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【黒ウィズ】覇眼戦線 Story2

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最終更新者:にゃん


story3 上級 狩る者と狩られる者



 君は泥だらけのままゲルデハイラにリヴェータの前へと連れ出されていた。

リヴェータの側にはアマカドが立っており、君に向けてむき出しの敵意を向けている。

ふーん、それで、この魔法使いはそこらへんの奴よりは使えるワケね?

ああ、そこらへんの猟兵なんかよりはよっぽど使える。魔法は便利じゃなあ。

 にしし、と笑いながらゲルデハイラは君の背中をバシバシと叩く。

その様子をジロジロと不満気に見ながら、リヴェータは相変わらずウィズを撫でている。

それじゃあ、アンタはみんなの手伝いでもしてなさい。

あと、はいコレ。この子の世話もちゃんとすんのよ!

 ウィズを押し付けなから、リヴェータは君ヘビシリと指を差す。

もう撫でなくていいの?と君が聞くと、

そういうの、もういいから。長く触ってると惰が移るし。

 と言い、その場を立ち去っていった。

なんて自分勝手な女の子にゃ……!

 ウィズはプンプンと怒りながらそう言う。

 その様子を見て、ゲルデハイラはにししと笑った。

あの子は難儀な性格でな、好きな物を作らぬようにしておるんじゃよ。失うのが怖くてな。

ゲルデハイラさん、喋り過ぎですよ。

おお、すまんすまん。

……じゃ、まあ水汲みにでも行くかの。

どんな時でも、生きとるモンは食って飲まなきゃならんからな。



 ***


な、なんにゃあれ……?

 たどり着いた水場には、大砲を背負った巨大な猫が陣取っていた。

……なんじゃ、貴様らは。

ね、猫が喋った!

お前も猫だろうが。

ガンドゥとは体格がだいぶ違うようだがな。

ガンドゥさん、見回りお疲れ様です。

ウム。先ほど木に登って周辺を確認したが、どうやらここはルドヴィカの陣営に近い。


 どうやら、このガンドゥという大猫は仲間のようで、周囲の見回りを兼ねていたらしい。

 そういえば、この世界へ初めて来た時、君を助けてくれたのはこの猫だったように思う。

それに……罠も多くあるようだ。


 言いながら、ガンドゥはいくつものトラバサミなどの罠を君たちに見せる。

 どうやら、それは彼の手により全て壊してあるようだった。

ここはもう、敵の腹の中ってことかしら。

そのようじゃ……気をつけて戻るとしよう。


 言いながら、ガンドゥは君たちを先導するため歩を進める。


 この世界へ来た時から、何度か耳にする“ルドヴィカ”という女性の名前。

 なぜ、ガンドゥやアマカド、ゲルヂハイラは彼女たちに執着するのか。

 それをまだ聞くことの出来ない君は、得体の知れない恐怖と不安を再び感じ始めていた。



 ***



 罠だらけの戦場を抜けようという頃には、君たちの体はボロボロになっていた。

 一見して解るような罠は一つとしてなく、どの罠も巧妙に隠し通されている。

 服はあちこち破れ、赤く滲んでいる箇所もあった。


しかし、不思議な罠の配置ですね。

ただの夜道かと思えば、いやらしい位置に罠を配置してある……

……この罠の配置は覚えがある。我ら大猫を狩る、狩人の手法だ。

なんじゃと?


 ゲルデハイラが声を上げた瞬間、君たちの目の前に白銀色の影が降ってくる!



  イスルギ  

……奥技“針鼠”!

遅い。

 瞬間、目にも留まらぬ攻撃の応酬が始まった!

 投げられる刃物を次から次へ撃ち落とすアマカドと、速度を上げていくイスルギ……!

 そしてそれに目を奪われていた君たちに、大きな影が覆いかぶさった!

にゃ!?

甘い!


 叫びながら、ガンドゥは打ち下ろされる大剣を巨大な前足で払う。

 完全に白兵戦慣れした彼らの動きに、君とウィズは圧倒されるばかりだ。


 大剣の主は剣を構え直すと、静かに君たちへ言う。


  ???   

惜しい、一撃で首を貰えたと思ったのに。

貴様にやる首をガンドゥは持たぬ、諦めよ、大猫狩りの剣士。

それよりも……その鎧はグランファランクスのものじゃな。

群れないはずの大猫狩りが、なぜルドヴィカの尖兵たちと一緒なのか聞きたいのう。


 落ち着いた二人の質問に、大猫狩りの剣士はため息をつきながら続ける。


  ???   

