オズワルド・思い出
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思い出1
???
時は満ちた――問おう、諸君。
キャトラ
……へ?
もしかしてアタシたちに言ってる?
???
ここに小生が描いた
一枚の風景画がある。
この島から見える景色だ。
???
そこでだ、諸君。
この絵と、ここから見える景色。
どちらの方が美しいと思うかね?
キャトラ
えーっと……景色かなあ?
アイリス
私は……両方に、
それぞれ違った魅力が
あると思います。
???
ふふん。教えてしんぜよう。
正解は――
<どちらも美しくない>のだ。
キャトラ
え~! なにそれ~!?
???
『美』の条件とは、朽ちないこと。
その美しさが永遠に
損なわれないことである。
???
だが、世に存在する万象は、
どうあがいても朽ちゆく運命からは
逃れられない――なぜか?
アイリス
は、はぁ……なぜでしょうか?
???
<時間>だ。
時間という見えざる捕食者によって
すべては標的にされているのだ!
???
この絵画も! あの景色も!
決して不変ではいられない!
時が『美』を喰い荒らす!
???
なんと嘆かわしい真実か!
そうは思わんかね、諸君。
キャトラ
知らん! それは主観でしょ!
じゃ、アタシたちはこれで。
???
ヌゥン! 待ちたまえ。
キャトラ
んん!?
一瞬でまわりこんで……
いまなにやったの???
オズワルド
先刻は唐突に失礼した。
小生の名は、オズワルド。
諸君の名を聞かせて欲しい。
アイリス
アイリスです。
キャトラ
キャトラよ。
こっちは主人公。
オズワルド
ふむ、アイリーンにチェシャ、
それにノーマウス<無口>か。
一同
…………
オズワルド
わざと間違えたのではない。
小生の心がそう呼べと囁くのだ。
小生の異端的感性の結果なのだ。
キャトラ
ふーん。
オズワルド
小生は旅の芸術家にして、
真世界の求道者、
そしてときの叛逆者である。
キャトラ
おうおう、好きにせい。
オズワルド
諸君、忘れてはならない。
我らは逃れられない
時の運命にあることを……
キャトラ
じゃあ、帰りましょっか。
キャトラ
……ん? チェシャ……?
思い出2
オズワルド
少しよいかね。
キャトラ
ならん!
オズワルド
ヌゥン! 落ち着きたまえ。
キャトラ
ぎにゃー! またまわりこまれた!
オズワルド
すまないがデッサンのモデルに
なってはくれないか。
猫である君にしか頼めないのだ。
キャトラ
そのくらいならいいけど。
長いのはやだよ。
オズワルド
3秒で十分だ。
キャトラ
おばかねえ、3秒なんて3秒よ?
オズワルドは、コートの中から
懐中時計を取り出すと――
オズワルド
<我が時は飛ぶ、今を過去に、
未来を今に――>
瞬間、オズワルドは目にも
止まらぬ速さで絵筆を動かす!
そして……
オズワルド
はぁ……はぁ……完成だ。
君の献身に感謝する、チェシャ。
アイリス
今のは……?
オズワルド
この懐中時計に込められしは、
<時繰のルーン>。
小生の『時』を操ることができる。
オズワルド
さきほどは小生の『時』を早め、
己を加速させたのだ。
キャトラ
だからあんな一瞬で
まわりこめたのね。
オズワルド
それはさておき、
小生の絵の品評を頼めるかね。
キャトラ
さておきって……まあいいけど。
さ~て、どんなかんじに……え?
アイリス
これって……
オズワルドの描いた絵には、
猫耳をつけた愛らしい少女が
描かれていた……
キャトラ
……アンタにはなにが
見えてたわけ?
アイリス
この絵の女の子は……?
オズワルド
なにを隠そう小生の<妹>だ。
チェシャの猫耳を参考に
愛嬌を際立たせてみた。
キャトラ
耳だけかい!
オズワルド
これにはわけがある。
彼女が最初に君を
『チェシャ』と名付けたのだろう。
キャトラ
そんなの理由に……って、
アンタ、アタシたちのこと
前から知ってたの?
オズワルド
黙っていたことは詫びよう。
ところで、諸君は妹のことを
どう思うかね?
