【黒ウィズ】イスカ編(ゴールデンアワード2018)Story
ゴールデンアワード2018 |
開催期間:2018/08/31 |
目次
登場人物
story1
目の前を慌ただしく物資と人が行き交う。
インフェルナの拠点では、次の戦争の準備が着々と進められていた。
はあ、忙しい。忙しい。ウィズにゃーの手も借りたいぐらいだよ。
私の前足じゃ、引っ掻くぐらいしか出来ないにゃ。
忙しいなら、イスカに手伝って貰ったらどうにゃ?
先ほどからイスカの姿が見えなかった。また無断でどこかに出かけているのかと、メルテールが怒りかけたところで。
不意を突くように黒い影が、いきなり物陰から倒れ込んできた。
ど、どうしたの!?
うっ……うう……。
顔色が悪い。目が血走っている。体調でも崩したのだろうかとウィズが心配する。
出して……!
出す?なにを出すにゃ?
○か×かで答えられる問題を、いますぐ出して!早く!
にゃにゃ!?
なぜ、そんなことを唐突に言われるのかが、理解不能だった。
あっちゃ~。またはじまったか。
どういうことにゃ?
メルテールの説明によると。
イスカは、身体に流れる審判獣の血のせいで、時々、物事を○か×かで審判したがる“衝動”に見舞われるのだという。
一度、その状態になったら……。
なったら、どうなるにゃ?
超めんどくさい。忙しい時は、特に相手したくない。
早く問題出して。いますぐ答えたいの!
メルテールは、地の底に沈みそうな重いため息をつく。
この発作がはじまったら、満足するまで、ずっとこんななんだ。
解消してあげるしかないってことにゃ?
イスカは、興奮気味に呼吸を荒げている。頭の天辺の毛が、くるくる回っていた。
じゃあ、問題!昨夜の夕食は、お魚だった!?○、それとも×?
ちょっと待って。うーん……。
イスカは昨日の記憶を掘り起こす。
昨日は、草の入ったおかゆだけだった。だから、×!
正解!
はふー。
クイズに答えたことで、多少なりとも衝動が和らいだのだろう。イスカは満ち足りた表情を見せる。
よし、じゃあ次の問題行こう!?早く、早くぅ!
確かにこれは、相手するのはめんどそうにゃ。
でしょ?というわけで、ウィズにゃー。後は頼んだ!
にゃにゃ!?
***
次の問題行くにゃ!お日様は、西から昇ってくる。○にゃ?×にゃ!?
これは○!子どもの頃、そう教えられたもん!
ブッブ~!この世界でも、お日様は東から昇ってくるにゃ。今朝確かめたにゃ。
クロッシュ兄さんが、言ってたのに!?
クロッシュ兄は、剣しか知らないもの。信じちゃだめだよ。
イスカの中で、クロッシュの評価が、ガタガタと音を立てて崩れていく。
次の問題行こうよ。
こうなったら、私がイスカを満足させてあげるにゃ!
ウィズは、覚悟を決めて問題を乱れ打つ。
ここにあるキノコは、食べられるキノコ!?○にゃ!?それとも×にゃ!?
○!
ここにある2種類の草。右が毒草で、左が薬草。○、それとも×にゃ!?
右の草は、形が丸っこいから薬草。だから×!
じゃあ、この見た目が、いかにもどぎつい色の花は、毒を持つ花である。○、それとも×にゃ!?
美味しそうな色してるから、これは食べられる花!だから、これも×!
全部間違ってるにゃ!
なんですと!?
毒キノコ、毒草、毒花。なにひとつ見抜けてないにゃ。
私は、不安にゃ。そんなことでは、この厳しい世界を生き抜いていけないにゃ。
ううっ……く、苦しい!?
どうしたにゃ!?
問題に間違えるたびにイスカの中で、審判獣の本性が目を覚ますらしいの。
このまま間違えつづけると、イスカは審判獣失格になって、下手すると命を失うかもね。
もっと、簡単な問題にするにゃ!
***
問題を間違えつづけるとイスカの命が危ない。
ウィズは、一般常識を計るような“難問”を出すのはやめて、方針を変えることにした。
クロッシュがいたにゃ。ちょっと、待つにゃ。
……黒猫。食え。
貴重な干し肉を取り出して、投げて寄越す。
いつもすまないにゃ。
気にするな。
そこへ飛び込んできたのは、メルテールと妹たち。
不正給餌の罪でクロッシュ兄を現行犯逮捕!イスカに審判してもらうから、ついてきて。
……なに?
弁解の余地なく、メルテールと小さな妹たちに引っ立てられていく。
***
まさか、クロッシュ兄さんを裁くことになるとは、思いもしませんでした。
これも審判獣として私に科せられた使命だと思って、公正な裁きを下したいと思います。
何だ、この茶番は……?
