【黒ウィズ】嘘猫のウィズ編(ゴールデンアワード2018)Story
ゴールデンアワード2018 嘘猫のウィズ編 |
開催期間:2018/08/31 |
目次
story1
っつ……そん……な……。
にゃは……失敗……しちゃったよ……。
このまま……こいつを……ほっとく……わけには……。
とどめを剌そうと、魔龍が鎌首をもたげる。
…………。
……ごめんね。
それが、君が耳にした最後のウィズの言葉となった。
そうだ。
これだ。
あの時の記憶。
君の中に刻まれた深い傷。のような過去。
この後、ウィズは猫になった。
それを知ったのは、ギルドのベッドの上だったろうか。
ふと足下へ目をやると、端正な毛並みの黒猫が頬をすり寄せていた。
抱き上げる。
「……。」
鼻息が荒い。すごく荒い。
猫(?)は、まっすぐにこちらを見据えている。腐ったような目で。
やがて――
「…………ニャハハハ。」
!?
「ニャー、ごめんごめん。かんっぜんに、失敗しちゃったニャ。」
!?!?!?
「まだわからニャい? ウィズニャ、ウィズ。
アタイもよくわからニャーけど、気づいたらこの姿になってたニャ。」
ウィズって、こんなのだったか? いや、違う。絶対に違う。と君は思う。
「ニャー、けど、チミが無事でよかったニャ。」
まだ君は事態を受け入れることができない。いや、永遠に受け入れることは出来ないだろう。
「そんなに驚く必要もないニャ。世の中不思議だらけニャ。」
不思議よ、少しは遠慮しろ。と君は思う。
「それより、聞いて欲しいニャ。
たまに友達に「行けたら行く」と返事される時があるニャ。
あれは嘘ニャ。ほぼ100ハーセント来ないニャ。」
君もそんな気はしていた。
いや、そうじゃない。そんな話はウィズはしていない。
一体これは何の記憶だ。分からない。悪い夢なら早く醒めてほしい。
「チミ、いつまでも寝ていないでアタイと冒険の旅に出るニャ。」
そもそも、こいつはウィズじゃない。
「早く起きるニャ。いつまでも寝ていたらダメニャ。
ダメニャ。
ダァメェニャ。
ダァァァメェニャ。」
耳にまとわりつく、声を振り払うように君は体を起こした。
「よっ!」
いつか来たことのある店だった。目の前には見たことのある猫(?)。
今回は随分手の込んだ呼び出し方だった。
店の奥から、さらに見たことがある人物が出て来る。
「ウィズ、買って来たお菓子の仕分け終わったよ。でもこれ買った値段の3倍で売るの?
それって良くないことじゃない? ……お。黒猫の人。どうも。」
リルム・ロロットだった。
「それは当然ニャ。アタイが仕入れのお金を出して、リルムが買ってきて仕分けたニャ。
自分で買う3倍の労力がかかっているニャ。だから値段も3倍ニャ。世の中そういう仕組みで出来ているニャ。
『その通りだが、お前が言うと説得力がないな。いや、妙な説得力があり過ぎるのか。
魔杖もいた。
君が何事かと思っていると、扉が開く音が聞こえた。
「ムールス、焼きまかたんというのはどうだ? まかたん型の焼き菓子だ。ん? どこだここは?」
魔王も来た。
「いらっしゃいニャ。リルム、おしぼりを出すニャ。」
「はーい。」
君はカウンターに先客がいることに気がついた。
「魔法使い、なせお前がいる。」
こっちの台詞だ、と君は答えた。リュオンまでいる。
「もう一杯もらおう。同じものを。ダブルで。」
聞き覚えのある声が聞こえたが、振り向いて確認する勇気はなかった。
もう何がなんだかわからなかった。
story2
アルドベリクが君の隣に座る。
ここはなんだ?
実は自分もわからないんです。と君は答えた。
「ここはアタイ、ウィズの店ニャ。人々の憩いの場所として開いたニャ。」
ウィズ………? こんなのだったか?
こんなのではないです。と君は返す。
「魔法使い……。探していたのは、こんな気持ちの悪い猫だったのか?