単純だ、金だよ。大猫の牙は高く売れる。

それに、お前さんたちの仲間に大猫が居たのが運の尽きさ。

……貴様、名前は。

オーリントール・バイア


 構えを取るオーリントールの横に、アマカドと競り合っていたイスルギが着地する。


  イスルギ  

オーリントール、助太刀しよう。

悪いねイスルギくん。

……私もそっちに混ぜてよ、ガンドゥさん。

ウム。

 ニヤリと笑うアマカドは、臨戦態勢のガンドゥヘそっと寄り添い、居合の構えを取った。

……私達はガンドゥとアマカドのサポートに回る。油断はするなよ、魔法使い。

 君は小声のゲルデハイラにうなずき、一触即発の空気にゴクリとツバを飲んだ。

行くぞ大猫、その首狩らせてもらう!


来い人間!押し潰してやろう!


 ふたりが一歩踏み込んだ瞬間、戦いが始まる!



 BOSS



 オーリントールとガンドゥの戦いは、見る限り平行戦を辿っていた。


罠が邪魔だな……!

邪魔になるように置いてるからな!


 だが、罠や隠し武器を使い、オーリントールはジワジワとガンドゥを追い詰めていく。

 遂に、アマカドとイスルギの戦いはアマカド優勢で決着がつきつつあった。



あなた、間合い取るのが下手くそねえ。だから飛び道具一辺倒なの?


 大太刀であらゆる武器を叩き落としたアマカドは、そう言ってイスルギを見下ろす。


  イスルギ  

うるさいッ……裏切り者のくせに!

心外ねえ、こっちのほうが自由にやれるから鞍替えしただけよ。


 彼女はそう言うと、ゆっくりと剣を構えながら笑う。

ぐあっ……!


 悲痛な声に君が思わず振り向くと、オーリントールが彼に剣を振り下ろそろとしている!

もらったァ!

覚悟しなさい。


 そして、アマカドはイスルギに対し無慈悲な剣を走らせようと、刀に手をかける……。


 君は迷った。

 命のやり取りを、止めるべきかどうか。

 そう、君は目の前で繰り広げられている血戦の“どちらを止めるべきか”を迷ったのだ。


 その時!

 迷いに足を止めた君の脇を、赤と蒼の風が強く吹き抜けた!


相変わらずの抜き打ちだな、アマカド。

 気付いた時には、アマカドの一閃は巨大な剣に止められ……。

私のペットに手ぇ出してんじゃないわよ!!このクズ鉄!

 オーリントールの剣は、鞭に絡め取られ動きを封じられている!


久しいなリヴェータ。少し身長が伸びたか?

アンタは相変わらずうるさいわねルドヴィカ。そんなんだから胸も成長しないのよ。

それは戦いに必要の無いムダな成長だろう?


 リヴェータ 

じゃあ私の勝ちね、何の成長もないアンタと比べて、私の身長が伸びたのは本当だもの。


 互いに互いを嘲笑しながら、ふたりは説く睨み合う。

 その緊張を先に解いたのは、ルドヴィカの方だった。

………ふっ、まあいい。帰るぞオーリントール、イスルギ。

ちょっと待ちなさいよ、逃がすとでも思ってんの?

逃げる?何を言っているリヴェータ。私は今“帰る”と言ったのだ。ただの散歩からな。

 ルドヴィカはそう言うと、ゆっくりと皆の中心を歩いて去ろうとする。

 そしてルドヴィカは、君の隣に来ると、足を止めて優しくつぶやいた。


魔法使い、さっきは迷ってくれて助かったぞ。

お陰で、有能な部下をやられずに済んだ。

フフ……私は本当に本当に感謝しているぞ。

ありがとう、本当にありがとう、魔法使い。

ククク……ハハハ………



 圧倒的な威圧感と、格の違い。


 たったそれだけで、君はルドヴィカをまっすぐ見ることすら出来ず……。

 傷だらけのまま、君は白銀の鎧を見送った……。


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story4 凛眼級 いつかくる最後へ



魔法使い、アンタに話があるんだけど。


 ルドヴィカとの遭遇から数日後。

 落ち込み気味の君に、リヴェータが声をかけた。


 彼女は君の隣にドッカと座ると、足元の草をブチブチと千切りながら言う。


アンタ、あの時……こないだガンドゥがやられそうになってた時、なんで迷ったの?