キャトラ
えーっとね……
オズワルド
否! 愚問も愚問であった!
彼女への評に答えなどないのだ!
キャトラ
もがー! 自己完結
してんじゃないわよ!
オズワルド
小生の美学は、我が妹にあり!
彼女こそ時の残酷な運命を
克服する解放者なのだ。
オズワルド
うつろいゆくこの現世で、
妹だけがあせることない。
まさに小生が目指す『美』の極致!
キャトラ
ねえねえ、アンタって
妄想と現実の区別はつけられる?
オズワルド
無論。妹の実在こそが、
小生の希望であるのだ。
キャトラ
ハァン? なにが言いたいワケ?
オズワルド
すなわち我が妹は――
ジリリリリリ……
キャトラ
え、なに、なんなの!?
オズワルド
ヌゥ! すまない、
シエスタの時間だ。
続きは然るべき時の訪れにて。
キャトラ
えぇ~……せっかく
ここまで付き合ったのに……
オズワルド
芸術とは思考と体力、
そして時間をも消費してなせる
業の深き御業なのだ。
キャトラ
そんなのなんでもよ。
思い出3
キャトラ
この前はさらっと流されたけどさ、
自分の時間を操るって
なにげにすごくない?
オズワルド
この<時繰のルーン>は、
小生にとって時の呪縛を断ち切る
神剣のようなものだ。
キャトラ
ねーねー、またやって見せてよ~。
オズワルド
望みとあれば応えよう!
されば開かれん!!
直後、オズワルドは、
目にも止まらぬ動きで
絵画、彫像を作り上げていく!
――しばらくして、オズワルドは
ピタリと動きを止めた。
オズワルド
……うっ! はぁ……はぁ……!
おおお……おおぉぉぉ……
アイリス
オズワルドさん!?
だ、大丈夫ですか?
オズワルド
はぁ……はぁ……
こ、これが時に抗いし者の末路
時と命を秤にかけた結果だ。
キャトラ
単に疲れたってことでしょ?
オズワルド
この代償は、芸術に命を捧げた
小生の聖痕なのだ。
アイリス
芸術に命を捧げる……?
オズワルド
時間とは無情なもの。
我らに限りある生を強要し、
永遠の真実から遠ざけようとする。
オズワルド
小生は、永遠――すなわち
不変の美を芸術の中に
見出そうともがく、陸の魚なのだ。
アイリス
不変の美……ですか?
オズワルド
芸術とは時間への叛逆である。
永遠を遺そうとする我らを
時は決して許さないだろう。
オズワルド
そのための『時繰』なのだ。
そして、時の流れに逆らえる小生は
偶然にも、ひとつの解に至った。
オズワルド
それが――我が妹だ!!
キャトラ
妹がなんなの?
永遠に不変だってこと?
オズワルド
大正解ッ!
キャトラ
えぇ!?
アンタの思い込みじゃなくて!?
オズワルド
見たまえ、諸君!
小生が魂を削って生み出した、
この芸術群を!!
見事な色使いの油絵。
精巧にして緻密な大理石の彫像。
そのどれも、無邪気な笑顔の少女が
モチーフとなっていた。
キャトラ
……妹さんの絵や象ばっかね……
アイリス
妹さんの作品を作ることに、
どんな意味があるんですか?
オズワルド
良い質問だ、アイリーン
それは――
ジリリリリリ……
キャトラ
え、また!?
オズワルド
ヌゥ! すまない、
スコーンを焼いている最中だった。
続きは然るべき時の訪れにて。
キャトラ
それはまた家庭的だこと……
思い出4
オズワルド
かつて小生は、命を絶とうとした。
キャトラ
わかげのいたりってやつね。
アイリス
失礼だよキャトラ。
まだ若いよ、オズワルドさん。
キャトラ
時を加速させてる分だけ、
ひとより年をとってるのかと……
オズワルド
しかし、
絶望の淵にいたのも過去のこと。
だが……物語は確かに、
<あの時>始まったのだ。
オズワルド
今こそ語ろう。
時の運目に絶望した小生と、
<永遠の少女>との出会いを。
アイリス
永遠の……少女?
