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覇眼戦線Ⅱ Story【黒猫のウィズ】

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2016/4/13 ~ 5/16

前回 覇眼戦線Ⅰ 2014/01/14


目次



プロローグ

Story1 燃え盛る戦場

Story2 凛眼と昏眼の解逅

Story3 敵を打ち倒すため

Story4 右眼の覇眼

Story5 煌眼は、蒼を追う

Story6 狂気を宿した者

Story7 凛眼は、朱を待つ


後編




story0 プロローグ




「いつ見ても立派な壁画にゃ。」


君とウィズは、街から遠くない場所にある壁画を見上げていた。

ギルドからの依頼を終えて、たまたま立ち寄ったこの場所は、どこか懐かしい、激闘の日々を思い出させた。


「……あれは大変だったにゃ。」

そうだね、と君は言う。

だけど心に宿した闘志の炎を、君は忘れることが出来ずにいた。


「リヴェータたちは元気にしてるかにゃ。」

どうだろう?そうだといいね、と君は返した。

「また行きたいと思ってるのかにゃ?」

君は苦笑する。行きたいと思って行ける場所ではない。

「貴重な壁画にゃ。むやみに触っちゃダメにゃ。」

君はついその壁画に手を添えてしまった。

すると、そこに描かれた女性の瞳が、強く赤い色を宿した。

「にゃ……!?」


途端に視界が眩い光に覆われ、やがて何も見えなくなってしまった。


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story1



「……ここはどこにゃ?」


君はかぶりを振る。

突然の出来事に、まだ状況を整理できていない。



轟々と音を立て燃え盛る村。

断末魔の叫び声。悲鳴。

熱気に当てられたような咆哮。


ここは間違いなく戦場だ。

だが記憶を辿っても、この場所に覚えはない。


「……戦いに巻き込まれる前にここから離れるにゃ。」



 ***



……ここには、何故か村人の気配がない。

あるのは兵と兵……いや村人がいたとして、助かることはないだろう。

それほどまでに、ここには血の匂いが漂っていた。


「キミ! 伏せるにゃ!!」


思いがけない師の言葉に、君は咄嗟に反応して身を屈める。

風を切り伏せるような音とともに、“君が先ほどまでいた”ところに巨剣が奔った。

首を落とさんとする刃の軌道は、ウィズの言葉のおかげで空を切る。



「…………。」


ひとりの女性が、君を冷たく見下ろしている。


君は起き上がってカードを取り出し、力を込めていく。

戦うつもりはさらさらなかった。

ここがどこかもわからないから、距離を置いて状況を肥握するつもりだった。

だが君の本能が告げていた。

強いか弱いかもわからない眼前の女性――これは本当に“まずい”敵なのだ、と。


「――魔法。」

君の行動、そして魔力を感じ取ったのか、その女性は小さくそう漏らした。


「キミ、距離を開けなきゃ分が悪いにゃ。」

ウィズの言葉を聞き、君は頷く。

目眩まし程度にでもなれば、と魔法を相手に向けて放つが――



「ふっ、児戯か。“今は人が魔法を使うのだな”。」

女性は、躱すことなく真っ直ぐに進み、剣の一振りで“魔法を斬り伏せてしまった”。


力を込めた魔法が斬られ霧散したのを見て、君は背筋を凍らせる。

「――逃げるにゃ! 距離を置いて態勢を立て直さないと、戦えないにゃ!」

一も二もなく首肯する。


戦うことを一切放棄して逃げに徹すれば、この混沌とした戦場だ、無理なく離れられるだろう。

君は覚悟を決めて、敵に背を向けて走りだした。



 ***



君は背後を確認した。


追ってきていない……

ウィズとふたりで、ほっと胸を撫で下ろす。

あの時、背後に立たれたことさえ気づかなかった。


「……いったいアレは何だったにゃ?」

君はそんな疑問を抱きながら、歩き続けた。


「キミ、気づいてるかにゃ?」

何に?と問いかける。

「この雰囲気……それと重々しい空気。ここは間違いなく――」



「あら。」


声は突然、何の前触れもなく訪れた。



 リヴェータ  

「魔法使いとウィズちゃんじゃない。あんたたち、こんなところで何をしているのよ。」


  ウィズ   

「リヴェータにゃ。」


君は目を見張った。

リヴェータだけではない。



そこには、ジミーもアマカドもゲルデハイラもガンドゥも……みんながいる。



 ゲルデハイラ 

「久しいのぅ、魔法使い。何じゃ、また弾除けにでもなってくれるのか?」


  ガンドゥ  

「おお、魔法使い。黒猫。また会えて、ガンドゥは嬉しいぞ。」


  アマカド  

「ふふ、戻ってきたのね、あなた。」


  ジミー   

「…………」

ジミーは君をじっと見据え、やがて小さく頷いた。



「どこ行ってたのよ、全く。わざわざ兵を使って探したのよ。いきなり帰ってきて何のつもり?」

リヴェータを前にして、君はごめん、と返す。

「謝ってんじゃないわよ。別に責めてるわけじゃないんだから。」


「リヴェータの心中も察してやってくれんかの。

魔法使いがいなくなってから誰かに捕らえられたか、はぐれてしまったか、悩んでたぐらいじゃからの。」

「余計なこと言ってんじゃないわよ、ゲルデハイラ!」


懐かしい面々を見て、君は少し気が緩んだ。


「ガンドゥたちはな、グラン・ファランクスを追っていたんだ。」

