【黒ウィズ】ARES THE VANGUARD RAGNAROK Story2
目次
ARES THE VANGUARD RAGNAROK
~NUMBERS~
story1 DISOBEY
ベースに戻ると、意外な人物たちが君たちを迎え入れた。
やーやー、ご苦労様。ご無事でなにより。いや、本当に帰ってこれるとはねえ。
言った通りだったろう、アイスキュロス?神の力や神器を失ったくらいで、ヴァンガードの者は止まったりしない。
アテナⅦに、ヘパイストスⅪ!?カーニバルの後、また行方不明になっていたんじゃ……。
旅の途中だったのだが、オリュンポリスの近くまで来たときに、この騒動が起きてな。
ネルヴァが血相変えて飛び出すもんだからさ、おじさんもついて来ざるを得なかったわけ。
でも、なんで私たちのところへ?
そりゃ出来ることなら本部に行きたかったよ。僕たちの神器もあるしね。けど……。
いま、英雄庁本部に近づくことはできない。操られた3人のナンバーズによって占拠されている。
***
時をわずかにさかのぼり、アポロン区。
神に操られたヒーローたちは、アポロンⅥ率いるアポロンフォースに、激しい攻撃を加えていた。
この動き……まず私を排除することで、ヒーロー全体の士気を乱すつもりか。敵はなかなか賢しいようだ。
だが、オリュンポリスの太陽は、この程度では沈まぬよ!
集中攻撃を受けながら、アポロンⅥは見事な指揮で部隊を散開。自身を囮にし、被害を最小限に抑える。
そして英雄庁の異変を感じ、少数の部下を率いて本部へと向かった。
だが、ゼウス区へ足を踏み入れた瞬間、降り注ぐ無数の光の矢が、彼らをその場に縫い止めた。
これは……!アルテミスⅧまで、操られてしまったというのか!
くっ……すまぬ……!
英雄庁本部、その屋上に立つアルテミスⅧは、苦悶に顔を歪めながらつぶやき、しかしその手は次の矢を生成する。
月神アルテミスは双子である光明神アポロンと並ぶ弓の名手とされている。
その力を色濃く秘めるアルテミスⅧもまた、アポロンⅥと並び称されるほどの弓の使い手であった。
ー撃の威力ではアポロンⅥに軍配があがるが、その手数の多さと狙いの精妙さでは、アポロンⅥを上回るとも評される。
その神器よりー度に放たれる矢の数は、最大で100にも達する。
右7.28度。距離3428。
脳内に伝わる情報に従いアルテミスⅧの肉体が狙いを定める。
そして放たれた100の矢は――
物陰に潜んでいたアポロンⅥたちを正確に捉え、降り注いだ。
見えるはずのない距離からこの正確な狙い。間違いない、ヘラⅢも操られているのだな!
ヘラヒーローにはある特性が備わることが多い。
ひとつは読心能力、周囲の人間の思考を読み取る能力。
いまひとつは伝心能力。自らの思考を相手の脳内に伝える能力。
これらの特性を限界まで引き出すのが、神器〈黄金の林檎〉である。
神器の力を引き出したヘラⅢは、読心可能領域がゼウス区全体にも広がる。
つまり、ゼウス区に足を踏み入れた瞬間、その心は読まれ、居場所も作戦も丸裸になってしまうのだ。
Ⅲが敵の心を読み、Ⅵの弓で迎え撃つ。我が英雄庁最上の拠点防衛術が、まさか敵に使われることになるとは……。
……やむを得まい。後退する!ゼウス区に足を踏み入れるな!
ヘラⅢとアルテミスⅥ。双方が操られ、本部を守っているのだ。神器もない私たちでは、近づくこともできない。
それで近くにあったここに寄ってみたわけ。君たち、無茶苦茶だからね。なんかやってくれるんでしょ?
期待に応えてやりたいのは山々だが、こっちも過去最高にヤベェ状況だ。
まさかディオニソスⅫが死ぬとはな……いまだに信じられん。
その言葉に、周囲に沈黙が落ち、アレイシアも拳をにぎってうつむく。
君もおなじ思いだった、道すがら、エウブレナに説明は受けていたが、信じたくない気持ちでいっぱいだった。
だが、アレイシアは唇を噛み、顔をあげた。
Vさんも操られてるんだよね?それなら急いで本部を取り戻して、ナンバーズを正気に戻さないと。
だよなだよなぁ?〈システム・エリニュス〉使われたら、ひ、ひひ、おしまいじゃん!
〈システム・エリニュス〉って、なんにゃ?
デメテルVが管理している、このオリュンポリスの兵器管制システムだよ!
あれが起動したら、オリュンポリスにある全ての兵器が、起動者の思う通りに動かせるようになっちまうのさ!
