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【黒ウィズ】キワム&ヤチヨ編(6th Anniversary)

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最終更新者:にゃん

2019/03/05



story



「キミ! 危ないにゃ!」


ぼんやりと歩いていた君は壁に衝突した。

これで朝から7回目だった。バカなのかと思う。


「……キワムたちのことが気になってるにゃ?」


さすが師匠。よく気づく。あるいはウィズも君と同様に、キワムたちのことが心配なのかもしれない。

キワムたちはスザクロッドでの戦いで、見事タモンを撃退した。しかし収穫者の脅威が消えたわけではない。

そんな状況でクエス=アリアスに戻ってきたかと思えば、つい先日の奇妙な異界移動。そこで会った謎の少女。


「気に掛かる人がいるのなら、その人のこと、強く想いなさい。そうすればいつかまた、会えるかもしれない……。」


そんなことを言われてしまったら、否応なくキワムたちのことを考えてしまう。


「キミ、とりあえず前は見るにゃ。このままだと壁にぶつかり続けて死ぬにゃ。」


もやもやしながらも、君は前を見て歩き出す。


 ***


「じゃあ、今日もパトロール行ってくる! さあ散歩の時間だぜ、クロ!」

「ワゥン!」


キワムとクロは、競い合うように元気よく駆け出していく。

が、仲間たちの目につかないところまで離れるとその顔は不安に染まり――


「魔法使い……どこにいるんだ!」


心配性を爆発させる。


「魔法使いがいなくなってからもう何日だ!? 用事が済んだらすぐ戻ってくると思ってたのに。

あいつにもあいつの事情があるってトキオさんは言ったけど……。

挨拶もなしにいなくなるってすっごくヤバい事情なんじゃないか!? 今頃ひとりで困ってるんじゃないか!?


爆発に次ぐ爆発である。


「ワン! ワン! ワン!」

「そうだよな。クロも心配してるよな。」


キワムはクロの背中を撫でながら、フォナーのディスプレイを一瞥する。

チーズ昧! チーズ味! チーズ味!


「チーズ味ってお前……。」


呆れつつ、いぬクッキーチーズ昧のパッケージを開封する。


「クロは俺の心の分身だっていうのに、のん気なもんだよなあ。」

「キワムがクロを見習うべきだと思うけど。」


ため息から一転、ハッと息を呑む。


「ヤ、ヤチヨ! どうしてここに!」

「魔法使いのことを忘れろだなんて言わない。でも、心配したってしょうがないじゃない。」

「ど、どうしてそれを……。めちゃくちゃ元気よく出発したのに。」

「あのね、バレてないとでも思ってたの? わざわざひとりになってからめそめそしてることくらい、気づいてるから。」

「いや、みんなに心配かけちゃいけないと思って、ひとりになれるところで心配してたんだよ。」

「そんなことされたら、余計にキワムのこと心配になるじゃない。

アンタたち心配しすぎ。私やクロみたいに、どっしり構えてなさいよ。」

「俺だってどっしりしていたいよ。でもさ……。」

「ウゥ、ワウ!」


まるでキワムを一喝するように、クロが力強く吠えた。


「ほーら、クロも「コノヤロウ!」って言ってるんじゃない?


シキがキワムのフォナーをのぞきこむ。


『…………ミート味!』

「コノヤロウ!」



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「よし、訓練に打ち込もう! そうすれば不安や心配は消えるはずだ。」

