができたが、いまの彼女には不可能だ。
技術が通用するのは、根本的な力に大きな差がない時だけだ、どんなに上手くガードしても、ガードごとぶち壊されては意味がない。
いまのアフロディテⅨは、ー撃でももらえばそれでアウト攻撃に関してもおなじだ。
ー瞬の隙をつき、レイピアをしならせ、ゼウスⅠのがードを縫って、脇腹へと滑り込ませる。
だが、鋭く研ぎ澄ませた刃は刺さらず、分厚い肉の鎧に弾き返された。
ー度だけではない。幾度も繰り返した、ー撃必倒の打撃の隙間を縫い反撃しても、ダメージを与えられず、後退を余儀なくされる。
距離を詰められ、雷撃拳を放たれる、髪の焦げる臭いがするほど際どくかわし、踏み込みながら肘を放つ。
それすらも片手で受け止められ、軽々と放り投げられた時、アフロディテⅨは壁際まで追い詰められていた。
1対1とは言ってないしね!
突如としてあらわれた背後からの水流にゼウスⅠが押し流される。
流された先に待っていたのは、この瞬間のために溜めていた力を解放した、必殺のカウンター。
***
身体が……動く……。自由になったのか?
デメテルVの直接戦闘能力は低い、ナンバーズふたりが揃えば、布を取ることは容易かった。
Ⅲ様とⅧ様も正気に戻ったことですし、これで操られたゴッド・ナンバーズはいなくなりましたわね。
story
ゼウスⅠが英雄庁より逃げた直後――
さあ、魔法使いさん。ヴァンガードベースに戻りましょう。
君はうなずき、アレイシアたちとふたたび走りだした。
story
アテナよ。行ってくれるかい?
***
そうだね、と君がうなずいた、その時――天よりー筋の光が差し込んだ。
あまりにも眩いそれは、次第に小さな影に収束していき――
ひとりの少女がそこに立っていた。
見た瞬間、君たちは同時に理解した。
アレイシアが戸惑った声をあげるのも無理はない。戦略と守護の神として知られるかの女神が、このような幼い姿だという伝承はない。
不敬が過ぎる。
背筋が凍った。
君はほとんど反射的に防御障壁を張る、アレイシアとエウブレナも防御態勢をとった。それでもなお――
無造作に振った剣から放たれた衝撃波は、たやすく障壁を砕き、君たちを吹き飛ばした。
以前のふたりなら、あるいは違っていた。アレイシアにはアレス神の力があり、エウブレナには神器があった。
そのふたつを共に失っているいま、アテナ神の次の攻撃を防げるとは、とうてい思えなかった。
だから、君は前に出た。
君は、そうだけど自分もヴァンガード隊のヒーローだからね、と笑い、カードを構えた。
ヒーローってほら、公務員じゃない?そういう根性論、組織だと邪魔なんだよねえ。
プロメトリックから、神がこの世界を捨てたと聞いた時、私はあなたこそが悪だと思った。
守護女神が守るべき世界を捨てたのだ。その罪、許しがたい。だから私は、あなたを誅するため、神と戦うプロメトリックに与した。
もっとも、愚かな私はやり方を間違った。あなたを断罪する資格はないのかもしれない。だが、ー度だけ問う。
我が女神アテナよ。あなたにとって、人間とはなんだ?
それ以外の道も価値も、人間にはない。
どうやら私は、あなたを止めるために、これまで生き恥をさらしてきたようだ!いくぞ、ヘパイストスⅪ!
