【黒ウィズ】ARES THE VANGUARD RAGNAROK Story5
目次
story1 DREAM
「はあぁぁぁぁぁぁっ!うぉぉぉぉぉぉ!どっせいやぁぁぁぁぁぁ!」
「今日も仕事の後にトレーニング?精が出るねえ。」
「あ、ヴァカ隊長。もしかしてまた事務所で寝てた?」
「寝れるわけないでしょ屋上でそんな叫ばれて。呑んでただけだから、別にいいけどさ。
……踏み込む時の後ろ足、余力を残した方がいい。ほんの少しだけ次の敵に対応しやすくなる。」
「なるほど!こうじゃな!チェストォォォォォォォ!」
「いやいや、変わってないからね。前のめりすぎなんだよなあ、お前さんは。ま、いいか。心の片隅にでも留めといてよ。」
「しっかりとハートに刻みつけましたあ!隊長の教えを胸に、全てを守ります!」
「……全てを守る、ね。
アレイシア。俺はお前が好きだ。」
「な、なな、なんですかあ!急に!」
「俺だけじゃない。エウブレナもお前が好きだ。ネーレイスも、コリーヌも、ハルディズも、ボスも、みんなお前が好きだ。
全てを守る。仲間も、人々も、敵すらも。お前は本当に、それをやろうとしている。
だがな、アレイシア。その「全て」に、お前自身を含めることも忘れるなよ。お前を失えば、みんなが悲しむ。
そういう悲しみからも人々を守ってこそ、本物のヒーローってやつなのさ。」
「……隊長は……どうなの?
ディオニソスⅫを失う悲しみから、みんなを守ろうとは思わないの?最強のヒーローなんでしょ?」
「そうだな。俺はヒーロー失格だ。だから――
忘れてやってくれ。じゃあな」
「隊長!隊長ぉぉぉぉぉぉ!」
……夢、か。そうだよね……
ARES THE VANGUARD RAGNAROK
~TEMPLE~
眠りから覚めたアレイシアが神卓の間へ行くと、ナンバーズが集結していた。
過半数のナンバーズより賛成が得られました。略式ではありますが、いまより貴女は正式なハデスⅣです。
ありがとうございます。でも、本当に良いのでしょうか?私は神器を失っているのに……。
ー度は覚醒させてるんだ。形式的には問題ないよ。実績も実力も充分だ。少なくとも、僕なんかよりはね。
ちゃけ、なってくんないと困んのよね。いま市民もフォースのみんなも不安だらけだし。
神器がないことなど些末なことよ。奪われたのなら、取り戻せばよいだけの話ゆえな。
ようやくわたくしのところまで登ってきましたわねナンバーズの責は軽くありませんことよ。
おめでとう、エウさん。ボクもうれしいぞ。
目覚めたか、零。ちょうどよい。これより最終作戦を開始する。
最終作戦?状況が変わったの?
アポロンⅥにより、天空の神殿を覆っていた結界が破壊されました。我々は神との直接対峙に臨みます。
話し合いでこの世界から退いてもらうのが最良だが、無論、それを期待するわけにもゆかぬ。
要するに、断られたら力づくで帰ってもらうってこと。可能ならだけどね。
僕みたいな弱いヒーローは、ここでバックアップに専念するよ。
そう……もう決まってるんだね。それで乗り込むメンバーは?
私、Ⅵ様、Ⅸ様よ。
名の上がった3人を見て、アレイシアはすぐに気がついた。
3人とも、すごい強くなってる!
神の力がちょい強化されてね。これなら、神様相手でも後れは取らないし。
争いは望まぬが、力が対等でなければ、向こうもこちらを侮るであろう。
私たちも行くにゃ。ゼウスがブリンガーを操るなら、この世界だけの危機ではないにゃ。
だよねだよね!君、いろんな異界の危機を救ってるんなら、やっぱゼウスとも戦わないとね☆
ヘルメッさん!なんでいるの!?