ウィズちゃんに、こっそりおやつを与えていたのは事実ですね?
……間違いない。
素直に認めるとは。さすがです。
悪いことをしているつもりはない。
でもそのせいで、ウィズちゃんの体重が増えたとしても、正しいことだったと言い切れますか?
にゃ!?私、もしかして太ったにゃ?
……猫は多少太っている方がいい。
明日から、ダイエットするにゃ。
では、判決を下します。ウィズちゃんに餌を与えて太らせたのは重罪。
けれども悪気はなく、むしろ、その方が健康にいいと私も思います。
だから、情状酌量の余地ありと見なし、判決は○とさせていただきます!
イスカは、頭の上で○を作った。
……無罪ということか?
これにて、イスカの裁判は無事閉廷する……かに思えた。
すかさず、幼き妹たちが、姉と慕うメルテールを取り囲んで捕縛する。
なに?なに!?今度は、あたし!?
どうやら妹たちが、メルテールを訴えたいらしいにゃ。
訴えの内容は、メルテールの隠し財産についてだった。
隠し財産!?なんだか仰々しいから×にします。
結論出すの早いっての!
隠し財産って大げさだよ。要はへそくりのことでしょ?それならあるわ。認めるわよ。
なんだ。その程度なら問題ないような……。
違う違う、と10人近くいる妹たちが、一斉に首を横に振る。
メルテールのへそくりは、その金額、量ともに、へそくりのレベルでは収まらないものだった。
聞けば、貯め込んだお金や晶血片を隠すため、山をひとつ改造して貯蓄庫に変えてしまったのだという。
貯めるにしても行き過ぎにゃ。
インフェルナのみんなの将来を思って、貯め込んでいたのよ。
決して、私欲のために貯め込んでいたわけじゃないわ。
本心かもしれない。
けれども、それを誰にも報告してなかったのは、やはり問題だ。
そして、貯蓄庫の管理に狩り出されている妹たちに不満が溜っているのも問題だった。
最終的に裁きを下すのはイスカにゃ。どうするにゃ?
インフェルナのみんなのためって言葉は、本心だと思う。だから、メルテールに罪はない。
イスカはしばらく考えさせて欲しいと言ってその場で腕を組んで難しい顔をした。
え?嘘。まさか、有罪ってことないよね?イスカなら、許してくれるよね。
出ました!
イスカは両手をあげた。ゆっくり降りてくる両手が、×の形に交差する――
嘘。
と、見せかけて――○!
頭上に高々と○が掲げられる。
嫌がる妹たちを無理矢理働かせるのをやめるなら、へそくりの件は、不問にします。
お慈悲を頂きます……。
これにて一件落着!
***
ほんと、茶番に付き合うのも疲れるわね。
ちょっとドキドキしてた癖に、強がりはやめるにゃ。
イスカの審判獣としての衝動も癒やされた様子。すべて丸く収まったかに見えた。
聖域〈サンクチュア〉の間諜を捕まえたぞ!
なにごとにゃ!?
***
こそこそしやがって。怪しい男だ。こっちに来い!
引っ立てられてきたのは、聖域の服を着た男だった。
なに、間諜が忍びこんでいただと?
拠点の中は、ー気に騒がしくなった。
間諜とは失礼な!私は聖域の人間だが、そちらの情勢を探っていたわけではない。
違うなら、なぜ頭首様の幕舎の裏に潜んでいた!?
知らなかったんだ。私は、ただ……。
なにか言おうとする前に、兵士が拳で殴った。
聖堂の男は苦しそうに呻いて、その場に崩れ落ちる。
スパイを捕まえたのかにゃ?
でも、本人は違うと言ってるみたい。
この陣営に親戚がいるはずなんだ。彼女に会いにきただけだ!本当だ信じてくれ!
聖域で暮らす者が、わざわざ親戚に会うためにインフェルナまで降りてくるだろうか?
そんな姑息な言い逃れが、通用すると思うか!?
兵士たちは無慈悲に暴力を振るう。
無抵抗な人をよってたかって叩きのめすなんて、酷いにゃ。せめて話は、聞くべきにゃ!
無体な様子を目の当りにし、ウィズの正義感に火がついた。
今こそ審判獣の能力を発揮する時にゃ。この騒動を見事収めて見せるにゃ。
そうだね。微力ながら、このイスカが、この人を裁かせていただきます!
イスカの登場によって、インフェルナの兵たちの興奮は沈静化する。
とりあえず、イスカに任せてみようという話になった。
この陣営にいる親戚とは誰ですか?まずは、それを聞かせてください。
早く吐け、この野郎!