 突然の質問に、君は答えに窮してしまう。

 それを無視して、彼女は言葉を続けた。


私は味方“敵”と“味方”を天秤にかけるような奴は信用出来ない。

敵は倒す、味方は守る、それをアンタは飲み込めないワケ?


 何も言えず、君はリヴェータから目をそらした。

 あの時迷った理由は、敵とか味方とか、きっとそれだけではない。

 特にアマカドとイスルギは、何か確執がある。話をすればきっと……。


 と、君がそこまで口にした時。突然胸ぐらを掴まれ、君は地面に押し倒された。

 君を見下ろす彼女の左目は、燃えるような怒りの色をしている。

戦場でお話ししましょうとかヌルい事言ってんじゃないわよ……!!

 彼女の片目から、燐光が吹き上がる。

昨日まで楽しくお話ししてた奴に銃を向けられたことがあんの?

笑って食事をしていた家族に矢を射られたことは?

姉と信頼していた人間に剣を向けられたことは!?何もかも奪われたことは!?

アンタはそんな時、どうすんのよ!?奪われっ放しでいいわけ!?


 彼女の口から紡がれるのは、深く、純粋で、切実な叫びだった。


 君には当然、彼女の言うような体験をしたことがない。

 だからこそ、君はもう一度言った。


 わからない、と。


……アンタはそこで堂々巡りしてればいいわ。私は前に進む。

……どことなりと好きに歩けばいい。もうアンタは自由よ。

 吐き捨てるようにそう言うと、リヴェータは森の中へと歩き去ってしまった。

…………


 いつも彼女の後をついて歩いているジミーが、君をじっと見下ろしている。

 このままでいいのか、と彼の目が言っていた。良いはずがない、と君は思う。


 それなら、どうすれば良いのか。君は一度自分が口にしようとした言葉を思い返す。

 話をすればきっと、互いの距難を縮めることができるはず。

…………



 君に背を向け歩き出すジミーの後を、君は慌てて追いかけた。

 リヴェータと話をするために。



 ***



 リヴェータの陣営近く、君たちが打ち捨てられた砦へと足を伸ばした時……。

…………!

 武器と武器のかち合う音を聞いて、君とジミーは同時に走り出した。

 戦っている誰かはあまり遠くには居ないだろうと君は思う。

 なぜなら……。

やめろっつってんのかわかんないのアンタら!いい加減に――

 そんなリヴェータの声が、すぐそこまで聞こえてきていたからだった。

急ぐにゃ!そんなに離れた場所じゃないにゃ!

 ウィズの声に急かされ、君とジミーの足は早くなる。

 そして、少し開けた森の中に現れたのは……。


だから、いっぺん話し合えって言ってんでしょ!?なんでわかんないのよ!

私は戦う気がなくても、彼女にはあるみたいですよ……!

 以前と完全に優劣の入れ替わった、イスルギとアマカドの姿だった。

 アマカドは肩で息をしているにも関わらず、イスルギは息ひとつ乱していない。

 そのすぐ近くには、顔をくしゃくしゃにしているリヴェータが居る。

アマカド!リヴェータ!無事かにゃ!?

イスルギは……“眼”の力の影響を受けてるわ。おそらくはルドヴィカ以外の………

 少しでも間合いに入れば、きっとイスルギは攻撃を仕掛けてくるだろう。

 悔しそうに爪を噛みながら、リヴェータは様子のおかしいイスルギを睨む。

 アマカドは何度も何度も剣を振った。だが、その剣は一度としてイスルギに届かない。

 おおよそ人間の腕力を越えた力で、イスルギはアマカドの剣を次々に弾き返していた。


  ???   

なるほど、ギルベイン殿の烈眼にもなかなか使い道があるようだな。


 突如聞こえた声に振り返ると、そこには槍を持った騎士の姿があった。

 戦い続けるイスルギとアマカドを無視して、騎士は君たちを見下ろしながら言う。


久しいな、ジミー。無口なのは相変わらずか?

…………!

ヤーボ!?なんであんたがここに!

フン、貴様らに語る言葉は既に無い……さて、とはいえそろそろ邪魔だな。

それに我が手を汚すのも一興。相手をしてやろう、かかってくるがいい。


 顔色ひとつ変えぬまま、ヤーボは手にした槍を構え直した。

 背後にはアマカドを気絶させたイスルギが近づいてきている。

こんなところで……!!