「グラン・ファランクスは、出兵を終えて城へ戻ろうとしていたのじゃが、漆黒の兵団の強襲を受けたようじゃ。」

「それがあったせいか、騎士団は進路を変えたみたい。」

漆黒の兵団……聞き覚えのない言葉に、君はつい首を傾げた。


「異形異質の兵団をそう呼んでいるのよ。言っていて馬鹿馬鹿しくなるわ。

とにかくそれを見て、横合いから殴りつけようと思ったんだけど、漆黒の兵団に妨害されて戦いになったってわけ。」


グラン・ファランクスと漆黒の兵団の衝突を知ったのは偶然だったが、割り込んでやろろとしたらしい。

理由はさておき漆黒の兵団は、ハーツ・オブ・クイーンも敵と認識していた。


「仕方ないからそれと戦ってたら、あんたが走ってきたのよ。

でもちょうどいいわ。魔法使い、あんた戻ってきたなら手伝いなさい。」


そんなつもりでここに来たわけでは、と君は伝えようとしたが……



「さあ、行くわよ、ハーツ・オブ・クイーン! 敵の首級をあげたら、褒美を上げるわ!」

そんな間もなく、君はゲルデハイララが従える獣に乗せられてしまった。


グラン・ファランクス騎士団とは、遠からず当たると考えていたようだ。

それは既に逃れ得ない運命めいたものである、と移動のさなか、ゲルデハイラが語ってくれた。

事実、リヴェータ、ルドヴィカを筆頭に、お互い兵の士気は高く争いを待ちわびている者までいるらしい。


しかし、漆黒の兵団の存在がそれを許さない。

グラン・ファランクスの行く先々に現れ、妨害を続ける異形の集団。


さしものルドヴィカも手を焼いている、とリヴェータが笑いながら笑っていた。



「魔法使い、お前がギルベインを倒したことで、俺たちがかの騎士団に敵と認識されたのは間違いない。」

「まあ、ね。グラン・ファランクスもまた、私たちのことを狙っているのは確かだけど。」

漆累の兵団がそうはさせてくれない……。


「しかし不思議じゃのう。お前という異質な者がおると、何かが起きる気がしてならん。」

「ガンドゥたちは戦うだけだ。」

「そう。それがわかりやすいですね。ふふ。」


「……大変なところに来ちゃったにゃ。」

君もウィズと同じ思いを抱いていた。


「グラン・ファランクスを追うわよ!」

指揮官の言葉に呼応して、兵は大きな声をあげる。


ここまで来て、退くことはできないようだ。


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story2



アシュタル・ラドは、セリアル、そしてルミアと旅を続けていた。


 アシュタル 

「今日は、やけに暑いな……。」


 セリアル  

「そうさな。もう夏も終わりだというのに。」


「馬のひとつでも買っておくべきだったか?」

「そんな金があるのならな。全くお前は、甲斐性がないにも程がある。」

「そんなもの何の役に立つんだ。」

アシュタルは、理解できないといった顔で、肩を竦める。


どこへ行っても、どこに隠れても、争いが絶えない世界だ。

逃げ道がないのだから当然、甲斐性などというものがあったところで、飯の種になるわけもなかった。


  ルミア  

「……アシュタル、あれ見て。」

小さな少女――ルミアが口を開く。


「騎馬だな。それも比較的でかい部隊だ。」


3人の前方から蹄の音が聞こえてくる。

急速に近づいてくるそれは、まるで何かから逃げているようにも思えた。


「こんなところにいたら危ないよ。踏まれちゃう。」

「ま、そうだな。馬を斬るわけにもいかない。」

「馬鹿を言ってないで道を譲ってやれ。よほど急いでいると見える。」


「うん。でもあれ……。」

素直に頷きはしたが、ルミアはまだそこに立ったままだ。

そして、その先陣を奔る者を指差した。

「……こいつは、運がいい。」


「何をやってるんだ、お前たちは。退け。

お前たちふたりは、命を軽んじるきらいがある。いいか? 命というのは幾つもあるものでは――」

「セリアル、静かに。」


騎兵が、徐々に近づいてくる。

やがてそれは眼前にまで迫ってきて――


「止まれ。」

先頭を走っていた女の一声で、停止した。



 ルドヴィカ 

「…………私は夢でも見ているのか。それとも亡霊か?」

騎乗の主は、馬から降りることなく、アシュタルを見下ろしていた。


  ヤーボ  

「ルドヴィカ様、止まっている暇はありません。」


ルドヴィカの隣に並ぶ男が、彼女を諌める。


「今、我が拠点にはギルベイン以下、騎士団の精鋭が控えてはおりますが……。

先の戦いでの負傷者も多く、帰陣し拠点を知られるのはリスクが大きい。

ここは漆黒の兵団と距離を保ち、時が来たところで討たねばならず――。」


だがルドヴィカはそんな男の言葉を手で制し、再び口を開いた。




 ルドヴィカ 

「貴様、こんなところで何をしている。」


 アシュタル 

「久しいな、ルドヴィカ。息災で何よりだ。」


亡霊などという皮肉を受け流し、アシュタルは甘く涼しげに微笑する。

おどけた風情でありながら、決して眼を合わせようとしない。

覇眼を知るものであるからこその行動であった。


「お仲間の諌言を無視して、亡霊と話している暇はあるのか?」

「訊いているのは私だ。貴様、無垢な子どもと亜人を連れ何をしている。

……いいや、何を企んでいる?」


「無垢だなんて酷い言われようだ。

ガキの遊びで騎士団などと謳うお前らよりは、聡明な子だ。なぁ? ルミア。」

「……知らない。」



ルミアは表情を崩さず、ルドヴィカ以下、数名の兵を見やった。

