【黒ウィズ】ARES THE VANGUARD RAGNAROK Story4
目次
story1 DEAD END
クエス=アリアスには、異界よりあらわれる敵と戦う者たちがいる。名を、境界騎士団。
君はかつて、その境界騎士団と協力し、強大な怪物を討ち果たしたことがある。
怪物の名は〈断絶をもたらすもの(デッド エンド ブリンガー)〉。
いま、オリュンポリスの上空にあらわれた異形は、あの怪物に酷似していた。
ARES THE VANGUARD RAGNAROK
~ENDBRINGER~
あわてるヒーローたちに、君は、落ち着いて、と声をかける。
別の世界で少しね、と君はうなずき、あの敵の恐ろしさを説明する。
ブリンガーの恐ろしさ、それはあの凶悪な破壊力ではない、あらゆる攻撃が通用しないことなのだ、と。
威力の問題じゃない、と君は言う、君の知る強力な戦士たちですら、ー度は為す術もなく敗れ去っているのだ。
アポロンⅥの言葉をさえぎるようにアレイシアが前に出る。
少し力を削ぐだけでもいい。だれかがあいっと戦わなくちゃダメだ。
人々に危機が迫っている以上、言って止まるアレイシアではない、君がどうすべきか迷っていると――
アレイシアは店長(あだ名)から渡されたLサイズのピサを猛然とした勢いで食べる。
でも……あれだね……急にたくさん食べると……眠く……な……。
アレイシアはー枚まるまる平らげると同時に眠りはじめてしまった。
さて、ゴッド・ナンバーズの諸君。君たちにひとつ問おう。
神とおなじ力が欲しくはないかね?
***
いや、ただの怪物ならいい。けど、あれはまるで……。
かつてオリュンポスの神々に戦いを挑み、その結果、ゼウスに世界を捨てることを決意させた最悪の怪物。
〈神話に終焉を告げる獣〉テュポーン。
姿はまるで違うのに、ゼウスが異界より呼び寄せた異形は、どこかがあの怪物の王に似ていた。
すべての異界にはああした存在が、1体ずつ封じられている。〈神話に終焉を告げる獣〉はこの異界のブリンガーだ。
ゆえに、別の異界より〈空の果てより来る滅び〉を喚んだまでだ。
かつて我が父クロノスは、自らの王位が簒奪されるのを恐れ、生まれてきた子らを次々と喰らった。
母であるレアの手によりその惨劇から逃げ延びた唯ーの子が私だ。
成長した私は父の腹にいる兄弟たちを助け出し――ティターン族を倒す力を与えた。
根源より力を引き出す、〈門〉にして〈紋〉それを我が兄弟と子らに授けたのだ。お前にも与えたな、ヘルメス。
12神をはじめとした強い力を持つ神々の肌には神紋が顕れる、それが根源に通じる神の力の源である。
だが……疑問に思ったことはないかね?私がいつ、どのようにして、〈紋〉を編み出したのか。
……真実と異なる形で伝えたことがある。母の手により逃がされた私が育ったのは、クレタ島ではない。――異界だ。
私はクロノスの目の届かない異界で育ち、父を倒す力を求めた。そして出会ったのだ。
その異界に封印されていたブリンガーにな。
そのブリンガーは根源より力を引き出す方法を知っていた。だが、それを行う肉体を持っていなかった。
私たちの利害はー致していた。力を持つが肉体を持たぬそれと、肉体は持つが力の足りぬ私。
ゆえに、我々は融合することにした。
オリュンポスを移してより、あなたは様々な異界に神を派遣した。そして奇妙なものを持ち帰らせた。
あれらがなんなのか、いまわかった。あれは、ブリンガーを封じていたもの、いわば〈襖〉だったんだ。
あなたは様々な異界に封じられていたブリンガーを、解き放っためにぼくらを利用していた。
それは、あなたもまた――
数多のプリンガーに指示を与え、率いるもの。心臓に次ぐブリンガーの中枢。プリンガーたちの頭脳なるもの。
〈世界に終焉を告げる神(ワールド エンド ブリンガー)〉。それが私のもうひとつの名だ。
***
テュポーンが全面戦争をしかけてきたあの時、ぼくはこの世界を捨てることを進言した。無敵のゼウスが悩んでいると思ったからね。
ところが真実はどうだい?ぼくらの王もテュポーンも、おなじ怪物のお仲間だったというわけだ!