いやいやいや!アレが敵の手に渡ったら、相当まずいことになるねえ。市民にどれだけ死者が出ることやら。
あまりに危険だから、ナンバーズで一番温厚なVが、他のナンバーズふたりの同意を得て、初めて起動できるようになってるんだけど……。
Ⅲ、Ⅷ、V。3人揃っちゃってるね。こりゃ大変だ。もうおしまいかもね。
そ、そうなのか!?ど、どうしよう……。
ああ、いや冗談冗談。安心してよ。アレの起動には数時間がかかるように、意図的に設計されてるからね。
いまから急いでVを止めれば、そんな危機は訪れないはずだよ。
了解しました!それじゃいますぐ行ってきまっす!
だから、普通に行ってもⅧのせいで近づくこともできねえって言ってんだろうが!
ゼウス区には操られたヒーローたちも大量にいる。Ⅵの部隊と連携はとれないのか?
Vがシステムダウンさせてるからよぉ、通信できねえんだよ。いまクラッキング中だけど、専門家じゃないから、なかなか、な。
なんだい、そんなことで悩んでたの?ここにいるのがだれか、忘れちゃったのかなあ。
ヘパイストスⅪ、通称、人造神器マスター。その工学知識は多岐にわたり、無論、情報工学にも精通している。
任せておきなよ。10分もあれば、どことでも連絡がとれるようにしてあげるからさ。
***
ヘパイストスⅪの言葉は嘘ではなかった。わずか10分後。
”ヴァンガードか?こちらはアポロンⅥだ!”
す、すげえ~……。本当に10分で直った……、よだれ出そう……。
何年も前からネットワークの色んな場所に、バックドアを仕込んでいたからね。だいたいの抜け道は見つけられるよ。
は、犯罪じゃないですか!ヒーローがそんなことをして良いと思っているんですか!?
う~ん。いまさら僕にそれ言うの、虚しくならない?
”そーそー、いまはそれどこじゃないし。あとであーしがちゃんとシメとくから、話、進めよ。”
”でも、連絡のとれなくなった本部が、まさかそんなことになっていたなんて……。難しい状況ですわね……。”
ショック受けんのは早えぞ。耳かっぽじってよく聞けよ。
ゾエルはアレイシアが力をうしなったこと、ハデス神が先代ハデスⅣであり、エウブレナの神器を奪い取ったこと――
そして、ヴァッカリオが命を落としたことを、極めて淡々と告げた。
ネーレイスもアフロディテⅨも息を呑むだがアポロンⅥは、静かだった。
”……確かなのだな?”
ああ。奥の部屋で息もせず静かにしてるよ。なんなら映してやろうか?
”それには及ばない。状況は理解した。ならばなおさら早急に本部を取り戻さねばならぬな。”
”そ、それだけ……ですの?”
”6名。”
”え?”
”現時点で判明している我が部隊の死者の数だ。操られて消息不明の者も含めれば、どれだけの被害が出ているかわからない。
全部隊を合わせればどれほどになるか、想像もできん。ましてや巻き込まれた市民の被害も考えれば、すでにどれだけの命が失われたことか。
ディオニソスⅫの殉死は痛ましい。他の失われた命と同様にな。だから、ー刻も早く事態を解決する。それだけだ。”
沈黙が落ちる、だがその時間を惜しむように、アフロディテⅨが口をひらく。
”とりあえず、あーしとちゃんの部隊は、このまま市民を守るのに使う。”
”うむ、そうしてもらえれば後顧の憂いはない。我が部隊の半数もそちらに回そう。
私はゼウス区の本部へ向かう。少しだけ時をおいて、ヴァンガードも本部へ向かって欲しい。”
……なるほど、かのⅥ様が、囮になってくださるってことかい。
”うちらの最大戦力であるⅥちゃんに、Ⅷの意識が集中するから、その隙に本丸ちゃんを落とすってわけね。”
いいんじゃないの?僕はここに残って、もうちょっと通信復旧をがんばってみようかな。
では、私も残って、ここを守るとしよう。
了解じゃ!やろう、エウさん、魔法使いさん!
ええ!私たちの手で、英雄庁を取り戻しましょう!
”では、5分後を作戦開始時刻とする。良いな。”
通信を切ったアポロンⅥは、心配そうな顔をする部下たちに、まずこう命じた。
1分でいい。総員、この場を外し、周辺の哨戒に行って欲しい。
いまから1分だけ、私はヒーローではなくなる。できれば耳もふさいでもらいたい。
その言葉に、部下たちは黙ってうなずき、散開した。
クリュメノスがハデス神で、ヴァッカリオの命を奪った、か……なかなか心が追いつかぬな。
神よ。あなた方にはあなた方の深いお考えがあるのかもしれない。だが……。
アポロンⅥは天を仰ぎ、そこに浮かぶ神殿に向かって弓を引き、叫ぶ。
貴様らは許されざることをした!我が弟の生命、あがなわせてもらう!これはその誓いの矢と知れ!