キャトラ
……あ、この前の続きってこと?
オズワルド
そもそも、小生の妹は
血のつながった妹ではない。
キャトラ
ほほう。
オズワルド
さらにはおそらく。
人ですらないのだ。
アイリス
えっ?
オズワルド
小生の故郷には
<時計塔クロノス>がそびえ立つ。
いつから存在するかも誰一人として
知らぬ不可思議の塔だ。
オズワルド
まだ若き身空にあった小生は、
機巧入り乱れる塔内部で、
不運にも<時繰のルーン>を
見つけてしまったのだ。
キャトラ
不運ってどういうことよ?
オズワルド
無知とは罪ではなく幸福。あれ以来
小生は時間に囚われてしまった。
オズワルド
時の流れる先には悲劇しかない。
腐食、劣化、そして滅亡。
この世には美など
最初からなかったのだ。
オズワルド
それでも小生は真なる美を求め、
創作の鬼となるが、時すでに遅し。
小生の魂は、絶望の深淵に堕ちた。
アイリス
それで命を絶とう、と……
オズワルド
時計塔の頂上から身投げに臨んだ。
キャトラ
だがそのとき?
オズワルド
時計塔の頂上に通じる扉から、
後光とともに彼女が現れたのだ!
キャトラ
ムム!? よくわからん!
オズワルド
だが時として戸惑いは
真実に追いつかぬもの。
小生は少女の存在を
受け入れざるを得なかった。
オズワルド
彼女は言葉も話せず、
教養と呼べる知識もなく、
どこまでも無垢だった。
オズワルド
今でも彼女の正体はわからない。
だが、その姿を見て直感した。
彼女は――小生の希望になる、と。
キャトラ
ふむぅ……
オズワルド
その後、小生は彼女に
仮初の身分と名前を与えた。
オズワルド
服を仕立て、言葉を教え、
妹として彼女を育てた――のだが、
驚愕すべきは、十数年を経てなお、
彼女は当時の姿のままなのだ!
アイリス
当時と、変わらない……
不変の……<永遠の少女>
オズワルド
そうだ、聡明なるアイリーン。
彼女は時の流れから隔絶された、
時間の摂理を越えた存在なのだ。
オズワルド
小生の直感は正しかった。
我が妹こそ真なる時の叛逆者。
永遠なる美を司る希望だったのだ。
オズワルド
そして、小生の物語は動き出した!
彼女が主人公たる芸術こそが、
時間への絶望を払拭する鍵に――!
ジリリリリリ……
キャトラ
…………
オズワルド
ヌゥ! すまない、
ティータイムの時間だ。
続きは然るべき時の訪れにて。
キャトラ
んなのまで時計鳴らさなくても。
思い出5
オズワルド
さらば諸君。
記憶集いし異郷にて
再び相見えよう。
オズワルドが飛行船から
飛び降りようとしている!
キャトラ
やめんかーーっ!!
アイリス
’’早まらないでください!’’
オズワルド
止めないでくれたまえ!
小生は第二の悟りに目覚めたのだ。
オズワルド
見たまえ、あの美の残滓を!
オズワルドが指した場所には、
彫刻の残骸、破かれた絵画など、
ゴミの山がそびえたっていた。
キャトラ
ようわからん!
だからなによ!?
アイリス
自分で壊したんですか?
オズワルド
いかにも。
キャトラ
あ、わかった。
つまりスランプってやつね。
オズワルド
小生は芸術によって
妹のいる高みに至ろうとした。
それが真実の美に至ると信じ。
オズワルド
ゆえに小生は彼女を観測し続けた。
彼女を外の世界に連れ出し、
旅路の中で物語をつづった。
キャトラ
でも今は一緒じゃないのね?
オズワルド
別離もまた小生の望むこと。
遠いほうがよく見えることもある。
オズワルド
幻惑の城での冒険活劇。
盤上のデュエリストとの熱き戦い。
妹をつづるに相応しい物語だった。
キャトラ
アンタ、隠れてずっと見てたの?
オズワルド
妹の観測とは、深淵をのぞくこと!
その深淵こそ芸術的発想の原点!