安心しなよ。メルクリアにはもう、神の力はないのさ。
いまのぼくは、ただのか弱いXちゃんだよ☆みんなで優しく養って欲しい☆
調べた限り、力を失っているのは真実のようです。とはいえ、全面的に信じるわけにも参りません。Ⅰに監視していただいています。
人気者はプライバシーがなくて嫌になるね☆
人気者というよりは前科者だけどね。
テヘペロ☆あ、これもしかして古いかな?ぼく、実年齢言えない系だから仕方ないけどね☆
ともあれ、神殿へ乗り込む算段がついたのは、Xからの情報提供があったことも大きい。
もたもたしてたら結界が張り直されるってXが言うからさ。早く行くしかないわけ。
僕が読むかぎりじゃ、Xは嘘を言っていない。まあ、心の中ぐちゃぐちゃすぎて、よくわからなかったけど。
そういうわけよ、アレイシア……あなたは残って、街を守ってちょうだい。
story2 OPERATION
たかだか人間が〈紋〉を宿し、〈空の果てより来る滅び〉を倒すとはな。危うく消滅するところであった。
ゼウスの掌中には、禍々しく光る珠がある。アポロンⅥの攻撃により消滅寸前であった、〈空の果てより来る滅び〉の力である。
どうする、ゼウス?彼らはじきにこの神殿に来るよ。
ほう。アテナに手も足も出なかった者たちが、ここに乗り込んでくる勇気があるかね?
来るよ。そういう子たちなんだ。特に、アポロンⅥはね。
だとしても、問題はあるまい。私には頼れる兄がいるのだからな。
甘えるのが上手くなったね、全能なる弟よ。いいよ、彼らは私が出迎えよう。
感謝するよ。もっとも、本当にここに来る余裕が、彼らにあればいいのだがね。
なにせ私が従えているブリンガーは、全部で11ほどいるのだから。
***
アポロンⅥ、アフロディテⅨ、エウブレナ、そして君は、神殿に乗り込むべく、VTOLの前に集まっていた。
オリュンポリスはわたくしたちが守りますわ。安心してお行きなさい。ですわよね、アレイシア?
……街を守るのも大事な仕事だってわかってる。けど、やっぱり……。
アポさん、エウさん!やっぱり、ボクも行く!
気持ちはわかるわ。けど、いまの貴方が行くのは危険よ。
あのさ、もしかして、Ⅻの敵討ちとか考えてる?
アレイシアはかぶりを振り決然と答えた。
ボクがやらなきゃいけないことがあるんだ。
非常事態です。新たな敵があらわれました。
先ほどの怪物と同種のものが、2体同時にです。
オリュンポリスの沖アトランティスが沈む海上に、1体目はあらわれた。
名は〈海の底より来る滅び〉。
オリュンポリス郊外の山岳、いま1体はそこに降り立ち、大地を揺らす。
名は〈地平の彼方より来る滅び〉。
陸と海を征する2体の怪物は、オリュンポリスに向けて移動を開始する。
まだいたというのか?市民が危険だ。捨て置くわけにもいくまい。先に奴らを撃退すべきか。
そうでもないっしょ。時間稼ぎにつきあって、神殿に入れなくなったらぴえんだし。
ですが、あの怪物の相手をするのは、〈紋〉を宿した我々がした方が……。
それね。だから、チェンジでしょ。
アフロディテⅨは前に出ると、アレイシアの背を押した。
あの怪物どもは、あーしとネーレイスちゃんでなんとかすっから、神の方、任せたよ、アレイシアちゃん。
Ⅸ様!それでは作戦が!
いや、状況が変わったんだ。次善策としては悪くないんじゃないかな。
……いけるか、零?
いきます!
了解した。全員、すぐに乗るんだ。急いで神殿に向かう。
アレイシアはうなずき、VTOLに乗り込む、君とエウブレナもその後に続いた。
では、作戦を開始する。総員、健闘を祈る!