これだけの騎兵がいるというのに、恐れることなく堂々としている。

対照的に、驚きにほんの一瞬、表情を歪めたのはルドヴィカだった。


「ルミア……ルミアだと?」

「どうした、ルドヴィカ。お前、仮面が剥がれかかっているぞ。」

「……ミツィオラの娘か。」


ルドヴィカは、あの日の暑い夜を思い出したのかもしれない。

ほんの数瞬、ルミアに向いた意識を、無理やりアシュタルヘ戻した。


「ああ……覚えていたか、ルドヴィカ。

そうだ。あの日、カンナブルで死んだミツィオラ・スアの娘だ。」

「…………。」


ルドヴィカが瞠目し、そして静かに呟く。

「……そうか。ミツィオラは死んだのか。

だとするなら、ますますここでお前を見逃すわけにはいかなくなったな、アシュタル。

返答如何によっては、殺さねばならん。」

「ははは、底が知れるぞ、ルドヴィカ。イレの当主のように俺を殺すだと?」

「アシュタル。無駄な争いを起こそうとするな。」

「言え。貴様は――スアの娘と亜人を連れて、何を企み、何をしようとしている?」


ついさっきのように肩を竦めたアシュタルは、

グラン・ファランクスの騎兵でさえも身震いするような冷たい顔で言った。



「俺は、ゲーを……。

イリシオス・ゲーを殺しに来た。」



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story



グラン・ファランクス騎士団が撤退する音が聞こえ、やがて遠ざかっていく。

戦場は見るも無残なもので、ゲルデハイラが廃村であったと言っていたが、かつて人が住んでいた面影すらない。


 リヴェータ  

「ふん、情けないわね、ルドヴィカ。」


 ゲルデハイラ 

「グラン・ファランクスが、漆黒の兵団に手を焼いているのは確かじゃが、困ったことになった。」


  アマカド  

「どうしたの? いい気味じゃない。」


 ゲルデハイラ 

「逃げられては追いつくのも容易ではない。

なにせ統率のとれた騎士団じゃからの。うちのような傭兵団じゃ限界もあろう。」


 リヴェータ  

「何言ってんのよ、ゲルデハイラ。追いつくに決まってるじゃない。絶対に。

いい?お前たち。グラン・ファランクスは逃さないわよ! 追いつき打ち倒すまで前進しなさい!」


 ガンドゥ  

「無茶を言うな、うちの指揮官は……。」




君には気がかりがあった。

「……漆黒の兵団のことを考えてるにゃ?」

ゲルデハイラをして、不気味と言わせる集団。

生きたものではない走狗や異形が、覇眼を狙っている……ということだけは、どうやらわかっているようだった。


「…………。」

ジミーが君の肩に手を置いた。


「死の気配を残しながら、グラン・ファランクスを追う兵団……やっぱり気になるにゃ。」

その意図を察したのか、ウィズが言った。



「何を弱気な顔をしてんのよ、魔法使い。

グラン・ファランクスに追いついて、ルドヴィカをぶん殴る。

こんだけ目的が明確化されているんだから、あとはわかるわね?」


漆黒の兵団を倒しながら進むということ。

だがグラン・ファランクスは強い。追いついたからといって、果たして勝てるのか。


「なに心配は不要じゃ、魔法使い。」

「そ。グラン・ファランクスは敵なしと言われるほど強いけど……。」

「あんたがいない間、私たちがただ黙って指を咥えながら見てるだけだと思ってたわけ?」



先の戦闘を見ても、十分理解していた。

そう、君たちがこの異界から去り、再び戻ってくるまでの間に、彼女たちも大きく成長していた。

たとえ名を轟かせる怪物が相手だろうと、引けをとらないほどに。


「今度こそ――見てなさい、ルドヴィカ。」

リヴェータの持つ覇眼が、煌々と力強さを宿している。


 ***


指揮杖を持ち上げたリヴェータが、先を促す。

蹄の跡が、グラン・ファランクスが近いことを示していた。

もう背中が見えてくることだろう。


「届くわよ、ルドヴィカ……ッ!!」


ゲルデハイラと共に獣に乗った君は、一抹の不安を抱いていた。

覇眼という力。ルドヴィカが持つ眼。あれは人が持っていていいものではない、と。

煌眼という力があるとはいえ、やはりルドヴィカと正面からぶつかるのは、あまりにもリスクが大きい。


「進みなさい!あの連中に届くまで!」

リヴェータが軍の士気を高めていく。

その最中――。


「何の音じゃ?」

君の不安を膨れ上がらせるような轟音が、背後から不意に訪れた。



「敵軍だッ!!』と叫んだのは誰だったか、

それらはハーツ・オブ・クイーンの兵を蹴散らし、一点を狙ってきていた。


大地をどよもして迫り来るは、軍勢。

闇をつき、圧倒的な物量で押し寄せる敵は、間違いなくリヴェータを狙っている。


「退け、リヴェータ!奴らはお前を狙ってる!」

「だったら退けるわけないじゃない!正面から迎え撃ってやるわ!」

「……激情的すぎるのう。」

君も同じことを思ったが、指揮官が道を示したのなら、従わない訳にはいかない。


「魔法使いも、わかってきた。」

そう、ここで従わなければ、隊列を乱すことになり、士気に影響を与えかねない。

どんな問題を孕んでいるにしろ、リヴェータが戦うと言った以上、退くことは許されない。



「おォ、いるではないかッ!我らの狙いが!」

鎧に身を包んだ巨躯が、先頭にいた。

ハーツ・オブ・クイーンの兵を散らしながら、傲然と速度を増し、ここへ突っ込んでくる。



  メンジャル  

「グラン・ファランクスと衝突する前に、戦力を削っておけ、との命令を受けてなッ!

