クロー・思い出

クローの思い出とボイス

思い出1

？？？

知らざぁ言ってきかせやしょう！

キャトラ

わわっ、なになに！？

？？？

浜の真砂と　盗人が

歌に残せし　悪神の

種は尽きねぇ　アオイヶ浜

？？？

以前をいやぁ　神代の

宮の足下の境内を

ねぐらに夜半の　濡れ鼠

？？？

願い下げだと　飛び出して

渡りに船の　海人舟や

せめて避けたし　夜働き

？？？

いつしか骨身に染みこんだ

芸と能とが身を助け

あれよあれよと看板の

上がっていくは　一の次

クロー

ソウル揺さぶる歌舞伎役者、
クロー様たぁ俺のことよ！

キャトラ

よくわかんなかった。

アイリス

歌舞伎役者のクローさん、

ですね。よろしくお願いします。

キャトラ

あ、わかるところだけで

良しとしたわねアイリス。

クロー

それで構わねえさ。

これからこの島で厄介になるぜ。

ま、一つよろしくな！

キャトラ

にしても、派手な格好よねぇ。

クロー

人生、一度っきりよ。

華やかに咲きてぇ

もんじゃねぇかい？

キャトラ

ぱぁーっ！

クロー

なんでぇ？

キャトラ

精一杯咲いてみたんだけど。

アタシ、着飾ろうにも

着飾れないから。

クロー

即座の実行たぁ、いい心意気だ。

傾（かぶ）いてんじゃねぇかい、

気に入ったぜ！

キャトラ

カブク？

クロー

結構結構。ここでの暮らし、

退屈しねぇで済みそうだ。

キャトラ

アタシに過度な期待を

しないでよぅ……

思い出2

キャトラ

ねえねえ、

『カブキヤクシャ』ってなんなの？

クロー

人さまの前で自分以外の

誰かを演じる、役者の一種さ。

そこそこ厳しい世界でなぁ。

クロー

いつ野垂れ死んでもおかしくねえ、

その日暮らしの、

いやしい職業っつうかね。

アイリス

いやしいんですか？

クロー

ところが、

幸いにも俺の芸にゃ客がついた。

食うには困っちゃいねえ。

キャトラ

へー。スター？

クロー

そんな風に呼んでくれる

お客様もいるかねぇ。

キャトラ

ふーん。で、そのスターは、

具体的に何が出来るの？

クロー

俺の芸は、歌舞伎だけに

留まりゃしねぇぜ。

クロー

一通りのこたぁなんでも出来る。

板の上でのことはな。

キャトラ

板？

クロー

舞台の上ってことさ。

立ち回りでも、踊りでも唄でもな。

ひはこうろをてらして～♪

キャトラ

おおー。

アイリス

見事なのどですね！

クロー

びょうびょうびょう！

アイリス

なんですか？

クロー

歌舞伎とは別のモンだが、

犬の鳴き声の表現さ。

面白ぇもんだろ？

キャトラ

うーん？

立ち回りってのは？

クロー

こういうやつさ。

クローは斧を置き、
どこからか取り出した
木剣を握った。

クロー

はあっ！

唐竹に振り下ろし、手首を返して
胴、翻し袈裟、逆風に切り上げ、
刹那の残心。再び流れるように――

キャトラ

へぇ～！　すごいすごーい！

ゆ～が～！

アイリス

クローさんは、

剣も使えるんですね。

クロー

見世物の剣さ。

こんな筋じゃぁワラも斬れねえ。

実戦じゃ役に立ちゃしねぇよ。

キャトラ

ふ～ん、そんなもんなのね。

クロー

相手の防具ごと叩き潰す！

戦場じゃそれが一番手っ取り早ぇ。

そのためのコイツよ。

キャトラ

でっかいまさかりよね。

扱い、不便じゃないの？

クロー

扱い辛さも、裏では魅力よ。

慣れれば愛着も

湧くってもんさ。

キャトラ

モノは言いようねぇ……

思い出3

キャトラ

む！？

ちょっとそこいく

クローがちどり足！

クロー

おっと、俺としたことが

ちと酔っ払っちまったぜ。

アイリス

お酒を飲まれてたんですか？

クロー

しゃべる熊を見かけたもんでなぁ。

こりゃ飲むっきゃねぇだろ？

キャトラ

