亡國のツバサ Story4
story
<とある海域にある小さな島。リンツ島――
魔幻獣の攻撃にさらされたが、街への被害はなく、穏やかな日常を取り戻していた。>
「はい、山菜の天ぷらです。今朝とったものですから、おいしいですよ。」
「これが噂の姫様の料理か!」
「姫様はやめてください。まったく覚えてないことですし。」
「じゃあ、なんて呼べばいいのさ? 君の名前、教えてよ。」
「教えたいのもやまやまなのですが覚えてないので。いい加減なことも言えませんし……」
「真面目だなぁ。忘れちゃったなら自分で好きな名前つけたらいいんだよ。それとも俺がつけてあげようか?」
「あ、あははは……」
「それに、そのフード。どうしてかぶってんの?」
「グラハムさんが言うには、敵対していた方々にみつかると危ないそうなので。」
「任せな。その時は俺が守ってやるさ!」
「こら、てめぇ! うちの看板娘にコナかけてんじゃねー! ぶちのめすぞ!!」
「おー、こわ。それにしてもクソまずかったじいさんの食堂も賑わうようになったな。
よかったな、じいさん。」
「痛っ! おめーが変なこと言うから手ぇケガしたじゃねーか!」
「大丈夫ですか!? 血が出てますよっ!?」
「こんなもん舐めときゃ……」
「<*×○■!&%$…………>」(カリダ ルークス ルーラン ルージェンヌ)
「すげぇな、姫様。魔術でも習ってたのかい?」
「それが、その……すみません。覚えていなくて。」
「おじゃまします……」
「あ、エマさん!もう少し待っていてください。すぐに終わるので。」
「別に急いでないので。……外で待ってます。」
「店のなかで待ってりゃいいだろ。」
「でも……」
「嫌ならいいんだ。好きにしな。」
「……わかりました。待たせてもらいます。」
…………
……
「では、店長さん、お疲れ様でした。それと、今夜は飲みすぎちゃダメですよ。」
「おう。それと、エマ。
余り物の山菜だ。姫様がしこたま採ってきてな。さばききれねー。」
「あ、ありがとうございます。」
「フン。帰りが遅いと、あのジジイがうるせーからな。早く行きな。」
――
「丸くなったねー。これも姫様のおかげかな。」
「うるせえ!」
story2 記憶のカケラ
「池の罠に魚、かかっているといいですね。」
「そうですね。
でも、エマさんの罠はすごいのですね。魚がいっぱいとれますし。」
「父さんに教えてもらったんです。あなただって、山菜とるの上手じゃないですか。」
「うーん、山菜採りの名人に教えてもらったはずなのですけど、具体的に誰だったかまでは覚えていなくて……
私の手がかりは、このルーンだけなのですよね……
グラハムさんは私を姫様だって言うのですけど、本当にそうなのでしょうか?
本当に私がグラハムさんの言うお姫様ならともかく、別人だったらお世話になるのも悪い気がして……」
「グラハムさんは優しい人だからあなたがお姫様じゃなくてもきっと助けてくれたと思います。」
「そうですね……でも、やっぱり働かざる者、食うべからずなのだと思います!」
「しっかりしてるお姫様ですね。」
「こういうところが、お姫様らしくないのでしょうね。」
――
「! 光ってますよ!」
「!」
お願い、エレノア……
「大丈夫ですか?」
「エレノア……」
「?」
「私の名前はエレノアです。そうです、エレノアです! 誰かにそう呼ばれてて……
なにかをお願いされて……私はここに……」
「どうしたんですか!? どこか痛いんですか?」
「ごめんなさい。涙が止まらなくて……なぜでしょう? わからない……」
「姫様!!どうなさったのですか!?」
「グラハムさん、思い出しました。私の名前はエレノアです。」
「エレ……ノア……?」
「……グラハムさん?」
「…………
よかったですな、姫様。この調子で、いつか全て思い出す日が来るでしょう。」
「私は本当にグラハムさんの……」
「もう暗くなる。さあ、帰りましょう、姫様。
エマも夕飯を食べていきなさい。」
「……はい。」
「…………
あっ! グラハムさん、お魚をとらないと、今夜の夕飯はグレードダウンです。」
「安心してくだされ、姫様。このグラハムに抜かりはございませんぞ。海で魚を釣ってきました。
アオイの島で買ってきた<ショウユ>を使い、刺身にして食べましょう。」
「お刺身、いいですね♪銀シャリにとてもあいます。私、大好きです!!
お腹が空いてきました。早く……」
――
「また光って……?」
「なに、これ……?
四魔幻獣……ロイド・イングラム……?」
「おじさんのこと、知ってるんでおじさんのこと、知ってるんですか!?」
「頭のなかに、その言葉が……
私は……その人を止めないと……
ロイド・イングラムを……止めるために……私は……」
――
「姫様! 大丈夫ですか、姫様!!」
亡國のツバサ -END-