オズワルド
……なのだが、つい先日、
妹の行方を見失ってしまってな。
キャトラ
ありゃ。
オズワルド
ヌゥ! 我が生涯の起源を……!
時の秘密に至る鍵を、
小生は失ってしまったのだ!
オズワルド
もう少しで永遠に至れる……
かもしれなかったときに限って!
小生は痛恨の毒矢傷を――
はっ!!!
キャトラ
今度はなに!?
オズワルド
諸君、聞こえるかね……
時の這い寄るおぞましい音が……
チッチッチッチッ……
アイリス
時計の音のことですか?
オズワルド
ヌゥ! おのれ時よ!!
嗜虐の笑みを浮かべているな!
小生を蝕もうと狂喜しているな!
オズワルド
このままでは世界が朽ち果てる!
小生は一刻も早く、永遠の摂理に
辿り着かねばならない!
オズワルド
だが、永遠の少女たる妹は神隠し!
もはや望みは潰えた!
時の侵略を止めることは不可能!
キャトラ
落ち着きなさい。
いなくなったんなら
探せばいいだけでしょうが!
オズワルド
小生は冷静だ!
というわけで贖罪として命を絶つ。
では、また来世で――
キャトラ
だからまず探す!!!
思い出6
オズワルド
これは……まさに青天に昇る曙光!
我が妹の持つ輝きにも似た
高次の波動のようだ!
???
――あんちゃん!
オズワルド
ヌゥ!?
次なる奇跡か妖精の囁きか!?
否!聞き間違えるはずもない!
オズワルドの妹
――あんちゃ~ん!
オズワルド
おおお、我が妹よ!
時と風と海を越えて、
小生に掲示を与えようというのか!
オズワルドの妹
――あんちゃん! だ~い好き!
オズワルド
ああ……破滅へ向かう小生を、
慈愛の言葉で許そうとは、
まさに地母神のごとき包容力!
オズワルド
妹よ、我が物語の聖少女よ!
小生に、時に打ち勝つ力を!
永久不滅の美を示したまえ!
オズワルドの妹
――あんちゃん、きも~い☆
オズワルド
………………
オズワルドの妹
――あんちゃん、うざ~い!
オズワルド
………………
一同
………………
アイリス
…………
キャトラ
…………
オズワルド
……ありがとう、ノーマウス。
君の言葉なき言葉の力で、
小生は悪夢から解放された。
キャトラ
……元気出しなさいよ。
きっといいことあるわよ。
アイリス
あの……どんな事情があっても
自分の命は大切にするべきだと
私は思います。
オズワルド
……忠告感謝する、アイリーン
だが諸君、これでわかっただろう。
オズワルド
差し迫る時間の魔手は、
醜く朽ちる世界を人の前にさらす。
それを見た者は正気を失う。
オズワルド
正気を取り戻す手段はただ一つ。
――それが永遠への到達である。
脅威なき楽園への機関なのだ。
キャトラ
ようわからん。
アイリス
オズワルドさん、少し
焦ってるんじゃないですか?
オズワルド
アイリーン。
焦燥は精神を蝕む悪魔の筆頭。
人をたやすく墜落させるのだ。
キャトラ
だから焦るなと言うのに。
オズワルド
しかし、ノーマウスの機転で
小生は正気を取り戻した。
遠き地にいる妹から啓示も受けた。
ヌゥ!!!
キャトラ
今度はなに!
オズワルド
この感覚は……!
小生の魂が世界と共振する
この感覚はっ!!
オズワルド
時は来たれり!
芸術の神よ、永遠をつづれい!
<時繰のルーン>で加速した
オズワルドが、一瞬にして
一枚の絵を描き上げる。
オズワルド
――諸君に問おう。
この絵の妹をどう思うかね?
キャトラ
絵よ。
アイリス
キャトラったら……
……はい、以前の物より、
上手に描けていると思います。
オズワルド
その言葉だけで恐悦至極。
小生の創作した永遠の少女が、
妹に近づきつつある証左だ。
オズワルド
さあ、旅を続けよう。
悪しき時の解放者たる妹が
永遠の福音を報せるその時まで!
その他
・メインイベント
フォースター☆プロジェクトXmas2015withミス・モノクローム Story
・サブイベント
・他
・相関図