探したが、見つけ出せなかった。もう、死んでしまったのかもしれない。
男は、落胆したように頭を垂れた。
その仕草が、芝居なのか、本心なのか、見極めが重要だとウィズは思った。
下手な弁解などさせず、さっさと処刑してはどうかね?
もう少し調べさせてください。なんだかこの人、私たちに害をもたらすような人には思えないのです。
兵士が、男の懐を探った。
こいつ、手紙を持ってます!
見せてください。
出来の悪い紙に、炭筆で書かれた文字がならんでいる。
なになに……。お元気ですか?インフェルナの様子はどうですか?
近々戦争がはじまると聞きました。あなたのことが心配です。よければ、状況を知らせてください。
完全に俺たちインフェルナ軍の動向を探らせるための手紙じゃないか!これはお前が書いたのか!?
か、書いたのは俺だ。でも、動向を探らせるつもりなんてかった!
嘘つくな!
本人は否定してます!もしかしたら違うのかもしれません。
その手紙だけで判断するのは危険にゃ。
兵士たちは、男の服をさらに探った。すると、金貨の入った袋が出てきた。
大量の金貨だ。これぽどの財宝を、なぜお前が持っている!?
コツコツ貯めたものだ。聖域では普通に働いていれば、貯められる金額だ。
俺たちが知らないと思って、嘘をついているのではないだろうな!?
冷静に答える男の顔に、若干の焦りが混ざりはじめた。
イスカ様、これでもまだこの男は、間諜ではないと思われますか?
難しいところです。ですが、この人の言葉に嘘が混ざってないように感じます。
兵士は、聖堂の男の懐からさらになにかを発見した。
小さな鞘に収まっていたものは、血に塗れたナイフだった。
決定的な証拠だな。こいつで誰を斬った!?言え!
ここに来る途中で腹が減ったので野鳥を狩って捌いた血だ。水場がなかったから、そのままにしておいた。
下手な言い逃れを!
もはや、なにを言っても無駄。男は、観念したかのように頭を垂れる。
もう、証拠は十分そろったな。処刑したまえ。
待ってください!決めつけるには、まだ早いと思います。
これだけ証拠があっても、まだこの男が間諜である可能性は、○じゃないと思ってるにゃ?
なにかが引っかかるの。この人は、悪い人じゃないって、なんとなく感じるの。
なんとなくじゃ、みんな納得しないにゃ。
ー々、情にほだされていては、この先、インフェルナの民を導いてはいけませんぞ。
合図を送った。処刑場に引っ立てられていく男は、もはや抵抗する力を失っていた。
俺がいくら弁解しても、あんたたちは間諜だと決めつける。だったらもう、なにを言っても無駄だ。
この野郎。とうとう開き直りやがったな!?
やめなさい!
あんた、もしかしてテター!?
女が走り寄ってきた。
こいつを知っているのか?
この人は、私の甥です。ー族の中で、私だけが悪の熔印を押されて、インフェルナに堕とされたんです。
彼だけは、ずっと気に掛けてくれて、いつも手紙やら、お金やらを送ってくれたのよ。
では、この人が言っていた、インフェルナに親戚がいるというのは……。
それは、きっと私のことです。
なんと……。では、あの手紙の内容はどういうことだ?
うちの妻からの手紙だ。会ったら渡そうと思っていた。
あのお金も?
少しでも、ここでの生活の足しになればと思い、渡そうと持ってきた。
そんな気を遣わなくてもいいのに。それよりも、うちにおいで。傷の手当てをしなきゃ。
傷ついた男の身体を支えながら、自分たちのテントに帰って行った。
間諜ではない以上、兵たちは手出し出来ない。
危険だから来なくていいと言ったはずなのに、バカな人だね。でも、嬉しいよ。こうして会いに来てくれて。
やはり、悪い人ではなかったようですね。
……。
彼を間諜だと決めつけていたものたちは、苦虫をかみつぶしたような複雑な表情をしていた。
ー方、イスカは、先ほどまでとは打って変わって晴れやかな顔をしている。
審判獣の衝動とやらは治まったのかにゃ?
あ、そういえば。気分がすっきりしてます。
あの男が、聖堂の間諜だったかどうかは、難しい、判断だった。
早まった裁きを下していれば、取り返しのつかない事態を招いたかもしれない。
多くのものが、彼を断罪しようとしていた中で、イスカだけが、正しい判断をした。
(ー般常識は、からっきしだけど、人の善悪を見抜く目は、さすがにゃ)
ひとを裁く審判獣の血。確かにイスカには、その血が流れているようにゃ。
その裁きがいつも適切なものであれば、この世界はもっと住みよいものになるだろう。
すべてお父さんのお陰です。まだ会ったことはないけど、いつか会えるのかな?
きっと会えるにゃ。
その他
Birth of New Order | |
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