 ふと、君はリヴェータを裏切った人間の中にヤーボという名前があったことを思い出す。


 次の瞬間、深い恨みの色に染まるリヴェーダの眼を見て、君の心に憤怒の炎が燃え上がった。

 この人間たちを許すわけにはいかない。そんな気持ちが胸の中央で渦を巻く。


 逃げ場はもとより無い。戦いが始まる……!




BOSS ヤーボ&イスルギ



なかなかやる。だが、ここまでのようだな。

くっ……!


 戦いが幾分落ち着いた時、そこには絶望的な光景が広がっていた。

う………

がはっ………


 倒れているジミーとアマカド、そして君も体中大小の傷を大量に負っていた。

 戦うには、傷が大きく、多すぎる。また、それはリヴェータも同じ。

イスルギにはギルベインの烈眼、俺にはルドヴィカ様の凛眼………

このふたつの覇眼を相手にして、貴様達はよく戦ったよ。


 対するイスルギとヤーボは、いくら攻撃を加えても倒れる気配がなかった。

 おそらく、ヤーボの言う覇眼が彼らに力を与えているのだろう。


 彼らは落ち着き払った表情と眼の色で、君たちを憐れむように見下ろしていた。

それにしてもリヴェータ、お前はまだ覇眼を完全に使いこなせないのか?

それは……!!

 ヤーボの言葉に、リヴェータは侮しそうに唇を噛む。

リヴェーダも、覇眼を使うことが出来るにゃ……?

本来ならばな。何がキッカケでこのような中途半端な状況になっているのか解らんが。

 覇眼、という言葉で、君はひとつ思い出すことがある。

 少し前に彼女の眼から吹き出した燐光――あれがヤーボの言う覇眼なのだろうか。

 その答えを口にしないまま、彼は槍を振るとイスルギを連れ君たちに背を向けた。

……5日後。貴様達の陣営にルドヴィカ様がお出でになる。

それまでに、自分の身の振り方を考えておけ、リヴェータ。

くっ……!


 リヴェータは、うつむいたまま何も言わない。

 返事が無いのを確認し、ヤーボはイスルギを連れその場を立ち去った。



 しばらくの間を置いて、リヴェータは小さな声で言う。

……魔法使い。わかったでしょ、話なんて何の役にも立たないのよ。

家の暖炉の暖かさや、街のにぎわい、村の陽気な喧嘩も、全部私達は手に入れられない。

小さいころ夢見た場所も、その中身も、何かする前に消えちゃったわ。

……だから、アンタがさっき言ってた言葉は、全部甘っちょろい戯言なの。


 彼女の言葉に、でも、と君は返す。

 だが、その先の言葉が出てこない。

 上滑りする綺麗な言葉だけを並べただけの言葉では……。

 リヴェータの心に、君の気持ちは届かない。


季節がいくつ変わっても、私達の心にはいつも冬があるのよ。

来るはずのない春を待ち続けるだけの、冬が。


 苦笑混じりのボロボロの表情で、リヴェータは君に言った。

 ひとすじの、涙を流しながら。


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決戦前



……ついに来たか、この日が。


 ガンドゥの上に座り水を飲みながら、ゲルデハイラは空に向かってつぶやく。

 ガンドゥはというと、砲弾を猫のように前足で弄んでいた。


ルトヴィカ来襲前日に奇襲をかけるとは、リヴェーダらしいといえばリヴェーダらしい。


……それよりも、勝つ見込みはあるのかしら。


…………


 包帯だらけのアマカドに睨まれ、ジミーはふっと目を伏せる。

 ふの時ヤーボとイスルギに徹底的に敗北した彼にとって、その質問は酷というものだった。


 だが、ジミーの目は死んでいない。

 次は勝つ、そういった気合が彼の目にありありと宿っていた。



 ヤーボがリヴェータたちに言った、5日後の期限は、明日。

 決戦を目前に控え、リヴェータは傭兵団たちを集め演説を行っていた。



行くわよ、ハーツ・オブ・クイーン!!

お前たちは私の心臓だ、手足だ、武器だ!!

敵から逃げることは絶対に許さないわ!!

前進せよ、ただ私だけのために!!


おおおおおおお!!!!