story3 WRATH
遥かな昔――数多の異界に恐怖と滅びをもたらす存在がいた。
其は終焉の起源なり(ロート・オブ・ラグナロク)。
滅びの運命の化身とでも呼ぶべきそれは、数多の異界に終焉をもたらした。
あるいは神、あるいは魔。あらゆる存在がそのものに挑み、そして敗れた。何者も、それに勝つことは出来ぬと思われた。
だがある日、終焉への道は閉ざされた、神でも魔でもなく、人間の手によって。
ふたりの人間がその〈大敵〉に挑み、長き戦いの果て、その存在を108に分割することに成功したのだ。
108に分かたれた〈終焉のかけら〉は二度とひとつに戻ることのないよう。108の異界にバラバラに封印された。
その封印の〈襖〉となったのは、戦いの果てに同様に砕け散った、勇者たちの存在であった。
〈終焉のかけら〉を傷つけることができるのは、この〈楔〉だけなのだ。
ブリンガーの正体はその〈終焉のかけら〉にゃ。
だから、私たちはあの天使に、〈楔〉が形を変えた神剣を借りて、〈断絶をもたらすもの(デッド エンド ブリンガー)〉を倒したにゃ。
ブリンガーを倒せるのは〈襖〉だけ……。でも、Ⅵ様は空にいたブリンガーを倒したわ。どういうことなのかしら?
神器の力だろう。私は〈紋〉を宿すことで、神器の真の力を引き出すことができたのだ。
ブリンガーを倒せるのは〈襖〉だけ。神器はブリンガーを倒せた。つまり……。
神器の正体は、その〈襖〉だってこと?じゃあ、神器の意思って……。
話はひとまずここまでだ。神殿についた。着陸するぞ。
ここがゼウス神の神殿……。綺麗な場所なのに……なんなのかしら、この感じ。
エウブレナの言葉に、君はうなすく、この光景には、ひどく精神をすり減らすなにかがあった。
行こう、みんな。時間が過ぎれば過ぎるほど、地上のみんなが危険になる。
よし、神との対話を試みる。いくぞ、零、Ⅳ、魔法使い!
入り口の方がにぎやかだね。どうやらあの子たちが来たみたいだ。約束通り、出迎えに行くとするよ。
アテナ、お前も行きなさい。
はい、かしこまりました、父様。
ハデスとアテナが玉座の間を離れ、ひとりになったゼウスはつぶやく。
……アテナよ。お前だけは私を理解してくれると思っていた。なのになぜ……。
なぜ私の集めた〈楔〉を奪い、人間に与えたのだ?
ゼウスは長い年月をかけて、様々な異界に神や半神を派遣し、〈楔〉を抜いてブリンガーの封印を解いた。
〈楔〉はブリンガーを滅ぼすことのできる危険な存在である、ゆえに厳重に封印した。
その〈楔〉が宝物庫より消失していることに気づいたのは、数十年前のことだ。
あわてるゼウスの前に姿をあらわしたアテナは、臆することなく堂々と告げた。
〈楔〉を奪ったのは自分である、と。
ゼウスはアテナを詰問したなぜ奪ったのか、どこへやったのか。
アテナは答えなかったただいつものように、意志の強い瞳で、父である全能神を見つめ返すのみだった。
だから――ゼウスはアテナを創り直すことにした。
〈紋〉がある限り、神は簡単には滅びない。それを利用し、肉体を創り直したのだ。すなわち、再誕である。
そして再誕させたアテナの意思を、自らの力を秘めた布で奪い、従順な娘に生まれ変わらせたのだ。
――それがオリュンポス崩壊の、最後の引き金となった。
アテナの異変に気づいたポセイドンやアポロンはゼウスの意を問いただした。
激しい口論の末、ゼウスは己がブリンガーであると明かすことになった。
結果、ポセイドンとアポロンは反逆を起こし、それを粛清したゼウスは、彼らを追放した。
それからは雪崩のごとくオリュンポスは崩れた。神も半神も、ゼウスを恐れ、姿を消していった。
孤独や淋しさは覚えなかった、もとよりゼウスは孤高であったのだ。
全知全能、天空神。神の王。ゼウスに並ぶものなど、神にもいない、だれも彼とおなじ視野を持たない。
もし、仮にハデスやアテナが人間に敗れたとしても、オリュンポスは揺らがない。オリュンポスとはゼウスなのだ。
アテナはヘパイストスに命じ、〈襖〉に12神の力の残滓を取り込ませ、武具へと創り変えた。
それを、かつて我々のいた世界に落とし、ゴッド・ナンバーズなる不遜な人間を生んだ。
そして、奴らはいま、私を狙っている。
アテナよ、これが望みだったのか?だとしたら、私は……。
story4 MYTHICAL AGE
「う……うう……私は……?
……そうか、テュポーンとの戦いの最中に意識を失って……。
これは……テュポーンの気配がない……?消滅している……。奴は……死んだのか?