さァ、益荒男たちよ!狙いはハーツ・オブ・クイーン、女が率いるたかが傭兵だ!蹂躙するぞッ!」


喊声をあげて、怒涛の如く襲いかかってきた。

異様なまでに統率の取れた動き、立ちはだかるかのように前方からも軍が現れる。

間違いなく、待ち伏せされていたと考えていい。


「雇い主からは殺すなと言われちゃいるが、その速さは見過ごせん!

足の一本はもらっていくぞ、イレの娘よッ!」

お腹に響くような声で、男は言う。


「はぁ……あのさ、馬鹿を相手にする暇なんてないってのに。」

「雑魚は疾く失せろ! 向かってくるなら――死を以って遇してやろう!」

「暇はない……だけど、私の前に立ちはだかるなら全部踏み漬す!

足の一本?そんなにほしいなら、あんたの首が落ちる前にとってみなさい!」


哮り立つ声が轟いて、ハーツ・オブ・クイーンと敵軍が激突する。

砲弾が落ち、剣が交わり、無数の蹄が音を立てる。

怒号のような音が、君の体に熱を宿す。


「さあ、攻めるぞ――我らかゲーのために!!」


「行くわよ、魔法使いッ!馬鹿でかい鎧なんて壊してやるわ!」



 ***



「ちィッ……なんて力だ……ッ!」


「話にならないわね。何よ、あんた。」

リヴェータたちと共に、男を打ち倒した君は、大きく息を吐いた。

軍の統率力はともかく、単体ではそう強い相手ではなかった。

奇襲をかけられなければ、相手にすらならない。


「キミ、疲れてないかにゃ?」

君は大丈夫、と返答する。


「女だてらに見上げた奴だ……覇眼はこれほどまでに強大なのか……。」

「見たところ、ルドヴィカとは無関係でしょ、あんた。何をしに来たわけ?」

「……俺は、ゲーに遣わされただけだ。目的なんか知らん。」


「……よりによって、その名前を聞くことになるとはの。」

ゲルデハイラが眉をひそめる。


「カンナブルには、イレ、ロア、ルガ、スア、ゲー、ラド、これらが覇眼持ちとして名が知られておった。」


覇眼を持つ者たち……。


「没落し、怪物だけが息を潜めるラド。和を尊び、多くの信頼を集めるスア。

そしてあの反乱によって崩壊したカンナブルで、特異な立ち位置を守り続けてきたゲーの一族。

かのイレの当主でさえ、忌避していた右眼の覇眼……。」



「私たちがキルベインを倒したから、行動を起こしたってことかしら。」

「ふふ、楽しくなってきたわね。」

「…………。」

ジミーがかぶりを振る。面倒が増えた、と言いたいようだ。


「詳細は知らん。俺はゲーの剣。それだけだ。」

「ふん、何が剣よ。自分で姿を見せない臆病者の剣なんて、たかが知れてるわよ。」


だけど「グラン・ファランクスと衝突する前に、戦力を削っておけというのは、少し気になる。

何故、そんな命令をするのか?――疑問は払拭されない。



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story



燃え盛る村から、強いい死の匂いを感じる。

轟々と音を立て崩れ落ちる家屋。もはや呼吸すらしていない者たち。

だがこの死の匂いは、別のところから発せられていた。

進むたび空気の重みが増し、息苦しささえ覚える。



「……なんだあいつは?」


大剣を背負う女と、そしてそれに背を向けて走り出す奇っ怪な影。

逃げた者は、フードで顔が隠れていた。

見えたのは黒猫を抱えていたところだけ。


「魔法を使ったな……亜人か?」

「む。同種の匂いはしないな。アレは、別のものだ。」

「別もの?馬鹿言え。亜人以外に魔法が使えるか。」

「馬鹿はお前だ、アシュタル。現に使ってたじゃないか、あいつが。」


常識なんて容易に覆される。

争いの最中に身を役じれば、誰だってわかることだ。


「だが運がいい。」

「……アレとやるのか?」



右眼に陥を宿す女性がひとり、こちらの殺気に気づいたようだ。


「……右眼の覇眼。」

「…………。」

「……あんたのことは、よく知っている。」

アシュタルがにやりと笑う。


「数百年前の――亡霊だ。」

「私を知る者………」

「ああ……あんたは、ギンガ・カノン、原初の眼を持つ者だ。そうだろう?」


結果的に、見知らぬ魔法使いらしき者を逃がすため、立ちはだかる形になった。

“だがまあ、いいか。これのほうが都合がいい”