アポロンバスター・メギストス!
神殿の最奥で玉座に座すゼウスは、怪冴そうに眉をひそめた。
わずかに揺れたな。
気のせいなんじゃないかな?君の力で守られたこの神殿がどうすれば揺れるのか、見当もつかないからね。
……ヘルメス。
あなたの忠実なる伝令神に、なにかご用事でも?
じきにお前に頼み事をするかもしれぬ、備えておくがいい。
いつなりとご命令を、全能なるゼウス。ぼくはあなたに逆らえないんだからね。
虚ろな目でそう応えるヘルメスにハデスは背を向け、笑う。
無駄なことだよ、アポロニオ君。君の力では、ここに届くことはできない。早く理解して欲しいな。
story2 Ⅵ VS Ⅷ
アルテミスⅧは武人である。
18歳でゴッド・ナンバーズの座を受け継いでより十余年、浮いた噂のひとつもなく、武に磨きをかけつづけた。
言葉少なく、ただ冷たい瞳で悪を討つその姿は、男女を問わす魅了し、市民より高い支持を得ている。
そんなアルテミスⅧが唯ー、感情を露わにするのが、アポロンⅥと相対する時だ。
「あいも変わらす腑抜け顔よ。それが戦うものの相貌か。
巷では、我の弓の腕は汝に比肩する、などと言われておるが、とんだお笑い草よ。真実が見えておらぬ。
だが、愚者に真実を見せるのも英雄の役目。汝が手合わせを望むなら、応えようぞ。」
だが、アポロンⅥは無益にヒーロー同士で争うつもりはなく、いつも笑顔で挑発を受け流していた。
「顔の通りに腑抜けた男よ。逃げたとしても、いずれ真実は明るみに出る。その時にどのような顔をするか、見ものよな。」
光明の化身アポロンⅥ VS 月光の化身アルテミスⅧ。
夢の対決の火蓋がいま、切って落とされようとしていた。
ゼウス区との境界の手前に、アポロンⅥは立つ、部下は皆、別行動をさせ、彼ひとりだ。その方が、守るために気を配らすに済む。
Ⅷ。お前は以前より、私に対して挑発的であったな。そして、それに値する技量も持っている。
ナンバーズ同士の不要な評いを避けるため、これまでその挑発に応えぬようにしてきたが……。
アポロンⅥが歩を進め、境界線を超える瞬間、天より100の矢が降り注ぐ。
アポロンバスター!
それに向かって放たれた、たった1本の巨大な光の矢が、100の矢を呑み込み天高く飛翔していく。
本心を言えば、私も知りたいと思っていた。君と私と、どちらが優れた弓使いなのかを。
存分に確かめ合うとしようか、アルテミスⅧ!
story2-2
冷たい月光。
白昼だというのに、その矢の描く軌跡は、そのように見えた。
神器〈射掛ける月神〉、その弓から放たれる矢を見た者は、美しさに見惚れたまま命を落とすという。
なるほど、あの評は偽りではないな。
本部は遠い、アルテミスⅥを視認することはできない、だがその矢は正確にアポロンⅥの頭部を狙って降ってくる。
無論、黙って受けるアポロンⅥではない身をかわし、それを避ける。
だが、避けたその場へ、すでに次の矢は降ってきている。
それをすんでのところでかわしても、そこにはすでに次の矢が待っている、かわしてもかわしてもそれが続く。
アルテミスⅧの放つ1本の矢は、宙で100に分かれ標的へと降り注ぐ。
その100の矢に、1本たりとも無駄はない。全てが標的を捉える必然の射である、彼女の弓を評して人はいう。
ー射百中。
見事な腕前だ。私以上という噂も誤りではないやもしれぬ。だが――
アポロンⅥは、ふいに足を止める。それをも読み切ったように飛来する月光の矢を――
自らの額をぶち当てて、打ち砕いた。
ふざけてくれるな、神よ!アルテミスⅥの矢はこんなものではない!
ヒーローは力で戦う者にあらす!その胸に宿る正義で戦う者だ!
いかに巧みに肉体を操ろうと、心の宿らぬ弓でヒーローを倒すことなどできぬ!
神よ!もしこの戦いを見ているのならば、その目に焼き付けるがいい!
これが、ヒーローの戦いだ!