アレスにどこいるのだ!アレス!」
激しい戦いの爪痕の残る荒野を、プロメテウスは駆け回る。愛する友の姿を求めて。
やがて見つけた友は、静かに永久の眠りに就いていた。
「アレス!アレス!そんな……君を失うなんて……。こんな勝利など、なんの意味が……。」
戦う友を止めなかった後悔が胸を締め付ける。
だが、友の寝顔は安らかな笑みをたたえていた。為すべきことを成し遂げ、満足しきった顔だった。
彼の選択を悔いることなど、できない、それでは、彼の生き様を、正義を侮辱することになる。
だからプロメテウスは、友の頬を、ただそっと撫でた。
「君は、最後の瞬間まで君だったのだね。そんな友を、誇りに思うよ。」
ふと気づく、友がいつも身につけていた装身具が、砕け散っていた。
破片を探したが半分ほどしか見つからなかった。戦いの最中、どこかへ散ってしまったのだろう。
「見つからぬか……。ゴホッ……私も限界のようだな。
私も傷つきすぎた。長い眠りにつかねばなるまい。その前に、君を葬らなくてはいけないね。」
プロメテウスはアレスを葬った。その時、砕けた友の装身具だけを持っていくことにした。
長い眠りになる、せめて少しでも、友を感じて眠りたかった。
瞳を閉じ、プロメテウスは思う。
「ああ……次に目覚めた時、この世界はどうなっているのだろうね。
君が愛し、守った人間の世界だ。きっと……美しい世界に……。
……………………。」
物思いから戻ってきたプロメテウスは、空を見上げる。
やはり行ってしまったのだね、アレイシア。あの時も今回も、私は君たちになにもできない。
死地へと向かう君を止めることも、戦いを望む君に力を与えることもできない。
ああ……私はなんと無力なのだ……。
おいおい、そんなことはねえだろ?
……え……?
陸と海より迫る2体のブリンガー。ふたつの危機に際し、英雄庁は部隊を集中させて対応しようとした。
だが、操られたヒーローたちが、各地で同時に最後の抵抗をはじめた。さらに――
2体のブリンガーは、体内から小型の怪物を無数に放出、それがー斉に無差別攻撃を開始した。
市民の被害を抑えるためには、部隊を分散させるしかない、だが……
「た、助けてくれえ!
「だ、だれか!だれかあ!
「落ち着いてください!みなさん、ゼウス区へ避難を!!
「終わりだ!もうなにもかもおしまいなんだ!
度重なる危機に市民の感情は限界に達していた。パニックに陥ってバラバラに逃げ惑う人々を、いったいだれが責められようか。
ぐっ!くそ……シャットアウトしてるはずなのに、市民の混乱がガンガン頭に入ってくる……。
チッ、せこい事してくれんじゃん!
これではブリンガーと戦うどころではありませんわ!どうすれば……。
世界はただ、絶望に沈んでいこうとしていた……。
story5 SOPHIA
神殿の中には、様々な敵が待ち受けていたそれらと戦いながら、君たちはひた走る。
ランパス・アルギュロス!
ボイボス・スペリオル!
すごい……威力が上がってるわ。
それだけではない。絶えず力が補充されるのを感じる。なるほど、これが〈紋〉の力か。
ふたりは神の残滓を吸収したことによって得た新たな力により以前とは見違えていた。
そのー方で――
はあ……はあ……。
アレイシア、大丈夫?
だ、大丈夫じゃあ……。
アレイシアは明らかに疲労が激しい、いくら君が魔力を供給してもすぐに尽きてしまう。
(Ⅵ様……)
(ああ、わかっている。無理はさせられないな)
ふたりがそう囁きかわした直後だった。
やあ、よく来たね。でも、ちょっと騒がしすぎるかな?
クリュメノス……。本当に生きていたのだな。うれしく思うぞ。
僕も会えてうれしいよ、君は変わらないね。アポロニオ君。心も身体もあの頃のままだ。
君の正体が何者であれ、関係はない。友として願う。クリュメノス、この世界に干渉するのを止めてもらえないか?