「カノンを殺せば、覇眼の呪いは広がらないんだろ。」

「……殺しさえすれば、な。」


構えた剣の切っ先が、カノンの首へと向いている。

大剣を携えたカノンは、ただ無言でアシュタルを睥睨している。


アシュタル・ラドだ。あんたの名前、その口から聞かせてくれよ。

斬り合いでもまあ、それぐらいの礼儀は弁えるもんだ。」

「……カノン。ギンガ・カノン。それがお前たちを殺す者の名だ。

無論、覚える必要はない。」


「……大した自信だ。俺を殺せると思ってやがる。」

「おいアシュタル。あまり熱くなるな。」


初手は必ず相手より速く。――それはアシュタルの信条だ。

思考で相手を上回れ。より速く動き、確殺の距離を作るために。

殺すために重要なのは、思考の速度だ。

どこまでも加速しろ。右眼に炎を宿す、その女をぶっ殺すために。


「おぉぉぉぉーーッッ!!」

アシュタルは力強く気を吐いた。

沸き立つ血潮が、喰らい甲斐のある敵を見て歓喜に震える。


初手を防がれたことを備え、十の策を巡らせ、それを受け切られたことを想定し、さらに数百の手を考慮する。

そうして振り下ろされた剣が、カノンの首を斬り落とした。――はずだった。


「ちィッ……!!」

手弱女とも呼べるほどの白肌に、剣が沈み込む感触があった。


「退け、アシュタルーー!!」


炎を照り返し、まるで血を宿したような巨剣がアシュタルヘと迫る。

「ぐうッ……!?」

正面から受け止めるも、その勢いを削ぐことはできず、アシュタルは吹き飛ばされてしまう。


「アシュタル……っ!?」


「……ボケが、何してくれてやがる。」

アシュタルは剣を支えに立ち上がる。


「撤退だ! 逃げろ、アシュタル!」

「なに問題ない。この程度なら殺せる。」


その闘志を、眇めるかのような眼差しで受け流したカノンは、息をひとつ吐いた。



「強いな、お前は。」

「大して嬉しくないよ、化け物。」


カノンは再び構えるアシュタルから目を逸らす。剣を構えることすらしていない。

“強い”と称した相手を前にして、これだけ隙を見せるということは、既に彼を敵と認識していないということだ。

それはアシュタルにとって、何よりの屈辱であった。


「強い相手とやるつもりはないんだ。殺さねばならない奴がいるから………

強いのをひとり殺るのは時間がかかる。それに“ひとり殺したところで”、あれは来ない。」

それだけを言い残して、カノンは歩き出す。



追撃し背を狙うなら、今が好機だ。お前の敵は、騎士道に奉じてなどいない。

隙を見せれば斬りつける。逃げるのなら背を追って叩き伏せる。

勝利を手放すのなら、ありがたく頂戴しよう。


「だめ、アシュタル。」

ずるりと身を沈ませたアシュタルに、予期せぬ事態が訪れた。


「私たちには目的がある。それは、ギンガ・カノンを殺すことではない。

すぐ熱くなるのはアシュタルの悪いところ。やるべきことを見失うのはよくない。」

「…………。ああ、悪かったよ……。」


「10以上も離れた子どもに諭されるなんて、お前という男は………」

確かに、アシュタルは強い――セリアルはそう思った。


ほかの覇眼持ちなど相手にならないほどに。

死線を知っていて、殺すことを知っていて、恐れや不安、苦しみをも凌駕した。

あの首をとれる、と言ったのは偽りなき自信と、過ちを犯さない絶対の自負があったからだ。


だが、だからこそ……

彼には踏み止まってもらわねばならない。


「そうさな。手始めに、向こうに行ったルドヴィカを追おう。

あれからは死の匂いがした。」


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story



遠くから噺きが聞こえてきた。


「見えたッ!!」


ついに、グラン・ファランクス騎士団の背中を捉えた。

グラン・ファランクスは、どこかの門を潜り、進んでいく。

言葉には出来ない不安を抱く。


「連中が見えたからには、後は追いつくのみよ!」

ハーツ・オフ・クイーンは、猛然と勢いを増す。


「ここで落とす――必ず落とすわ!!」


指揮官の号令に応え、突進する怒涛の蹄。

その覇気に気圧されながらも、君はしっかりと前を見据える。

まるで取われるように、君たちはその領地へ入り込む。

しかし、そこにあったのは……



「炎の壁にゃ……罠だったにゃ……!」

「む……魔法か……。」


入り込んだ先には炎の壁があり、君たちの退路を塞いでいた。


「ちっ……何なのよ、次から次へと!これじゃあ、先に進めないじゃない!

やがてハーツ・オブ・クイーンの周囲は、炎に包まれていく。


「ははっ、ゲルデハイラ、お前、まだ生きていたのか。」

「厄介な敵が出てきたのう……。」



炎の向こうから、亜人の男が姿を見せる。

アレかこの炎の壁を作ったのだと、誰もが理解した。

このままではグラン・ファランクスと遠く離れてしまう。


  ウラジア  

「嬉しいよ。お前たちを殺せる機会があるなんて。やっぱりゲーについてきて正解だった。」

そこにいたのはゲルデハイラと同程度の外見年齢の青年――亜人であった。


 ゲルデハイラ 

「よりによって、お前とはの……。」

ゲルデハイラが大きく嘆息する。


「エスメラルダのほうがなんぼかマシじゃ。」

「ああ、エスメラルダ……うん、あいつな。」


「殺すのは叶わなかったけど、動けないぐらいにはしておいたぜ。

全くエスメラルダの小娘はよ、亜人の中でエリート?トップクラス?魔法に秀でてる?