叫ぶと同時に、アポロンⅥの肉体が前方へと飛び出す。
それは完璧なまでの理想的フォームで繰り出される、全身全霊のスプリント。――ただの全力疾走である。
正統でありながら常識を置き去りにしたその速度が、降り注ぐ矢の狙いをことごとく外していく。
アポロニオがゴッド・ナンバーズに選ばれた時、初代ゼウスⅠは彼を評してこう言った。
「お主ならば、神話還りとして生まれずともゴッド・ナンバーズとなっていただろう」
神話還りの力に覚醒めてよりおよそ30年。ー日たりとも休むことなく、アポロニオは鍛錬をつづけている。
深い悲しみに沈んだあの日も。激しい怒りに震えたあの日も。歓喜に包まれたあの日にすら。
己を律し、ただ実直に力を磨きつづけてきた。彼の全身は、膨大なる基礎修練でできている。なんのけれんもない愚直なだけの正義の化身。
ゆえにだれもが彼をこう呼んだ――HERO of HEROES。
見えてきた英雄庁本部ビルから、影が降り立つ。アルテミスⅧの麗姿である、上空からでは捉えられぬと判断し降りてきたのだ。
放たれた100の矢が、ふたたびアポロンⅥを襲い来る、正面から来た最初のそれを、アポロンⅥは拳で撃ち落とした。
ジャブである。
アポロン神は拳闘の祖でもある、ゆえにアポロンヒーローはボクシングも嗜む。当然、アポロンⅥはその頂点に立っている。
ジャプ、フック、パリング、スウェー、ウィービング、ダッキング――あらゆる技術を駆使しながら、ー時も止まらす前進。
あれほど離れていた間合いが、みるみる内に詰まっていく。
アルテミスⅧが第3の矢をつがえようとした時すでに眼前にアポロンⅥが立っていた。
アルテミスⅥよ。こんなものは君と私の勝負ではない。平和を取り戻し、正々堂々と競おうではないか。
飛び退こうとするアルテミスⅧの目を覆う神の布を、アポロンⅥの右手が掴む。同時に左手が固く握りしめられ――
覚醒めよ、アルテミスⅧ!我が好敵手よ!
放たれたアッパーカットは、神の布を引きちぎりながら、アルテミスⅥの麗姿を宙に舞わせた。
10カウントは、不要であった。
story3 DELIVERY
作戦が開始し、君たちが出発したヴァンガードベースに、訪れる者がいた。
エリュシオンマートで~す!ピザのお届けにあがりました~!
あれ?だれか頼んだっすか?
こちら、当店からのサービスとなります。大変な事態ですので、少しでも皆様のお力になれれば、と。
ひひ、気が利くじゃん!んじゃオレ、アレイシアの分まで食っちゃうかな、ひひ。
また追加でお届けにあがりますから、遠慮なくどうぞ。では、私はこれで。
爽やかにそう告げた店長(あだ名)はアテナⅦの横を通り過ぎる時、そっと囁いた。
君たちふたりだけ、外に来てもらいたい。
あれだけのことをしでかして、のうのうと生きているのは我々もおなじこと。我々が責めるのは筋合いが違うとは思う。
けど、いまさらなんの用だい?僕たちの内緒話は歓迎されないと思うけどね、プロメトリック。
わかっている。すぐに戻る。君たちにあるものを渡したいだけだ。
私は己の所業を悔いている。貴様を信じることはできない。
当然の判断だ。だが、私もまた、人類に堕罪をせねばならない。
アテナⅦはプロメテウスの目を見た。プロメテウスもまた、まっすぐに見返してきた。
その瞳にはかつてのような怒りと悲しみはなく、強い決意だけがあるように、アテナⅦには思えた。
……いいだろう。話してみろ。なにを渡そうというのだ?
礼を言う。では、これを。
これは……?
story4 VS Ⅲ&Ⅴ
01. ARES THE VANGUARD 1・2・3 | 2019 10/07 |
02. 巨神vs戦神 | 10/11 |
03. アレイシア&エウブレナ編(謹賀新年2020) | 01/01 |
04. ARES the VANGUARD(魔道杯) | 02/21 |
05. ARES THE VANGUARD Ⅱ ~英雄大戦~ 序章・1・2・3・4・5・6・7 | 2020 03/30 |
06. アポロニオ&ヴァッカリオ編(GW2020) | 04/30 |
07. アレイシア編(GP2020前半) | 08/31 |
08. ヴァッカリオ編(GA2020後半) | 09/17 |
09. ARES THE VANGUARD Ⅲ ~ジャスティスカーニバル~ 1・2・3・4・5・6・7 | 2020 11/13 |
10. アレヴァン編(8周年) | 2021 |
11. ~RAGNAROK~ -鼓動-(魔道杯) | 06/25 |
12. ARES THE VANGUARD Ⅳ ~RAGNAROK~ -終焉- 序章・1・2・3・4・5・6・7・後日談 | 06/30 |