イシュプール・思い出

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思い出1

？？？

うん。

わかってるから。

　

キャトラ

へ？

　

イシュプール

私はイシュプール。

うん。いろいろあると思う。

でも、わかってるから。

　

キャトラ

なにがわかってるって？

　

イシュプール

君たちの言いたいことをさ。

私を見て、言いたいこと、

たくさんあると思う。

イシュプール

でも、ほぼほぼわかってるから、

それについては、まあ、うん。

ね？

　

キャトラ

ね？　といわれても……

　

アイリス

……イシュプールさんの

後ろにいる、

白い蛇は何ですか？

　

イシュプール

うん。まあ、ね。

　

キャトラ

そんなんじゃわかんないわよ！

イシュプール

わかってる。

わかんないのはわかるけど、

まあ、そこはさ。

　

イシュプール

アクセサリー的な……

や、相棒的な……ということで、

ひとつ、どうか。

　

キャトラ

どうかって……

いやまあ、別に

いいんだけどサ……

　

イシュプール

私はこんなだから。

初対面の相手に、

様々な疑問を抱かせてしまう。

イシュプール

それは自分でもわかるんだ。

けどね、ペラペラと

最初っからしゃべりすぎると……

　

キャトラ

……なんなの？

　

イシュプール

質問が質問を呼んで、

収拾がつかなくなってしまう。

　

イシュプール

だから、ね？

おいおい、ということで、

今回は顔合わせだし、これで、さ。

イシュプール

『言語に頼らない交流』、

これが私のモットーでもあるんだ。

　

キャトラ

まあ……そんなら、

とりあえずいまはいいわよ。

　

アイリス

わかりました。

少しずつ、お話しして

いきましょう、イシュプールさん。

　

キャトラ

……メンドクサソウなヤツが

また増えたわねぇ……

思い出2

キャトラ

ムムムム！？

　

アイリス

どうしたのキャトラ？

　

キャトラ

あそこのヤブ……

なんだかアヤシイ気がするわ……！

　

キャトラは小枝を器用につまむと、

やぶをつつき出した。

　

キャトラ

つんつん……

つんつん……

アイリス

キャトラが奇行に走っちゃった……

私がストレスを

与えちゃってたのかな……？

　

キャトラ

つんつん…

つんつん…

　

アイリス

キャトラ……！

　

イシュプール

やあ。

　

キャトラ

いたー！

ヤブをつついたらヘビが出たー！

イシュプール

これぞヤブヘ……

おっと、言わなくても、

もちろんわかってるね。

　

イシュプール

いやあ、茂みで寝ていた私を

見つけるとは、

やるねえ、キャトラくん。

　

キャトラ

へへ～ん。空気が

しっとりじめじめしてたからね。

バレバレよ！

　

イシュプール

このあたりのヒンヤリしたかんじ、

とても居心地がいいんだよ。

イシュプール

キャトラくんも

一緒に一休みするかい？

　

キャトラ

え？

……どうしようかな……

　

アイリス

これも後学のためじゃない？

　

キャトラ

じゃあ……

ちょっとだけ……

　

イシュプール

遠慮せずに、どうぞ。

　

キャトラ

うん……

イシュプール

…………

　

キャトラ

…………

　

イシュプール

…………

　

キャトラ

…………

　

イシュプール

…………

　

キャトラ

（けっこうおちつくわ、これ……）

思い出3

イシュプール

イラケッチラケッチィ、

イラケッチラケッチィ……

　

キャトラ

イシュプール

が珍妙なダンスを

してるわ！

　

イシュプール

だよね？

　

キャトラ

だよねじゃないわよ。

くねくねくねくね、なんなの？

キモチワルイわよ？

イシュプール

それはわかってるんだけど、

季節の変わり目だしね。

　

キャトラ

季節の変わり目だとなんなの？

　

イシュプール

キャトラくんだって、

抜け毛が多くなるだろう？

　

イシュプール

だから私も、こうして、

感謝を捧げながらね……

　

イシュプール

イラケッチラケッチィ、

イラケッチラケッチィ、

イラケッチィ……

キャトラ

……ムムムム？

　

イシュプール

……クェーッ！

　

キャトラ

ギニャー！？

　

イシュプール

まあ、こんなものさ。

　

キャトラ

なにがどうこんなものよ！

　