だから、こんなのではない、とリュオンに言う。
『やはりそうか。小娘たちが全然気にしないから我も最近、こんなのだったっけー、で済ましていた所だった。
「チミ、照れなくてもいいニャ。またそんな嘘を言って。はい、アルドベリク。リュオン。
照れてもないし、嘘でもないと君は言い返す。
君の言葉を聞き流し、猫(?)はグラスを肉球で押して差し出した。
これはなんだ。
wめんつゆニャ。飲むニャ。
アルドベリクが怪厨にグラスを眺めていた。
君は、そのグラスに映る歪んだ猫(?)の顔と目が合った。珍妙な顔がさらに珍妙に見えた。
wちょっとBGM変えるニャ。
~♪(鎮魂歌)
rごほっごほっ! どこから聞こえてくるんだ? 古い唄だ。それにこの声……。
wいい唄だから知り合いに唄ってもらったニャ。店で販売もしてるニャよ。
知り合いって誰だろう。と思いながら君は「メンツユ」を一ロ畷った。
rはい。お客さん、おかわり。
?そこに置いておいてくれたまえ。
ウィズ(?)が口を開く。
wたまにはチミたちとこうして、ゆっくりするのもいいことニャ。
だから、アタイの四聖賢の力を使って、みんなを呼んだニャ。
それもう四聖賢超えてるから、と君は心の中で呟いた。
しかし、彼らと出会う時はいつも大きな事件の最中であることが多い。
たまにはこういう場もあっていい、と君は思った。
***
また、誰か来た。
「うん? おや? ここどこだろ? ……あ。」
クレディアだった。どうやら彼女も呼ばれたようだ。
wなんの用ニャ。
そうでもなかった。
E何なんだ、その唐突な敵意は。
w嘘ニャ。嘘ニャ。冗談ニャ。さ、クレティアもこっちに来て座るニャ。
cすごいね。いっぱい知らない人がいる。楽しそう。
君の隣に腰を下ろし、見上げるように君を見る。
cまた会っちゃったね、魔法使いさん。
rはい。おしぼり。名前はなんて言うの?
同じ年頃の少女に興味があるのか、リルムがほかほかの布を差し出しながら、クレディアに聞いた。
cクレディア・ブライユだよ。これ、ほかほかでいい匂いするー。ほふ、ほふ。
渡された布に顔を埋めて、肩を震わせている。
cいま私はバラダイスにいます。いますよ。うん、います。
よくわからないが、嬉しいのだろうと君は思った。
wそうニャ。ある意味ではここはパラダイスニャ。
自分の言葉を継いだ奇妙な猫(?)を見て、クレディアは首を傾げた。
c誰?
wウィズニャ。アタイのことは眼中にないってかニャ? アタイのこと、なめてるのかニャ?
Eこの娘にだけ沸点が低すぎるぞ!
w本能的に別の雌を見るとマウント取りたくなるニャ。
E面倒な奴だな。
ん? それなら小娘はどうなんだ? いつマウントを取った?
wあれはジャンルが違うニャ。
Eあー、なるほど………。いや、お前と同じジャンルの奴などおらん!
r待ってくれ。そもそも、こいつは何だ?
w猫ニャ。
猫にしては不細工過ぎるんだが。
……よく見ると、もの凄く不細工だな。本当に不細工だ。長い時間見ていると、気持ちが悪いな。
rそうだな。目が笑ってないな。
君はリュオンたちの意見に同意する。
wやれやれ、アタイのミステリアスな魅力のせいで、男たちを惑わしてしまったみたいニャね。
このえらくポジティブなところが、やたら面倒なのだ、と君は一同に説明する。
w冗談はさておき。さ、クレディアもこれを飲んで、楽にするニャよ。
クレディアの目の前に、鮮やかな色をした飲み物が差し出される。
cありがとう。これは何の飲み物?
w毒ニャ。楽になるニャよ。
Eやめんか。
アルドベリクがクレディアからグラスを取り上げる。
飲むのはよせ。
cあ、毒が……。
いや、そんなに残念そうにする必要はないよ、と君はクレディアをたしなめた。
cうーん。でも、記念にもらっておいてもよかったと思う。
rぶっとんだ子だなー。
Eお前が言うな。
wニャハハハ。いまのはただの冗談ニャ。女の子はやっぱり甘いものの方がいいニャね。さ、これを食べるニャ。
cこれは?
w毒ニャ。めちゃめちゃ苦しんで死ぬ毒ニャ。でも味はお菓子みたいに甘いニャ。
小娘、それをゴミ箱に投げ捨てろ。
rザッパー!
wニャハハハ。ちょっと冗談が過ぎたかニャ?