「ヤチヨ、ちょっと相手になってくれよ。」

「え、アウデアムスの相手は怖いかも……。すごいパワーだし……。ねえ、シキ?」

『そ、そんなことないわよ……。ちょっと大きくなったムチコロ相手に、この私がビビるわけないじゃない!』

「すごく震えてるけど。」

『うるさいわね! 私は震えてるけど、インフローレはビシッとするわよ!』

「花開け、我が心に咲く赤い果実よ!"インフローレ"!」


ヤチヨはガーディアンを展開――シキがインフローレヘと変わる。


『わ、儂が犬ころ相手に負けるわけなかろ?』

「相変わらず震えてるけど。」

『そ、それよりもじゃな。アウデアムスがそこの廃墟の残骸を敵に見立てて戦う。儂がそれを客観的に見て、精緻な分析をする。

このほうが効率がよいと思わぬか? 儂は思う。絶対こっちじゃと思う。』

「……キワム、相手は廃墟の残骸で。」


キワムはうなずき、目を閉じる。


「魔法使いのことは一旦忘れる、一旦忘れる……。

我が心の化身よ、共に進もう、我と共に挑め。"アウデアムス”!」


キワムの詠唱によって、クロはみるみると巨大化し――


「なっ……えええっ!?」

『これ儂で勝てるじゃろ。ヤチヨ、やるか?』

「……客観的に分析するんじゃなかったの? 精緻な分析。」

『客観的に精緻な分析をするとじゃな。これはデカいクロじゃ。』

「見たらわかるわよ!」

「どうなってるんだこれ!? アウデアムス……なのか?」

『ワン!』

「フォナーには「アウデアムスだよ!」って表示されてるけど……絶対違うだろ!」

『ガーディアンは心の分身。アウデアムスに問題があるということは、キワムの心に問題があるということじゃ。

口では魔法使いのことを忘れると言っても、心の中では心配でしょうがないんじゃろ。』

「キワム! 迷いを捨てて、集中して!」

「や、やってみる……!」


キワムはアウデアムス?の変身を解き、改めて詠唱する。


「我が心の化身よ、共に進もう、我と共に挑め。"アウデアムズ!」


……!?


『これも儂で勝てるじゃろ。ヤチヨ、やるか?』

「客観的分析。」

『これはちっさいアウデアムスじゃ。』

「……私も心に迷い あるのかもしれない。だからインフローレがちょっとアレなんだわ。」

『ヤチヨ、見よ! 手乗りアウデアムスじゃ! ほれほれ、愛いやつじゃのう!』

「……私のインフローレ……どこ?」

「やっぱり心に嘘はつけない。心配なものは心配なんだ。」

「……あきれを通り越して感心した。こんなときでも人の心配なんだもん。

私たち、人間じゃないんだよ? それでも自分より誰かの心配なんて……。」

「ヤチヨだって俺のこと心配してるんだから人のこと言えないだろ。」


不意を突かれたように固まったヤチヨは、小さく笑った。しかしその笑顔はどこか心細そうに見える。


「……キワムはうまく飲み込めた? 自分が人間じゃないって。

私は飲み込んだつもりだったけど、時々わからなくなる。」

「俺もよくわからないよ。」


普通に考えれば、悲惨なのだと思う。今まで人間として歩んできた過去を、すべて否定されたのだ。


「でも、みんな元気だ。」


それは、これから生きていく上での救いだった。


「みんな元気って……。」

「俺もヤチヨも人間じゃない。でも、元気だ。

俺たちは元気で、しかも頑張ったら誰かの幸せを守ることができる。

それならひとまずOKって思えるよ、俺は。」


気を紛らわすための強がりなんかじゃない。心からそう思えた。


「キワム……。」

「だけど……魔法使いは元気なのか!? 問題はそこだ!

離れ離れはつらい! でも、それはいいんだ! 魔法使いが元気ならそれでいいんだ!」


キワムは落ち着きなく歩き回ると、地面に穿たれた穴に向かって叫ぶ。


「魔法使い! メッセージ送ったのにどうして返信してくれないんだ! あれか!? 機械音痴か!?

魔法使いはフォナ一のスワイプうまくできてなかったもんなああああ!」


「……ちょっとキワム! 大変よ! 敵に囲まれてる!」


弾かれたように穴から顔を上げると、周囲には機械兵。


「ヤチヨ! 俺が時間を稼ぐ。その間に、みんなのところに!」

「無茶よ! キワムのガーディアン……大きいクロか小さいアウデアムスじゃない! 私が時間を稼ぐわ!」

「インフローレは後方支援向きだろ! あと、なんか今ちょっとアレだし!」


その時。突然のまばゆい光に、ふたりの目が眩んだ。



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フォナーが振動した瞬間、君は即座に反応した。


『ようこそ、スザクロッド統治域へ。あなたの再訪を歓迎します。』


君は草原に立っている。目の前には、おびただしい数の機械。禍々しい魔力にも似た敵意を放っている。

そして、背後には――


「ま、ま、ま――魔法使い!」


キワムとヤチヨの姿があった。


「うおおおおおおお! 来てくれたのかあああ! 元気か!? 元気なのか!?