 兵士たちはそれぞれに武器を掲げ、戦いの始まりを各々の胸に刻む。

 だが、君の胸には数日前からの様々な思いが渦を巻いていた。


 命のやり取りをしなけれぱならない、という重い宿命……。

 言葉というものの頼りなさ……そして、リヴェータとルドヴィカの関係。

 自分の至らない点が次々と浮き彫りになっていく現実に、君は気力を失いかけていた。



……アンタ、なんて顔してんのよ。


 落ち込みかけた君の肩に、リヴェータが無遠慮に寄りかかる。

 別に、と君は返し、足元のウィズを抱きかかえた。


はぁ……アンタさ、ちょっと前のことで落ち込んでんなら、やめてよね?

元に戻らない二人を嘆くより、腹立つアイツを殴りに行く方が気分としては良いのよ。


 そう言うと、リヴェータはニッと明るい笑顔を浮かべる。


リヴェータは悩んだり、落ち込んだりしないのかにゃ?


 ウィズにそう聞かれると、リヴェータはにっこりと笑って言った。


人並みに悩むことが出来る人生なら、もう少し私も悩んだかもね。

今自分がどこにいるかなんてわかりゃしないし、歩くより走るほうがいいってだけよ。


生き急いでるにゃ。そんなんじゃ疲れちゃわないかにゃ?

それにリヴェータはルドヴィカとは昔、仲が良かったにゃ?何か起きたんだにゃ?


 リヴェータは『ルドヴィカ』という単語に一瞬ムッとすると、不機嫌に言葉を続ける。


……ルドヴィカはね、血の緊がらない姉って感じだったのよ。

それに、生き急いでるつもりなんてないわ。置いていかれたら死ぬから走ってんのよ。

……だから、アンタも全力でついてきなさい。置いて行かれたくなければね!



 かつて姉妹のように慕いあった二人を、ここまで引き裂いた事件とは何なのだろうか。

 リヴェータの言うとおり、悩む事が出来さえすれば、彼女は変わったのだろうか。


 だが、そんな終わってしまった可能性の先に、今がある。

 そして今、その可能性の集大成となる戦いが始まろうとしていた……!


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最終話 煌眼級 心に宿る氷と炎



 幾つもの戦いを乗り越え、君とウィズ、ジミーの3人は砦の最奥へと辿り着いた。

 他の仲間の安否はわからない。恐らく、砦の内外で未だ戦っている最中だろう。

 最後の扉をくぐり抜けた、その先では……。



……さて、いよいよ俺の出番というところか。

ギンガ・カノンに連なる、覇眼の末裔が一人、ギルベイン・ルガ

同じく、覇眼の末爾ルドヴィカ・ロアに仕えし戦士、ヤーボ・ブラックモア


 巨大な剣を持った騎士とヤーボが、君たちの前を塞いでいた。

 ルドヴィカの姿は、無い。


……ルドヴィカはどこにゃ。

さあ、知らんな。我が弟子ながら奴は気まぐれでな。

 男は片目を簿く閉じ、敵意に満ちた視線を君たちへとまっすぐに向けている。

 ジミーはすっ、と君の視界を遮るように前へと出た。

ジミー、つくづく貴様も救われないな。

戦いの才能も無く、技術も未熟、見ていて滑稽だ。

ギルベイン様、早くコイツらを仕留めてルドヴィカ様に追い付きましょう。時間がない。

……そうだな。

 ギルベインはヤーボに返事を返すと、ゆっくりと立ち上がり……。

 両目を、見聞いた。

 瞬間、君の体の中を、得体の知れない何かが突き抜ける!

にゃっ!?

 何かを、誰かを壊したくてたまらない、強烈な欲求と衝動……。

 他に何も考えることが出来ない。

 ただ、何かを壊したくて、たまらない……!!

…………!?

何を慌てている、ジミー。俺は見ただけだぞ、ただ、この目でな。

これが我が覇眼「烈眼」。見た者の心を、破壊衝動によって裂く力。

ジミー、貴様が降伏するというのなら、この魔法使いは助けてやろう。

……さあ、どうする?

 沸騰しそうな意識の中、悲痛な表情のジミーに対し、君は必死に首を横に振る。

 ただの流れ者である自分なら、まだリヴェータが受ける心の傷は浅いだろう。だから君は言う。

 自分を見捨てて、戦え、と。

無理だ……俺は、出来ない……!!

 君は聞く。なぜ、と。

 ギシギシと歪む君の視界の端で、ジミーは必死に君の手を握った。

仲間を裏切ったら……捨てちまったら……

俺は、ルドヴィカと同じだ………だから俺は……お前を諦められない……!!

「ジミー!よく言ったわ!」

 高く、大きく、聞き慣れたよく通る声が聞こえた。

 ギルベインによって鷲掴みにされていた君の心は、その瞬間に自由を取り戻す!