その理論はわかんないけど……

クロー

コイツが中々話せる奴でよぉ。

ついつい杯が乾いてなぁ。

クロー

どんちゃんやってるうちに、

他にも色んな面白ぇ連中が

後から後から混ざってきてよ。

クロー

やれ吸血鬼だの、王様だの、

言ったところで酒の席。

みんなして盛り上がってなぁ。

キャトラ

まさにブレーコーってカンジね。

クロー

愉快だったぜ。あの吸血鬼オヤジ、

真面目なツラして、俺の舞に

ついてくるんだからよ。

キャトラ

なにそれ……

見てみたかったかも……！

クロー

それがまた人を呼んで、

いつの間にやらどえれぇ人数になっててなぁ。

クロー

おかげで、一年分の稼ぎがパァよ！

キャトラ

えっ！？
一回の宴会で！？
どんだけ高い酒飲んだのよ！

クロー

酒は一級。つまみに珍味。

他にも楽団やら芸人やら、

呼びまくったからなぁ。

クロー

清々しいくれぇにスカンピンだぜ。

キャトラ

な、なんて計画性のなさ……！

クロー

これでいいのよ。

宵越しの銭なんざ、

持ってても恥になるだけだからな。

キャトラ

これからの生活どうするのよ！

クロー

さてね。呼ばれりゃ板に上がるし、

無一文になったところで、

人間案外生きていけらぁ。

キャトラ

ちゃらんぽらんすぎるわ！
大人なんだから、
もっとしっかりしなさい！

クロー

世の常識で、

俺を縛ってくれるなぃ。

クロー

俺は俺で、好きなように生きるぜ。

風の向くまま、気の向くまま、な。

思い出4

キャトラ

クロー、どう？　貧乏？

お金なくって死にそう？

クロー

うんにゃ。そこそこでけぇ、

舞台の仕事が入ってなぁ。

どっこい生きてたぜ！

キャトラ

今度は、一日で

すっからかんになっちゃダメよ。

クロー

そいつはどうかな。

なるときはなるし、

なってもまたなんか稼げらぁ。

キャトラ

クローってば、ホントに

だらしのない大人なんだから……

親の顔が見たいわ……

クロー

親はもういねぇよ。

キャトラ

ご、ごめん……

アイリス

家族、誰もいないんですか？

クロー

兄貴と弟がいるぜ。

キャトラ

……ほっ。……で、クロー！

アンタのことだから、

ずいぶん迷惑かけてきたんでしょ！

クロー

弟にゃ、かけたかもなぁ。

アイリス

お兄さんにはどうなんです？

クロー

兄貴は、俺とよく似ててなぁ。

責任やらで縛られるのが

大嫌いな人でよ。

クロー

故郷の島じゃあ、

トップの地位だったんだが、

ある日突然、弟に位を譲ってな。

キャトラ

クローに？

クロー

俺じゃねぇ、下の弟よ。

でまぁ、町の外れで、

道楽で呉服屋を始めてな。

クロー

俺が言うのもナンだが、

飽きっぽい兄貴だからなぁ。

いまも続けてるんだかどうだか……

キャトラ

これは、弟クンの

苦労が思いやられるわぁ……

クロー

申し訳ねぇとは思うがよ。

人にはそれぞれ、

向き不向きってのがあらぁ。

クロー

俺と兄貴は派手なのが向いてて、

弟は地味なことに向いてたのさ。

キャトラ

他人事みたいに、

上から物言うんだから。

クロー

なんでぇ？

キャトラ

気ままに暮らしてても、

いつの間にかお金稼げてて、

それってアンタの

才能なんだろうけどさ。

キャトラ

ちゃんと苦労しないと、
人間性が磨かれないわ！
アタシの言葉よ！

クロー

……俺だって、苦手なモンは、

いつまで経っても苦手さ。

アイリス

クローさんの、苦手なもの？

クロー

……言い寄られることも、

そこそこにある俺だがよ……

クロー

……初めてなんだよ。

たった一人の女性（ひと）に

こんな気持ちになったのはな……

キャトラ

え！？　え！？

アンタに、好きな人……！？

クロー

さて、どうしたもんかねぇ。

クロー

