【黒ウィズ】ディートリヒ編(ゴールデンアワード2018)Story
ゴールデンアワード2018 |
開催期間:2018/08/31 |
目次
登場人物
上級大将 ディートリヒ・ベルク cv.森川智之 | |
ブルーノ・シャルルリエ cv.浜田賢二 | |
エルナ・シェンク cv.西田望見 | |
副官 ローヴィ・フロイセ cv.相坂優歌 | |
クラリア・シャルルリエ cv.水瀬いのり | |
ヴィラム・オルゲン cv.名村幸太朗 | |
フェリクス・シェーファー cv.木村昴 |
story1
ローヴィは、緊張していた。
自分の父を殺したかもしれない男――ドルキマス上級大将ディートリヒ・ベルクの副官となって、半年が過ぎようとしている。
これまでついた副官の大半が泣いて逃げ出したというだけあって、ディートリヒの要求する水準は厳しかったが、なんとか乗り越えてこられた。
それでもなお、今回の〝任務〟は、ローヴィに苛烈な緊張を強いるものであった。
愚にもつかない会話を交わす上官ふたりの背中を見つめ、ローヴィはめまいをこらえた。
ドルキマス王都の大通りである。今は、雑貨屋が立ち並ぶ区域を歩いている。
ドルキマスでは、家人が雑談しながら大通りを歩く光景は、さして珍しいものではない。
だが、ディートリヒ・ベルク上級大将が――となると、これは極めて珍しい部類に入る。
この半年、ディートリヒは働きづめである。明らかに過剰労働だが、疲弊するどころか、常に平然とした態度を崩さない。
そう進言すると、ディートリヒは薄い笑みを浮かべるのだった。
交戦状態でなければ、休んでいるのと同じ。次の戦争のための種々の準備という激務は、彼にとって精神の休暇に等しいのだ。
これまでの副官が泣いて逃げ出したわけを、ローヴィはようやく理解していた。
忙しいとか、要求が厳しいとかだけではない。この非人間的な男の傍にいること自体、常人には耐えがたい苦痛なのだ。
父の仇かもしれない相手を、ドルキマスにとって必要な存在か見極める――その使命がなければ、ローヴィもとっくに音を上げていただろう。
そんな悪魔的軍人が、こうして商店街を歩いているのには、わけがある。
「今度、ウチの娘が士官学校を卒業するんです。だから、閣下からプレゼントをいただけませんか。きっと一生の宝になると思うんですよ」
昵懇(じっこん)の腹心たるブルーノに乞われ、軍務スケジュールに空いた針のような時間を使い、こうして街に繰り出している。
そして、ローヴィを緊張させる最大の原因は――
私はそういう感性にはうとい。ローヴィ、エルナ。貴官らの審美眼に期待する。
(無理です!私もそういうのはうといんです!)
そう叫びたくなるのを、ローヴィはこらえた。
エルナにグイグイ腕を引っ張られ、ローヴィは店に連れ込まれた。
ちょうど開店の時刻だった。外で待っていた毒酒な衣装のご婦人方が、なだれ込むように店内へ突撃する。
まるで戦争だ、とローヴィは思った。
フリルのついたドレスや、かわいい置物、ぬいぐるみにリボン、洒落たネックレスなど、軍人とは無縁の品が並んでいる。
残念ながら、それらにどれだけの価値があるか、ローヴィにはよくわからなかった。
ディートリヒの身の回りの世話を担当する従兵も、副官同様、入れ替わりが激しかった。
先頃着任したエルナは、ディートリヒの険呑な空気をものともせず、にこにこてきぱきと職務をまっとうする逸材だ。
どこにでもいる普通の娘にしか思えないが、そんな娘がディートリヒの従兵を務めていることそれ自体が彼女の特異性であると言えた。
おや?
店内を見回していたエルナの視線が1点で止まる。ローヴィもつられるようにそちらを見た。
絶句した。
そこに、ディートリヒが立っていた。
いや。違う。精巧に似せた肖像画だ。それが、何かに印刷されている。何か。シーツのようなものに。
――触れてみたまえよ。できるものならな――
世界は広い。ローヴィは、ぽかんとシーツを見つめる。
その視界の隅で、ふと何かが動いた。
瞬間、未知の世界に迷い込んで硬直していたローヴィの精神は、一気に現実へと回帰した。
彼女の現実――戦場へと。
鋭い叫びが、店内に響き渡った。
story2
とはいえ、それだけじゃない。君の徹底的な能力主義の成果が、ようやく実を結んだってところじゃないか?