馬鹿だよな。結局てめえひとりじゃカスだってことを知らねえ。

挙げ句、ルドヴィカ・ロアのことは何も漏らさなかった。

つまらねえよな。ああ、つまらねえ。だからよ、魔法獣だけ10回ぐらいぶち殺してやったよ。」


「……腐った男だのう。」


「おっと、お前と懐かしむ時間はねえんだ。

俺ァ、ゲーの命令でグラン・ファランクスを先に荒らさにゃならねえんだ。」

そう言って亜人の男は、再び炎の壁を進み、消えていく。


「亜人狩りをする亜人。ウラジアめ。卑怯も卑怯。何でもありの男じゃからのう。」

「ああ、もう。もう一歩なのに!」

「炎の壁を超えるのは容易じゃない。」


「あの炎を消すには、ウラジアを倒すしかないのう。」

「キミ、やってやるにゃ!」


いつまでも、ここで立ち止まっているわけにはいかない。

そうなると、誰かがウラジアを倒さなければいけない。

君は、ウラジアを追う、とリヴェータに伝える。

「あんたが?」

炎を越えて、すぐに倒して戻るから、と君は言う。

魔法で作られた壁なら、こちらも魔法で対抗するしかない。


「魔法使い、お前もなかなか無茶を言うのう。」

ゲルデハイラが獣の背を叩く。

リヴェータたちの本隊から離れ、君はゲルデハイラと共に駆け出した。


 ***


精一杯の気を吐くリヴェータたちだったか、

もはや三竦みの様相を呈している戦場においては、先ほどの戦闘が響き劣勢と言わざるをえない。

こうしてウラジアを追う間にも、じわじわと漆黒の兵団が近づいてきているだろう。

早くあの亜人を倒して魔法を解かなければ……。


対してグラン・ファランクスは、“慣れていた”。

隙あらば敵の背を狙う滑稽さを秘めながら、正面から迎え撃つ力もある。


「その上でウラジアかこっちの戦力を削ろうとしているようじゃな。」

ゲルデハイラの言葉に、君は神妙な表情を浮かべた。

とにかく戦局をこれ以上傾けさせないために、行動し続けなければならない。


 ***



「間に合ったようじゃの。」

「おいおい何しに来たんだ、ゲルデハイラ。」


ウラジアと呼ばれる亜人が、魔法で新たな火を生み出そうとしているとこるに、君たちが割り込んだ。


「……どこまでも腐った男だのう。」

「そりゃそうだろ。馬鹿かてめえ。漆黒の兵団――それがそのまま俺の力になんだよ。歪みもするぜ。

ゲーとあいつらからの借り物だかよ、お前たちを縊り殺すにはうってつけだ。

俺ァな。やりたいことかあんだよ。セリアル……あのバケモンを俺の手でぶち殺してぇんだ。」

「……セリアル、か。」

ゲルデハイラは再び溜息をつく。


「エスメラルダならともかく――お前には無理じゃのう。

あの女を化け物程度だと認識している、お前には……。」

「ククッ、魔法も使えないクソが言うじゃねえか。さあ、お前ら。この馬鹿どもを殺してしまえ。」


言葉に反応し、君たちを囲む漆黒の兵団。

君は咄堤にカードを構え、戦う姿勢をとった。


 ***



「畜生……この劣等種族どもめ……ッ!

