キサラギ・思い出
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思い出1
？？？
ううむ、絶景かな絶景かな
なんとも鬼ヤバい光景じゃの。
？？？
空飛ぶ島、いとをかしじゃの
ふむ、一首できたのじゃ。
？？？
どうかのう？
島の方々、ちょっと
読んでくれんかの。
アイリス
これは……詩ですか？
キャトラ
ずいぶん短いわねー。
でも短いなかに
いろんな気持ちが
入ってるのね？
？？？
これは短歌じゃ。
わらわの島につたわる
短い詩のことじゃよ。
キャトラ
へぇ、こういう詩もあるのね。
アイリス
詩人さんなんですか？
キサラギ
わらわは歌人じゃ。
名はキサラギと申す。
アイリス
私はアイリスです。
よろしくお願いします。
キサラギ
ここはケッタイでよい島じゃのう。
鬼エキサイティンじゃ。
キャトラ
（かわった言葉づかいね？）
バロン
（なんと、鬼族か……
古き鬼の力は神竜にも
匹敵するというが……)
キサラギ
おやおや、こわい顔じゃのぅ。
お獅子の人。
わらわは暴れたりはせぬよ。
キャトラ
暴れる？
暴れるなら外でやってね。
キサラギ
鬼は外というからのう。
ふふふふ。
アイリス
鬼……？
キサラギ
わらわは鬼じゃ。悪鬼羅列と
恐れられる存在よ。
ビビったかの？
キャトラ
あっきらせつって何？
キサラギ
鬼ヤバいほど悪くて
強いやつ、という意味じゃよ。
アイリス
キサラギさんは悪い人……
なんですか？
キサラギ
わらわは鬼いい人じゃ。
キャトラ
だったらいいじゃない。
いまさら鬼なんて
だれも気にしないわ。
キャトラ
この島にいるのは
変わった連中ばっかりだしねー。
キサラギ
ほう……？
キサラギ
ふむふむ、なんとも、
人の世にそのような場所が
あるとはのう……？
思い出2
キャトラ
カニカマや ああカニカマや
カニカマや カマボコなのか
それともカニか
キサラギ
ふむふむ、なかなかよい歌じゃ。
じつに哲学的な問いかけじゃの。
アイリス
どのへんが哲学なのかしら？
キャトラ
ふふーん、短歌って
意外と簡単じゃない！
キサラギ
簡単でありながら
置くが深いのが短歌じゃよ。
キサラギ
アイリスもできたようじゃな。
どれどれ……
アイリス
あ、あの……
キサラギ
どうしたのじゃ？ 見せてみい。
キャトラ
ふふ～ん。
いいにくいなら、
私が読んであげるわ！
キャトラ
先月は 入った服が
もうきつい ごはんをすこし
食べすぎたかも
キサラギ
……ほうほう。
なるほどのう、これは
乙女の永遠の悩みじゃのう。
キャトラ
ヘレナのごはんが
美味しいからって……
ねえ。
アイリス
キャトラー！！
キサラギ
いやいやアイリス。
おぬしはまだ若い。
身体が育っておるのよ。
アイリス
そ、そうですね！
育ってるんですよね！
キサラギ
その通りじゃ心配するでない。
それに鬼ヶ島では
ちょっと太めでも……
アイリス
主人公は
どんな歌を書いたの？
キャトラ
話をそらしたっ！？
キサラギ
どれどれ、見せてみい。
キャトラ
……さあ。見せてみなさい～。
アンタがどんなこと
考えてるか、興味あるわ～。
キサラギ
ふふふ……ふだんすました顔で
どんなすごいことを
考えておるのじゃの？
アイリス
……ふふふ。
私も知りたいなあ。
キャトラ
さあ、観念しなさいっ！
キサラギ
おや、逃げおったぞ？
どういうわけじゃ？
キャトラ
……まあ、こうなると
おもったわ……
思い出3
キサラギ
のう猫よ……人里には
いろいろな『すいーつ』が
あるらしいのう。
キャトラ
そうねぇ。チョコにキャンディー
ビスケットにシュークリーム……
キサラギ
おお、なんとも心躍る
横文字よのう。
キサラギ
わらわの故郷にも
立派に甘味があるが、
こちらのすいーつにも
鬼興味あるわらわなのじゃ。
アイリス
そういえば、
そろそろおやつの時間ね。
キサラギ
以前にヘレナどのの作られた
『がとお・しょこら』は
絶品じゃったのう。
ヘレナ
みんなー、おやつよー！
はい、今日はパンケーキ！
キサラギ
ななっ……！？
ぱんけーき、じゃとおおっ！
キャトラ
どうしたのキサラギ、
目の色かわってるわ！？
キサラギ
ぱんけーきなるものは
鬼の世界では伝説の
すいーつなのじゃ。
キサラギ
そのおいしさは
鬼ギャルの間でも
語り草となっておるのじゃ！
ヘレナ
ふふふ、お口にあうかしら？
アイリス
食べてみてください、
美味しいですよ？
キサラギ
い、いただきます！
……ほっ、これは……
キサラギ
……おおっ！？
なんと甘く……
そしてふわふわなのじゃー！
キサラギ
それでいて、
舌でとろけるよーじゃ！
ヘレナ
お気に召したようね。
よかったわ！
キサラギ
このようなものは
食したことがないのう。
じつにいとをかしじゃ。
キャトラ
お菓子だからをかし？
キサラギ
これは、わらわからも
何か礼をせねばのう
そうじゃそうじゃ
キサラギ
わらわの国の甘味を
こさえてやろうほどに。
アイリス
キサラギさんの島の
お菓子ですか？
キサラギ
そうじゃ、わらわの得意な菓子じゃ。
半殺しというものでのう。
キャトラ
は、半殺し！？
