レオナルド・思い出

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思い出1

レオナルド

ん？なに？おまえら。

学生服を着崩した美貌の少年が、

ため息を吐く。

レオナルド

そんなじろじろ見つめて……

またオレのファンか。悪いけど

サインは書かない主義なんだ。

キャトラ

誰がファンよ！アンタの

サインなんかいるもんですか！

レオナルド

え？違うの？

キャトラ

意外そうにするなぁー！

レオナルド

へえ……ホントに違うんだ。

ふうん……

少年は、こちらを見て、

うれしそうに笑った。

レオナルド

いらないって言われると、

あげたくなるなぁ。

キャトラ

いらないっつーの！

レオナルド

そう言うなって。

オレはレオナルド。

魔道工学院の学生さ。よろしくな。

思い出2

アイリス

あの、レオナルドさん……

レオナルド

なんだい、アイリス。

オレのサイン、欲しくなった？

アイリス

じゃなくって……その槍、

不思議だなって思って。

レオナルド

ああ、これ？　これはアレだよ。

ルーンの魔法に、電子工学の

技術を組み合わせてんの。

アイリス

でんしこーがく？

レオナルド

ざっくり言うと、機械で起こした

電気を使って、魔法みたくいろいろ

できるようにする技術さ。

レオナルド

俺の国はルーンの加護が微妙でね。

みんな魔力が弱いから、

こーゆーの使ってんの。

アイリス

そうなんですね……

使うの難しそう。

レオナルド

そうでもないよ～？

慣れりゃ簡単なもんさ。

レオナルド

ホント……こんなの、簡単すぎて

学校で習うまでもないってのに。

思い出3

レオナルド

いい天気だなぁ……空、青くて。

仰向けに寝転んで、空を見上げ―――

レオナルドは、

真剣な顔でポツリとつぶやく。

レオナルド

やっぱ、まちがってる。

まちがってるよ……

レオナルド

こんな天気のいい日に

汗水垂らして勉強するなんて……

そんなの、まちがってる！

キャトラ

マジ顔で何言ってんのよ。

アンタは……

レオナルド

だって、そ～じゃん？

レオナルド

主人公もさ、

こんな日は何もしないで、

昼寝してたいだろ？

キャトラ

猫のアタシでさえ、

昼寝しないで働いてるってのに！

レオナルド

だってさぁ、しょーがないじゃん。

ふと、真剣な表情に戻って―――

レオナルドはつぶやいた。

レオナルド

……がんばるとか、努力とか。

オレ、そんなコト

する必要すらないんだからさ。

思い出4

レオナルド

ふう、やれやれ……

アイリス

お疲れですか、レオナルドさん？

レオナルド

ああ、ちょっと、

クラスメイトに追われててね。

キャトラ

何をやったわけぇ～？

レオナルド

何もしてないのに、『なんで何も

　しないんだ！　勉強しろ！』って

つっかかってきてさ。

キャトラ

そういうことね……

レオナルド

ったく……しょーがないじゃん。

特に勉強しなくたって、

オレはだいたいできちまうんだから。

アイリス

そうなんですか？

レオナルド

オレは学院始まって以来の天才さ。

勉強も運動もなんでも得意で、

努力ってもんをしたことがない。

レオナルド

ついでに背も高けりゃカオもいい。

野郎からは妬まれるけど、

女の子にはモテる。

レオナルド

オレは何もがんばったことがない。

がんばりようがないんだ。

全部、普通にできちまうから。

レオナルド

がんばりたくてもがんばれない

ヤツの気持ちなんて―――がんばる

ヤツにはわかんねーんだよ。

レオナルド

それに……

……いや、まあ、いいや

レオナルド

メンド……

思い出5

レオナルド

メンド……

アイリス

レオナルドさん……

元気ないですね。

レオナルド

まあねー。卒業試験が近くってさ。