あれだけの魔法を受けても、まだウラジアは倒れない。

「この程度で俺を殺せると思ってんのか。

再び火を巻き起こそうと手を挙げるウラジア。


「ばぁか、死ぬのよ、お前は。」


はるか上空から落下してきた何かによって、ウラジアがいた場所に砂煙が巻き起こる。


 ゲルデハイラ 

「な――エスメラルダ……?」


ボロボロのエスメラルダが魔法眼を刊用して、ウラジアを踏み潰した……みたいだ。


  ウラジア  

「てめエ……まだ生きてやかったのか、クソ女……」


 エスメラルダ 

「ああ、ふふっ、不意打ちって超キモチイイわね。

ウラジア、あんたの十八番だと思ってた?油断しすぎよ、クソ男。」


しかしまずいことになった。

いかに傷を負っているとはいえ、相手はあのエスメラルダだ。

ここで足止めされてしまっては……



「ほらお前たち、行くところがあるんでしょ。ウラジアにはちょっと話があるの。

後でいじめてあげるから先に行ってなさい。」

「……む?」

「こいつに借りを返すまで、相手はしていられないの。わかりなさいよ。」

「……行こう、魔法使い。」


道を譲ってくれるのなら――と君は口にした。


持たせている人がいる。

一緒に戦わなければならない人がいる。

君とゲルデハイラは、リヴェータの元へと駆け出す。


 ***


無限とも思えるほどの、無数の兵がハーツ・オブ・クイーンを囲んでいた。

火を起こされ、漆黒の兵団に追い詰められ……

城内へと誘い込まれたような、そんな不安が募る。



「退くんじゃない!絶対に押し切るわよ!」


ハーツ・オブ・クイーンが力の限り敵兵を押しのけていく。

そうして出来上がった道の先に、凛眼があった。


 ***


「ようやく――ようやく追いついたわよ、ルドヴィカァァッ!!」


「しつこい女だ、リヴェータ。」

漆黒の兵団を跳ね除け、確実にルドヴィカヘの距離を詰めていく。

あの時、ギルベインを倒してから、彼女たちは本当に力をつけてきたようだ。


「間の悪い女だ。こちらには先約がある。――殺してやるから後にしろ。」

不遜極まりない態度ではあるが、しかしそれは一切の虚声ない凛烈なる姿であった。

その瞳は冷たく、だが確実な熱をもってリヴェータを譚睨している。


やがて多くの兵が群がり、乱戦へと雪崩れ込む。

けれどリヴェータもまた、ルドヴィカがいるほうを向いて目を逸らさない。


「追いつけたことは褒めてやる。だが、私が殺すまでもなく死ぬんじゃないか?」



「大剣振り回して物騒極まりないのよ、あの馬鹿女。

血の匂いを撒き散らしてたら、ジミーでも追いつけるわよ。……どこまでも馬鹿にして。」

リヴェータは苛立ち混じりに吐き捨てる。

「殺してやる? 冗談じゃない。シラケること言ってんじゃないわよ。私がぶっ飛ばす――これはそういう戦いよ!」


「熱を上げるのはいいけど、周りが見えなくならないように注意するにゃ。」

君もそうだよ、と口にする。

多くの仲間が守ってくれているが、だからといって彼らの命を粗末にしていいわけではない。


「……わかってるわよ。あの時とは違うんだから。

大丈夫……あの寒さは、もう感じない。この眼と、お前たちを信じてる。」

小さく漏らした言葉は、きっと君にしか聞こえなかっただろう。


でも――いや、だからこそ。

君は彼女のために、新たな道を切り開くと固く誓った。


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「ふむ……。」


城内に侵入し、争いを遠くから見つめる影3つ。

乱戦に加わるでもなく、轟々と燃え盛る城に佇む。


「……ん? どうしたんだ? アシュタル。」

「ハーツ・オブ・クイーンは確かに強い。だが強いだけだ。あれじゃグラン・ファランクスを漬せん。

練度の差を指揮官の差だと言うのなら、もはやそこに開きはないだろう。

だが……それが兵の意識の問題だとするなら、グラン・ファランクスには到底追いつけない。」


「どうして?」

「……殺すことに躊躇いがなく、それを勝利だと刷り込まれているからだ。

凛眼は恐ろしい力だ。ハーツ・オブ・クイーンに勝てる道理はない。

もう少し殺すことに臆病であれば、付け入る隙もあるだろうに。」


アシュタルは小さく『あれは狂気の沙汰だ』と漏らす。


「無視して進むか?」

「…………。」


「助けないの?」

「……助ける理由はないんだが。」


アシュタルは思案げに呟く。

どうせやっているのは「姉妹喧嘩」だ。

厳密に言うのなら、“姉妹のように仲の良かった女の喧嘩”


「仲良くやれってのは、ミツィオラがよく言っていたな。」

アシュタルは、ミツィオラがいた頃のことを思い出す。

それなりに楽しく、それなりの人生を謳歌していた頃だ。


「それにイレとロアの置き土産だ。

あいつらを放っておくわけにはいかないか。」

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やおら掲げられたルドヴィカの剣には、あの瞳と同様、冷たい意思が宿っている。

砂煙を巻き上げて迫り来る敵を、しっかりと見据えた。


――思えば、あの敵はまだうら若い少女である。

あの日あの時、血が流れ悲鳴が鳴り響く場所にいなければ……否、私があの場を作らなければ……。

今ごろはまだ何も知らず平和なカンナブルで、あるいは向かの楽しみを得て生きていたかもしれない。

だが、そうはならなかった。

そうさせることは、できなかった。


「…………。」


幸福を与えてやることは、できなかった。

イレ家の当主は何故、覇眼に溺れたのか。

我が父は何故、イレ家の当主を守り抜こうとしたのか。

“何故、私と対立したのか”

――まるで『覇眼』に操られた人間のように。



胸張り裂けんばかりの熱気と、猛然と勢いを増す蹄の音が聞こえ、ふと我に返った。

何たる失態だ。愚か者が……。

今まさに、我が身、我が身を叩き伏せんとする“強大な敵”が近づいてきているというのに。


あの子は仇敵を追ってきたのだ――。

敵を肘つため、父の仇を取るため、幾度も幾度もぶつかった彼女が、近づいてきている。

そこに必要なのは、何ひとつ曇りない純然たる思いだけだ。

なればこそ……。


「私があの子の前に立ちはだかるのは、必定だったのだ。」


――だから来い、リヴェ―タ。お前の仇はここにいる。

私を殺してみせろ。その燃えるような、はじまりの瞳をもって。



 ***



「ルドヴィカァァァーーッ!!」


咆哮する。

剣で切られ、槍で貫かれ、砲撃で揺らぎ、総身を蹂躙された駿馬は、しかし騎乗の主に応え、走り続けた。

もはや死んだに等しい肉体――否、死してなお、リヴェータの声が、姿が、その存在が、愛馬に、ハーツ・オブ・クィーンに力を与えてくれる。

だから戦い続けられる。

心に灯る炎が、“戦いたい”という思いを、より強くさせてくれる。


――応えねばなるまい。

長年追い続けてきたあの敵の元へ送り届けるまで、足を止めるわけにはいかない。

疾駆するハーツ・オブ・クイーンに連なり、君は段々とルドヴィカヘ近づいていった。


 ***


気づけば、もう夜だ。

暗く、昏く、そして冥い。――ここは闇のような重みをまとっている。



「嫌な予感がする……。」

ジミーが不安を口にした。

「……まるで仕組まれたように何もかも上手くいきすぎているのう。」

どういうこと?と君は尋ねる。


「そもそも何故、城に戻ろうとしていたグラン・ファランクスがいきなり進路を変えたのか。」

「ただでさえ漆黒の兵団に手を焼いていたのだ。わざわざ兵を危険に晒してまで、戦う理由があったのか?」


「無視して一度帰還すればよかった、ということ?」


結果として、ハーツ・オブ・クイーンはグラン・ファランクスを捉えられたが……。

確かに……いくつか不明瞭な点がある。

次いで君は、あの時の男の言葉を思い出す。

『グラン・ファランクスと衝突する前に、戦力を削っておけとの命令を受けてな』

――そうだ。こうなるように仕組んだ者がいる。



「ルドヴィカ穣を動かすことが出来る奴のう。そんなものが……いやしかし、できるとしても、彼女が従う理由はないぞ。」

「……それだけの理由をでっち上げて、そしてそれを伝えられる距離にいる奴にゃ。」


グラン・ファランクスの懐に、深く入り込んでいる者。

君たちの不安をよそに、リヴェータはただただ直走る。

振り返ることはない。

前だけを見て、進まなければならない。


その意志を強く感じ――。

何より“背は預けだという信頼が、君たちを強く強く奮い立たせた。


『集まった』


不意に……。

ぞくりと総毛立つような重みが、訪れた。

死の匂い、闇の気配を帯びている。


「キミ!」

ウィズの声に反応し、君は息を大きく吸い込んだ。

最速で打ち倒すための動作に入る。


やがて漆黒の穴が眼前に開き、異形の何かが這い出てきた。

リヴェータは任せる、その思いを伝えるため、君はジミーに視線を向けた。


「必ず……来い。」

ジミーは短くそう言って、馬を走らせる。


あんなに騎乗が上手くなったんだ。

君はそんな感傷に浸ったことが、何故だか可笑しかった。



「リヴェータ!!進め、振り返るなァッ!」

「わかってるわよ、そんなこと!今さら振り返れない。もう前しかないッ!

