【白猫】亡國のツバサ Story1
2018/05/31
目次
登場人物
story1 自分のこと
<フレスベルグ>ーー
滅亡した<アレス王国>の、空飛ぶ古代兵器。
生き残った王の息子。ディラン、ヴィシャス、ノエル。
彼らはこのフレスベルグを駆り、バウンティハンターとして活動しながら、祖国を滅ぼした人間を探し続けていた。
だーかーらー! 操縦席に座らないでっていってるでしょっ!
……俺も操縦したい。
操縦担当は僕だ!
その通りだヴィシャス。お前が操縦するとろくなことにならん。
絶対に触らないでよ。今から自動操縦に切り替えるんだから。
そんなすごいモードがあるのか。
僕が寝てる時だって飛んでたでしょ……
気づかなかった。
ノエル、目的地まであとどのぐらいだ?
まだしばらくは。
よし、じゃあ兄ちゃんと遊ぶか!
えー……
殺し合いごっこでもするか?死んだ方が負けっていう。
ごっこじゃないな、それ!
……僕は部屋に戻る。あ、勝手に入ってきたりしたら怒るから。
どうして。
どうしてって……僕の部屋だからだよ。
お前、あれか。もうそういう歳になったのか。
詮索してやるなよ。ちょっとエッチな本が隠してあったりするんだろ?
ヴィシャス兄が一番詮索してるよ!それに、そんな本は持ってないっ!
とにかく、僕は一人でいたいんだ!
なあノエル。最近、俺たちに冷たくないか?……そうか。わかったぞ!
反抗期ってやつだな!?そうなんだろう!そうかそうか、兄ちゃんはうれしいぞ!
今夜はお祝いだー!
……ディラン、ヴィシャス兄。また後でね。
待て、ノエル。
……なに?
いい加減、『ディラン』はやめたらどうだ。
……なにを今さら。ていうかヴィシャス兄だって呼び捨てじゃないか。
俺はちゃんとアニキと呼んでるぞ。そういう雰囲気の時は。
なあクソアニキ。
殺し合いごっこがしたいのか?
『フォーーーーーン……』
!!
また魔獣がちょっかい出しにきたみたいだ。
懲りないヤツらだな。
行くぞ、お前たち。掃除の時間だ。
story2 自分のこと
それから数時間後――
おっ! 見えてきた!賞金首がいるってのは、あの島だな。
<ヴィシャスは賞金首の手配書を眺めた。>
マフィアの資金を奪って逃走、か。
今回は楽勝だろう。
こんな綺麗なねーちゃんがなあ。
<手配書には、見目麗しい女性の似顔絵が描かれている。>
……楽勝だろう。
お前、今回は留守番してた方がいいかもな。
笑止!
着岸したよ。
もうすっかり操縦に慣れたな、ノエル。
やっぱり、お前はすごいやつだ。兄ちゃんは鼻が高い!
……別に、大したことじゃない。
よーし! 街に行ったら、また何か買ってやろう!
い、いいいよ。これが僕の仕事だし……
今度はカバさんか? それともチーターくんか?
……ねえ、なんで島に着くたびにぬいぐるみを贈ろうとするの?
だって好きだろお前。
す、好きじゃないよ。僕はもう、そういうのは卒業したんだ。
その割には思いっきり操縦席デコってんじゃねえか。
ぬいぐるみが勝手に動いただけだし。
何だと!? ぬいぐるみは生きているのか!?
ままごとだってやってるだろ?
や、やってない! 子どもじゃないんだから!
ライオンくんは正義のヒーローで、ウサギちゃんと相思相愛だ。
なんでヴィシャス兄まで知ってるの!?
さて、まずはメシだな。
僕は一人で行動する。
なんでだよ。……じゃ、せめてメシだけでも一緒に食おうぜ。
お腹へってない。
なら、おこづかい渡しとくな。これで好きなもの――
要らないよ!もういいから、僕にかまわないで!
そ、そうか……すまん。
……夜までには戻るよ。
……ディラン。お前まだ、自分のことを話すつもりはないのか?
……ああ。
いい加減、俺は話すべきだと思う。
反抗期ってわけじゃ、ないだろう。いや、それも少しはあると思うが……
親父が死に、国も無くなり、帰る家も失った。たった一日でそれだけの事が起きたんだ。
気丈にふるまってはいるか、その実、心は敏感になってる。
……そんな時に話すのか?
そんな時だからこそだ。今こそ、腹を割って話せ。お前の気持ちもわかるが、言わなきゃ伝わらないこともあるんだ。
いくら賢くても、まだまだ子どもなんだぞ……
…………
わかった……仕事が片付いたら、話してみるよ。
それがいい。
story3 おなごがいっぱいおる
それから数日後。とある島にて――
いえ、見たことないですね。
そうですか……ありがとうございました。
…………
手詰まり!!
魔幻獣の情報、なかなかないね。
ロイドの家、もっかい行ってみる?
そこはエマさんに調べてもらってるから、何かわかったら連絡がくると思う。
そーよね……だからこうして、地道に聞き込みをしてるわけだし。
のこる魔幻獣は二体……いったいどこにあるのかしら……
もう疲れたから、あのおじいちゃんに聞いたら、今日は終わりにしましょ。
ん? なんじゃい。
魔幻獣ってのをさがしてるの。古代に作られた、でっかい魔獣……というか兵器なんだけど。
知らん。
そうよね……
じゃが、でっかい鳥は見たぞ。
でっかい鳥、ですか?