観衆を魅せる人気役者、

奇抜を好む傾奇者……

ってのが世間から見た俺だからよ。

クロー

何の工夫もなく攻めちゃァ、

赤っ恥だからなぁ……

思い出5

クロー

……うぃ～、ひっく……

キャトラ

あ～！　酔っ払いはっけ～ん！

クロー

……けっ、なんだってんだ、

ちきしょうめぇ……

アイリス

クローさん？

どうしたんですか？

クロー

てやんでぃ。

どうもしちゃいねぇよ。

クロー

どうもしねぇから、

倦（う）んでんじゃねえかぃ……

キャトラ

……どうしたのよ？

クロー

……俺の芸は、借り物よ。

クロー

譜面があって、台本があって、

伝わってきた型があって……

クロー

……俺は、それをなぞってるに

過ぎねえ。花型の歌舞伎役者、

ったって、実態は、人形だ……

キャトラ

そんな、そんなのは

言い過ぎなんじゃないの？

クロー

真実、そうさ。ある程度売れた

俺だからわかる。役者は、

無から有は創れねぇ。

クロー

……ちっ。俺に兄貴みてえな、

詩文の才がありゃあ、

この気持ちを歌にして、

あの女性に届けられるのによぉ……

キャトラ

つくればいいじゃない、歌。

クロー

創れねえって言ってんだろ。

キャトラ

なんで？

クロー

あん？

キャトラ

アンタならつくれそう。

クロー

だから、俺には出来ねえんだよ。

キャトラ

ただ言われるがままに

演じてるだけの役者だったら、

売れてないと思うの。

キャトラ

たくさんのお客さんの

心を動かしてきた、

アンタなんだからさ。

キャトラ

その芸が本物だったんなら、

オリジナルの詩、

出来ないってことはないと思うの。

クロー

……身に着けてきた芸は、

既に俺の一部になってる。

クロー

となりゃあかえって、

新しい物を創ろうとする

妨げになるんじゃねぇか……？

キャトラ

やる前からなに言ってんのよ。

クロー

…………

思い出6

クロー

こいつぁ……？

煌めく光がクローを包む――

クロー

……いい灯りだ。

この柔らかいアタリは、

そうあるもんじゃねぇ……

クロー

…………

クロー

取り消すぜ。

アイリス

へ？　なにを？

クロー

参った参った、どうかしてたぜ。

俺の芸が借り物だなんて……

クロー

俺みてぇな若造に、

芸の何がわかるって話だよな。

先人たちに失礼この上ねぇ。

クロー

それによ、

一つの道も極めてねぇのに、

詩文に目移りするなんざ、

全く、恥ずかしいったらねぇぜ。

キャトラ

と、言うと？

クロー

よそ見はやめだ。

俺は派手好き、傾き者の

歌舞伎役者。

クロー

俺の流儀で、あの女性を

振り向かせてみせらぁ。

アイリス

ぴーん！

クローさんの舞台に、

その方を招待しては？

クロー

そりゃ一等先に考えたさ……

キャトラ

どしたの？

クロー

だけどな、その女性、

いつも目を閉じてるからよ……

キャトラ

な～る。それで、

どうしたらいいか困ってたわけね。

クロー

ああ。そうだったん、だが……

クロー

……らしくなかったぜ。

姿が駄目でも、俺には喉がある。

気迫がある。

クロー

逆を言やぁ、そんくれぇのハンデで

お手上げになっちまうなら、

俺ぁその程度の役者よ。

クロー

びびってねぇであの女性を誘うぜ。

声、熱、それだけでも心を

揺さぶってみせらぁ！

キャトラ

ひゅーひゅー、その意気よ！

アイリス

応援してます！

クロー

ってぇところで、

俺の話は仲入りだ。

世話んなった分、働くぜ。

クロー

三国一の歌舞伎者、

名せぇ由縁の、

スオウ・クロー・ヨシヤス！

クロー

俺の命、好きに使ってくれや！

ボイス

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