【黒ウィズ】ARES THE VANGUARD RAGNAROK Story1
目次
ARES THE VANGUARD RAGNAROK
~SUCCESSOR~
story1 DESPAIR
オリュンポリス上空に突如としてあらわれた巨大な神殿、絶望はそこから始まった。
神殿から放たれた膨大な量の神の布、都市に舞い降りたそれは、ヒーローたちに巻きつき、意思を奪った。
なんだ……これは……!身体が……勝手に……!
みんな……逃げて……!
己の意思に関係なく肉体が動き、共に戦う仲間や守るべき市民を襲いはじめたのだ。
オリュンポリスは組織化されたヒーローにより守られた街。
であるがゆえに、無数のヒーローが敵に回った時、その防衛機能はたやすく奪われた。
混乱は、中枢である英雄庁本部をも襲った。
操られたヒーローが、無事なフォースを次々と襲撃しています!本部もいつまで保つか……。
我がいる限り、ここは落ちぬ。それよりⅥとは連絡がつかぬのか?
連絡がつくのはとⅨだけです、彼女たちも現在は立て直しに手ー杯で、身動きが取れないようです。
せめて零やⅥの状況がわかれば、対策も打てるのですが……。
……仕方ないね。僕の神器を使う。
良いのですか?
嫌に決まってるだろ。けど、市民の命が懸かってるなら、贅沢は言ってられ……。
ふたりとも、下がりおれ。どうやら手強いのが来おるようだ。
神器、目覚めの時ぞ。
神器〈射掛ける月神〉を油断なく構え、アルテミスⅥは敵を待ち受ける。
やがてあらわれたのは――
ゼウスⅠ!操られおったか!
逃げろ……!手加減はできない……!
***
静かだった。
冷たくなっていくヴァッカリオの肉体を抱いたまま、アレイシアはうつむき、沈黙していた。
その背を見つめるエウブレナもまた、立て続けに襲った衝撃に、混乱を隠せなかった。
と、上空に機影が浮かんだ。ヴァンガード隊の垂直離着陸機(VTOL)だ。
いやがったな!ここは危ねえ!ー度ベースに戻んぞ!さっさと乗りやがれ!!
ボス!隊長が……!
わあってる!コリーヌ!ヴァッカを回収してくんな!
アイサー!アレイシア先輩、隊長の遺体をこちらに!
遺体じゃない!
ディオニソスⅫはだれにも負けない、最強のヒーローなんだ……。死んでなんか、いるもんか……。
……そうね。でも、隊長はすこし疲れているから、しばらく眠らせてあげましょう。ね?
アレイシアはしばらく黙っていたが、小さくうなずき、ヴァッカリオの身体をコリーヌヘと託した。
よし、お前らもさっきと乗れ!ー度ベースに戻って状況を立て直すぞ!
story2 LETTER
状況は最悪だった。
アレイシアは変身できなくなり、エウブレナは神器を奪われ、挙句にヴァッカはくたばった。
絵に描いたようなお手上げだな、おい。いっそ笑えてくらあな。
へ、ヘヘ……じゃ、も1個お笑い追加な。オリュンポリス全区域のネットワークがダウンしたぜえ。
ネットワークはデメテルVの管理下にあるそして彼女は英雄庁本部にいる、つまり――
本部が落ちたってかあ?早すぎだろうが!
ゾエルはデスクに拳を叩きつけ、頭を掻きむしりながら叫ぶ。
ⅥかⅨに連絡はつかねえのか!?ネーレイスでもいい!無事なナンバーズと連携をとるしかねえ!
わかってるよぉ。けどオレ、クラッキングは専門じゃないから、なかなかなあ。
できるできないじゃねえ!やるしかねえんだよ!
ふたりが全力で事態に対応している部屋の片隅で、アレイシアは膝を抱え、静かにうずくまっていた。
……アレイシア。ショックだったのはわかるわ。けど、いまは前を向きましょう。
……エウさんは知ってたの?隊長が、ディオニソスⅫだって。
……ええ、あのアトランティスでの戦いの時に。
そっか……知ってたんだ……。
いつも前向きで、うるさくて、まぶしかったアレイシアが、いまは力なくうなだれている。
そんな彼女に何を言えばいいのか、エウブレナはわからなかった。
ボス!ヤバいっす!操られたヒーローの集団が、このベースに向かってきてるっす!!
×××××××!逃げるにも場所がねえんだぞ!どうしろってんだよ!!
その声にも、アレイシアは反応しない。
エウブレナはそんなアレイシアになにか声をかけようとし、首をふって、背を向けた。
ボス、私が時間を稼ぎます。その間に次の手を考えてください。
わかってんじゃねえか。よし、行きな!
ハルディス。人造神器を用意して。
へへ、こんなこともあろうかと、ちゃんとオレ流魔改造ばっちりだぜえ。ほら!
ありがとう。それじゃみんな。行ってくるわね。
アレイシア。私をヒーローにしたのは貴方よ。乗り越えてくれるって信じてる。だから……。
メタモルフォシス・ソーテイラー!