イシュプール

まあまあ、ね？

いったん、いったんホラ？

ね？

キャトラ

なんなの……

なんなの……！？

　

イシュプール

脱皮だよ～ん。

　

キャトラ

だっぴぃ！？

　

イシュプール

うん、まあ、

キャトラくんが驚く気持ちも

わかるけどね。

　

イシュプール

じゃあ、私はこれを

処分してくるから。

キャトラ

…………

　

アイリス

……不思議な人だね……

　

キャトラ

……ヘビなんでしょうね……

　

アイリス

そうだね……

思い出4

イシュプール

私は元々、小さな白蛇だった。

　

キャトラ

！？

　

イシュプール

私の島では、白い蛇は

神の使いだと言われていてね。

長い年月、私は崇められていて。

　

イシュプール

人々の信仰が力をくれた。

で、私は、こうして

人型になれるようになったんだ。

イシュプール

つまり、後ろの白蛇まで含めて、

私という一個の存在なんだよ。

　

キャトラ

この男……！

ホントにわかるのね……！

アタシが聞こうとしてたこと……！

　

イシュプール

うん、まあ、ねぇ。

さすがにそろそろ、

ちゃんと答えなきゃいけない

頃合いかと思ってね。

　

キャトラ

頃合いだわよ……！

　

イシュプール

ということで、じゃ。

キャトラ

ちょっと！

　

イシュプール

うん、そうだよね。

そうなるのはわかってた。

　

イシュプール

でもね。

私が旅をしているのには、

ちゃんと理由があるんだ。

　

アイリス

理由ですか？

　

イシュプール

＜落陽を呑む忘我の毒蛇＞

を探しているんだ。

キャトラ

ほへ～？？？

　

イシュプール

急に難しい名前

出すなって思うよねえ。

わかるわかる。

　

イシュプール

だけど、あの者を、

必ず見つけ出さなきゃ

いけないんだ……

　

アイリス

あの……者……？

毒蛇さん、って、

人間なんですか……？

イシュプール

う～ん、そのへんは、

きっとあいまいに

なっちゃってるだろうね。

　

キャトラ

どういうことよ？

　

イシュプール

それはわかんないよ。

私だって、会ったことが

あるわけじゃないからね。

　

アイリス

でも、その人……を、

探しているんですか？

　

イシュプール

うん。

キャトラ

どうして？

　

イシュプール

それはねえ……

まあ、ねえ……

なんというか、ねえ……

　

キャトラ

またお決まりのお茶にごしね！

　

イシュプール

復讐。

　

キャトラ

ええっ！？

思い出5

キャトラ

イシュプールーッ！！！

　

イシュプール

わかってる。復讐なんて、

よくないことだよね。

　

キャトラ

だったら……！

　

イシュプール

よした方が、いいんだけどさ……

う～ん……

なかなか、ねえ……

　

イシュプール

ねえ？

キャトラ

ううん、だまされない！

なんだっけ、あの、

もじゃもじゃした名前の人に、

仕返しなんてやめなさいな！

　

イシュプール

もじゃもじゃした名前、

はよかったなあ。

＜落陽を呑む忘我の毒蛇＞だね。

　

イシュプール

別に私は、あの者を

倒そうというわけじゃないんだよ。

　

キャトラ

そーなの？

イシュプール

あの者を見つけたら、

味方になってもらう

つもりなんだ。

　

イシュプール

そして二人で……

＜贋作の太陽＞を、

神の座から引きずり降ろすんだ……

　

キャトラ

また別の人の名前？

あ、カミサマか？

　

イシュプール

私の故郷、

＜太陽と蛇の民の里＞では

そう呼ばれてるよ。

キャトラ

そう呼ばれてる？

ホントはちがうってこと？

　

イシュプール

そう。

　

イシュプール

＜贋作の太陽＞は……

神を騙る、悪魔に違いない。

　

イシュプール

あいつは人心を支配している。

昔からいるのをいいことにね。

邪悪だが、強い存在だ。

　

イシュプール

だけど、その力の源は、

血なまぐさい儀式によって得た、

人間の命なんだ。

イシュプール

その儀式に異を唱えた私は、

戦いに破れ、

島を追い出された。

　

イシュプール

＜贋作の太陽＞に勝てるのは、

連峰の果てにて

顎を開き待ち受ける者……

　