元気だよ。


「よかった! 俺も元気だ!」


それは、うん、見たら一発でわかる。

君は胸をなでおろす。キワムたちは無事で、元気だ。


「ちょっとふたりとも! 今は喜んでる場合じゃないでしょ!」


ヤチヨの声で君は我に返る。機械兵の姿かたちからして、収穫者の手先だろう。


「さっそくで悪いけど、力貸してくれよな! 魔法使い!」


君はうなずくと同時に、カードに魔力を込める。

込めた魔力を解放。防御障壁を展開。

機械兵の腕より放たれた光線をかき消す。


「我が心の化身よ、共に進もう、我と共に挑め。"アウデアムズ!」


それは力そのものとでも言うべき、圧倒的な存在感。


『ガアアアアアアッ!』


挨拶代わりの左腕で、軽々と1体潰す。


「すごい! 正真正銘アウデアムスね! 魔法使いのおかげよ!」

「にゃ……よくわからないけど、さすが私の弟子にゃ!」

「花開け、我が心に咲く赤い果実よ!"インフローレ"!」


キワムに続いてヤチヨもガーディアンを展開。


『ふっ、頭が冴え冴えしとるわい。ヤチヨも心配事がなくなったんじゃな。』

「インフローレ! この状況、どう見る!?」

『頼もしい犬ころは力で一気に決めるようじゃ。』

「なら私たちはそのお膳立てをしてあげましょう!」


君もそれが得策と踏む。下手に前線に出て行ってアウデアムスの動きを制限してしまうより、支援に徹すべきだ。

君はアウデアムス――ではなく、キワムに向けて強化魔法を放つ。

直感だった。アウデアムスがキワムの心の分身ならば、強化すべきはキワム自身ではないか。


「これ……魔法使いの力か!? めちゃめちゃ力が湧いてくるぞ!」

『グォオオオオオオ!』


声を弾ませるキワムと呼応するように、アウデアムスも雄叫びを上げる。


「インフローレ! 敵の動きを封じて!」

『妖花秘奥・滅界!』


インフローレが艶やかに舞う。すると、たちどころに機械兵たちの動きが鈍化していく。


「キワム! 今よ!」

「いっけえええええアウデアムス!!!」


貪り尽くすかの如き猛々しい攻撃によって、アウデアムスは機械兵を全滅させた。



「とんでもないパワーだったわ……!」

「キワム、すごい迫力だったにゃ!」

「ありがとな! ヤチヨ! それから……魔法使い!」


キワムが君に向けて、ぐっと握った拳を突き出す。

君はどこか晴れがましい気持ちで、拳を突き合わせた。



 ***


「なぜ戻ってきた。……いや、別に戻ってくるなという意味ではなく、ただ単純に……。」

「トキオ兄ちゃんもずっと魔法使いのこと心配してたんだぜ?」

「別に心配はしていない。心配する理由がどこにある。」


「まあまあ。せっかく再会できたんだし、仲良く楽しくおいしくいこうよ。」

『ギシシ。おいしくおいしくおいしくいこう。』


君は元333号ロッド自警団のみんなと夕食を共にしていた。

今はスザクロッド付近にある廃棄された小ロットを拠点に、パトロールを続けているのだという。


「人生はいろいろあって難しいけど、こうしてみんな元気にやってるんだ。」

『キャン! キャウキャウ!』

「なんて調子のいいこと言ってるキワムは、魔法使いがいなくなってからずっとめそめそしてたんだから。」

「ヤ、ヤチヨ! それは言わないでくれよ。」

「うちの弟子もみんなのことが心配で前を見て歩くこともできなかったにゃ。壁にぶつかって死にそうになってたにゃ。」

「ふふ、キワムみたいなところがあるのね。」

「えー、似てるか? 俺は壁にぶつかって死にそうになってないって!」

「確かに、ひとりでうじうじしてるのは壁死よりタチ悪いかもねー。」


お互い、ちゃんとしよう。君は苦笑しながらキワムに言った。



 ***



君とキワムはパトロールを終えて拠点に戻ってくる。


「……だから迷ったんだけど、他のロッドのガーディアンたちには黙っておくことにしたんだ。」


夜も更けてきたが、話は尽きない。


「何が正解なのか、わからないけどさ。自分で考えて、仲間と話し合って、正しいと思う道を進むしかないんだよな。」


選んだ道を進む、これからが勝負だね。


「そうそう。これからだ。」


 ***


キワムは星空を見つめている。その瞳は、力強い意志にあふれて――


「……ん、ふぁあ一……あ一。」


大きな欠伸。その仕草は、人間と何ら変わりないものだった。


「タモンと戦って以来のアウデアムスだったから、疲れたのかな。俺そろそろ寝るよ。

また明日な、魔法使い!」


おやすみ、また明日。君たちは小さく手を振り合って別れる。

風が少しだけ冷たい。それが不思議と心地よい夜だった。


「私たちもそろそろ寝るかにゃ。用意してもらった寝床はあっちにゃ?」


しなやかに歩き出すウィズの耳が、ぴんと立った。

ウィズが反応した音――君のポケットの中でフォナーが振動しているのだ。


『ごきげんよう、魔法使い。お気をつけてお帰りを。』

「にゃ……せめて今度こそちゃんとお別れを――」



君とウィズはクエス=アリアスに戻っていた。


「また明日が最後の挨拶になるなんて皮肉なものにゃ。キワム、絶対心配してるにゃ……。」


大丈夫。キワムたちならきっと大丈夫。君は確信を持って言う。

もちろん心配はするだろう。でもそれで駄目になってしまうことはないはず。

君がそういう心持ちだからだ。


お互い、ちゃんとしよう。選んだ道を進む、これからが勝負だ。

またみんなと会えることを信じて、君は前を見て歩き出す。




キワム&ヤチヨ編(6th Anniversary) ―END―





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