黙って帰れってことだよね。それはちょっとできないかな。
いまの私は、神として君たちの前に立っているのだからね。
パパ!もうやめて!私たちは神と争いたいわけじゃないの!人々に平和に暮らして欲しいだけなのよ!
立派なヒーローになったんだね。嬉しいよ。さすが僕の自慢の娘だ。
けど、私にも役目というものがある。黙って帰るわけにはいかないのだよ。
……零、魔法使い。ここは私とⅣに任せて、君たちは先へ進むといい。
何言うとるんじゃ!ワシも戦うに決まっとろうが!
お願い、アレイシア。先に行って、私は父と話さなきゃいけないの。
私もだ。血迷った旧友と、話すことが山程ある。
ふたりの強い瞳に、君はうなずき、行こう、アレイシア、と促した。
……わかった。けど、ふたりともちゃんと来るんじゃぞ!約束じゃ!
君とアレイシアは神殿の奥へ向かいふたたび走りだした。
神殿の奥へと向かう君たちは、ある場所で足を止めた。
止めざるを得なかった。
来たね、アテナさん。
ここは父様の聖域。人間が足を踏み入れていい場所ではない。
私たちだって、戦いたいわけじゃないにゃ。この世界への攻撃をやめて帰ってくれれば、ここから出ていくにゃ。
父様の決定に逆らう権利など、ない。
アテナは剣を構えてはいなかった。
だが次の瞬間には振り終わっていた。あまりの速度に、君の障壁が間に合わない。
せいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
防いだのは、神剣ザグレウス。〝最強〟から受け継がれた刃が、神のー撃を受け止めていた。
衝撃にアレイシアの身体が震え、膝が崩れる、それでもなお、昂然と顔をあげ、アレイシアは言う。
なにを泣いちょる、テナッさん……!
……泣く?なにを言っている。
あん時のー撃もそうじゃった!おんしの剣は凄まじか!けんど泣いちょるんじゃ!
じゃけん、ワシはここに来た!テナッさん!おんしの涙を止めるためにのお!
そうだった、と君は思うアレイシアはいつもそうだった。
先の遭遇で味わった圧倒的な力の差、その時にあげた驚愕の叫び。だがあれは、恐怖ゆえではなかった。
アテナ神の刃に秘められた悲しみを、アレイシアは感じ取っていたのだ。
だから立った、だから来た、己より強かろうと関係ない、敵だとしても変わらない。
ヒーローは来る。ヒーローは来るのだ。
道理も常識も摂理もなく。声なき声を聞き届けて、だれかの涙のある場所に、あらわれる。
言うてみい!なにが悲しいんじゃ!本当は、どうしたいんじゃ!
私は父様の剣。父様の盾。涙など存在しない。
だっしゃしょかぁぁぁぁぁぁぁぁ!自分の心もわからん馬鹿者(べこのかあ)が!もうしゃべらんでよか!
泣きたいときにも泣けん奴は!ワシが拳で泣かせちゃるっちゃあ!
力の差は圧倒的だった。
死ね。
軽々と振るわれるー撃は、君が全力で固めた障壁すらも紙のように裂く。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!効いてるけど効かぁぁぁぁぁぁぁぁん!
その衝撃をザグレウスが受け止める、柄を握る両掌から血が流れ、アレイシアが何メートルも吹き飛ぶ。
魔法使いさん!あれじゃあ!
君は用意していたカードを構え、宙を舞うアレイシアに魔力を解き放つ。
出たァァ!絶火暴襲月昂覇にゃ!
放たれた魔法は、ガードを固めたアレイシアをアテナ神の方へと吹き飛ばす、構えたザグレウスが、光速の突きとなる。
アテナ神はそれを、巨大な盾で防ぐ。これだけの衝撃を受け止めて、微動だにしない。
そんなんわかっとるわぁぁぁぁぁ!
アレイシアはすかさす右足で盾を蹴り、それを足場に反動で左膝を突き出す、その先にあるのは、アテナ神の顔面。
シャイニング・スピアァ・ウィッザァァァァド!!
神の虚を衝く完璧な奇襲。それは神を――
無駄だ。
傷つけることはできなかった。
絶対防御障壁〈アイギス〉。それを貫けない限り、いかなる攻撃も無意味なのだ。
戦神アレスの力を自在に引き出していたかつてのアレイシアならば、可能だったかもしれない。だが、いまは……。
***
プロメテウスは、己の聞いた声が信じられず震える、だが、いまの声は紛れもなく……
アレス……君なのか……?