だったら、アレスはなんのために死に、ブロメテウスはなんのために苦しみ続けたんだろうね!あははははは!
奴らのもとへ行き、神器を差し出せと伝えよ。従わねば、いまいちど先の攻撃を放つ。とな。
私がいまの真実を告げたとき、ポセイドンやアポロンは結託し、私への反逆を目論んだ。
アテナですら私を理解せずに逆らい、こうして再誕させざるを得なかった。
私がブリンガーであると知り、なおも変わらなかった神は、ハデス、あなただけだ。
いったい、なにを考えているのだね?
ふふ……そう思っただけだよ。
***
かつてプロメテウスは、エリュシオンマートの巨大な流通を利用し、そこで扱う飲食物に神の残滓を混入させた。
それを摂取した人間のうち、適合したものが、神話還りとして覚醒したのだ。
神に並ぶには、〈紋〉が必要なのだ。
強大な力を発すれば、すぐに神の力は尽きる。根源より力の供給を受けなければ、神とまともに戦うことはできまい。ゆえに――
君たちに、〈紋〉を宿してもらいたい。
6可能なのか!?そのようなことが!
12神の残滓はまだ残っている。君たちがそれを吸収することができれば、神の力は強化される。
その力がー定を超えれば、〈紋〉が肉体に宿るだろう。
もっとも、肉体がそれに耐えきれなければ、どうなるか保証はない。それでも、試してみるかね?
即答だっただれも、迷いもためらいもない。
アテナ神との戦いの前に、プロメテウスから奇妙な布を渡されていてな。思えば、あれが神の残滓だったのだろう。
アイスキュロスの危機に、私は祈った。気がつくと力が増し、神器が強化され、結界を張ることができた。
あれは神の残滓を体内に取り入れることで、私の力が増していたのだろう。
おそらく、強い力を持っている神話還りほど〈紋〉を宿す可能性が高いだろう。
君たちの中でまず試みるべきは――
と、その時、ナンバーズ専用の通信が入った。
室内に緊張感が走る、治療中のゼウスⅠとヘパイストスⅪ以外は、室内に揃っていた。
ならば、この通信をかけてきたものは……
空に浮かぶ怪物は見たよね?もうわかったんじゃないかな。ゼウスに逆らっても無駄だって。
だから、これは最後の忠告だよ。君たちの持つ神器を渡して欲しいな。
これからぼくが本部に向かうから、ちゃんとそろえておいてね。それじゃ。”
ー方的に告げると、ヘルメスは通信を切った。
ポセイドン。ヘルメスには君が立ち向かうべきだ。
ネーレイスはー瞬、戸惑いを顔に浮かべたが、納得したようにうなずいた。
それじゃ皆様、わたくしの勝利をそこでご覧になっていてくださいまし。ほーほっほっほっ!
ひとりで本部を出たネーレイスはつぶやく。
でしたら、せめて時間稼ぎをするのがわたくしの役目!
任せてくださいまし!皆様がさらなる力を手に入れるまで、わたくしが神の侵攻を防いでみせますわ!
***
プロメテウスはゴッド・ナンバーズに色取りどりの不思議な布を手渡す。
9くっ!きっつ~!ちょっ、こんな痛いなんて、聞いてないんですけど!?
3人は内側から弾けるような激痛に耐える、すると、少しずつ痛みは収まっていった。
エウブレナが眠るアレイシアを見ながら言うと、プロメテウスはかぶり振った。
なにより、私はアレスの残滓を持っていない。彼と共にすべて葬った。
いまのアレイシアでは、この先の戦いについていくことはできない。だが、言って止まるアレイシアではない。
眠らせたのは、プロメテウスの優しさなのだ。エウブレナはそう理解した。
……あるいは、アレイシアの〈紋〉は不完全であったか?だから私も生き延びることができた?
ぶつぶっとつぶやくプロメテウスにウィズが口を挟む。
君はプロメテウスにブリンガーの説明をした。
その〈神話に終焉を告げる獣〉は、アレスによって倒されているのだぞ?神の力が通じぬはすが……いや?