レオナルド

卒業試験は実技なんだけどさ。

みんな、卒業したいもんだから

必死で練習してくるわけよ。

レオナルド

でも……どうせオレには勝てない。

何もしてないオレが、

才能だけでみんなの努力を散らす。

レオナルド

恨まれるのは慣れてるけどさ、

でも……やっぱ、

気持ちいいもんじゃないよ。

キャトラ

アンタ……嫌なの？

努力してきた人たちに、

あっさり勝っちゃうのが……

レオナルド

それをうれしがるようなヤツ、

どこにいるよ？

レオナルド

オレはさ……うらやましんだよ。

努力できるヤツ。

努力する意思を持ってるヤツが。

レオナルド

それを、またオレは散らすんだ……

たんぽぽの綿毛みたいに、

せっかくの努力を踏みにじって。

レオナルド

やってらんないよな……

あいつらも―――オレも……

思い出6

レオナルド

え―――何？

なんなワケ？これ……？

レオナルド

すげ……ちょっ……わけわかんねえ

―――なんだよこれ。

こんな光、世の中にあんのかよ……

呆然と見開かれた

レオナルドの両目から、

透明なしずくが流れ落ちていく。

レオナルド

知らねえ……オレ、知らねえよ。

こんなの。こんなきれいなもん……

オレの人生にはなかったよ……

レオナルドは、

涙を流したまま目を閉じ……

ぎゅっ、と小さく拳を握った。

レオナルド

……オレの国、

みんな魔力が弱いって言ったろ。

レオナルド

でも……オレだけは、他のみんなの

何倍もの魔力を持ってたんだ。

キャトラ

えっ……

レオナルド

だから、本当は

電子技術なんか要らなかったんだけど、

みんなと違うのは嫌だったから……

レオナルド

みんなと同じフリをしなきゃって。

そう思ったのに、

結局、オレはできすぎて……

孤独だった……

アイリス

……ここは、

あなたの国じゃないですよ、

レオナルドさん。

アイリス

いろんな人が訪れて、いろんな人が暮らす島です。

魔力の強い弱いなんて関係なく……

レオナルド

ああ……そうだな。

涙をぬぐい―――

レオナルドは目を開いた。

レオナルド

……試験、受けてくるよ。

キャトラ

いいの……？

レオナルド

ああ、みんなに、オレの本当の力を

魅せてくるさ。もしそれで、

みんながオレを嫌うなら……

レオナルド

オレ……ここに戻ってきても、

いいかな……？

うなずくと―――

レオナルドは、穏やかに笑った。

レオナルド

ありがとよ、

主人公。

レオナルド

みんなに嫌われなくても、

戻ってくるかもしんねえけど―――

ま、よろしく頼むわ！

思い出7

キャトラ

やっほーレオナルド。

試験、どうだった？

レオナルド

ん？　オレにそれを聞く？

キャトラ

ま、うまくできたんでしょうね。

レオナルド

あったりまえだろ？

アイリス

それで……そのあとは、

どうなりました？

レオナルド

なんも努力してねぇオレが、

ぶっちぎりで一位取ってさ。

レオナルド

そりゃ――いろんなこと

言われたぜ。

アイリス

……心無いことをですか……？

レオナルド

それが多かったけどよ――

レオナルド

――それだけでもなかったぜ……！

アイリス

え？

思い出8

レオナルド

――思うがままにさ。

才能出し切ってみたオレを見て、

こう言ったヤツがいた。

レオナルド

『ここまでコテンパンに

やられると、

むしろスガスガしい』ってな。

レオナルド

ま、そーゆーヤツだって

多少はいるわけだしさ。

レオナルド

それによ……今回の試験、

全力でやってみて

オレは思ったのさ。

レオナルド

『才能をフルに活用しようとする』

ってのも、ある意味

努力なんじゃないかってな。

レオナルド

これからのオレは手を抜かねーぜ。

レオナルド

見せてやるよ。

努力に目覚めた天才が、

どんなもんかってことをな……！