「お、やっと聞こえたか。よう、プロメテウス。話すのは久しぶりだな。
生きて……。
……いや、ちがう。これは、残留思念。そうなのだね?
「おう、オレ本体はとっくに死んでるし、生まれ変わってるからな。
プロメテウスがアレイシアに贈った髪飾り。それはアレス神の装身具のかけらを鋳造しなおして作ったものだった。
ゆえにその髪飾りにはアレス神の残留思念が宿っており、その思念と合体することで、アレイシアは真の力を解放したのだ。
かけらに宿っていた君の思念は、すでにアレイシアと融合して消えたはずだ。残っているはずがない。
「おいおい、なにを言ってんだよ。髪飾りになったのは装身具のせいぜい半分だ。だろ?
たしかに君を失ったあの時、私は砕けた装身具のすべてを見つけることは出来なかった。では――
「ああ、オレは残りの半分に宿った残留思念だよ。
だが、私は見つけられなかったのだよ?残りの半分が、いったいどこにあると言うのだい?
「おいおい、まだ気づいてねえのかよ?お前って奴は、頭が切れるくせに、自分のこととなると急に鈍くなるな。
アレスの思念が腕を伸ばし、その実体のない指でプロメテウスの胸の真ん中にトンと触れた。
「オレは、ここだよ。
私の、胸……?
「テュポーンとの決着の時を覚えてねえのか?アイツはとんでもねえ技をオレに放った。
そん時、オレをかばってくれたろ?
そのー撃で、プロメテウスは意識を失った。長い眠りが必要なほど深い傷を負ったのは、その時だ。
「オレの装身具が砕けたのは、あの時だよ。そしてかけらの半分は、傷口に紛れ込み、お前の中に入っていった。
探しても見つからないのは当然だ。なんせお前の中にあったんだからな。
では……君は、ずっと私の中に……。
「まあな。すっと話しかけてたんだが、お前、すっと怒ってたろ?それが終わったら今度は大反省会ときた。
思念に過ぎないオレとしては、波長が合うまで待っているしかなかったってわけさ。
そうか……そうだったのか……。
アレイシアのー撃を受けた時、私は自分が死んだと思った。生きていられるはずがなかった。
なのに、神の力を失うだけで済んだのは、装身具のかけらがこの胸にあったから。
君が私を守ってくれたんだね?
「全部偶然だけどな。けど、うれしかったぜ。おかげであれから、お前の笑顔が見れた。
ずっと……ずっとそばにいてくれたのだね?愚かな私が心の耳をふさいでいたその時も、君は私を見捨てたりしていなかった。
友よ……私は……私は……。
「おいおい、泣くなよ、プロメテウス。肝心なのはこれからだ。やるんだろ?
そうだね……やろう。
アレイシアの〈紋〉を甦らせる。プロメテウスは理解した。ハデスがアレイシアの〈紋〉を閉ざすことができたのは、不完全だったからだ。
原因は、融合したアレスの思念が半分に過ぎなかったこと。残りの半分は、ここにいる。
ならば、返さなくてはならない、それが友との、ふたたびの別れを意味しても。
プロメテウスは天の神殿に向かい、片手を伸ばす。
アレスの思念もまた腕を伸ばし、プロメテウスの腕に添える。
「悪いな。せっかくまた話せるようになったってのに。
いいんだよ。そう決意できるいまの私でなければ、きっと君と話すことができないままだった。
それに……もう充分過ぎるほど報われたよ。君とのこの一瞬のためならば、私は幾度でも3万年の刑罰を受けるだろう。
「オレもだよ ありがとうな、親友。
炎が宿る。アレスの燃やす正義の炎。プロメテウスの授ける叡智の炎。
共に宿した、神から贈る人類への愛。
さあ、受け取ってくれ、アレイシア、これが私が贈る最後の火。
「フォティア・ティス・ソフィア。
炎は天の神殿めがけ空を駆けた。そして――
うおおぉぉぉぉぉ!これは……!
HEARTにHEATが、R(ありあまる)!
アレス零 |
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みんなのヒーロー、アレスちゃん!復・活・だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!