そうだ。奴には私の攻撃が通じなかった。あらゆる攻撃を弾くゆえに奴は神々にすら恐れられていた。
だが、アレスだけは違った。ゆえにアレスはこの世界に残り、奴と戦う道を選んだのだが……。
………………ふむ。
プロメテウスはしばし思索にふけった後、顔をあげて言った。
神器とはなんだ?そこに宿る意思を君たちはどう理解している?
story
いまを去ること数十年前。プロメテウスの手により神話還りが生まれてよりほどなく。
オリュンポリスは悪しき心を持つ神話還り――悪党(ヴィラン)の手による犯罪が多発していた。
人間を超えた神話還りの力に、それまでの治安維持機構は対抗できず、街は荒れるばかりであった。
しかし、その事態に立ち上がったのもまた、ひとりの神話還りであった。
正しき心と強い力を持ったその神話還りの男は、自らの身の危険も顧みず悪と戦い、数々の勝利をおさめた。
だが悪の数は限りなく、彼の力をもってしても戦い抜くことは困難であった。
ああ、神のごとき力があれば、人々を守り抜けるものを。
常々そう願っていた男は、ある夜、天より12の流星が降るのを見た。
男はなにかに導かれるようにして、流星の落ちた地を探した、そしてたどり着いた場所には――
12の武具が、静かに彼を待っていた。
それがなんなのかもわからぬまま、男は武具のなかにあった指輪を、己の指にはめる。
瞬間、意思が伝わってきた。
言葉になっていない、だがひどく強い意思その意思は、敢えて言葉にすると、このようなものであった。
正義を為し、そのために、世界を守るのだ力を貸そう。
指輪は男に力を与えたどんな悪にも負けることのない、正義を為す力を。
原初のヒーロー、ゼウスⅠの誕生であった。
ゆえに初代ゼウスⅠは、武具に宿る意思を神のものだと理解し、その武具を神器と名付けた。
これが我々の知る神器のはじまりだ。なぜいま、あらためて説明を求めたのだ?
君たちはすっとそう信じていた。私はその勘違いをひどくおかしく思ったものだ。
この世界を捨てた神々が、人間に力を与えるはずなどないというのにj。
神器を作ったのは、オリュンポス最高の鍛冶師、ヘパイストスに違いあるまい。
独断で動いた?あのヘパイストスが?だとしたら、人間に神器を与えて、なにをさせようというのだ?
奴らが私を止めようとしていたならば、そんな回りくどいことをするはずがない……。
***
神器〈トライデント〉を手に、ネーレイスは覚悟を決める。
ポセイドンⅡになり、ようやく理解したゴッド・ナンバーズとは、孤独である。
神器の力を全力で解放した戦いに通常のヒーローはついてこれない。その場にいても足をひっぱるばかりだ。
ひとつの部隊を率いるリーダーでありながら、その本気の戦いは、常に孤独となる。
けど、いまはわたくしがポセイドンⅡオリュンポリスは、わたくしが守りますわ!
***
出迎えは君?Ⅵが来ると思ったんだけどな。
欲しければ、力づくで奪い取ることですわ!
けど、いいよ、いまはちょっと、暴れたい気分だからね!
***
もしかして、ネーレイスちゃんが負けると思ってる?そマ!?
普通に勝っと思うんですけど、あーし。
神の宝物タラリア。それを身に着けたヘルメスは、ー陣の風と化して宙を舞う。
その姿を捉えることはできない。だが……。
姿を捉えずとも、倒すことはできる。
周囲全てを飲み込む局地的な洪水が、宙を舞うヘルメスを呑み込む。
大波に呑まれ身体の自由を失ったヘルメスに立て続け技を放つ、放つ、放つ。
駆け引きは得意ではないだから、捉えた機は逃さない全ての力をー気呵成に叩き込む。
その必要がないからだ。
その言葉に偽りがないことを、この数ヶ月の目覚ましい成長で思い知った。
逆を言えば、未熟だってわかっててもナンバーズに認められるくらい、パワーがあるってこと。
彼女にその自覚はないようだがな。
全力を出し尽くした。これ以上はなにもできない。
目の前には、力なく横たわる神の姿があった。
アレスが人間に負けたって神話があるだろう?あれさ、ぼくが広めた大嘘なんだよ。
そのぼくが、まさか人間にね。これは傑作だ。はは、はははは。
ああ、そうか。君たちは知るわけないか、アレスの存在は、ぼくが消したんだものね。
オリュンポスに帰るんじゃなかったな、やっぱりあの時、眠っておくべきだった、なんでぼくは、こうなんだろうね、はは。
ヘルメスは空を見上げたまま、虚ろに笑うその目にはもう、戦意はない、ネーレイスは安堵の息を吐き、話しかける。
それで、気づくのが遅れた。神杖ケーリュケイオンが浮かんでいることに。
ケーリュケイオンは生ある者に眠りを与える。
ヘルメスが望めば、たちまちその力は発揮され、周囲すべての生物が、ヘルメスもろとも、覚めることのない眠りに就くことになる。
おねんねにはまだ早いぜ、メルクリア、抱っこでベッドに連れていってないだろう?