E「ちょっと」を相当飛び越えていったぞ。
wでも、皆をねぎらいたいのは本当ニャ。みんな楽しんでほしいニャ。
リルム、奥からちらし寿司を持ってきてほしいニャ。
何か本当かまったくわからない。
何もかもが嘘にしか聞こえなかったが、夜はさらに更けていく。
楽しい談笑と、素朴な料理を楽しみながら、君は夜を使い果たす。
どこかそれは夢のように、曖昧な輪郭をした、楽しい夜だった。
story3
夜は更け、招待された客もそれぞれ帰っていった。
「やれやれ、やっぱり最後は、アタイとチミのふたりっきりになってしまったニャね。」
正確には、君だけ帰してくれなかったというのが、正しかった。
猫(?)は残ったちらし寿司をタッパーに詰めながら、続けた。
「聞いてほしいことがあるニャ。」
聞かなきや帰れないだろうから、君は聞くことにした。
「アタイはもう消えるニャ。」
そうなのか、と君は思う。それ以外は何も思わなかった。
「みんながアタイのことを慕ってくれるニャ。でも、それは間違っているニャ。
アタイは所詮、日陰の花ニャ。日陰の花が日向に咲いたら、悲しくなるだけニャ。
アタイは元の日陰に帰るニャ。でも、チミはきっと忘れないでいてくれるニャ。
アタイという日陰の花が、たった一度日向に咲いたことを。綺麗な花を、咲かせたことを……。
それがアタイはうれしいニャ。アタイみたいな不細工な猫が、一日でも主役になれたニャ。
それを、チミが覚えていてくれる。そんな幸せなことはないニャ。
もう、それだけで充分ニャ。アタイみたいな者にとっては充分過ぎるニャ。」
タッパーの蓋がカチッときれいな音を立てて、閉じられた。
「だから、もう、アタイは消えるニャ。
チミ、最後にアタイとチッスとかするニャ?」
>ぶち殺しますよ。
「ぶち殺してもいいからチッスしてほしいニャ。」
絶対に嫌です。と君は返す。
「じゃ、仕方がないニャ。」
猫(?)は前髪につけたつけ毛を取り外し、カウンターに置いた。
「さよならニャ。」
そして、ゆっくりと出口の方へと歩いていく。
「チミと会えてよかったニャ。」
振り返り、そう言った。彼女の肩が少し震えていた。
前足で器用にドアノブを下ろし扉を開くと、外へ出た。
扉の隙間から漏れる光はまぶしい。もう外は朝なのだろうか。
差し込む光が君を包む。
***
目を開くと、そこは宿屋の一室だった。朝だ。
あれは夢だったのだろうか。たぶん夢だ。現実離れし過ぎている。
あの猫(?)もやっぱり夢、いや嘘なのか。ただの嘘なのか。
もしかしたら、また、
「嘘ニャ。」
と言って、出て来るかもしれない。
少しの間、待ってみた。
現れない。
だから、もう少し待ってみた。
どのくらい待ったのか。わからない。だが、その時間は永遠のように思えた。
ある瞬間、君は、全てを理解した。
あの猫(?)はもう自分の前には現れないのだと。
最後の最後に、「本当のこと」を言ったのだ。ガラにもなく。
込み上げる何かを振り払うように、君は思い出す。あの猫(?)との思い出を。
***
「こんなところで寝てると風邪ひくニャ。
酷い顔してるニャ。ただいま、ニャ。ちょっと、遅くなっちゃったけどニャ。」
どうして、突然あんな無茶を……?
「ニャハハハ。
少しは、ちゃんとチミの役に立たないといけないと思ったニャ。」
こんな無茶はこれっきりにして欲しい、と君は伝える。
「ニャハ……善処するニャ。」
***
「何をしているニャ……。どうしてずっと下を向いているニャ!
いまここでチミたちが諦めたら、世界が終わってしまうニャ!
チミたちがもし過ちを犯したのなら、やり直せばいいニャ!
そうしないで、俯いているのは、卑怯者のすることニャ!……アタイの言っていることが……。
間違っていると思うなら、ずっと下を向いていればいい。」
「チミ、こうなったら正攻法で行くニャ。あいつの親を人質にするニャ。」
「チミ、手加減は必要ないニャ。あいつの実家を燃やしてやるニャ。」
「お疲れ様ニャ。毒、用意したニャ。」
いや、こんな思い出はなかった。あの猫と旅なんてしたことない。ない。……はずだ。
なかった。かもしれない。
だが、本当になかったのか? それも誰かの嘘かもしれない。もう、君には何か本当かわからなかった。
わからないのだ。
けれど、自分の気持だけは本当だと思った。
嘘ではない。
君はベッドから起き上がり、扉を少し開いてみる。隙間からぬるっと現れないかと思ったのだ。
現れることはなかった。
ゆっくりと君は扉を閉じて、つぶやいた。
さよなら、と。
この別れは、嘘ではないのだろう。
エピローグ
男は無人の店内を見回し、カウンターの席に座った。
カツカツとブーツの踵が音をたてる。
「誰もいないのか、不用心だな。」
あるいは、そこは抜け殻となった場所。
まだ生きていた頃の温もりをわずかに残す廃墟なのかもしれない。
男は、カウンターの上に髪の束と、一枚の紙片を見つける。
その紙片を取り上る。そこにはこう書いていた。
「嘘ニャ?」
その他