冷たい風も、凍てつきそうな地も、全部蹴りあげて――前に、前に進むのよ!

ついてきなさい、あんたたち!必ず、その寒さを払拭してあげるわ!」

「……ああ。」

「でもジミー。あんた今、私を呼び捨てにしたことだけは絶対に忘れないから。」


 リヴェータの背後を追う異形。

 巨大な武器を携え、じわりじわりとにじり寄る。


 させない――君は戦闘態勢に入った。

 リヴェータに向かって振り下ろされる凶刃を、魔法で弾き飛ばすために。


 ***



 強大な闇を振り払ったリヴェータが、手綱を引き、愛馬を急き立てる。

 ルドヴィカ――ルドヴィカ・ロアは、巨剣を握り、大地にしかと足をつけていた。


 剣の間合いは広い。

 馬の首を落とし、返す刀でリヴェーダをふたつに分かつことも難くないだろう。

 そんなもの“当然のごとく理解している”。

 間合いがどうしたっていうの?斬られたから何だっていうの?――馬鹿みたい、くだらない!

 体の、腕の、手首のその先が残っていれば、命朽ち果てようと心ず届く。

 止まれない。

 このたったひとつの機会を逃すわけにはいかない。


「…………。」


 多くの死線を潜り続けてきたルドヴィカに真っ向から眺んで勝てる道理はない。

 ルドヴィカは強い。“どんなものよりも”強い。

 しかし、いやだからこそリヴェータは、軍略も戦略も捨て、踏み込むことに賭けた。


 憎悪や憤怒は多分にあった。ただそれは過去のことだ。

 この胸に灯り、瞳に熱く宿る煌眼は、あくまでも頭を冷静にさせた。


 剣を躱し、受け止め、

 たとえ肌が焼きつくような痛みに晒されようと、立ち止まらずに踏み込み、近づき、肉薄した。

 理由なんてものは――


「“ぶん殴ってやる”。」


これだけで十分だ。

冷たく燃え立つ蒼い瞳が、眼前に迫る。



「ルドヴィカ……ルドヴィカァァァッ!!

「よく来た。さあ、殺してやるぞ、リヴェータッ!」


指揮杖と剣が交錯する。

まるで火花が散るような激突に、ジミーは思わず顔を伏せた。


もはや馬は失われた。

多くの仲間も傷つき、力も残されていない。


「負けられない……戦って、戦って……それでも戦い抜く……ッ!!」

その思いだけ抱いて近づき、剣の間合いを殺していく。


「ちィッ――!!」

確殺の距難を縮められ、さしものルドヴィカも吐き捨てるほかない。

だが――。


「まだまだ遠い。届かせはせんッ!!」

剣を振り下ろすより早く、ルドヴィカはリヴェータを蹴り飛ばした。

「あ、ッ、くうッ……!!」

リヴェータはその華奢な休を丸め、苦しみに呻きながらも再びルドヴィカに向かう。

「ぶっ飛ばすッ……!――覚悟しなさい!」


満身創痍の体を気が狂いそうなほどの熱だけで持ち上げる。

指揮杖と拳を血が出るほど強く握る。


「今……今、死んだって………

――死んだって、構わないッ!」


心臓の鼓動が激しく、肉体全てが破裂してしまいそうだ。

けれど、殺されたって構わないと、そう思えるほどの熱が、ここにはあった。



――それは、季節の巡りに囚われない冬だった。

降り積もる雪のような冷たさは、幾重にも幾重にも広がり、やがて心を覆った。

永遠に春は来ないと思っていた。

挫けそうな何もかもを、必死に奮い立たせた。

倒れても立ち上がり、何度だって奔った。


――そうして。

“そうして辿り着いた先には、蒼い瞳があった”


「この距離なら――絶対に外さないッ!」


「よもやここまでとは……。

侮っていた。賤しめていた。愚かなりと見向きすらしなかった。だがお前は這い上がってきた――!

認めよう。お前は強い。誰よりも、そして何よりも――ッ!

だがリヴェータ、私を見くびってくれるな。この凛眼ある限り、容易に殺せるとは思うなッ!」


ルドヴィカが凛眼に割れんばかりの力を込める。

むせび泣く子どものように、大きな声を上げた。


「リヴェータ!!」

突如として響き渡る声は、だが前を見ていたリヴェ―タには届かない。


「なッ――。」

ソレはじわりと這いよる――。



リヴェータは気づかない。

ルドヴィカの、視線の先に、現れた、ソレに。


「退け、リヴェータ!」

考えるよりも早く、ルドヴィカが反応する。



思考の何倍もの速さで現れた、闇よりも深い死の匂い。

リヴェータを蹴飛ばし、剣を振るった。

だが――。


ぞぷり、と沈み込む静かな衝撃が、ルドヴィカと剣を別つ。



「る、ルドヴィカ……っ!?」

吹き飛ばされたリヴェータは、思いがけない光景に言葉を失う。



「……まずは、ひとつ。」



冥い影から現れた大鎌が、ルドヴィカの胸元を貫いていた――。




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