ヘレナ
それってたしか、おはぎの……
キサラギ
なんじゃ、半殺しは嫌いか。
じゃあ全殺しがいいかの？
い、いやーっ！！
思い出4
キャトラ
ハーッ！ ハーッ！！
くらいなさいっ！ ひっさつのー
豆ッ！！
キャトラ
むうっ、やるわね！
でも主人公の豆は
狙いが甘いのよ！
アイリス
……キャトラ、
主人公、
どうしてお豆を投げ合ってるの？
キャトラ
これは節分っていう
お祭りの儀式らしいわ。
キャトラ
こうやって豆を投げると
幸せになるらしいのよ。
キサラギ
おやおや、何をやっておるのかの？
むぅ……これは……
キャトラ
なんだかお豆を投げるのって
楽しいわね？
キサラギ
節分……か。
アイリス
キサラギさん、どうしたんですか？
キサラギ
おぬしたち、節分が
どういう祭りか
わかっておるのかの？
キャトラ
幸せを呼ぶんでしょ？
キサラギ
人間にとっては、のう……
キャトラ
どういうこと？
キサラギ
おぬしらも知ってのとおり、
節分では豆をまく。
鬼は外、福は内といってな。
アイリス
鬼は、外……？
キサラギ
我ら鬼は、災いを招くものと
恐れられておるのじゃ。
キサラギ
その鬼を追い払うために、豆をまく。
人間どもは、鬼が豆に弱いと
信じているからの。
アイリス
お豆が苦手……だったんですか？
キサラギ
本物の鬼は、豆など怖がりはせぬ。
ただの迷信じゃよ。
キサラギ
人間は弱い生き物じゃ。
正面切って鬼には勝てぬ。
だからこういう嫌がらせをして、
うさをはらしておるのよ。
キャトラ
キサラギ、アンタは
人間が嫌いだったの？
キサラギ
いやいや、わらわは人間が好きじゃ。
こうして旅をしているのは、
人間の暮らしを見聞きするためよ。
キサラギ
人間の暮らしは興味深い……
じゃが、やはりおぬしらは
われらと相容れぬのかもな。
思い出5
キサラギ
ふむ、連中チョズいておるのう。
まったく、いとわろしじゃ。
あやしゅうこと
ものぐるおしけれじゃ。
アイリス
どうしたんですか？
キサラギさん。
キサラギ
故郷より文がきたのじゃ。
キャトラ
手紙？
なんかショックな内容だったの？
キサラギ
ショックというほどでもない。
ああやっぱり、というほどじゃ。
キャトラ
なになに、かなわぬ恋とか！？
キサラギ
戦になるかもしれぬ、
ということじゃ。
アイリス
……戦争、どうして……！？
キサラギ
わらわの故郷、鬼ヶ島は
人間たちと長年
いがみあっておる。
キャトラ
人間と……？
キサラギ
我ら鬼は、人間から見れば異形、
おとしめるには、
それだけで十分。
キサラギ
ましてわれらは、人とは違う
ことわりにて生きるもの。
キサラギ
闇の中で生きるもの、
水中や地中で生きるもの、
空を飛ぶものさえいる。
アイリス
それが、鬼のことわり……
キサラギ
人のようには暮らせぬ。
人のようには生きられぬ。
どんなに人に焦がれようとんな。
キサラギ
そして人は、人のことわりを
はみ出すものを、許しはせぬ。
キャトラ
そうね……人はそれほど、
強くないもの。
キャトラ
人は鬼を許せない。許せないから
攻めてくる……だから
戦うっていうのね、アンタは。
キサラギ
当然じゃ。わらわも島を守る
防人じゃからの。
紅の鬼神といえば、少しは
知られた名前なのじゃぞ？
アイリス
キサラギさんは、
それでいいんですか？
キサラギ
わらわは嫌じゃ。じゃが、
鬼が人と争うのは古よりの習い。
キサラギ
わらわのつむぐ言の葉は、
文字通り人を傷つける……
キサラギ
鬼が島も守るためなれば、
文字通りわらわは鬼となろう。
キサラギ
安心せい、この島にいる間は
わらわはただのギャルじゃからの？
思い出6
キサラギ
……なんじゃ、この光……
おぬしはいったい……
キサラギ
……どうしてじゃろうな。
戦しかないと思っていた己が、
急にばからしくなったぞ。
アイリス
まだ戦争になるって、
決まったわけじゃ
ないんですよね。
キャトラ
だったら、キサラギは
キサラギのままで
いいじゃないの。
キサラギ
そうじゃな……
ふふ、このわらわが、何を
ふさぎこんでおったのやら。
キサラギ
まだ戦が起こると
決まったわけではない。
ならばわらわにも、
できることがあろう。
キサラギ
鬼の言葉を聞こうとする
人間も、少しとはいえ
おらぬではないからの。
アイリス
キサラギさん、私たちに
できることがあったら、
なんでもいってください。
キャトラ
文字通り、ネコの手でも
よかったらね！
キサラギ
気持ちだけで十分じゃ、
と、いいたいところじゃが……
この島のものたちは
頼りになるからのう。
キサラギ
困ったら、
大いに頼らせてもらうのじゃ。
ヘレナ
ところでみんな、
このお豆どうするの？
キャトラ
ええっと、それは……
キサラギ
節分には、豆を食べると、
一年息災に暮らせるというぞ？
アイリス
じゃあ、みんなで食べましょ！
キサラギ
うむうむ、それがいいのじゃ。
キサラギ
いつかこの島のように、
異なる種族のものが、
ともに歩める場ができれば……
キサラギ
いや、それはまだ遠き夢か。
されど……
キサラギ
ふふ、わらわにも、また
やりたいことができたのじゃ。