隻眼が、不意に近くの店に向く。ローヴィとエルナが入って行った店だ。
その一言だけで、ブルーノの全身に緊張が走る。上官であり友でもある男の、戦場の冷たさを帯びた言葉に、心のスイッチが切り替わる。
間をおかず、店から数人の男が飛び出した。
言うが早いか、前に出ていた。
大きな白い袋を抱えて出てきた男に、自ら近づいていく。
ギョッとなった男は、次の瞬間、投げ飛ばされてひっくり返った。
別の男が横からつかみかかってくる。
そこへ、ブルーノが突進した。たくましい体格を生かした体当たりで、男を強烈に跳ね飛ばし、店壁に叩きつける。
さらに数人の男と、ローヴィたちが現れた。商店街にひしめいていた人々が、騒ぎに気づいて動揺の声を上げる。
ひとりが拳銃を取り出そうとした。ローヴィはすばやく接近し、相手の手に手刀を入れて銃を落とさせ、みぞおちを膝で蹴り上げた。
顔にフェイントをかけてから金的を蹴り上げて喉への肘打ちで締めるという猛攻を見て、ブルーノが思いっきり顔を歪めた。
ディートリヒに金的を蹴り上げられた男が、悶絶しながらブルーノの近くに倒れ込んだ。
路地に転がる男の数は、5人。1人だけ、落ちていた袋を拾って、ほうほうの体で逃げていった。
含みのある言葉に、ローヴィは眉をひそめた。
ドルキマス空軍が抱える諜報部隊の通称だ。ディートリヒは、いつでも彼らと通信・連携が取れるように手を打っている。
ディートリヒは、最初に投げ飛ばした男の傍らにしゃがみ込み、活を入れた。
腕をひねり上げ、地面に押しつけた状態で、さらに背中を踏んで逃げられないようにする。
生死を賭けた戦いでは、身に沁みついた動きが出るものだ。軍人――あの間合の取り方は、シュネー国の者か。
男は「違う!」とわめいているが、ディートリヒの瞳には確信の色が濃い。
あのまま戦っていれば勝てたはずだ――そう考えた軍の一派が、休戦協定に亀裂を入れたがっている。そんなところか。
そののち、遠隔操作で起爆できる爆弾をリボンに仕込み、高官の子女に贈呈、爆破する。
しかし、リボンがあまりにも売れ過ぎたのが誤算だった。
地に伏せられた男の顔が、あからさまに青ざめる。
大きく見開かれた眼が、ディートリヒの明察を物語っていた。
ディートリヒは珍しく、困ったような顔をしていた。
じろりと睨まれ、ブルーノは首をすくめた。
story3
「だから反対だったんだ、強盗の真似なんて。不良品が混じってるとかなんとか言って、普通に店に返品させれば良かった!」
「一刻も早く対処しなきゃ、リボンが買われる。中に爆弾があるのがバレてみろ、お膳立てがすべてパアだ!」
「だからって、仲間が捕まっちゃ意味がないだろ!」
「あいつらだって元軍人だ。口は割らない。食い詰めた強盗犯として牢に入れられるだけさ。だいたいこんな真実、誰が想像できる?」
打ち捨てられた廃工場に、十数人の男が集まっていた。
工場の中央には、リボンを詰めた白い袋。そして、明らかに違法な重火器の数々が置かれている。
「いい宣伝になったと思おう。人気すぎて強盗が来るくらいの商品だってなりや、貴族や軍人のお嬢様への贈呈品にはもってこいだろ。
これなら、戦争の火種にするだけじゃない。ドルキマスの主要人物を一気に暗殺することも――」
爆発が起こった。
中央のリボンから――ではない。倉庫の壁が一斉に爆発し、粉塵と火の粉が乱れ飛ぶ。
「な、なんだぁ!?」
「敵襲!?まさか、そんな馬鹿な――」
続いて、ひときわ大きな爆発が、男たちの同様の声を呑み込んだ。
壁の爆発に紛れてリボンの山に榴弾が撃ち込まれ、一斉に誘爆したのだ。
その事実を知ることすらできぬまま、彼らは暴盧の炎に喰い尽くされていった。
廃工場が内側から大爆発を起こし、地響きを立てて倒壊していくさまを、ディートリヒたちは離れた場所から冷静に見つめていた。
爆破テロを目論んだシュネーの軍人など、どこにもいなかった、ということになる。
そうだ、ローヴィ。件のリボンだが、1点だけ私の名義で購入しておいてくれ。
こんな日くつきの品を少女に贈るというのか、というニュアンスを秘めての言葉に、ディートリヒは、薄い笑みを浮かべた。
***
どうだ、とばかり胸を張るクラリアに、フェリクスとヴィラムは異口同音に返した。
だからこそディートリヒも、〝的外れな推論〟の材料に使ったのだろうが――
ふたりは顔を見合わせた。
そういうものを、当時から作れてしまいそうな、いや、
〝作ってしまいそうな〟人物に、どちらも心当たりがあったのだ。
どちらともなく、つぶやくものの。
やけに納得できてしまって、ふたりはげんなりと嘆息した。
その他
空戦のドルキマス ![]() | |
---|---|
![]() | |
00. ディートリヒ 初登場 (ウィズセレ) | 2014 11/14 |
01. 空戦のドルキマス ~沈まぬ翼~ ドルキマス軍 | 2015 10/22 |
02. 空戦のドルキマス 外伝集 | 10/22 |
03. 黄昏の空戦記 ディートリヒ編(正月) | 01/01 |
白猫×グリコ コラボ (メイン・飛行島) | 01/29 |
04. 深き黒の意思 ディートリヒ編(GP2016) | 06/13 |
05. ドルキマスⅡ ~昏き英雄~ 序章 1 2 3 4 5 6 7 | 2016 09/23 |
06. プルミエ(4周年) | 03/05 |
07. フェリクス(GW2017) | 04/28 |
08. 対シュネー艦隊戦 ディートリヒ編(GP2017) | 08/31 |
09. ドルキマスⅢ ~翻る軍旗~ 序章1234567 | 2017 09/30 |
10. 空賊たちの空(ジーク外伝) | 09/30 |
11. 赤髭空賊とジーク(謹賀新年2018) | 01/01 |
12. 元帥の不在(5周年) | 03/05 |
![]() | |
13. 空戦のシュヴァルツ 序章 1 2 3 4 5 6 | 2018 05/18 |
14. リボンを求めて(GW2018) | 08/31 |
15. 月夜の思い出 『魔道杯』 | 09/20 |
16. 血盟のドルキマス【コードギアス コラボ】 序章 1 2 3 4 5 6 | 2018 11/30 |
17. 炊事班の空賊見習い ロレッティ編(GW2019) | 2019 04/30 |
18. 新艦長への試練 ローヴィ編(サマコレ2019) | 07/31 |
19. 売国(GP2019後半) | 09/12 |
20. 決戦のドルキマス ~宿命の血族~ 序章 1 2 3 4 5 6 | 2020 04/14 |