漏れ聞こえるプロメテウスの話から理解した。神にも等しい力を手にすれば、メルクリアを神の身から解放できる。
ならば、迷う必要も悩む必要もない宿せばいい、根源とやらから力を引き出す〈紋〉とやらを。
さあ、メルクリア!抱っこの時間だ!パントクラトル・ケラウノス!
12神の〈紋〉を砕くなんてさ……。君、ぼくをなんだと思ってるのさ。
ヘルメスに宿る〈紋〉は、砕け散っていた。もはや神の力はその身にない。
まあ、いいよ。もうゼウスのもとには帰りたくても帰れない、ぼくが教育し直してあげるよ、ユッピー。
かつて、修行が辛くて泣きじゃくっていたユピテリオスに、メルクリアが手を差し伸べた。
だがいまは、ユピテリオスの差し出した手を、メルクリアが握る。
立場は逆になっていたが、ふたりの顔に浮かんだ笑みは、あの日とおなじものだった。
ネーレイスが天を指すその先では――
〈空の果てより来る滅び〉がふたたび輝き、その巨体から小型の怪物が無数に放出されていた。
〈空の果てより来る滅び〉の動きに気づいたエウブレナは、全身を走る鈍い痛みに耐えながら、人造神器を手に取る。
***
空の異形から放たれた小型の怪物が、雲霞のごとく湧き上がり、押し寄せる。
そのことごとくが、ふたりに近づくこともできずに墜ちていく。
アルテミスⅥが10の矢を生成し、それを同時に神器につがえる。それはアルテミスⅧ最大の奥義。
放たれた10の矢は、ー度宙で拡散したのち、標的に向けて集束していく。
次の瞬間、空を舞う巨体のおなじ箇所に、寸分たがわず10の矢が次々と直撃する。
――だが、月光のごとく鋭い10の矢は、ひとったりとも刺さることなく、甲殻に弾かれ地に落ちていった。
***
アルテミスⅧは休むことなく空に向かって矢を放ち、小型の怪物を落としつづける。
だが敵は減るどころか、落とせば落とすほど数を増していく、アルテミスⅧも万全ではない。やがて矢の生成が追いつかなくなってきた。
落としきれなかった敵が数体、アルテミスⅧを通り抜け、背後のアポロンⅥを襲う。
アポロンⅥは、微動だにしなかった。破けた衣装にかまいもつけず、軽く拳を振るうと、敵を吹き飛ばす。
神器〈遠矢射る光明神〉を天に向け、神の力で生成された矢をつがえる。
その輝きはこれまで以上にまばゆく、構えるアポロンⅥの肌には、はっきりと〈紋〉が刻まれていた。
これはその証だ!アポロン・バスター・トリスメギストス!
放たれたのは、正面から貫き、常と変わらぬ最大のー撃、焦がす、光明の閃光。
だがその巨大さも威力もかつての比ではない。メギストスの3倍にも達する威力の光線が、空を飛ぶ巨体を襲う。
それは全てを弾く甲殻を貫きながら、光の中に包み込み――
閃光と轟音が晴れた時、怪物の姿は跡形もなく消え去っていた。
Ⅷ、無事か?この勝利は君のおかげだ。礼を言おう。
アポロンⅥは、空のー点を指すそこにあるのは、ゼウスの座す天空の神殿。
それを覆っていた強力な結界は消えていた、いまのアポロンⅥのー撃によって、砕け散ったのだ。