ヘカテーの救世主の側面を引き出す奥義、メタモルフォシス・ソーテイラー。
救うための力を身に宿したエウブレナは、拳を握り、構える。
さあ、かかって来なさい!
story1-2
で、アレイシア。アンタはまだそうしてんのかい?
……守れなかったんだ、ボクは……。大切なときに、なにもできず、失っちゃいけない人を……。
ボクが戦えさえすれば、守れたはずなんだ……。いつもそうだ……。守らなきゃいけないものを、ボクはいつも……。
ボクに力があれば、お父さんもお母さんも、守れた。なにがヒーローだ……。ボクは……。
ふん、そうかい。んじゃ、いつまでもそうしてな。コリーヌ、ハルディス、奥で作戦会議だ。
ちょっ、いいんすか?もうちょっと、なんか言うことが……。
アタシやな、時間の無駄が大っ嫌いなんだよ。その時間で守れる命があらあな。オラ、さっさと来い!
そういってゾエルは奥の部屋へと姿を消す。
――その寸前、足を止め、小さなデータチップをアレイシアの足元に投げて寄越した。
アンタヘの預かりもんだ。中にビデオが入ってる。どうせヒマなんだ。時間つぶしでもしてな。
そうして、今度こそアレイシアは室内にひとりきりになった。
足元に落ちたデータチップを拾い上げ、しばらくのあいだ、ぼんやりと眺める。
中に入っているビデオを流そうと思ったのは、中身が気になったからではない、ただ、そうしていることに耐えられなかったからだ。
そして流れはしめた映像を見て、アレイシアは息を止めた。
「よう、これを観てるってことは、ディオニソスⅫの正体はバレちまったってことだな。
悪いねえ。憧れのヒーローがこんな酒飲みのおっさんでさ。ガッカリしたろ?
にしてもずっと疑問だったんだが、お前さん、なんでまたおいらなんかに憧れてたんだ?もっとほかにいるだろ?アポロンⅥとか。
ま、いいけどね。おいらもいまいち売れないパワフルワンが好きでたまらないしさ。あるよねえ、そういうのって。
だからまあ、その、なんだ。
おいらがどんな死に方したか知らないけど、あんまり気にするなよ?そう長くないってのはわかってたんだ。
おいらの身体はさ、とっくに壊れてたんだ。騙し騙し使ってただけ。これまでが奇跡だったんだよ。
けど、その奇跡のおかげで未練はなくなった。うまい酒をたらふく飲めたし、お兄ちゃんとも仲直りできた。
なにより、お前たちの成長を見届けられた。
胸を張って言えるよ。いまのオリュンポリスにディオニソスⅫは必要ない。
新しいポセイドンⅡがいる。襲名を待つ次代のハデスⅣがいる。そして――アレス零がいる。
なにも心配はない。お前たちになら、安心して任せられる。
あ、でも、あれ、おいらも言ってみたかったかも。「だっしゃしょかぁ」ってやつ。おっさんには辛いか?ま、とにかくそんなわけだ。
――笑ってくれ、アレイシア。
俺は、お前の笑顔が好きだ。お前の笑顔はみんなを元気にする。この世界に勇気をくれる。
こんな立派な後輩を育てられたんだ。俺ほど幸せなヒーローは他にいない。後は任せたぞ、アレス零。
俺はお前が笑顔にした世界を肴に、冥府でうまい酒でも飲むとするさ。じゃあな。」
story3 STSND UP
……おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
気がつくと、叫んでいた拳を握っていた、全身が震えていた。
なにやっとんじゃワシは……!あん人の生き方ば侮辱するっちゅうんか!
やめることなんていつでもできた!立ち止まってもだれも文句を言わんかった!
けんど隊長は駆け抜けた!やり抜いたんじゃ!ヒーローの道を!ヒーローの生き方を!
ワシを助け、ワシを導き、ワシに託した!じゃったら、この生命(いのち)を嘆くのは、あん人に対する侮辱じゃろうが!
変身できんからなんじゃ!ディオニソスⅫの残したもんは、ここにある!せやろが、アレイシア!!
己の胸を叩き、アレイシアは立ち上がる。その瞳に、炎を宿して。
おー、やっと目が覚めやがったか。んじゃ、こっちに来な。渡すもんがある。
こ、これは……。
神剣ザグレウス。あのバカがネクタルの力で具現化したもんだ。託されたんだろう?
普通は死んだら消えちまうもんだけどな。よっぽどなんか残したかったんだろうよ。で、持てるか?
アレイシアは巨大な剣の柄に手をかけ、いまの全力を両手に込める。
うおおぉぉぉぉっっっっもい!けんどぉ!
いまのアレイシアに、神の力はほとんどない。かつて100戦100敗を喫した、ヒーロー見習い時代と変わらない。
だが、あのころ胸にくすぶっていた種火は、いまや大きく燃え盛っている。
心地よか重さじゃあぁぁぁぁぁぁい!
神話の時代から受け継がれてきた正義の意思。だれかを助けたいという理屈のない炎、それをここで絶やすわけにはいかない。
ボス!いまのボクは弱い!行ったら負ける!めちゃくちゃ負ける!負けて負けて負けて――
そんで最後に勝つ!じゃからワシもぉ!行っていいですかぁぁぁぁぁぁ!