イシュプール

＜落陽を呑む忘我の毒蛇＞

しかいない。

　

イシュプール

……と、言われている。伝承でね。

まあ、ほんとかどうかは、半々さ。

キャトラ

なんだかよくわかんないけど……

カミサマたちのケンカってこと？

スケール大きいんだけど！

　

イシュプール

そうでもないよ。割と普通さ。

　

アイリス

でも、住民のみなさんを

巻き込んでるんですよね……？

　

イシュプール

そう。だからこそ、

終止符を打たなければならない。

悪しき者は討たなければ。

　

イシュプール

……でもねぇ……

キャトラ

イシュプール？

イシュプール

＜落陽を呑む忘我の毒蛇＞も

伝承の存在だからねぇ。

ほんとにいるのかなぁ。

　

イシュプール

どこにもいなかったら、

う～ん……

どうしよう……？

　

キャトラ

ケンカやめれば？

　

イシュプール

私はそれでもいいんだけど……

島の人たちがねぇ……

イシュプール

結構ね。こうしている間にも……

ってかんじなわけでさ。

焦ってなくもないんだ。

　

イシュプール

いろんなこと、

わかっちゃいるんだけど……

う～ん……

　

イシュプール

…………

イシュプール

もしかして、

主人公、

なにかわかってるのかい？

　

イシュプール

教えてほしいな。

『言語に頼らない交流』、

まさにそれを体現している、君に。

思い出6

イシュプール

おお……？

　

ルーンの光が

イシュプールを包み込む。

　

イシュプール

……なるほど……

　

キャトラ

なにがなるほどなの？

　

イシュプール

うん。まあ、ね。

そういうことなんだよ。

　

キャトラ

どういうことなの？

イシュプール

そういうことなんだよなぁ。

うんうん、やっぱりなぁ。

　

キャトラ

だから！

自分一人でわかってないでさ！

説明してちょーだい！

　

イシュプール

わかってる。

　

イシュプール

イラケッチラケッチィ、

イラケッチラケッチィ、

イラケッチィ……

　

キャトラ

……ムムムム？

……クェーッ！

　

キャトラ

また脱皮してなんなの？

　

イシュプール

まあ、特にこれに

意味はないんだけど。

　

キャトラ

ないんかい！

　

イシュプール

さっきのルーンの光に、

ぼんやりとビジョンを見たよ。

　

イシュプール

あの者は……

まだ、私の味方には

なりそうにないようだね。

アイリス

そうなんですか？

　

イシュプール

うん。あの者は、

依然苦しんでいる。

縛る＜何か＞を

断ち切れていないのだろう。

　

キャトラ

じゃあどうするの？

一番強い味方に

なりそうな人だったんでしょ？

　

イシュプール

わかってる。

ここは、武力に頼るのを

いったんやめて……

イシュプール

政治でいこう。

　

キャトラ

せいじ？

　

イシュプール

この世界には、＜神＞と

呼ばれるような、力を持つ存在が

たくさんとは言わないが、いる。

　

イシュプール

そんな人たちと仲良くなって……

派閥を作って……

　

イシュプール

＜贋作の太陽＞に

政治的な圧力を

かけてみようと思う。

イシュプール

こう、みんなで囲んで、

『いまどき生け贄なんて、ねえ？』

みたいなことを言って。

　

キャトラ

なるほど……

　

アイリス

……けんかになっちゃいませんか？

　

イシュプール

なったらなったで、

数にモノ言わせて

ポコポコやっちゃおう。

　

キャトラ

アラ、ずるい！

イシュプール

蛇とは狡猾なものさ。

　

イシュプール

主人公に

学ばせてもらったよ。

　

イシュプール

黙して語っていないのに、

いつのまにか、自分の周りに

味方を増やしていく……

　

イシュプール

そのやり方は、かなり、

……いいね。

　

イシュプール

私も君を見習って、

目的達成のために、

這って行くことしよう。

イシュプール

周囲からじっくりねちねちと、

いろいろうやむやにしながら、

しかし着実にね……！

　

キャトラ

まあ……いいんじゃないの。

　

アイリス

……主人公は、

裏があって黙ってるの？

アイリス

そうだよね……

　

イシュプール

じゃ、私の抜け殻を

捨ててくるから。

　

キャトラ

ハイハイ、さっさとおいき。

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