旅行先でな、バアさんと浜辺を散歩しておったのだ。
そしたら、小さな島ほどもある鳥がうずくまっておった。わしは腰を抜かしたぞ。
ありゃきっと、連邦が作った新兵器じゃて……
……気になるわね。
おじいさん、その島の場所を教えてもらえますか?
ここからすぐじゃ。地図はあるかの?
***
…………
手詰まりだな。
全然楽勝じゃなかった。
どこをどう探しても見つからねえ。島にはもういないんじゃないか?
あるいは、気配を消して潜んでいるかだ。
……そういやノエルは何してんだ?朝からいないようだが。
探してみよう。
***
ふんふんふふん、ふふふんふ~ん♪
カバさんのぬいぐるみは、なかなか売ってないからなー。
探し回ったかいがあったなー。
スペシャルキューティーパフェ、お待たせしました。
わ~、かわいい~!パフェ、かわいい~!
おっ、それうまそーだな。ねーちゃん、同じやつをくれ。
げっ……
男は黙して<アレスだんご>。
ありませんけど……
き、今日も一人がいいっていったろ……!
偶然だよ、偶然。
……賞金首、見つかった?
いいや。どうやら、かなりデキるヤツみたいだぜ。
ノエル。お前もやるようになったな。この店は……
おなごがいっぱいおる!
口調が変になってるぞ。
ふ。どいつもこいつもキャーキャーしおって。
最高だ!
ね、ねえ、なんかあの人、めっちゃこっちみてるよ……
見ろ。あの子と目が合った。俺に気があるのか?
ヴィシャス兄がガン見してるからだよ。
こ、こわい……あ、でも、隣の黒髪の人はすごくいい感じじゃない?
あの男の子も超かわいくない!?どうする、声かけてみる?
え~、あんた年下趣味~?
なんか、あっちもガン見してるぞ?
怒らせちゃったんだよ。謝ってきなよ。
「失礼……」
「「あっ……」」
む?
相席、よろしいかしら?
…………
なんだ貴様は。
story4 ミステリアスビューティー
…………!
空いてる席が、ここしかなくて。
……ここはアレス男児の席だ。女子供の出る幕ではない。
なにいってんの?
鼻血出てんぞバカ。
だが特別に許してやろう。特別にな!
ありがと♪
(……気づいてるか?)
(ああ……気づいている。この女性は――
世界一麗しい)
(鼻血、もっと出してやろうか?)
本日のケーキ、紅茶セットでお願い。
かしこまりました~。
今日は暑いわね。まったく、参っちゃうわぁ……
<女性は悩ましげに身をくねらせた。>
ふごっ……
あんた、名前は?
マグリン。
そっちから姿を現してくれるとは、ありがたいもんだ。
俺たちがバウンティハンターだって知ってるんだろ? ――賞金首さんよ。
うふふ……
……どういうつもりなの? 自分から来るなんて。
私を追ってるのがあなたたちって知って、興味が出てきたの。
俺たちを知ってるのか。
業界じゃけっこう有名よ? <空飛ぶバウンティハンター>。
やっぱアレ、めちゃくちゃ目立つよな……
もしかして、お姉さんも同業者?
あ・た・り♪
賞金稼ぎが賞金首になったわけか。どうしてマフィアの金盗んだ?
さて、どうしてかしらねえ。
ミステリアスビューティー。
なにいってんの?
……あんた、ただ者じゃないよな。
俺の眼をかいくぐるヤツは、そうそういない。
あらあ、お兄さん……何か特別な能力がおありで?
<マグリンはヴィシャスの太ももに指を這わせた……>
の、能力というか、特殊技能というか……
素敵。興奮しちゃう。
で、結局、何が目的なんだよ。
私を逃がしてくれない?
…………
タダでとはいわないわ。取引をしましょう。
……どう思う、ノエル。
とりあえず、ここから出よう。
待て。
俺のアレスだんごがまだきてない!
だからねえんだって!
そうだった。
story5 取引
…………
路地裏なんかに連れ込んで、どうするつもりよぉ~ん。
ふざけるな。
鼻血出てんぞバカ。
取引って?
簡単なことよ。私をあの鳥ちゃんで逃がしてくれればいい。
ということは、他にもあんたを狙ってるヤツがいるんだね。
それも、かなりの凄腕が。
ああん! ボクってば、おつむがいいのねえ!
見返りは何だ?
…………
あなたたちの国を滅ぼした人間の情報。
な……なんだと!?
俺たちの正体まで知ってるのか……いや、それよりも……
犯人を、知ってるの……!?
逃がしてくれるまでは、何もいえないわ。
ディラン、どうする……!?
…………
取引はしない。
あら。悪くない条件だと思うんだけど?
あんたを信用できない。
はあ……その瞳の輝き。あなたも、とっても魅力的……
で、でも、本当に知ってるかも……
それに、捕まえるにしても、結局は乗せなきゃいけないわけだし……
そうね。道中考えてくれれば、私はそれでいいわ。
ディラン、ここで判断するのは早計だろう。
この女は俺が常に見張る。そう常に見張る!
マグリンといったか!ヘンな真似をしたらクビをはねる覚悟しておけ!
ヘンな真似……って……?
<マグリンは悩ましげに身をくねらせた……>
ふぁお……
ディラン、いいだろ?僕も気をつけておくし。
本当に情報を持っているとしたら、またとないチャンスなんだよ……!
(確かに二人のいう通りではある。
だが……)
早く行きましょ~ン♪
ふ。そう焦るな。いや焦っても可。
(怪しすぎる……)