***
ヘパイストスⅪの神器〈鍛治神の撃鉄〉が立て続けに火を吹く。
だが、撃つた者の意のままに曲がる弾丸は、吸い込まれるようにしてアテナ神の構える盾にぶつかり、砕け散った。
その弾丸を追うようにして、すでにアテナⅦは斬りかかっている。
剣閃が4度、突き、斬り、払い、それらフェイントとして、本命の突き。
その全てが、敢えなく弾かれる。
幼い少女としか見えないのに、アテナ神は大盾と大剣が合体したような不思議な武具を軽々と振り回した。
アテナⅦの神器〈アイギスの盾〉が輝く。それは神の力を高め、盾と共に叩きつけるアテナⅦ最大のー撃。
ふたつの盾が、正面からぶつかり合う。
そして――神器は砕け散った。
危機を察したアレイシアが、自らの身の危険も顧みず飛び出そうと――
するよりも先に、ヘパイストスⅪが、アテナ神に飛びかかっていた。
音もなく。
巨大な剣が、しわひとつないスーツに突き刺さっていた。
その言葉に、エウブレナはアレイシアが飛び出さないように後ろから押さえ、君は残った魔力でアテナⅦを守る障壁を張る。
ヘパイストスⅪは神器〈鍛治神の撃鉄〉の銃口をアテナ神に向ける。
銃弾で撃つため、ではない。いま彼の持つ神の力の全てが、火薬となって雷管に詰められている。
撃鉄が叩いた瞬間、それは噴火にも匹敵する大爆発を起こすだろう。――引き金を引いた人間を、巻き込みながら。
爆発は広範囲ではなかった。威力が低かったのではない。局所的に凝縮された爆熱だった。
舗装された道が蒸発し、小さなクレーターが生まれていた、その中心に――
少女神は無傷で立っていた。
アイギスの盾。そう呼ばれることが多い。だが時にアイギスは、肩当てや胸当て、あるいはそれに類したなにかと伝えられる。
実際は、形など関係がない。守護女神アテナの権能たる絶対防御障壁。それがアイギスの正体である。
何事もなかったかのようにアテナ神は歩きだす。その歩みの先は、アテナⅦ。
だが、その足をつかむ者がいた。
自らの起こした爆発でボロボロになり、立ち上がることもできず、それでもなお、確かな意思で神を留める。
その意思を断ち切るように、アテナ神の大剣が、地を這う男に刃を向ける。
叫び、祈る、だが愛する者の命を奪おうとしているのは、まさにその祈るべき神なのだ。
では、なにに祈るというのか?
ネルヴァの心によぎったのは、長い年月を共にした相棒だった。
その瞬間――
ネルヴァの肉体が輝きを放ち、応えるように砕けた〈アイギスの盾〉が、もとの形へ戻っていく。
まばゆい光がアテナⅦを中心に広がるそれはその場にいる人間になにも影響は与えず――
アテナ神のみを空の彼方へと弾き飛ばした。
それだけではない。その光はオリュンポリスを覆う天蓋のように広がり、都市を守る防御結界と化した。
だが、アテナVは己の成したことに見向きもせす、大事な人のもとへ、ただ駆け寄る。
そう言って意識を失ったアイスキュロスの顔には、誇らしげな笑みが浮かんでいた。
***
我が同胞(はらから)の力を借りるとしよう。
***
無事なナンバーズで作戦会議をするため、君たちは英雄庁本部へと集合していた。
と、その時、血相を変えたゾエルが部屋に駆け込んできて、悲鳴のような声をあげた。
彼らは空を見た。
いや、彼らだけではない。オリュンポリスにいる全ての人間が、己の目を疑いながらそれを見た。
空に巨大な異界の歪みが出現していた、その歪みから、なにかがあらわれる。
君は驚き、ウィズも目を見開いて、信じられないというようにつぶやく。
その鯨にも似た姿の、巨大な異形は、城のごとき巨体を丸めると、光を背部にぎゅるぎゅると凝縮させ――
光の奔流を背から吹き上がらせた。
その光は千々に裂け、雨粒のように降り注ぐ。そしてオリュンポリスを覆う結界に突き立ち、爆裂し――
結界を破壊した。
間違いない、と君は確信するあれは――
〈終焉のかけら(エンド ブリンガー)〉だ。