ハッ!まだ寝ぼけてやがんな。テメエが命令を待ってたことがあるのかよ。
そうじゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!いってきまぁぁぁぁぁぁぁぁす!
story3-2
はぁ……はぁ……。さすがに、きついわね……。
ベースに迫る敵の数は多い。だが、単純に数の問題ではない。
操られていても、相手はおなじヒーローまさか命を奪うわけにはいかない、気絶させ、無力化するにとどめている。
ただでさえメタモルフォシス・ソーテイラーは、消耗の激しい技だ、その力を精妙にコントロールするのは、心身を摩耗させた。
けど……ー歩も引くわけにはいかないわ!いまは、私しかいないんだから!
エウブレナが敵の前にー歩を踏み出そうとした、その時!
……ぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……。
え……?こ、この声……!
うぉっ待たせしましたぁぁぁぁぁ!
アレイシア!戦えるの!?変身は!?
変身はできん!できんが戦えんっちゅうことはなかとぉ!いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
おぉぉぉぉぉぉおおおおお負けたぁぁぁぁぁぁ!
けど負けとらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
ちょっ、すごいふっ飛ばされてたけど、大丈夫なの!?怪我はない!?
ある!でも大丈夫!こういうんは慣れとるけんのぉ!
足はふらつき、全身は土埃にまみれ、目を回し、巨大な剣を引きずりながら。
それでもアレイシアは力強く次のー歩を踏み出すただ前を見据えて進んでいく。
……そうね。貴方はそうだったわね。
なにも力がなくて毎日のようにエウブレナに負けて、それでも諦めることはー度もなかった。
その勇気がエウブレナを変えた。その胸の炎がエウブレナに燃え移った。
いけるのぉ、エウさん!ヒーローは、ここからじゃ!
もちろんよ!私たちは、ヴァンガードなんだから!
そう、そんなふたりだから――
その胸の炎は、君にも燃え広がったのだ。
アレイシア!魔力を受け取るにゃ!
君の放った魔力が、吸い込まれていく、アレイシアの肉体にそして――
うおおぉぉぉぉぉぉ来たぞぉぉぉぉぉぉぉ!変・身・だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
さあ、かかって来んかぁ!いますぐ正気に戻しちゃるけんのぉ!
story3-3
アレイシアの構える神剣ザグレウスが、炎を纏う。
ジャスティス・ファイア・スラァァッシュ!
それが振るわれると剣閃は渦巻く炎と化し、眼前に群がるヒーローを包み込む。
だが、焼かれる者の悲鳴はあがらない。あがったのは歓喜の声だった。
う、動く……身体が思った通りに!
アレイシアの放った炎は、ヒーローたちの両目を覆っていた奇妙な布だけを焼き払っていた。
やっはアレが原因だったんだね!うまくいってよかった!
ありがとうございます、アレス零。おかげで守るべき市民を傷つけずに済みます。
よぉぉぉし、そうと決まれば、あとは実行あるのみじゃあ!行くぞぉ、エウさん!魔法使いさん!
君は飛び出していくアレイシアについていき、彼女に魔力を供給しつづけた。
その甲斐あって、わずかな後には、周囲のヒーローはみんな正気に戻った。
魔法使いさん、ありがっとぉう!おかげでみんなを助けられたぞ!
でも、いつの間に来ていたの?
ついさっきにゃ。
異界の歪みに飲み込まれた君たちが、混乱に陥るオリュンポリスにたどり着いたのは、アレイシアがベースを飛び出した直後らしい。
すぐに君を発見したゾエルからの連絡を受け、君たちはあわててアレイシアの後を追い、そうしてなんとか間に合ったというわけだ。
でも、アレイシアを変身させる方法が、よくわかったわね。どういうことなの?
にゃはは!簡単なことにゃ。
かつてのアレイシアは、戦っているとすぐに神の力が切れていた、そこで君が魔力を供給することで長期戦闘を可能とした。
アレイシアがアレス神と合体することで、エネルギー供給は安定し、カーニバルのころには君の手助けを必要とすることはなくなった。
おそらく、なんらかの方法でそのエネルギー供給が断たれたため、変身ができなくなったのだろう。
そうか。アレイシアのパワーは最初に変身したころより何倍もあがってる。
だからエネルギーの供給なしに変身すると、すぐに使い果たしてしまっていたのね。
そういうことにゃ。だから私の弟子が魔力を与えることで、変身できるようになったにゃ。
……この剣だ。自分の力で創る槍じゃなくて、隊長の遺してくれた剣を使ってるから、力の消耗を抑えて戦えてる。
魔法使いさん、ありがとう。君と隊長のおかげで、ボクはまだ、ヒーローでいられるみたいだ。
先輩として、当然のことをしたまでにゃ。とりあえずの危機は脱したみたいだし、状況が知りたいから、ベースに戻るにゃ。
魔法使いさんとキャット先輩がいるなら、怖いもんなし!さあ、神さんたちに反撃開始じゃあ!