 その言葉と同時に、君は自分の闘志が燃え上がるのを感じた!

 背中に突き刺さる煌く視線、その主は……!

リヴェータ様……!!

泣いてんじゃないわよジミー、アンタそんなんだからかき氷に負けんのよ。

 そんなやり取りをしている君たちへ向けて、ギルベインはギリリと歯噛みをした。

リヴェータ……それが貴様の「覇眼」か。

ええ。アンタの眼なんかよりもよっぽど上等よ?

もう少しで上手くいったものを……邪魔をしおって。


 彼は続けて右目で君たちをひと睨みすると、携えた剣を勢い良く肩に担ぐ。

 君たちの間に横たわる緊張が、ぎりぎりと音を立てて張り詰めた。


覇眼の末裔、リヴェータ・イレに仕えし戦士、ジミー・デヴィス


 ジミーが剣を構えるとともに、君も魔力を込めたカードを手にする。

もうアンタ達は振り向かなくて良い……アンタ達の背中は、私が守る。

だからアンタ達は前だけ見てなさい!前進せよ!ただ私だけのために!


 ***

 BOSS ギルベイン

 ***


貴様たちは……これで平和が訪れるとでも思うのか……?

 戦いを終えたギルベインは、リヴェータに聞く。悲しく、冷たく、寂しい眼をして。

 そこにはもう、騎士としてのギルベインは居なかった。

軍旗がほどかれ、都市の城門が内側から開く世界があるとでも……?

戦って戦って、戦い尽くしたその先にこそ、春があるとでもいうのか……?


 傷つき膝をついた男の言葉には、虚しい響きが漂っている。

 ふと、君はリヴェータの言葉を思い出した。


『季節がいくら変わっても、私達の心にはいつも冬があるのよ。

 来るはずの無い春を待ち続けるだけの、冬が。』


 そこにはただ、冬の寒さに凍えているだけの、男の姿があった。


 君はふと、ジミーを見る。

 彼の表情はギルベインと同じく、暗く複雑なものだった。

聞かせてくれリヴェータ。ルドヴィカを討った先に、貴様は一体何を――

そういうのいいから。

は?

 君とギルベインは同時にその言葉を発する。

 ギルベインの質問を心底面倒くさいと言わんばかりに、リヴェーダは軽くあしらった。

先とか未来とか春とか冬とかそういうのどうでもいいのよ。

私はね、正気を失ってどっかに行った腹立つアイツを殴りに行く。それだけよ。

ねえ、ジミー。


 ジミーは何も言わず、ただ満面の笑みで頷いた。



 ***



 戦いが終わり、空は既に暗く、漆黒の闇と火の手があらゆる場を支配している。

 空には薄く小さな星が輝き始めていた。

……戦いばかりでも、空は綺麗だにゃ。

そうね、星はいつも綺麗。……ちょっと羨ましいくらいに。

ルドヴィカ……。


 空に光る青い巨星を見て、リヴェータはつぶやき、君はその視線の先を追う。



 体中にどっしりとのしかかる疲労に落ちていくように……。

 君は、意識を失っていった……。



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エピローグ



 ビキビキと体中の筋肉が痛むのを感じて、君は目を覚ました。


 首をひねりながら体を起こすと、そこは旅の始まりと同じ、巨大な壁画の前。


「……長い旅だった気もするけど、すごく短かった気もするにゃ。」

 同じように疲れきった顔をしているウィズの隣に座りながら、君は壁画を見上げる。


 壁画の中では、相変わらずリヴェータとルドヴィカが視線を交わし、争い合っている。


 君の旅は何の前触れもなく、唐突に終わってしまった。

 始まった時と、全く同じように。



「リヴェータに、春はやってきたのかにゃ?」

 さあ、どうだろう、と君は返し、古い壁画にあるリヴェータの姿をそっと撫でた。


「……またきっと会えるにゃ。運が良ければ、きっと。」

 ニッ、と笑うウィズに君は苦笑を返す。



 ウィズに見透かされていたのかはわからないが……。

 君は願わくば、もう一度リヴェータに会いたい――否、一緒に戦いたいと思っていた。


 それはきっと、君の胸の中に、リヴェータから貰った“闘志の炎”が……。

 まだ、煌々と燃え盛っていたから。


 いつか、また会えることを信じて。


 君はウィズと一緒に、古く大きな壁面を後にした。



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